先に口火を切ったのはストレイドだった。
下げていた右手に握られた【LR02-ALTAIR】の銃口をファストドロウの要領でイレギュラーネクストに向けて引き金を引く。
イレギュラーは放たれた光条を最小限の体捌きで難なく躱しOBを展開、ゲリラ然としたライフルを撃ちながら猛然とストレイド達に襲いかかった。
ストレイドは回避行動をとろうとするが、隣にいた雷電がすぐさまストレイドの前に出て、無駄と言わんばかりにイレギュラーから撃たれた弾丸を受け止め、弾いていく。
《はっはっは!お前ら最高だ。最高に
「黙れよ、このイカレ殺戮外道が!」
《――ああ?好きに殺して何が悪い。強者の特権だろうが》
《血に渇する羅刹か。その因果、雷電で焼き尽くす……!》
《いい気迫だ。来いよ鉄屑、もっと刺激的に
イレギュラーはなおもライフルによる射撃を辞めず、OBでストレイド達に接近する。雷電は止むことのない鉄の雨に晒されながらも展開中の【OIGAMI】を距離100の
にも関わらずイレギュラーは躊躇することなく爆炎に突っ込み、その身を炎の中にくらませた。
その様子を見た雷電は【OIGAMI】を格納、腕部一体型のグレネードキャノン【RAIDEN-AW】に切り替えながら爆炎に沿うかのように右方向へQBを発動させる。イッシンも雷電の意図を察したのか、両手のライフルを爆炎に向けながら左方向へQBを噴かした。
結果として十字砲火の陣形となりイレギュラーを迎撃可能な体勢が整えられた。イレギュラーの反応は依然として爆炎の中に有り、その外へ出てくる気配は無い。
《ストレイド!合わせろ!》
「言われずとも!」
掛け声と共にストレイドの【LR02-ALTAIR】と【GAN02-NSS-WR】、雷電の【RAIDEN-AW】の計四門による掃射が爆炎に叩き込まれる。爆炎の中から爆炎が生み出される異様な光景であり、中にいるであろうイレギュラーは粉微塵と化している以外に選択肢が無いように思えた。
しかし、爆炎を眺めるイッシンと雷電の眉間には未だ深い皺が刻まれている。理由を挙げるとすれば、粉微塵になった筈のイレギュラーの反応が消失していないからだ。即ち……。
《その程度か?
突如、爆炎が大きな火柱を上げたかのように勢い良く噴き上がると同時に、イレギュラーが上空へ飛び出した。
逆関節型脚部の最大の特徴である『驚異的なジャンプ力』を存分に生かした跳躍はイッシンと雷電の意識外の行動であり、両名共に思考のラグが生まれる。
【OIGAMI】の爆炎により装甲が軽く赤熱したイレギュラーは、その熱が冷めぬ内に雷電へ飛び掛かった。猛禽類を彷彿とさせる突撃に雷電のコックピットが縦横無尽の衝撃に襲われるが、当のパイロットは微動だにせず目の前のイレギュラーを睨みつける。視線の先には雷電のキャタピラ型脚部に佇むイレギュラーが見下ろしていた。
「その程度で雷電を削れるものか」
《それはコイツを受けきってから言えよ?》
そう言うと、イレギュラーは右手に握られた重ショットガン【SAMPAGUITA】を雷電のコア部に向け発射する。対ネクスト用に設計・開発された【SAMPAGUITA】の弾丸は同時発射数12発に相応しい密度を保ったままバラける事無く雷電に襲いかかった。
鈍く甲高い衝撃音が麦畑に一度、二度と鳴り響いた。そのまま三度目を打ち鳴らそうとした瞬間、突如イレギュラーが跳躍する。刹那、イレギュラーが居た空間を巨大なグレネードが通過した。
イレギュラーは雷電の【RAIDEN-AW】による反撃を回避した上で再度飛び掛かろうとするが、僚機が二度も襲われる状況に手をこまねくイッシンではない。
「いい加減にしろよ!」
イッシンはストレイドの背部に装備された分裂ミサイル【CHEYENE01】と肩部の連動ミサイル【061ANRM】を起動させイレギュラー目掛けて放った。流石のイレギュラーも雷電への追撃を諦め、QBを噴かして後方へ距離を稼ぎつつミサイルへの対応を余儀なくされた。
その間にイッシンはストレイドを雷電へ駆け寄らせ、被害状況の確認を行う。
「雷電!大丈夫か!」
《………》
「雷電!?」
《……問題ない。あの程度で雷電は削れんよ》
見ると【SAMPAGUITA】の直撃を二度も受けたコア部は確かにヘコんではいるが雷電の装甲を貫通している様子は全くなく、移動要塞の名に恥じぬ堅牢さを遺憾なく発揮していた。
