凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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ブルートゥースを繋ぎ忘れて、電車内に大音量の便所サンダルダンスが流れた時はどうしようかと思いました。



32.化け猫VS老兵・Ⅱ

《どっせえぇぇいぃぃ!!》

 

「くそっ!いい加減離れろよ!」

 

 

イッシンは空中戦でもお構いなしに突っ込んでくる相手の単細胞加減に苛立ちながら、ストレイドに【MR-R100R】を構えさせ連射する。

 

対する単細胞ことキルドーザーは弾丸なぞどこ吹く風とばかりに正面から受け、なお突進してきた。いくら鈍重と揶揄されるSUNSHINEフレームでも最短距離を選択すれば、仮にストレイドが軽量機だったとしても軽視できない速度になる。チャンプスはキルドーザーにQBを吐かせ、強引に距離を詰めながら右腕を振りかぶった。

 

 

《どすこぉぉぉいぃぃ!!》

 

「うおっあぶね!」

 

 

予想以上の強引さに慌てたイッシンはストレイドの身を翻しながらキルドーザーの拳を何とか避けた。ボンッと、およそ風の音とは思えない風圧にイッシンは身震いした。

 

キルドーザーの両腕に装備されている【GAN01-SS-WD】通称〝ドーザー〟は武器とは名ばかりの鉄塊である。エネルギー兵器が台頭している現代戦において原始時代を彷彿とさせるこの武器は間違いなく時代遅れだが、どれだけ時代が進もうと鉄の塊を凄まじい速度で殴りつける意味は変わらない。その事を十分に理解しているイッシンは、殴りかかってくるキルドーザーを躱しつつ反撃を仕掛けようとストレイドに【ER-R500】を構えさせるが、コックピット内に響く警告音(アラート)がそれを阻んだ。見上げると白煙を牽きながら数十基のミサイルが猛スピードで向かってきている。

 

ストレイドは主のQBにより無理矢理捻り上げられ、上空より襲いかかるミサイルの群れに対し肩武フレア【YASMIN】を起動、オレンジ色の閃光が花火の如く空へ打ち上げた。まるで大好物を与えられた野犬のようにフレアに群がったミサイル群は接触した瞬間爆発し、閃光と衝撃がストレイドのコックピットを揺らした。

 

 

「油断も隙もあったもんじゃねえな!」

 

《9時方向の甲板からノーマル部隊が出撃した。留意しろ》

 

「ホント、他人事みたいに言ってくれるよな!」

 

 

セレンからの通信を受けたイッシンはOBを起動した。VOBほどでは無いが、それでも十分に速いスピードで報告のあった方角へ向かう。そこにはセレンの言う通りノーマルが8機、内3機は長距離砲戦用の装備を備えていた。打撃機よりも護衛としての近接機が多い編成は格上相手に対して有効な編成であるが、ネクストとノーマルの溝はその程度で埋まるほど浅くは無い。

 

イッシンはキルドーザーに放つ筈だった【ER-R500】を再び構え、ノーマルのコックピットを確実に射貫いていく。部隊のノーマルが次々と爆散する中、隊長格らしい打撃機が甲板から突然飛び降りた。大方、生存率を上げる為の奇策だろうが、イッシンがそれを見逃す筈も無く他の機体と同様に【ER-R500】を放つ。隊長格のノーマルはコックピットに直撃を受け爆散し、パイロットとしての人生に呆気ない終止符を打った。

 

 

「一丁上がり……っ?!」

 

 

隊長格の撃破を確認し、本来の目標である砲台の撃破に取りかかろうとストレイドを振り向かせたイッシンは目の前の状況が理解出来なかった。自身の眼前に迫る鉄塊の存在を。

 

 

《うぉらぁぁっ!》

 

 

キルドーザーの鉄拳がストレイドの顔面にめり込む。踏ん張りが効かない空中で殴られ、プライマルアーマーの威力軽減機能も至近距離の物理攻撃故に作動しなかったストレイドは衝撃で吹っ飛び、そのまま地面に叩きつけられた。歪な轍を作りながら地面を二度三度と跳ねたストレイドだが、メインブースターを噴かし何とか体勢を立て直す。

 

 

「良いの貰っちまったな……」

 

 

イッシンは独りごちる。殴られた衝撃がコックピットに伝導したため頭がガンガンと痛むが、その程度で済んだのは不幸中の幸いだろう。並の人間、たとえば転生前の自身が今の衝撃を受けていれば三半規管が大きく揺すられ、耐え難い眩暈を起こし、コックピット内を吐瀉物まみれにした上で意識を刈り取られていただろうと認識したイッシンは、キルドーザーの脅威を改めて評価した。

