勿論ドレッシングをたっぷりとかけてね。
「……爺さんは何も思わないのか?」
イッシンは思わず聞いてしまう。原作ではスピリット・オブ・マザーウィルが撃破された際、『GAの英雄』であるローディーが青天の霹靂とばかりに驚いていた。それはスピリット・オブ・マザーウィルが現存するAFの中でも頭一つ抜けた戦力を有している反証になる。そんなAFを自ら差し出す目の前の老人の意図がイッシンには理解出来なかった。
「ふん。所詮『槍の残党』共が苦し紛れに作り出した偶像だ。むしろ解体が決定してせいせいする」
「自作自演でBFFの
王小龍の憮然とした答えにセレンはあからさまな皮肉を投げ返す。少女の眼には許し難い無礼に写ったのか、王小龍の隣に控えるリリウムは可愛げのある睨みを利かせた。
「実情は真逆だがな。あの女神を定期メンテナンスに回すだけでBFFの年度利益が23%程度損なわれる。御旗の金食い虫はGAのグレートウォールだけで十分というのがGA本部役員会の見解だ」
王小龍はそう答え、5日前の出来事を回想する。
宗主に自身の考えを示し、否定された場面を。
『時期では無いだろう。マザーウィルは』
『いえ、むしろ好機です。確かに未だ第一線級の戦力ではありますが、マザーウィルは稼働から11年経過しています。そもそもアレは耐久年数である8年を越えた運用を想定していません』
『だとしてもマザーウィルは通常通り稼働している。そこまで頑丈なのはBFFの技術力の賜物だ』
『お言葉ですが、マザーウィルは
『根拠は?』
『マザーウィルに採用されたMCフレームの構造的欠陥です。宗主もご存じでしょう』
『……まさか今になってその名前を聞くとはな。……分かった、役員会で取り上げてみよう。ただ、あまり期待はするな』
MCフレームを採用するにあたり度重なるシミュレーションを行い、
そして、その一点とは――
「砲台のダメージが伝播する?」
「MCフレームを構築する際、どうしても砲台のシステム系統を一元化する必要があった。砲台一基撃破される毎に指数関数的な負荷がシステム全体に掛かり、ダメコンとしては最悪の極みだが上層部は『接近される前に撃破すれば良し、されたとしても物量で押し切れる』とのたまってな」
「結果、マザーウィルは自身の砲台が全て撃破されれば、システムが負荷に耐えきれず瓦解する代物に成り下がった……それがマザーウィルの弱点か」
「そうだ。BFFの再興に一役買ったつもりだろうが『槍の残党』共も脇が甘い」
「あのさ、一つ聞きたいんだけど」
不機嫌そうに話す王小龍と対面のソファに座るイッシンは、太ももに肘を突きながら尋ねる。
「なんだ?」
「さっきから出てくる『槍の残党』って誰なんだ?」
「『槍の残党』はリンクス戦争でアナトリアの傭兵によって轟沈した【クイーンズ・ランス】の生き残り、つまりBFFの旧経営陣の事だ。現BFFの癌とも呼べるがな」
「爺さんは何でソイツらを嫌ってるんだ?爺さんは下らない派閥争いなんかする程暇じゃないだろ」
「……小童ごときが詮索する必要はない」
王小龍の無下な返答に、イッシンもこれ以上の質問は意味を成さないと感じたのか、ソファに背中を預けた。
BFF旧経営陣である『槍の残党』共はアナトリアの傭兵一人のみに全員殺されかけた経験から従来のネクスト主体の戦略から、AF主体による戦略へシフトさせようと画策している。『AFは完璧に制御出来る最高の戦力』と標榜してはいるが、その実は『
対して、王小龍を筆頭とした『女王派』はこれまでのネクスト技術を更に昇華させ、他の追随を許さぬ程に高めようとしている。新女王たるリリウム・ウォルコットが駆る〝アンビエント〟が良い例だろう。〝アンビエント〟のベース機である【063AN】は『女王派』が主導で作り上げた近・中距離を主眼に置いた前衛機だ。旧来のBFFが為し得なかったこの機体は、つまりBFFにとって未踏の領域であるネクスト同士の近距離高速戦闘へ足を踏み入れる決意表明を示していた。
