……奇遇ですね。私も何もしてません(白目)
現在時刻
旧日本国 首都東京 有澤邸前
「なんつーか……デカいな」
「ああ、デカいな」
イッシンとセレンは目の前を阻む門扉を見上げながら、お互いに確認するように感想を言い合った。
有澤邸は坪数にして20万を超える敷地を有しており、その周囲には高さ5mの石垣がうずたかく積まれている。石垣の先からは赤松が覗き、いかにも格式高い邸宅であることは住宅事情に疎いイッシンでも分かった。
同じく高さ5mはある観音開きの門扉は黒樫のような素材で出来ており、端々には繊細な金の意匠が施されていた。扉の中心には有澤重工のロゴマークがあしらわれており、対面した者を分け隔てなく威圧する。
「呼ばれた時間に来たはいいが、インターホンとか無いな。……すいませーん!」
「バカか貴様は」
「こうでもしないと気付いて貰えないだろ。……すいませーん!社長殿に呼ばれて来たんですけどー!」
厳かな門扉に向かって声を掛けるイッシンをセレンは呆れながら窘めるが、イッシンはめげずに声を掛け続ける。時間にして2分ほど声を上げたが門扉が開く気配は一向に無く、当のイッシンも半ば諦めかけていた。
「自分から呼んでおいてそりゃないぜ……」
「その場でのリップサービスだろう、本気にする方が悪い。帰るぞ」
消沈するイッシンに鋭いトドメを刺したセレンは
「影武者の話、聞けると思ったのにな――」
《指紋照合。09RO-PYF キドウ・イッシンと確認。解錠します》
突然の電子メッセージに驚いたイッシンが顔を上げると手の平を置いている周囲が青く光った。かと思えば、その光は稲妻の如く門扉全体に駆け巡り、ゴゴゴという鈍い音を立て、厳かな門扉は独りでに開いていく。
状況が飲み込めないイッシンとセレンは口を半開きにしたままであったが、門扉が止まる事無く開ききった。そしてその先には、有澤重工のロゴマークが入った袴を着用した有澤隆文が仁王立ちで腕を組んでいた。戦いの傷が癒えてないのだろう、額は包帯に包まれている。
「待ちくたびれたぞ。入れ」
「……何でこの見た目でハイテクなんだよ」
「む?この門扉の事か?不貞な輩がみだりに立ち入らんよう、警備拡充の名目であつらえた。中々に見事な出来だろう。一見では電子ロックとは見破れん」
「お陰で待ちぼうけ食らったけどな」
「それは済まなんだ。貴兄は既知と思っていた」
「いいさ、入る事は出来たんだし。な?セレン」
「……まぁ、良しとするさ」
そのまま二人は、有澤隆文に導かれるまま邸宅内へ足を踏み入れる。そこには雄大な日本庭園が広がっており、四季折々の樹木や枯山水が正に『ワビサビ』と言った具合にセンス良く配置されている。ただ一点を除いて。
「スッゲぇな。この庭園……って、ネクスト!?」
「有澤重工最初期の試作ネクストだ。我が社の象徴として此処に置いている」
「最初期……確か〝KANNAWA〟だったな」
「ほう、知っていたか」
セレンの返答に、道案内で先行する有澤は思わず興味を示し振り返った。同行者であるイッシンも目を丸くさせながら見つめてくるので気恥ずかしいが、それとなく平静を装いセレンは問いに答える。
「有澤重工最初で最後の
「有澤の
「ネクストという概念が生まれた頃の機体だからな。年若い貴兄が知らないのも無理はないだろう」
三人は話の流れから〝KANNAWA〟に近付いていき、即席の見学会となった。
〝KANNAWA〟は有澤重工らしくキャタピラ型脚部を採用したネクストであるが、その見た目のインパクトと重装甲は現在の
右腕はGA社の〝SUNSHINE〟を二周りほど太く大きくしたような外見で、出力は比較にならないと言う。対する左腕に相当する箇所には大型の二連装グレネードキャノンが搭載されており、その威力は装甲技術が進んだ現代でも十分に通用するらしい。頭部は潜水艦の艦橋のような見た目をしており、有澤隆文曰く申し訳程度の装甲のようだ。