「すげぇな。GA製でもそんなに硬いのか」
《いや、このコアは形こそ同じだが雷電専用の特注品だ。GAの純正なぞ使えん》
「そこまで言うかよ。
《装甲の厚さが2.8倍だ。その為に幾つかの機能をオミットしているがな》
《――どおりで通らねぇ訳だ。……本当に
スピーカーから流れる享楽的な声色にイッシンと雷電はドクンと胸が跳ね、同時にイレギュラーを見据えた。その先にはイレギュラーが麦畑の中に立ち、右手の【SAMPAGUITA】を見せつけるようにヒラヒラさせている。イッシンが放ったミサイル群は全て撃ち落とされたようで、イレギュラーの周辺には残骸らしき物が燻り、黒煙を上げている。
《おかげで火が着いちまったじゃねえか。どうしてくれんだ?》
「俺としては、そのまま撤退頂けると助かるな」
《はっはっは!冗談が上手いな。お前らみたいな極上の獲物、獲り逃がす方が罰当たりだろ》
《……イレギュラー、一つ問う》
《あ?》
雷電がイレギュラーに疑問の言葉を投げる。
正体不明の敵に対してごく自然な反応ではあったが、雷電の言葉尻にイッシンは一抹の不安を直感的に感じた。触れてはいけないナニカに触れるような、そんな感覚だった。
《その戦法、どこで覚えた》
《……言ってる意味がわからねぇな》
雷電の言葉に、どこかとぼけた印象だったイレギュラーの声色が一気に変わる。先ほどまでの冷徹で享楽的な雰囲気ではない。深海のように深く、
《
《……同じ?俺と
イレギュラーの雰囲気が更に深くなる。一切の光を拒絶する最深海の如く、何も見えない程に。
深く、深く……。
刹那、イレギュラーが弾かれたようにQBを噴かしてイッシン達目掛けて突進してきた。それも、今までとは比較にならない動きで。
咄嗟にイッシンはストレイドを雷電の前へ前進させ、両手の【LR02-ALTAIR】と【GAN02-NSS-WR】をイレギュラーに向け掃射するが、イレギュラーはQBを巧みに操り全弾回避。そのままスルリとストレイドの懐に入ると、コックピットに蹴りを見舞う。
《邪魔だ》
逆関節型脚部の圧倒的ジャンプ力の踏み台となった格好のストレイドは遥か後方へ吹っ飛び、麦畑に背中から落下。多くの麦が悲鳴を上げるようにパキパキと音を立てた。
イレギュラーは吹き飛ばされた青色の巨人を一瞥する事も無く、勢いそのままに雷電へ向かう。雷電は【RAIDEN-AW】を構え、必中の距離までイレギュラーを引きつける。相対距離100となった瞬間、【RAIDEN-AW】が火を噴くがイレギュラーはボクシングのダッキングの如くグレネードを避けると、左手のゲリラ然としたライフル【LABIATA】を左側の【RAIDEN-AW】の砲口に限界まで差し込み、フルオートで引き金を引いた。
外部からの攻撃には持ち前の堅牢さを武器に滅法の強さを発揮する雷電であったが、砲口からとはいえ内部から破壊される事への耐性は他のネクスト同様に脆い。
引き金を引いて2秒後、内蔵されたグレネードに着弾したのか左側の【RAIDEN-AW】が内部より大爆発を起こした。機体の左半分が消し飛ばされる衝撃に雷電のキャタピラ型脚部が持ち上がって横転しそうになるが、元の自重のおかげかズズンと大きな音を立てて再び接地する。
雷電をもってしても内部からの爆発は相当なダメージだったらしく、コックピット内からは電子ショートによる火花が漏れ、操縦桿を握る有澤隆文のこめかみからは血が流れ出ていた。
そんな状態などお構いなしに、イレギュラーはキャタピラ型脚部に片足を掛け雷電のメインカメラを覗き込み、パイロット自身に問いかけるように無傷のイレギュラーが睨む。
破壊し尽くされた街並み。
炭化したヒトだったもの。
男の腕の中で息絶える女。
礫の山に佇む深紅の巨人。
《なぁ教えてくれよ。俺と
いかがでしたでしょうか。
近況報告として、普通に歩いてたら足の親指にヒビが入りました。診察した医師によれば『普段の歩き方が悪いね』との事です。無情な。
イレギュラーと『イクバールの魔術師』との関係性は深掘りする予定です。気長にお待ち下さい。
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