凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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今回からチャプター2に突入です。
チャプター1は後日、改訂整理する予定ですのでご容赦下さい。


38.茶会と密会と限界

「新参の傭兵が、あのマザーウィルを?」

 

「間違いありません、ローディー様。カラードは情報の精度を確認しています」

 

「ふむ……」

 

 

カラード本部 地下15階 通称「茶の間」

 

中世を思わせる厳かな装飾が煌びやかに施されたこの場所は、カラードランク一桁の最上位かつ企業専属のリンクスのみが参加することを許される管理者会議――通称【お茶会】――が行われる場所である。

 

主な議題はカラードに所属するリンクスの処遇の如何(いかん)と各々所属する企業からの情報共有であるが、今回のお茶会は普段と様子が違っていた。

 

 

「仮にもリンクス、本来そういうものだろう」

 

 

お茶会の名に恥じず群青色の準礼服に身を包んでいる〝ランク1〟オッツダルヴァはいつものように斜に構えたながら高慢さをひけらかすように皮肉っぽく言い放つ。

 

 

「だといいがな。共喰いの噂もある」

 

 

すると、オッツダルヴァの向かいに座る女性が釘を刺す形で話を切り返した。女性の名前はウィン・D・ファンション。〝ランク5〟を与えられ、圧倒的な任務成功率と苛烈な戦いぶりから敵対関係である企業にちなみ『GAの災厄』と呼ばれている女傑である。彼女は真鍮色の軍服をカッチリと着込んでおり、髪は短く切り揃えられ、眼光は強く鋭い。正に『男装の麗人』を体現していた。

 

 

「どうであれ、ローゼンタールに所属するものとして鼻が高いな」

 

 

不穏な腹の探り合いに突入しかねない雰囲気を察し、ウィンの隣席に座る男性が少し強引に会話の流れを変えた。純白の生地に金の刺繍が施されたマントルを肩掛けしている男性の名はジェラルド・ジェンドリン。カラードランク6の実力者にして数少ないローゼンタールの専属リンクスである彼は、人格・実力・AMS適性の全てが高い次元で安定しており『理想のリンクス』と謳われている。

 

 

「各自思うところはあるだろうが、この二人の昇格について異論はないな」

 

 

茶の間に(しゃが)れた老人の声が響き、他の出席者達は了解の意味である沈黙を形作った。ジェラルドが変えた流れを見逃さずに裁ち切り、本来の着地点に導いた老人の名は〝ランク8〟王小龍(ワン・シャオロン)。BFF社が誇る、説明不要の陰謀家である。

 

 

「……現時刻を以てキドウ・イッシンをランク18に、ハリはランク13に昇格させる事を承認する」

 

 

イッシンとハリのバストアップ写真が部屋の中央に映し出され、その下に映し出されていたランクにノイズが走ると新たにあてがわれたランクが表示された。

 

 

「ルーキーらしい大出世だな」

 

 

臙脂色のMA-1を着崩した壮年の男性――〝ランク4〟ローディー――は快活に微笑む。未だGAグループ最高戦力である『GAの英雄』も若くは無く、引退の二文字は常につきまとう年齢だ。だからこそ道を譲れる後進が育つ事は、他グループであれ喜ばしく思うのだろう。だが彼の余韻は真鍮色の女傑によって早々に打ち切られた。

 

 

「では本題に入ろう。……アルテリア襲撃犯はどうなっている?堂々とクレイドルの要諦を狙われ、全て不明、打つ手無しなど管理者の存在意義が問われるだろう」

 

 

ウィンの言葉に【茶の間】の空気が二段階ほど重くなる。現在進行形で最も危惧するべき事案であり、現体制を根本から揺るがす問題に接するに当然の反応とも言えるが。

 

アルテリア。ラテン語で動脈を意味するこの地上施設は、上空に鎮座する航空プラットフォーム〝クレイドル〟が機能するためのエネルギーを絶え間なく送り続けている施設である。エネルギー供給が止まればクレイドルは地上に堕ちることを余儀なくされ、一基につき2000万の生命が失われかねない。その意味でアルテリアは正真正銘の動脈であった。

 

 

「だが最大供給源であるウルナ、カーパルス、クラニアムの襲撃は確認されていない。その点では頭の回らない愚者とも言えるな」

 

 

オッツダルヴァが口を挟む。相変わらず皮肉の効いた口調であるが、その根底には明らかな嘲りが敷かれていた。基幹施設を直接狙うのでは無く、まずは手頃な周辺施設を攻略する手法は一見問題がないように思える。しかし周辺施設とはいえアルテリアを襲撃した時点で、見据えているゴールは最大供給源のウルナ、カーパルス、クラニアムであることを教えたようなものだ。そして王小龍は呟く。

 

 

「その通りだ。ルールを守れない愚か者であれば、静かに退場してもらう他はない。それがラインアークであれ……レイレナードあたりの亡霊であれ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある場所、とある時間。

