《AMSシンクロ率89%、FCSオールグリーン、ジェネレータ稼働率93%、全駆動アクチュエータは正常に稼動中、VOB接続シークエンス開始。3……2……1……今》
ガコンと後方から音が聞こえたと同時に軽い振動がコックピットを覆い尽くす。ものの数秒間ではあるが、三半規管を揺すられた不快感がパイロットの感覚を支配する。
ここはオーメルグループが有する世界最大級のメガフロート型空港【ゼクステクス世界空港】。文字通り全世界の空港にアクセス可能な本空港は、各企業の重役にも愛用される程セキュリティの堅固な空港としても知られていた。しかし、そのセキュリティはリンクス戦争で敗残勢力に呆気なく占拠されるという苦い経験を味わってしまう。この一件でゼクステクスの信用は地に堕ちると思われていたが、ゼクステクスは政治力の高いオーメルを仲介役とし、この場所を不戦特区に制定する。それにより単一グループが迂闊に手を出せばそれを口実に残った2グループから袋叩きにされる状況が作り出され、結果として重役共に以前よりも重宝される空港に返り咲いた。
だが、不戦特区と制定されてはいるがあくまでも『不戦』であるため航空兵器の発着は禁じられておらず、実質的なオーメルグループの兵器発着場としての側面も持っている。そんなゼクステクス世界空港で、ネクスト〝ストレイド〟の発進準備は着々と進められていた。
《VOB接続完了、関連システムに異常なし。……イッシン、本当に良かったのか?》
オペレーターであるセレン・ヘイズはモニター越しでパイロットに問いかける。黒いリンクススーツを全身に纏ったパイロットは眉を上げ、不思議そうに返答した。
「なにが?」
《僚機の事だ。この作戦プランを提案したのは私だが、お前自身はマザーウィルを単機で相手取る事に抵抗はないか?》
「抵抗もなにも、天下のセレン・ヘイズ様がプランニングしたんだ。万が一も無いし、起こす気もないさ」
《そうか。……システムの同期を確認。ストレイド、出撃準備よし。いつでも行けるぞ》
「それじゃあ老兵退治と洒落込むか!キドウ・イッシン、ストレイド、出る!」
イッシンは掛け声と同時にフットペダルを勢いよく踏み込んだ。呼応するようにストレイドの背中に接続されたVOBに火が入る。周囲にコジマ粒子を撒き散らしながらではあるが、最初こそ旅客機のような穏やかな加速だった。しかし完全燃焼を示す青い炎が形成された瞬間、ストレイドは爆発的な加速により時速2000kmの世界へ颯爽と飛び立って行く。
瞬く間に星のように小さくなったストレイドを名残惜しそうに管制塔から見るセレンは、感慨もそこそこに別の作業に取りかかった。
~数時間前~
旧ピースシティ スピリット・オブ・マザーウィル艦橋
「――では、落としてよいと?」
スピリット・オブ・マザーウィルの司令官であるマーフィー・ゴドック准将はモニターに写っているでっぷりと太ったスーツ姿の男性に確認する。
《そういう事だ。あの老いぼれが勝手に仕組んだ茶番に付き合う必要はない》
「しかし理事官、本部役員会で決定した事案を現場で覆すのは……」
《准将、君に政治的判断を下す権限は無い。ただ命令通り動けばいいんだ、わかったな?》
理事官と呼ばれた男性は、モニター越しからも分かる粘度の高い汗を拭きながら断じる。ゴドックは眉をピクリと動かすが、それ以外は平常を保ち粛々と敬礼を返した。
「……了解しました」
《うむ。期待しているぞ》
ブツリと通信が終了するとゴドックは背もたれに背中を預け、無機質な茶色の天井を見上げた。天井には所々に大小様々な傷が付いており、血痕のようなシミもうっすら見える。
「豚に命令される軍人か。笑えんな」
「その構図は昔から変わりませんよ、准将」
艦橋前部に座りながら大衆雑誌を読んでいる砲雷長がカラカラと笑う。准将よりも七つ上の砲雷長は、態度こそ不真面目だがマザーウィル運用当初からその座を拝しており、異動の発令は一度たりとも無い。砲雷長の言葉に周りの乗員はクスクスと笑うが、ゴドックの気分が晴れることは無かった。
「仕方ない、命令は命令だ。――総員第一種戦闘配備。センサー班、情報が確かなら対象はゼクステクスから発進する。それに留意しながら哨戒を続けろ。砲雷班、マザーウィルの主砲を南西へ。対象を確認次第、全出力の70%を火器管制へ回せ。管制班、AC部隊へ
「「「了解!」」」
ゴドックの一声に艦橋内は慌ただしく動き始め、それまでの気楽な雰囲気は一瞬で打ち消された。
――マザーウィルの司令官を拝して約6年。既に若くは無い身体に鞭打って最前線の指揮を執っていたゴドックにとって、
それはマザーウィルが強大な戦力である事の証明であったが、常に生死の境に身を置いていたゴドックにとって退屈極まりない環境でもあった。確かに戦闘など起こらない方がいい。優秀な部下を失わずにも済む。