 

 

(機体のダメージはそこまでだけど、パイロットへのダメージは洒落にならねえな)

 

 

加えてマザーウィルからのミサイル攻撃に対応しながら戦うという事は、どちらかに意識を集中しなければならない。つまり必ずどちらかから意識外の攻撃を受ける事になる。原作の操作テクニックである〝限界機動〟を駆使すれば対応は可能だろうが、活動時間は一分程度であることを考えれば現実的では無いことは明白だった。

 

 

(隠し玉を使うにはまだ早すぎるしな。もう少し粘るしかn)

 

《だっしゃあぁぁあぁ!》

 

「ああもう!考える時間くらいくれたって良いだろ!?」

 

 

自身の手にあるカードの切る順番を大音量の咆哮でかき乱されたイッシンは横っ跳びでキルドーザーの鉄拳を回避する。いくら【神からの贈り物】とはいえ、あの衝撃を何度も食らわされるのは流石にマズいと考えたイッシンは背部兵装【EC-O300】を起動させ、発射した。【EC-O300】はリンクス戦争以前から存在する旧式の低負荷のレーザーキャノンではあるが、エネルギー防御が極めて低いGA製フレームには旧式でも著しい脅威となり得る。

 

【EC-O300】から放たれた黄色の光条は危険な攻撃であると察知したキルドーザーはすぐさま回避行動をとり距離を稼いだ。それでも攻撃の手は休めようとせず、キルドーザーは背部兵装であるグレネードキャノン【GRB-TRAVERS】および高速ミサイル【VERMILLION01】を展開させ、ストレイドめがけて放っていく。どちらの兵装も高火力ではあるが直進性の高い兵装であるためストレイドの機動を持ってすれば避ける事は造作も無い。

 

 

「とりあえずはこれで……!」

 

 

キルドーザーが離れた事を確認したイッシンはストレイドを反転させ、砲台撃破のためにマザーウィルの甲板へ向かった。甲板端には複数のミサイル砲台が設置されており、そのいずれもが数秒毎に全弾装填、全弾発射を行える高性能モデルである。そのミサイル砲台に向け、ストレイドは起動中の【EC-O300】を発射する。黄色の光条が刺さるとミサイル砲台は爆炎を上げながら沈黙し、以降ミサイルを吐くことは無かった。

 

 

「まずは一基!」

 

 

その勢いのまま、同じ甲板に併設されたミサイル砲台も同様に【EC-O300】で貫き爆散させた。戦闘開始から五分。ようやくマザーウィルに打撃らしい打撃を与えられた事に嬉しさがこみ上げるイッシンであったが、余韻に浸る間もなく警告音(アラート)がコックピットを支配する。警告音が示す方向には先ほどのノーマル部隊と同じ編成の2個部隊がストレイドを狙っていた。

 

 

「おっとマズい……!」

 

 

イッシンはストレイドにQBを噴かせ、その場を離脱するが長距離砲戦に特化したノーマル部隊は予測射撃による攻撃を敢行。砲弾とミサイルの大群がストレイドを穿たんと迫ってくる。回避する中でいくつか(かす)ったらしく、展開中のプライマルアーマーに若干のノイズが走った。

 

 

「腕は良いが、運が無かったな!」

 

 

ストレイドは身を翻しながら【MR-R100R】を連射した。実弾兵装はGA製に対して不向きではあるが、ダメージを全く与えられないという訳では無い。ことノーマルに関して言えば、実弾兵装でも十分なダメージを与えられる。その【MR-R100R】の雨はノーマル2個部隊に大小さまざまな風穴を空け、爆散すること無く沈黙させた。

 

 

「うっし。とりあえずはこれで――」

 

《イッシン、下段の甲板上でノーマル部隊の展開を確認した。次は3個部隊のようだ》

 

「次から次へと来やがって!無尽蔵かよ!?」

 

《どぉらぁあぁっ!》

 

「てめぇはいい加減大声だすのやめろ!」

 

 

イッシンの願望虚しくキルドーザーは雄叫びを上げたままドーザーを振りかぶり突進してくる。その背後からはマザーウィルから放たれたミサイルと、新たに現れたノーマル部隊の砲撃が迫って来ていた。

 

 

「……勘弁してくれよ」

 

 

マザーウィル攻略戦

作戦開始より380秒経過

 

ストレイド AP:80% 残弾:70%




現実的に考えてマザーウィルの弾幕を避けながら単機で落とすって、首輪付き化け物過ぎませんか。

それを序盤に要求するフロム……。
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