 

 

「カブラカンを墜とすか。どうして、なかなかいるものだな」

 

 

拘束衣のような特異な服装に身を包んだ気さくな老人が感心している。声色は健康体そのものだが顔色は死人を彷彿とさせるほどに白く、生気が感じられない。

 

 

「ああ……モノによっては、首輪をはずそうと思う」

 

 

老人の言葉に、向かいに座る青年が応える。漆黒のジレとスラックスを着こなした青年は老人と同様に生気が感じられないが、こちらは老人と違って機械的な印象を与える。

 

 

「ハリのように、か?それもいいがな、メルツェル」

 

 

青年をメルツェルと呼んだ女性は多少呆れ気味に問う。純白の軍服に青い三連星のブローチをつけた長い黒髪の女性は、その美貌の裏に戦士の顔を覗かせていた。

 

 

「案ずるなよ、ジュリアス。間も無くマクシミリアン・テルミドールは我々に戻る。……それで準備は終わりだ」

 

 

そう言うとメルツェルは手元のコンソールパネルを操作し、三人が囲むテーブルの中央に目を向ける。そこには、如何にも優男らしい顔つきのリンクスがバストアップで映し出されていた。

 

 

【カラードランク3】 ダン・モロ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょい待って!」

 

「戦場に待ったがあるか」

 

 

カラード本部 地下1階 仮想模擬戦ルーム

 

イッシンはいつものようにセレンにしごかれていた。今回の想定状況は先日ハリと共に撃破したスピリット・オブ・マザーウィルの単独撃破である。セレン曰く『あの程度が単独撃破出来ないようでは先が思いやられる』らしく、朝からぶっ通しで今まで連続29回ほど戦闘していた。

 

ちなみにイッシンが相手をしているマザーウィルは弾幕・威力・耐久力共に1.5倍設定のハードモード仕様である。

 

 

更に10分後……

 

 

「はぁっはぁっ……死、死ぬ!?」

 

「人間そう簡単に死なん。……30回中、撃破成功は7回か。まだまだ足りないぞ」

 

「きゅ、休憩を……」

 

「ダメだ」

 

 

地べたは這いつくばるイッシンの首根っこを掴むと、セレンはシミュレーターに投げ込み外側からロックを掛けた。何やら断末魔の悲鳴が聞こえた気もするが、セレンは気に留めず近くのベンチに座り、足を組みながらコーヒーを飲む。

 

 

「相変わらずスパルタですねぇ」

 

「ん、ダンか」

 

「イッシン君、死んじゃいません?」

 

「死んだら引き戻すだけだ。心配いらん」

 

 

ふざけんなー!とシミュレーターの中から怒鳴り声が聞こえるが、やはりセレンは気にも留めない。その様子にダンは苦笑するとセレンの隣に座り、手持ちのコーヒーを口に含んだ。

 

 

「マザーウィル撃破おめでとうございます。ランク18に昇格したんですよね」

 

「あの手柄の殆どはハリだ。私からすればランク18は分不相応にも程がある」

 

「手厳しいですね。親心ですか?」

 

「馬鹿を言え。……そういえばカブラカンを墜としたらしいな、大捕物じゃないか」

 

「お陰様で周りの視線が痛いですよ。食料問題でアルゼブラとやり合ってる最中なのに、何て事してくれたんだって食品メーカーからの抗議メールが一日中届きますし」

 

「独立傭兵の辛いところだな。いっそのこと専属になればどうだ?」

 

「ああいうデカい組織に縛られるのは好きじゃないので却下です」

 

「だろうな」

 

 

そこで会話は途切れ、二人はシミュレーション状況が映し出されているモニターを見始める。避けては撃ち、撃っては避けての単調な繰り返しであるが、操縦するイッシンは鬼の形相で戦っているのだろう。動きの端々に鬼気迫るもの感じる。普段のミッションもこれくらいの気迫で立ち向かって欲しいものだとセレンが思っている中、不意に胸ポケットの情報端末が着信を知らせた。

 

 

「私だ。……分かった、すぐ行く」

 

「デートのお誘いですか?」

 

「いや、ショッピングの案内だ」

 

 

そう言うとセレンはおもむろに立ち上がり、シミュレーターのロックを解除した。同時にモニターから派手な爆発音が響き【撃破成功】と表示される。

 

 

「い、生きてるよな俺……」

 

「まぁ及第点だ。さっさと着替えろ」

 

「……へ?何で?」

 

「決まっているだろう。新しいネクストを買いに行くぞ」

 

 

時は四月。様々な命が目を覚まし、生を謳歌する季節の事である。




いかがでしたでしょうか。

チャプター2はネクスト戦に重心をおいた構成にしようと考えています。……正直、AFの描写って難しいんですよね。私自身の技量不足もありますが。
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