凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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お盆休み中は朝から晩までパソコンをいじってました。いやぁ、止めたくても止められないんですよ。え?一体何をしているかって?『テレワーク』っていう遊びなんですけどね……?(泣)


29.大は小を兼ねない(詠み人知らず)

「そうか、ローゼンタールと……」

 

「確かに扱いづらくはなりましたが、GAに(くみ)する事に変わりはありません。出だしは上々かと」

 

 

『THE・BOX』の最上階。そこには壁一面の強化ガラスを通して降り注ぐ太陽光と直通のエレベーター、一組の簡素な作業デスク、そしてそれを使用する禿頭の老人以外の物質は原則として存在しない。例外があるとすれば、アポイントを取った人間が禿頭の老人に報告等をする位であろう。

 

 

「ローゼンタールに与した以上、彼等の初任務はオーメルグループに利益をもたらすミッションを受領するのは必定だろう」

 

「でしょうな」

 

「……何事においても、第一印象というのは機先を左右する重要な要素だ。小龍、オーメルと我がGAグループ双方に利益を与え、尚且(なおか)つ我等のみ痛手を負ったように見せかけるミッションを彼等に提示しろ」

 

 

禿頭の老人、スミス・ゴールドマンの無理難題とも言える指示を受けた来客――痩躯で東洋系の老人――は、眉一つ動かすこと無く笑みを浮かべ、口を開く。

 

 

「無茶を仰る。……では彼等には()()()()を請け負って貰いましょう」

 

「ほう。当てがあるのか」

 

「本来なら博物館にでも寄贈したい代物です。今でも稼働しているのは奇跡ですよ」

 

そこまで言うと痩躯の老人は手元の端末を数回タップし、禿頭の老人が操作するデスクトップPCにある情報と図面を送る。図面に描かれた構築物はあまりにも大きく、あまりにも古い、六脚の要塞だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから5日後……

 

 

「俺はパスする」

 

 

格納庫(ファクトリー)の待機室でソファに寝転がりながら〝週刊ACマニア〟を読みふけるイッシンは、セレンから聞かされた内容に生返事を返した。しかしセレンは鼻息を一つ立てて呆れ気味に言う。

 

 

「お前に断る権利は無いぞ。契約した以上、ローゼンタールに貸しの一つでも作っておかないと後々面倒なのは分かるだろ」

 

「だからっていきなりトラセンドとの僚機任務は勘弁してくれよ。あんなのと一緒に居たら胃に穴が空くぜ。……それよりも俺はメイちゃんとお近付きになりたいんだ。セレン、なんか良い方法ない?」

 

「メイ……GAのメイ・グリンフィールドか。確かに定評のある良いリンクスではあるが――」

 

「だって見ろよ、この整ったカワイイ顔立ちと抜群のプロポーション!この後のインタビュー記事の内容も性格の良さが滲み出てるし最高だろ!?」

 

 

イッシンは目を輝かせてながら〝週刊ACマニア〟の巻頭カラーであるグラビアページを開き、セレンに見せる。そこには緑色のビキニを着た一人の女性が恥じらいながら写っていた。母性と可憐さが見事に両立した顔立ちに、ロケットと見紛うばかりの大きな胸。細く(くび)れたウエストと鍛え上げられた腹筋。〝カラードランク17〟メイ・グリンフィールドの姿がそこにはあった。

 

 

「いやぁ、死ぬならメイちゃんの胸で窒息して死にてぇなぁ……………セレン、胸無いし……………

 

「……そうかそうか。遺言はそれでいいな?」

 

 

刹那、ソファでだらしなく鼻下を伸ばし切っていたイッシンは死期を察した。目の前に立つセレンの背後には間違いなく死神と般若がおり、後光のような火焔が渦巻いている。

イッシンは、逃れ得ぬ死を確信した者特有の穏やかな表情を浮かべながら静かに目を閉じる。瞼の裏にはこれまでの出来事が駆け巡り、最後にセレンの声を聞いた。

 

 

「安心しろ。殺しはしない……殺しはな」

 

 

閻魔大王も裸足で逃げ出す形相でセレンはイッシンへ右手を伸ばす。手はどんどんとイッシンめがけて突き進んでいき、触れるまで残り10cmを切った時、不意にノックが響いた。

 

コンコンコン

 

「………」

 

「………」

 

 

セレンとイッシンはその場で固まったまま、同時にノックされた扉を見つめる。軽量防弾合金の扉はその無機質さを全面に押し出しながら、再びノックを響かせる。

 

コンコンコン

 

「………出ないのかセレン?」

 

「………ちっ!」

 

 

機を逃した苛立ちをぶつけるように、特大の舌打ちを決めたセレンはズカズカと扉に向かって歩いて行く。そしてノックをした相手に悪態の一つでも()こうとドアノブに手を掛けようとした瞬間、セレンはピタリと静止して手元の端末を操作する。画面には青地に格納庫の間取りが正確に映し出されており、一点の異常もない。そして画面右上には『Security:ON』と表示されている。

 

 

(防犯装置が反応していない?)