保身の為に完璧な傀儡を欲する『槍の残党』と、新たな女王の下で更なる技術革新を欲する『女王派』。目的の違う派閥同士が相容れる事は決して無いだろう。あるとすれば、呑むか呑まれるかだ。
「それで。私達は何をすればいい」
セレンの声に王小龍は目を向ける。セレンは相変わらずの仏頂面であるが、話の回り道をし過ぎたせいか言葉の端にトゲが見える。
「……数日以内にお前達に向けてオーメル直々にマザーウィル撃破の依頼が入る。それを受託して、実際にマザーウィルを撃破してくれればそれでいい」
「オーライ。無抵抗の要塞なら目をつぶってでも落とせるぜ」
「誰が無抵抗と言った?」
「……え?」
王小龍の言葉を皮切りに不穏な空気が流れ始める。軽口を叩いたイッシンは軽妙な表情を崩せないままに固まるが、すぐに二の矢を王小龍に投げた。
「いやいや冗談キツいぜ。爺さんから話を通してきたんだ、それにGAの役員会で決まった事なんだろ?それくらい当たり前だよな?」
「
「つまり、それ相応の迎撃があると?」
「そう考えるのが妥当だろうな。GAグループの〝ギガベース〟を落としたリンクスを、BFFのマザーウィルが完膚なきまでに叩き潰す
「マジかよ……」
――いや確かにね?原作ではね?マザーウィルの攻撃をビュンビュン躱して砲台破壊してたけども。この世界だとQB一回噴かすだけでも、それなりにキツいんだよ?なのに反撃がある?それも相応の?……HAHAHA!冗談キツいぜ。
コロコロと表情が変わるのは年若のせいだろう。イッシンの絶望じみた表情を見て、リリウムは気の毒そうに目を伏せる。対してリリウムの隣に座る王小龍は呆れながら嘆息を吐いた。
「無論お前のみでやらせる訳では無い。僚機をつけさせるよう根回しはしてある。誰が着くかは分からんが、実力のあるリンクスを手配するよう言っている」
「そりゃどうも」
「ふん……用件は済んだ。帰るぞ、リリウム」
「はい、
王小龍は腰を重そうに上げ、扉へと向かう。追従するようにリリウムも腰を上げ王小龍の後ろに付いていくが、王小龍とは対象的に軽やかだった。その軽やかさのままにリリウムは王小龍に先んじて扉の前まで行き、恭しく開けるが不意に王小龍は歩みを止めた。
「あぁそうだった……セレン・ヘイズ」
「?」
「以前〝
「それがどうした」
「私の答えとしては〝
「……あまりイッシンを見くびるなよ」
「まさか。存分に期待している」
王小龍は意地悪い笑みを浮かべ、
そして3日後、オーメル・サイエンス名義で〝スピリット・オブ・マザーウィル撃破〟の依頼が、想定通りに飛び込んできた。
オーメルグループ仲介人、アディ・ネイサンと申します。以後お見知りおきを。
早速ですが、ミッションを説明しましょう。
依頼主はオーメル・サイエンス社。
目的は、BFF社の主力AFであるスピリット・オブ・マザーウィルの排除となります。
敵AFの主兵装は大口径の長距離実弾兵器です。
図体ばかり大きな時代遅れの老兵ではありますが、その威力・射程距離は、それなり以上の脅威です。
そのため依頼主からはVOBの使用をご提案頂いています。確かに、VOBの超スピードがあれば容易く敵の懐に入り込む事ができるでしょう。
懐に入った後は敵AFの各所に配置された砲台を狙ってください。砲台の破壊から、内部に損害が伝播し易いという構造上の欠陥が報告されています。随分と杜撰な設計ですが、まあ彼らなど所詮そんなものです。……説明は以上です。
オーメル・サイエンス社は、このミッションに注目しています。くれぐれも、よろしくお願いしますね。
いかがでしたでしょうか。
次回からマザーウィル攻略戦です。
マザーウィル、解体……うっ、頭が……!
ちなみに僚機はお楽しみです。
割と意外な人が来るかも?