アレはお薦めです。
……蝉が煩い。
仰向けで寝ていた
爽やかな暑さの中、古民家の縁側で目を覚ました一心の身体を扇風機の風が優しく包み込んだ。チリンチリンとなる上方を見れば、金魚が二匹描かれた風鈴が揺れている。
「いっちゃん、起きたか」
後ろから幼い頃の愛称を呼ばれ、振り返ると恰幅の良いエプロン姿の老婆が穏やかな眼差しで優しく見つめている。
「ん。婆ちゃん、おはよ」
「おはようでねぇさ。もう昼の3時だ」
「そんな寝てた?」
「そりゃあよく寝てたさ。寝顔がカツユキそっくりで、婆ちゃんビックリした」
「うへぇ親父みたいになるのは嫌だな」
「大丈夫、いっちゃんは爺様似だからハンサムになるさ」
「それは婆ちゃんから見てだろう?」
「ホンにいい男だったんだよ爺様は」
カッカッカと婆ちゃんは笑う。歳は80を過ぎているというのに、それを感じさせない豪快さがあった。
「それにな、いっちゃんは
「だれ?雨鬼様って」
「あんれ、覚えてないかい。いっちゃんが裏山で一緒に遊んでた若い
「えー、噓だー」
「嘘なもんかい、雨鬼様はね―――」
《………ン!………シン!………イッシン!》
聞き慣れた声が自分の名前を呼んでいる。目を開けると、所々黒飛びして火花を散らしている電子パネルが敷き詰められた狭い部屋が飛び込んでくる。どうやらその部屋のスピーカーから呼ばれているようで、部屋の中に反響してウルサいことこの上ない。
「……セレン、声のボリューム下げてくれる?」
《イッシン!?生きてたか!》
「生きてるに決まってるだろ。何言ってんだ」
《馬鹿野郎!何度呼びかけたと思ってる!》
未だ夢見心地のイッシンにセレンは喝を飛ばした。自身が育てたリンクスを失う恐怖からか、その声はどこか震えている。
「寝てたんだから分かんないよ。久々に良い夢だったのに……」
《雷電が死にかけているという時に寝てただと!?ふざけるのも大概にしろ!》
「死にかけ……?」
ゴガァァァン!
巨大な金属同士がぶつかり合う途轍もない衝撃音にイッシンは目を見開き、音の方向へ首を捻った。そこには、両腕に相当する箇所から黒煙が上がり、頭は無く胴と履帯のみとなった鉄塊が鎮座している。そして、その鉄塊に向けひたすらに散弾銃を撃ち下す悪魔がいた。
―――何してんだ、あの野郎。
イッシンの寝ぼけた思考はイレギュラーを認知し、
《よし、立ち上がれれば上等だ。加勢できるな?》
「………」
《どうした?返事をしろ!》
「悪い。すこし黙っててくれ」
セレンの言葉を制しイッシンは深く深呼吸をした。出来る限り神経を鋭く尖らせ、今までの戦闘をフラッシュバックさせながら自身に問う。
――あいつは強い。とんでもなく強い。
――ならどうする。
――決まってる。
「行くぜ」
ストレイドのメインカメラが一際輝き、爆ぜた。
《ほら言ってみろよ。俺とアイツ、どこが似てるんだ》
正気を疑うような雰囲気を纏った声で雷電に問いかけながら、イレギュラーは幾度も右手に握られた【SAMPAGUITA】を放つ。その度に鈍く甲高い衝撃音が雷電から発せられ、装甲のへこみが深くなっていく。
恐らくはあと数発でコックピットに到達し、パイロットである有澤隆文をミンチにしてしまうだろう。しかし、当の本人はこめかみより血を流しながらも死の恐怖を微塵も感じさせない眼光で、モニター越しのイレギュラーを睨みつける。
「………」
《おいおい、黙ってちゃ分からないぜ?教えろ。俺とアイツの共通点をよ》
「……貴様が一番わかっているだろう」
《は?分からねぇから聞いてんだ。あんな狂った
「!……ククク……」
突然、有澤隆文の笑いがオールドキングのコックピット内に響いた。どこか憐れみを込めた笑いに苛立ちながらもイレギュラーは嘲りの念を絡ませながら皮肉る。
