改めて、今後ともお付き合い下さればと思います。
あなたならどう感じるだろうか?
「大丈夫。先っぽ、先っぽだけだから」ネットリ
「絶対違うじゃん!!奥までズッポリ接続するヤツじゃん!!ああああぁぁぁ!?」
黒髪短髪のフツメンが、白衣姿に眼鏡を掛けた長髪のイケメンに組み敷かれている状況を見て、あなたならどう感じるだろうか?
遡ること30分前……
「セレン、ここが?」
「あぁ。リンクス御用達のネクスト卸売業【フラスコと硝煙の桃源郷】の販売場だ」
目の前に聳えていたのは設計した人間の正気を疑うほど巨大な格納庫であった。高さ30m、幅100m、全長3kmの鋼鉄で構成された箱の正面には取って付けたようなアルミ製のドアが一つだけ設置されている。キャリアウーマン然とした格好のセレンは、ツカツカとドアに歩み寄ると三回ノックした。数秒後、ドアが安っぽい反射をさせながら開くとサングラスを掛けた禿頭の大男が不機嫌そうにヌッと出てきた。黒の革ジャンを羽織っており、まず間違いなく一般人ではない威圧感を放つ男は体格通りの低く野太い声で尋ねる。
「……用件は?」
「ジョニーの紹介で機材を調達しにきた。セレンと言えば分かるはずだ」
「………」
大男は眉をピクリと動かすと無言でドアをパタンと閉めた。どうやら向こう側で何かを確認しているらしく、こちらからは聞き取れないギリギリの声量で話している。暫くするとドアが開き、再び大男が出てきた。しかし最初の不機嫌さが噓のように鳴りを潜めており、代わりにセレンへ恭しく頭を垂れる。
「お待たせしましたセレン・ヘイズ様。ジョニー様は催事場の一番奥にいらっしゃいます」
「分かった。……連れも入って良いか?実際に乗るのはコイツだからな」
「問題ありません。寧ろジョニー様は
「なるほどな。イッシン、入るぞ」
「お、おう」
格納庫の中へ入るセレンに呼ばれ、イッシンは若干の気後れしながらも駆け足で後を追う。そうして大男の促されるままに中へ入ったイッシンは自身の目を疑った。何故なら所狭しとネクストが並んでいる……訳ではなく、ただポツンと一基だけ黒いエレベーターがあるだけだったからだ。しかし決して簡素な作りではなく、御影石のような高級感溢れる鏡面加工が施されている。
「……ネクストは?」
「催事場は地下に決まっているだろう。さっさと乗れ」
セレンが迷うことなくエレベーターの下降ボタンを押すと軽い鈴の音が鳴り、スーッと音も無くドアが開いた。内部も外装と同様に御影石のような高級感漂う雰囲気が作られている。二人がエレベーターに乗り込むとエレベーターは自動的にドアを閉め、フワッと落ちる感覚と共に下降を始めた。
沈黙。
「ジョニーって〝カミソリ・ジョニー〟の事だよな?」
「ああ、ここを取り仕切っているのも奴だ。それと、例の魚雷ミサイルを仕込んだのもアイツだ」
「えっマジで?」
カミソリ・ジョニー。
原作ではネクスト〝ダブルエッジ〟を駆るランク21のリンクスであり、数多くの
「
「ふーん」
――というか、あんな変態ネクスト組むような思考回路の変態に商売なんか出来るのかよ。変態のくせに。
イッシンが内心で心無い罵倒をしていると、不意にエレベーターの下降速度が緩やかになりフワッと落ちるような感覚も薄くなってくる。やがてエレベーターは完全に停止すると、地上に居たときと同様に鈴の音が鳴り響きドアが開いた。イッシンはドアから差し込んだ光の眩しさで一瞬目がくらんだが、同時にもたらされた声の喧噪で直ぐに回復する事が出来た。
「……すげぇな」
「だろう?私も最初は肝を抜かれた」
驚くイッシンとセレンの眼前には岩盤をくり抜いて作り上げられた格納庫が広がっており、所々で岩肌が剥き出しになっている。そしてその格納庫には異形の巨人の群れが佇んでいた、それこそ数えることすら億劫になるほどに。ある巨人の右腕には人間が数名取り付いて火花を散らしていたり、またある巨人の足元では店主と客らしい二人組が口論をしていた。催事場というよりも、途上国のバザールと言った方がしっくりくる。
――さぁさぁ見てらっしゃい!今日の目玉は旧GAE社の傑作、スターレットだよぉ!撃って良し、撃たれて良しの万能四脚!買わなきゃ損だよぉ!!
