凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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夕食でチリコンカンとうっすいコーヒー飲んだので気分はマカロニウエスタンのカウボーイです。

決して金欠ではありません。


34.化け猫VS老兵・Ⅳ

「被害状況を報告しろ」

 

「ノーマル84、ミサイル砲台6、機関砲15。キルドーザーの戦線離脱を含め総戦力の23%が被害を受けています!」

 

「……中尉、現状況をどう把握する」

 

「六基目のミサイル砲台を撃破後、敵ネクストは目立った攻撃を仕掛けていません。時間稼ぎと判断するのが妥当かと」

 

「だろうな」

 

 

管制官からの報告から分析出来る情報を下に導き出した年若い士官の至極真っ当な意見にゴドックは頷く。中尉の言う通り、これは時間稼ぎだ。そしてそれが意味する所は一つ以外に他ならない。

 

 

(ろくでもない増援であることを願うか)

 

 

ゴドックはマザーウィルに襲来するネクストが〝ストレイド〟であるという情報を受け取った時点で増援の線を消していた事を僅かに後悔する。ゴドックはGAグループに与しておきながらマザーウィル撃破を受託した恥知らずなリンクスに手を貸す輩はいないと考えたのだ。それに依頼したオーメルグループも今回の任務はストレイドの試金石として依頼している筈だ。であれば、わざわざ増援を手配する筈も無い。しかし現実は残酷にもゴドックの予想を裏切る結果となった。自身の読みの甘さを噛み締める中、管制班の一人が声を上げる。

 

 

「BFF本社より秘匿回線で通信が入っています。繋ぎますか?」

 

「こんな時に誰だ?理事官なら無視して構わん」

 

「いえ、王小龍上級理事からです」

 

「……あのジジイか。分かった、繋げ」

 

 

ゴドックの答を得た管制官は手元の複雑難解な機器をスラスラと操作し回線を繋げた。艦橋のメインモニターに数秒のノイズが走った後、ゴドック以上の皺が幾重にも刻まれた老人の顔が現れる。

 

 

「お久しぶりです上級理事。本部総会の会食以来ですな」

 

《貴官も健勝そうで何よりだ》

 

「ところで何のご用でしょうか。現在マザーウィルはネクストと交戦中なのですが」

 

 

自身の不満を隠すことなくゴドックは問いかけた。戦場よりほど遠い司令部であれば世間知らずな文官の通信は暇つぶしで応じるが、交戦中の、それも最前線において下らないやり取りは無駄な精神を磨り減らすだけだからだ。

 

 

《貴官ほどの優秀な軍人が下らん負け戦で死ぬのは見過ごせん》

 

「ご冗談を。たかがネクスト1機に落とされるマザーウィルではありま――」

 

「哨戒班より報告!高速でこちらに向かってくる熱源を確認!この速度……VOBです!」

 

 

先ほど通信を繋いだ管制官が再び叫んだ情報にゴドックは思わず言葉を飲み、自身の運の無さを改めて呪った。マザーウィル攻略に対する増援は火力面を踏まえればAFもしくはVOB装備のネクストに限定される。ゴドックとしては先日正式採用(ロールアウト)したばかりのオーメル製AF〝イクリプス〟が来る事を望んでいたが、実際に来たのはネクストであったからだ。

 

しかしゴドックの目には絶望の色は見えていない。マザーウィルの現状況下で派遣されるならば低ランクのネクストである可能性も十分にあり得る。であれば勝ち目が失われた訳では無い。

 

 

「チッ、哨戒班に敵戦力の特定を急ぐよう伝えろ!総員に通達!マザーウィルの全戦力を投入してストレイドを攻撃!増援が到達する前に何としても撃破するんだ!!」

 

「「「了解!!」」」

 

《……水を差すようで悪いが》

 

 

艦橋の部下たちに檄を飛ばすゴドックとは対照的に、冷静冷淡な声がモニターから流れる。モニターから見えない事を良いことに砲雷長が青筋を浮かばせながら中指を立てるが、モニターに映る老人は気付くこと無くゴドックへ語りかけた。

 

 

《既にマザーウィルの勝ち目は無くなっている。准将、総員を退避させ救援を呼び給え》

 

「……その言いようですと何かご存知のようですが、陰謀家である貴方の言葉を聞く気は毛頭ありません。第一、敵増援の戦力が分からない以上、総員を退避させるなど出来るとお思いで?」

 

《それがクラースナヤでもか?》

 

 

王小龍から発せられた名称に艦橋内が一瞬静まり、モニターに注目が集まった。何故なら、その名称は現状況下で最も聞きたくないものだったからであった。

 