《――気でも触れたのか?》
「いや、
《……!》
「『イクバールの魔術師』を宗教家や数学者でなく、
《……死ね》
重く寒々しい声色と共に、イレギュラーネクストの右手に握られた【SAMPAGUITA】が再び雷電のコア部に照準を合わせる。【SAMPAGUITA】の散弾が雷電のコックピットを貫通し、パイロットを肉塊にせんと構えたところに大音量のつんざく声がイレギュラーのコックピットに響いた。
「呼ばれてなくてもジャジャジャジャーン!!」
スピーカーから流れた大音量の声に、不意を突かれたイレギュラーは思わず硬直する。その機を逃がさず、ストレイドは某特撮ヒーロー顔負けの美しい跳び蹴りをイレギュラーの横っ腹にぶち込んだ。イレギュラーは『くの字』で吹っ飛び、そのまま麦畑を二度三度と跳ねながら遠ざかって行く。
「ごめん待った?」
《いや、いいタイミングだ》
「そりゃ良かった。遅れたお詫びに追加マージンはチャラにしておくよ」
《てめえ……。雑魚の分際でしゃしゃり出てくんじゃ無ぇ!!》
イッシンが振り向くと、吹っ飛ばされた筈のイレギュラーネクストが溢れ出んばかりの殺気を放ち、OBを噴かしながら向かってくる。雷電へのトドメを邪魔された怒りからか、その様子にイッシンは正真正銘『羅刹』を幻視する。
しかしイッシンの表情は自信に満ち溢れていた。
「確かに、さっきまでの俺は雑魚だった。だがな、今の俺は間違いなくお前の想像より100倍強ぇぜ!」
そう言い放つとストレイドに装備された背部の【CHEYENE01】および【OGOTO】をパージ。両手の【GAN02-NSS-WR】と【LR02-ALTAIR】を構えながらイレギュラーに向かって行った。
両ネクストの相対距離が300を切った瞬間、イレギュラーは空高くジャンプし、ストレイドの頭上より三次元攻撃を仕掛ける。しかし当たらない。どころか捕捉する事すら出来ない。
《動きが変わっただと!?》
それもそのはず。イッシンは本来の技術全てを使ってイレギュラーネクストと相対しているのだ。
ここでの技術とは、この世界で培った技術ではなく元の世界の技術、つまりゲームの操作テクニックである。今まで本能的にセーブしていた技術が、無心から来る驚異的な集中力により解放された格好だ。
限界機動とも呼べるその動きはQBを縦横無尽に噴かし、それでも避けられない攻撃は出力を上げたQB【二段QB】を駆使し無理矢理避けていく。
しかし、その代償も大きい。実際イッシンはVOBの
(……やっべぇ、持って1分ってとこか)
麦畑を駆け抜けるイッシンは高揚感の中、自分の置かれた状況を比較的冷静に洞察していた。いくら自身の身体が【神からの贈り物】とはいえ原作通りの動きは持続可能なものではないらしく、一切の間を置かずに連続QBを噴かす間は身体中の骨が軋み、細胞レベルで悲鳴を上げている。
(いや、1分あれば十分だ!!)
イッシンは更に攻勢を強める。
対するイレギュラーはイッシンの限界機動に防戦一方であるが、致命傷となり得る攻撃は全て避けており、反撃の機を伺っていた。
(首輪付きの分際で中々良い動きしやがる。……面白れぇ。鉄屑で溜まったフラストレーション、てめえで解消してやる)
イレギュラーが防戦一方から反撃に転じようとしたとき、コックピット内にある男性の声が響く。
《なにをしている、オールドキング》
いかがでしたでしょうか。
そういえば生まれてこの方ビックマックを食べた事がないことに自分で衝撃を受けました。
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