凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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最近、時計沼への愛が再燃し始めました。個人的に今一番熱いメーカーはゼニスだと思ってます。


35.化け猫VS老兵・Ⅴ

ゴドックが発した言葉に艦橋内がどよめく。無理も無い、攻勢を仕掛けると言った次の瞬間には総員撤退の令をだしたのだ。二転三転する指揮官の言動に混乱を招かない筈が無かった。

 

 

「准将、正気ですか!?」

 

「ストレイドは疲弊しています!押し切れるはずです!」

 

「あの老いぼれに惑わされる必要はありません!」

 

 

隣に立つ年若い士官を含め皆、異口同音に撤退命令を翻そうとゴドックに激しい言葉を放つが、当の本人は頑として譲るつもりは無いことを現すように押し黙っている。

 

そのままクーデターに発展しかねない程ヒートアップした高まりを見かねたのか、撤退命令が発せられてから一言も喋っていない砲雷長が溜息を吐きながら口を開いた。

 

 

「お前ら落ち着け。准将が撤退命令を出したんだ、腐っても軍人なら従うのが筋だろう」

 

「確かに我々は軍人です。ですが、こんな優柔な命令に黙って従えと言うんですか!」

 

 

ゴドックの隣に立つ士官は、まるで上官などいないかのように砲雷長へ怒鳴る。マザーウィルで最古参にあたる彼に敬語こそ使ってはいるが、自身より階級が低い者に楯突かれたのが気に入らないのだろう。その幼稚さと無鉄砲さに呆れながら砲雷長は続ける。

 

 

「その考えが甘いんだよ。司令官ってのはな、確実に勝てる時と退けない時以外は臆病者なんだ。客観的に戦況を評価して、絶対的不利ならスタコラ逃げるのは当たり前だろ。一時の感情で動くなんざ論外もいいとこだ」

 

「ですが理事官から命令を拝している以上、背く事は出来ません!それに、戦いの結果はやってみないと分からないでしょう!」

 

「なら現状の戦力でストレイドとクラースナヤに()()()勝てると思うか?」

 

 

砲雷長の言葉に、それまで声高く噛みついていた士官は口をつぐんでしまった。彼自身も薄々は感じていたのだろう。彼我の差は、既に気力云々で埋められる程度では無いことを。

 

 

「だろ?……准将の指示通り、現時刻を以てマザーウィルから撤退するぞ。ほら、ちゃっちゃと身支度しろ!」

 

 

砲雷長は声を張り上げパンパンと手を鳴らす。直属の部下である砲雷班の面々は、こうなった上司がテコでも動かない事を熟知していたので各々手元のコンソールを操作し自動迎撃モードに変更後、貴重品を持ってバタバタと艦橋から出て行った。ついで、美味しい場面を独り占めされたからか不満げな顔を浮かべながら各班長は部下たちに撤退命令を指示する。

 

艦橋内がそれまでとは違った意味で慌ただしくなるなか、砲雷長はおもむろにゴドックに近付いた。対するゴドックは制帽を脱ぎ、砲雷長に向けて言葉を紡いだ。

 

 

「すまない」

 

「構わないですよ、口下手なのは知ってますから。ただ――」

 

 

砲雷長はスッと目を細める。マザーウィルに搭載された全火力を古くから扱う者としての迫力と矜持が宿った目は淀みなくゴドックを見つめる。

 

 

「――私も納得している訳ではありませんので」

 

「……君達の死に場所はここではないと判断したまでだ」

 

「その時は最高の死に場所を期待しますよ、准将殿」

 

 

砲雷長は眼光を瞬時に緩ませはにかむと、敬礼したのち艦橋内を後にした。ゴドックはその背を横目で流し見つつ手元の備え付き通信端末を起動させる。その画面には赤文字で「Sound only」および「Champion・Champs」と表示されており、何度かのコール音のあと雄々しい男性の声が聞こえてきた。

 

 

何用(なんよう)か!》

 

「チャンプス、我々はマザーウィルを放棄する。君も撤退したまえ」

 

《あぁ!?手負いのストレードに怖じ気づぅたか!えぇ!?》

 

 

チャンプスの訛りの強さと語気の強さが相まって泥酔した勝ち気な田舎者の暴言にしか聞こえないが、間違い無くチャンプスは素面(シラフ)であり大真面目である事もゴドックは理解していた。

 

 

「そのストレイドの増援としてクラースナヤが向かって来ている。負け戦に興じる程、私も命知らずではないのでね」

 

《……勝手にせい!おんしがどうしょうが、解体屋が何も壊せず尻尾巻いて退くってなぁ性に合わんでな!》

 

「そうか……健闘を祈る」

 

《おう!おめぇも達者でやれや!》

 

 

チャンプスの威勢の良い言葉を最後に、通信は乱雑にブツッと切られた。ゴドックは端末をしばし見つめ、ゆっくりと手元に戻し溜息を吐きつつ席を立った。

 