 

 

格納庫(ファクトリー)の床は全て感圧式センサーが仕込まれており、どの位置に人間がいるか明確に把握出来る。そして人間がいる場合、その箇所は端末上で赤く示される仕様だ。自身が置かれた状況を把握したセレンは、右腰のホルスターに納められた10mm無反動拳銃に手を掛け、後方で寝そべるイッシンにハンドシグナルを送る。

 

『襲撃の可能性有り、身を隠せ』

 

こちらの世界に転生してからというもの、暇さえあれば対多数人を想定した戦闘訓練を半ば強制でやらされているイッシンはセレンが発したハンドシグナルを即座に理解し、ソファを飛び越えて身を屈める。同時にソファの背面にガムテープで雑に固定されていた10mm無反動拳銃を剥ぎ取り、安全装置(セーフティ)を外して待機した。

 

 

(――前世はエアガンですらビビってたのに、今じゃ実銃が傍に無いと不安なんて皮肉なもんだな)

 

 

そんなイッシンを他所にセレンは深呼吸しながら再びドアノブに手を掛け、扉を徐々に開ける。セレンは外の様子がギリギリ見える幅5mm程度の僅かな隙間が作られたタイミングで扉の開きを一旦止め、ブービートラップの類が設置されていない事を確認した。

 

 

(示威行為のつもりか?或いは……)

 

「ドア一枚開けるだけで、いつまで待たせるつもりだ」

 

 

生死に関わる極限の緊張感の中、セレンの耳に飛び込んで来たのは毛嫌いしているしゃがれた声だった。

セレンは思わずバン!と扉を勢い良く開け放つと、そこにはグレーのハットとブリティッシュスーツを嫌味無く着こなした痩躯の老人と、おろしたてのブラックスーツに着られている感が未だ残る少女が揃って立っていた。

 

 

「……どういうつもりだ」

 

「センサーの事か?リリウムに無効化させた。全く、あの程度で防犯対策とは随分と怖いもの知らずなのだな?」

 

 

痩躯の老人こと王小龍は皮肉を込めてセレンに微笑を渡した。渡された本人はそれを唾棄すべきものと判断したのか、仏頂面のままに受け答える。

 

 

「ご鞭撻感謝する。では早々にお引き取り願いたい」

 

「そういう訳にもいかん。今回はGAグループ代表として依頼を頼みに来た」

 

「どういう風の吹き回しだ?ジョージを介せばいいだけの話だろう」

 

「仲介人やら通信機器やらを挟むには、ちと荷が勝ちすぎる内容だ。――とりあえず、右手を楽にして貰えるか」

 

「……入れ」

 

 

目の前の老人に敵意は無いと判断したセレンは、しぶしぶ右手をホルスターから降ろし、客人として老人と少女を迎え入れた。

 

 

「イッシン、出てきて良いぞ。王小龍とリリウム・ウォルコットだ」

 

「えっ、マジで?」

 

 

イッシンは隠れたソファからヒョコッと顔を出して、王小龍とリリウムを見つめる。イッシンと王小龍達が直接顔を合わせるのは初めてである事もあってか、お互いにまじまじと顔を見合った。

 

 

「ふん。登録証よりも腑抜けた顔つきだな」

 

「そういうアンタは随分と悪人面だぜ?」

 

大人(ターレン)の悪口はおやめ下さい」

 

「やっぱり、リリウムちゃんは想像通りの美人さんだな」

 

「!?」

 

「……小童、眉間に風穴を開けられたいか」

 

「すんません」

 

 

本当に眉間を寸分違わずブチ抜かれそうな雰囲気に、イッシンは思わず平謝りする。王小龍は不愉快そうに鼻を鳴らすとイッシンが隠れていたソファと対面に配置されたソファに座り、ジャケットの内ポケットから情報端末を取り出すと、数回タップしてアルミ製の長テーブルに置く。

 

数秒後、その端末を起点としたホログラムが空中に投影され、ある構造物を映し出していた。禿頭の老人にも見せた、古い六脚の要塞を。

 

 

「これは、まさか……!」

 

「そのまさかだ。セレン・ヘイズ並びにキドウ・イッシン。GAグループより正式に『スピリット・オブ・マザーウィル』の撃破を依頼する」

 




いかがでしたでしょうか。

やっときましたSOM!
長かった、ホントに長かった……ここまで約半年!
第一章もクライマックスへ突入です!

……正直、どう展開させようか悩んでおります(笑)
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