クラースナヤ。ランクは29と低く、搭乗リンクスのハリは未成年とも噂される独立傭兵の一人である。内情を知らない多くの一般人からは『御曹司の道楽』と揶揄されているが、内情を知る者達からは畏敬の念を込めて『時間限定の天才』と呼ばれていた。

 

搭乗リンクスであるハリは極めて特異なAMS適性を有しており、一定の時間であればランク1〝オッツダルヴァ〟を凌ぐ力量とセンスを発揮するが、その一定時間を過ぎるとランクと同様に粗製レベルの力量にまで下がってしまう欠点を併せ持っていた。しかし、その特性に目をつけた各企業から制限時間付きの殲滅戦が数多く依頼されており、今ではミセス・テレジアと並ぶ『汚れ仕事の請負人』として恐れられている。

 

そして、王小龍が未だ確認出来ていない敵戦力を言い当てた時点でゴドックは全てを理解した。此処(ここ)は戦場ではなく、醜いパワーゲームの一盤上に過ぎなかった事を。その事実を前にゴドックは小さく呟く。

 

 

「まったく。我々は歩兵(ポーン)か」

 

《准将、もう一度言う。()()()に付き合う必要はない》

 

 

モニターの老人は皺一つ変えず淡々と回答を促した。ゴドックはその顔に憤激を覚えるが、拳に力を込める事で何とか表情に出さず押さえ込む。――下らない相手のために戦を捨てるのは御免だが、下らない政争のために部下達が死ぬのはもっと御免だ。

 

 

「……ならば条件があります。部下達の処遇保障を確約して頂きたい」

 

《ふむ……約束しよう。健闘を祈る》

 

 

王小龍は取って付けたような微笑の表情を浮かべると、何の感慨も無い言葉を置いて通信を閉じた。黒く染まったモニターにはゴドックがぼやけて反射しているが、心なしかその周囲も揺らいでいるようにも見える。ゴドックはその場にスクッと立ち上がると制帽を被り直し、艦橋全体を見渡す。

 

 

「皆、今の通信は聞こえたな。残念だがマザーウィルの現戦力ではストレイドおよびクラースナヤと相対する事は自殺行為だ。司令官として、諸君らを死地に送り込むなど断じて許すわけにはいかない。総員直ちに地上装備に着替え、システムは全てオートモードに切り替えろ。……現時刻を以て我々はマザーウィルを放棄する!!」

 

 

 

 

 

 

《少年、聞こえるか?》

 

「どうしました?バイオレットさん」

 

 

VOBによる超加速な晒されながら苦悶の表情を浮かべる事無く平然と操縦している少年が答える。パーマがかった栗毛色の短髪にあどけなさの残った顔立ち、未だ成長途中であることが窺える身体にはカモシカのようなしなやかな筋肉が備わっている事がリンクススーツ越しからも分かる。

 

 

《スポンサーから連絡だ。マザーウィルの食い応えは落ちるが依頼通りやってくれだと》

 

「えぇ~。やる気削がれるなぁ」

 

《少年、モノは考えようだぞ?割の良い小遣い稼ぎと思えばいいじゃないか》

 

「ん~。それもそっか」

 

 

そういうと少年ことハリは操縦桿を握り直し、乗機クラースナヤの姿勢を制御した。クラースナヤはリンクス戦争で壊滅した旧レイレナード社の赤いAALIYAH(アリーヤ)フレームをベースにしており、その形状はオーメルのライールフレームを更に先鋭化させたデザインである。頭部は流線的な三角形であり、メインカメラは電光掲示板のような複眼を採用している。コアはF1カーを意識しているのか前部は大きく前に突き出ており、後部にはリアスポイラーが設置されている事から空気抵抗を意識したデザインであることが見て取れた。肩部は大型送風機のような見た目だが、接続する腕部は悪魔のような妖しさと鋭さが両立したような見た目をしている。脚部はどこか昆虫的な形状をしており、脛に当たる部分からは甲虫の角のようなパーツが伸びていた。

 

どんなベテランリンクスでも完全に使いこなすには膨大な習熟が必要とされるそのAALIYAH(アリーヤ)フレームを難なく駆るハリは、愛機に語りかけるように呟いた。

 

 

「じゃ行こうか、クラースナヤ」

 

 

ハリの言葉に、ロシア語で〝赤〟を意味する機体のメインカメラが呼応するように輝く。接続するVOBから更なる加速を引き出し、瞬間時速3000km/hを叩き出すその機体の遥か前方にはうっすらと巨大な異形が姿を現していた。




一般的な軍の指標では防御側の総戦力が40%程被害を受けると機能不全に陥るようです。初めて知りました。

あと、デロンギのコーヒーメーカーってあんなに高いんですね。初めて知りました。
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