 

――羨ましいな、その生き方は。

 

 

 

 

 

 

《クラースナヤ到着まで60秒だ。持ち堪えろよ》

 

「ったりめぇだ!こんなとこで死んでたまるかよ!」

 

 

イッシンは自身を鼓舞する怒声と共にフットペダルを蹴り抜いた。コックピットから伝達される電子信号はストレイドのコア部、腕部を瞬時に駆け抜けQBの発動を強制させた。摩擦抵抗の無い空中とはいえ瞬間時速1000km/hの加速は重さ数十トンのストレイドを軽々と真横に20mほど移動させ、元いた場所には無数の砲弾が飛来している。

 

戦闘開始からほぼ20分が経過するがマザーウィルの攻勢は止むことを知らず、イッシンはむしろ強まっているようにも感じた。だが、それは本当に強まっているからでは無くイッシンの精神的疲労が限界に達しつつあるからである。この世界をゲームとしてプレイしている時でさえ10分間を越えた戦闘に出会う場面は稀であり、転生して今まで受注してきたミッションも全て短期決戦で終わらせてきた。その程度しか経験していないイッシンにとって戦闘を20分間継続して行う事は、もはや未知の領域である。こんな出鱈目は今すぐにでも身を翻して全力で逃げ出したいという思いに駆られるイッシンは、それでも退くわけにはいかないと戦闘を継続する。

 

絶対的強者(プレイヤー)の視点。阻む者全てを屠り、幾度となく自身と進みたい結末(ルート)を選択してきたイッシンにとってマザーウィルは只の通過点に過ぎなかった。そんなマザーウィルに敗北するという結果はイッシンにとって屈辱以外の何物でも無い。

 

 

「どうにか時間かせ――」

 

《おっしょおぉいい!》

 

「――ぎは出来そうもねぇな!?」

 

 

イッシンが下を見れば、頭部の一つ目を爛々と輝かせたキルドーザーが突進してきている。先ほどの高速タックルが直撃したからであろうコア部は大きくヘコんでいるが、それ以外のパーツはほぼ無傷と言っていい。ストレイドも無傷ならいざ知らず、残弾僅かな手負いの状態とあっては、まともに相手取るのは自殺行為だ。

 

イッシンはストレイドにQBを吐かせて距離を取りつつ【MR-R100R】および【ER-R500】を乱射する。それなりの火力を有する攻撃だったがキルドーザーは仕留める好機と見たか、回避行動は一切せずにストレイドの乱射を受けきると背部兵装である【GRB-TRAVERS】と【VERMILLION01】を展開した。どちらも高火力兵装であるため、間違っても直撃は避けたいイッシンはQBを起動しようとフットペダルに脚を掛ける。

 

刹那、イッシンは後方からの衝撃に襲われた。思わずコンソールを見ると「QB発動不可」と表示されており、同時にメインブースターが破損したことが示されている。恐らくミサイル砲台からのステルスミサイルが命中したからであろうが、いかんせんタイミングが悪すぎた。

 

 

(あっ終わったな)

 

 

突如訪れた実感のない死をイッシンは受け入れられずにいた。全ての体感速度がスローモーションで流れ、とりとめの無い走馬灯が脳内を駆け巡る。一方のキルドーザーは、ようやく()()()と笑みをこぼしながら【GRB-TRAVERS】および【VERMILLION01】でストレイドを穿とうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《僕の仕事仲間(金づる)に何してんだ、この野郎!!》

 

《!!??》

 

 

 

瞬間、赤い影が上空よりキルドーザーへ突っ込んで来たと思えば前触れ無くキルドーザーが吹っ飛んでいく。そのまま為す術なく地面に叩きつけられたキルドーザーであったが、ダメージはないと言わんばかりに砂煙を巻き上げながらムクリと起き上がった。

 

 

《来おったか、クソガキが!!》

 

《アンタみたいなウーハー野郎にクソガキ呼ばわりされる覚えはないね!》

 

 

突然の出来事にイッシンは目を点にしていたが、我に返り目の前の赤い影を確認、凝視する。赤い影の正体は先鋭的なコアに昆虫的な脚部、そして特徴的な電光掲示板のようなメインカメラを持つネクストであった。そしてこのネクストが、待ちに待った増援である事をイッシンは知っていた。

 

 

「ったく遅すぎだろ」

 

《間に合っただけ良しとして下さいよ、()()()()()()()

 

「……なら報酬分は働いてくれよ?」

 

《もちろん!》

 

 

 

役者は揃った。

 

 

 

カラードNo.29【時間限定の天才】

〝クラースナヤ〟ハリ 参戦




赤い子、ようやく参戦です。
ストーリー展開上、本格登場が遅くなったのでその分派手に動かしたいと思います。
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