だが、それで実戦に耐えうる程の練度が維持されるかと言われると甚だ疑問でもある。だからこそ数少ない
「さて、お手並み拝見といこうか」
スピリット・オブ・マザーウィルより南西120km
「っ……。相変わらずキツイ加速だぜ!」
《どうだ、二度目だが慣れたか?》
「慣れるかよこんなの!」
イッシンはセレンに悪態を吐きながら操縦桿をしっかりと握り、フットペダルは常に踏み込んでいる。VOBによる強烈な加速により背中に身体中の血液が集まるような不快感は、恐らく何回試しても慣れるものでは無いだろう。
《その
「どうせなら機体も新調して貰いたいけど!」
《それは今回の戦果次第だ》
「くぅ~世知辛ぇなあ~!……ストレイド、兵装確認!」
イッシンはVOBの加速を制御する為に両手が塞がっているため、音声操作でコックピットのコンソールパネルに表示させる。
右手にはローゼンタールの最新ライフル【MR-R100R】
左手には同じくローゼンタールのレーザーライフル【ER-R500】
背部右側はオーメル製低負荷レーザーキャノン【EC-O300】
背部左側はローゼンタール製チェインガン【CG-R500】
肩部にはアルゼブラ製フレア【YASMIN】
オーメル陣営に与して最初のミッションというのもあり、兵装は全てオーメルグループのものだ。あくまでも本ミッションはマザーウィルの砲台撃破が目的であるため、過剰火力はデッドウエイトになりかねないというセレンの意向が表れている。
――いい加減乗り換えたいなぁ。いやオーギルフレームが悪いって訳じゃ無いんだけど、遅いんだよね色々。まぁ俺の
《まもなくマザーウィルの射程圏内に侵入する。廃ビル群にも衝突しないよう注意しろ、時速2000kmでは脆いコンクリートも砲弾と同じだ》
「オーライ!」
イッシンが返事をしたと同時に遥か前方から巨大な砲弾が空気との摩擦熱により光を帯びながら迫ってきた。単純な大きさなら以前戦った〝ギガベース〟の倍程度か。直撃しようものならストレイドはおろか、VOBまで木っ端微塵になってしまうだろう。そんな砲弾が迫って来ている中、イッシンは特に気負う事も無くQBを噴かして回避した。
(原作だと避けなくても当たることはほぼ無いからなぁ。ギガベースの方がよっぽど精度がいいぞ)
イッシンはそのまま砲弾を回避しながら、未だ姿の見えないマザーウィルに着々と迫って行く。そして砲撃から3分程経過した辺りで、イッシンは遠方にうっすらとマザーウィルを視認した。
スピリット・オブ・マザーウィルの想像するには、六脚の亀を思い浮かべるといい。頭と尻尾にあたる部分には3段式飛行甲板があり、甲羅にあたる部分には長辺側に固定された巨大な三連装砲が二門設置されている。だが、亀と違う箇所は脚以外にも二つある。一つは全てが鋼鉄で構成されている事。もう一つは
全長2.4km、全高600mを誇る巨体は見るもの全てを圧倒し、現戦場の主力であるネクストでさえ小バエにしか見えない故に、並のリンクスでは瞬く間に戦意を喪失させてしまうだろう。
しかしイッシンはマザーウィルの大きさに微塵も気にかける事は無く、飛来する砲弾を片手間で回避しながら別の可能性について考えていた。
(来るならパージした直後だよな、
《イッシン、VOB使用限界が近いぞ。通常戦闘、準備しておけ》
「……なぁセレン。騙されたと思って通信の音量下げてくれるか?」
《お前の意図は知らんがふざけるな。状況を逐次確認するのが私の仕事だ》
「だよなぁ。一応言ってみただけだ」
《ふん、VOB使用限界だ。パージする》
セレンの声と同時にストレイドはVOBからパージされる。その勢いのままストレイドは旧ピースシティの砂漠に着地した。ネクストに搭載された高性能バランサーのお陰か、姿勢を大きく崩すことはなく、そのまま通常ブーストでの移動を開始した。
《分かっているだろうが、敵主砲の威力は馬鹿げている。回避を最ゆ――》
《どぉぉぉうりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!》
怒号にも似た、男の野太い声がイッシンの鼓膜を支配する。両手で耳を塞ぎたい衝動をなんとか抑え、イッシンは呆れ気味に独りごちる。
「やっぱ来るよな、お前は」
GAの旧標準機〝SUNSHINE〟で構成された機体に、ハンマーを持った男性が描かれたデカール。無骨過ぎる程に無骨な機体は、見るもの全てに強烈な印象を与えるだろう。
「チャンピオン・チャンプス……!」
カラードNo.31〝ストレイド〟キドウ・イッシン
VS
カラードNo.28〝キルドーザー〟チャンピオン・チャンプス
&
BFF社フラグシップ級アームズフォート〝スピリット・オブ・マザーウィル〟
チャンプって出る作品間違えてると思うんですよ。Gガンとかならマックスターくらいボコボコにできるでしょ、多分。