極め付けは背部兵装で、右側はガトリンググレネード。弾丸は〝OGOTO〟と並行規格だそうだ。左側はGA社が誇る超大型ミサイル〝BIGSIOUX〟を
「近くで見るとトンでもねぇな。このネクスト」
「当時の有澤重工の威信を掛けた機体だ。旧型と嘲笑われるだろうが、火を入れれば今でも動く」
「ふむ……。私も実物を見るのは初めてだが、見た限りだと欠点は見当たらないな。どこがダメだったんだ?」
「コストだ」
「へぇ。俺は操作性とかだと思ったけど、そんなに高いのか?」
「当時でランドクラブ3機分の費用が掛かる。いくら
「そりゃ納得」
有澤重工そのものを体現したネクスト〝KANNAWA〟の迫力を目の当たりにした一行は後ろ髪を引かれる思いでその場を後にし、庭園の奥へ進んでいく。
しばらくすると、美術の教科書に載っていそうなほど美しく巨大な日本家屋がイッシン達の目の前に現れた。横幅50mはありそうな豪邸に、イッシンは内心ビビりながらも有澤隆文の案内のままに玄関へ進む。玄関は日本家屋らしく日本式の下足を脱ぐタイプであったが、目に見える所には古今東西から集めたと思われる骨董品の数々が並んでいた。玄関を抜けた先には吹き抜けの廊下があり、外の景色を一望出来る心地良い廊下だった。
「にしてもデカいお屋敷だな。社長殿の他に誰か住んでんのか?」
「住み込みの奉公人が10人程。小生は留守にする事が多いが、皆良く働いてくれている」
「社長殿ともなれば、平日も縁側で日がな盆栽でも弄ってると思ったぜ」
「ふっ……小生もリンクスだ。盆栽弄りよりもネクストと共に有る方が性に合っている」
そんな他愛ない会話をしながら廊下を進んで行くと、有澤隆文は障子で仕切られた和室の前で歩を止めた。
「あれ、どした?」
「……この部屋には
「えっ、じゃあ早速――」
「一つ約束しろ。これより謁見する方にはくれぐれも粗相の無いようにな」
これまでの雰囲気と打って変わって、顔を近付けながら本気の同意を求める有澤隆文にイッシンは仰け反りながらもこれを了承した。同行者であるセレンも了承した事を確認すると有澤隆文は障子へ向き直り、声を掛ける。
「失礼致します。キドウ・イッシン並びにそのオペレーターをお連れしました」
『………入りなさい』
男性の声で返答が聞こえた事を確認した有澤隆文は障子を開け、イッシン達に入るよう促す。それに応じるようにイッシン達は中に入ると眼鏡を掛けた痩せ形の男性が一人、上座で座布団に座っていた。
歳は40代後半だろうか、若白髪で染まり切った髪をオールバックで撫で下ろしている。有澤隆文と同じく有澤重工のロゴがあしらわれた袴を着用しているが、その印象は正反対の柔和そのものである。
「やぁ、君がイッシン君だね?
「い、いえ、そんなことは……」
「そんなに肩肘張らなくてもいいよ。大方、
男性は微笑みながら、イッシンとセレンに下座に敷かれた座布団へ座るよう促す。非常に高価な座布団なのだろう、座った瞬間のフカフカ感が段違いだ。有澤隆文は眼鏡の男性の横に置かれた座布団に正座で座り、背筋をピンと伸ばしている。全員が座った事を確認すると、眼鏡の男性は口を開いた。
「さて、と。自己紹介がまだだったね」
「私の名前は
いかがでしたでしょうか。
有澤邸は皇居をイメージして貰えれば分かり易いと思います。〝KANNAWA〟は完全オリジナルネクストです。コンセプトは『有澤版アレサ』のつもりで描かせて頂きました。
……ご心配には及びません。〝KANNAWA〟は別府の鉄輪温泉より拝借しております(ニヤリ)
励みになるので、感想・評価・誤字脱字報告よろしくお願いします。