――そこの兄さん、ちょいと見てきなよ。非正規品だけど品質はピカイチさ。……え?どこのルートかって?そいつを聞くのは野暮ってやつだね。
――いくらオーメルの正規品だからって80万コームは高すぎるだろ!?そこのクーガーのジャンク品と抱き合わせで買うからもうちょい安くしてくれよ!
「なんか想像と違いすぎてスゴいな」
「ここに居る奴らは元々独立して卸売業を営んでいたが、何らかの事情で事業継続が困難になった連中ばかりだ。それをジョニーが買い取って継続させる代わりに売上の何割かを分け前として徴収している。最初こそ反発もあったが、身の安全が保証されて商売出来る方が魅力的らしくてな。今では全員がジョニーの子飼いだ」
「なにそれヤクザやん」
思わず本音が出てしまうイッシンにセレンは軽く笑うと、クイッと顎を出して前に進むよう促しながら自身も前に進んだ。イッシンも後ろから着いていき、喧騒の海に揉まれながらズンズン進んでいく。
――お!兄さん新人さんかい?今ならインテリオル製のブースターを一式で安くしとくよ!!なんならレーザーブレードも込み込みでどうだい!?
――安全安心信頼のアルゼブラ製ライフルはいらねぇか!?たとえ火の中水の中コジマの中、どんな環境でも壊れない最強ライフルがお値段なんと8万コームポッキリだ!
――出所不明、年式不明のジャンクネクストはいらないか~い。こちらは旧ピースシティで発見された半壊状態のアリーヤフレーム、旧レイレナード社の直営生産品だよ~。動作は保証出来ないけど希少性は高いよ~。
途中、いくつかの魅力的な謳い文句に身体が吸い込まれてしまうのを抑えながらイッシン達は何とか催事場の末端まで辿り着く。
そこには今まで見てきた格納庫とは比べものにならない程に高度な技術が詰め込まれた最新鋭の格納庫が設置されており、その足元では特徴的な長髪で白衣姿の男性がバインダーを持って熱心に何かを書き込んでいる。まぁ身体の正中線から
「ふむ……やはり耐久性と機動性の両立は既製品だと困難か……いやしかしワンオフはコストが……」
「ジョニー、相変わらず忙しそうだな」
「……その声はセレン・ヘイズ……ということは!?」
ジョニーと呼ばれた長髪の男性は急に振り向くと、分け目も降らずにイッシンめがけて猛然とダッシュしてきた。突然の展開に身動きが取れていないイッシンを他所に、眼前まで迫ってきたジョニーは彼の右手を両手で掴むと上下にブンブン振り回す。
顔立ちからして20代後半だろうか。女子受けしそうな洒落た中抜きが施されたフレームの眼鏡を掛けているが、目元には深いクマがくっきりと見えている。極端な色白で、痩せて骨張った顔つきから不健康にも見えるが体格は比較的ガッシリしており、仮にもリンクスと呼ばれるだけの筋量と体力は持ち合わせているようだった。
「君がキドウ・イッシン君だね!?この前ランク2と8のコンビ相手に生き延びてしかもその要因が僕の設計した魚雷ミサイルだっていうんだから鼻が高いよ!!いやそんな事よりも聞いてくれよ!今僕が設計しているネクストの事なんだけどねリンクスである君の意見を是非参考にしたいと思っているんだだから是非いまか」
「ジョニー」
「え?あっ……コホン。改めて、初めましてイッシン君。僕がこの桃源郷の主であるカミソリ・ジョニーだ」
「は、初めまして」
セレンの一言に我に返ったジョニーは、先ほどまでと打って変わって非常に理知的な態度で話し始めた。そんな情緒不安定なジョニーの立ち振る舞いに多少困惑しながらもイッシンは改めて握手を交わす。
そしてその握手はキドウ・イッシン史上に名を刻む、最低最悪のショッピングの始まりでもあった。
いかがでしたでしょうか。
はじめてのお買い物(ハード)……。変態と女傑に囲まれながら、イッシン君は何を買うんでしょうか。
ちなみに筆者の愛機は軽量二脚でビュンビュン飛び回る小バエでした。