「う……う、ん?」
意識を取り戻したイッシンはどうやら地面に横たわっているようで頬に硬い感触が知覚する。しかし地面特有の鋭い冷たさは無く、むしろ
「あ、この空間に居るって事は」
「大せいか~い。神様タイムのお時間だよぉ」
どこからともなく響く間の抜けた声がしたかと思えば、イッシンの目の前に突如として中性的な美しい
……割とスゴい事をしているにも関わらずチープに見えるのはきっと気のせいである。
「ていうか何で居るんですか。俺はAMS接続したつもりなんですけど」
「僕は神様だよ?こんな旧時代的なシステムを掌握するなんてチョチョイのチョイさ。それよりも、二ヶ月振りの再会なんだから親睦を深めようじゃないか。ほらお鍋もあるしさ」
神様が言い切った瞬間、イッシンの目の前に炬燵が出現し、その上にはカセットコンロで火にかけられている土鍋がグツグツと美味そうに煮えている。いつの間にやら
「あぁ~やっぱり炬燵はいいねぇ。君たち人類が生み出した最高の発明だとつくづく思うよ」
「炬燵ぐらいで何言ってるんですか貴方は」
無愛想に返答するイッシンだったが、神様は気にすることなく鍋をよそい始める。鍋の中身は水炊きだったようで出汁の滴った艶やかな鶏胸肉と糸コンニャクが妖艶にイッシンを誘惑しており、この世界に転生してからというもの家庭的な和食とは無縁の生活をしていた彼がそんな誘惑に耐えきれず筈も無く『まぁ神様とも久々に会ったし、断るのも無粋だしな』と、それらしい言い訳を自分に言い聞かせて
「タレはポン酢?ゴマだれ?」
「……ポン酢がいいです」
神様は具材をよそった陶製の深皿をイッシンに手渡しながら質問し、半ば諦めたように受け応えた彼に一般的なポン酢を手渡す。よそわれた水炊きは間近で見ると何とも美味そうで、イッシンが思わず生唾を呑み込む様子を見て神様は笑う。
「それじゃ頂こうか」
「……いただきます」
「はい、いただきます♪」
なまめかしく誘惑してくる鶏肉を箸で掴むと、付随する鶏皮がプルプルと震え、一層の魅力を余すこと無くイッシンの視覚を官能的な情景に塗り替える。我慢出来ずに口に放り込むと、たちまち肉汁と出汁が相互に口腔を浸食して至福の
「
「気に入るというか、むしろ狙ってますよね?」チョイチョイ
「だって君、乗りたがってたろ?」チョイチョイ
「否定はしませんけど」モグモグ
「ならいいじゃないか」ハフハフ
あの機体――名を【
再び黙々と鍋をつつき合う。一緒に煮込んであった白菜は鶏肉の旨みを吸収しており、白菜本来の甘みと相まって肉に引けを取らない素晴らしい一品として昇華していた。
「そういえば転生者捜しは手詰まってるようだね」ハフハフ
「どこかの誰かのお陰で暗礁に乗り上げてますよ」モグモグ
「トゲのある言い方だなぁ、直接は僕のせいじゃないだろ?」チョイチョイ
「他の神様に話した時点でバップです」チョイチョイ
「是非も無いなぁ」ハフハフ
「どこに居るか分かってるなら教えてくださいよ」ハフハフ
「それじゃ試練の意味がないよね?……とりあえずGAに転生者が居るって判断は間違ってないよ」モグモグ
再び黙々と(略)。クタクタに煮込まれた糸こんにゃくは乾燥された状態で鍋に投入されたようで、水分の代わりに出汁に満ち満ちた糸こんにゃくは黄金色に輝いていた。イッシンが口に放ると、内包された出汁が花火のように弾け飛んで口の中を火傷しそうになるが、それも含めて美味と感じる。
「あ、あとね。他の神とも相談したんだけど、タイムリミットを設けようかって話が出てるんだ」ハフハフ
「タイムリミット?具体的には?」ハフハフ
「七月、
「ブッ!?」
「あぁもう汚いなぁ。鍋に飛ばさないでくれよ、只でさえ最近そう言うのウルサい世の中なんだから」
思わず吹き出してしまったイッシンを
「なに悠長な事言ってるんです?!今が四月ってことは残り三ヶ月しかないじゃないですか!!」
「でも決定しちゃったからねぇ。……メンゴ☆」
「メンゴ☆っじゃ無いんですよ!というか今更ながら、この試練の合格基準も知らされてないんですけど!?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「聞いてませんよ!聞いてない俺も悪いですけど!」
そう、彼は気付いていなかったのだ。それもごく最近まで。それはいつものようにセレンから終日シゴかれまくって、ようやく寝床に潜った時に遡る。
――あれ?そういえば何で俺、転生したんだっけ?
……あぁそうだ、あの邪神もどきが『君たち人類がAIを制御するに足る種か試練を受けてもらう』って感じだったよな。
というか試練ってなんだ?この世界を生き延びる事か?それとも
何にも分かってないな、俺。これからどうすればいいんだ?
……考えても仕方ないし、とりあえず寝るか……zzz……zzz……
こうしてイッシンは気付くに至り、そして翌朝にはスッキリとした爽快な表情で完全に忘れ去っていた。だが、こうして神様に再会するに辺り脳内のサブメモリからフラッシュバックのように甦って来たのだ。
そしてその問いに神は軽く答える。
「じゃ改めて教えておくよ。リミットの七月に
――
「は?え?ち、ちょっと意味が分からないんですけど……」
「そのままの意味だよ?と言っても僕自身が直接手を下す訳じゃないから安心して」
「なにに対して安心すればいいんですか?!それって、合格基準は神様に勝つって事ですよね!?」
「まぁ……間接的にはそうなるね」
「無理ゲーでは?」
「そう悲観しないで。一応、この世界の
神様はカラカラと笑いながらイッシンを諭すが、当のイッシンは堪ったものでは無い。古今東西、伝承伝説において神はヒトの姿を借りて戦場に赴いて戦い、時には傷を負う事もあるがそれでも只のヒトが神に勝った試しなどないからだ。
ヘラクレス?アキレウス?
あいつらは半神半人だからノーカンである。
「……久々に無理だ、受け止め切れない」
「だよねぇ。まぁ食べながら徐々にうけとめればいいよ。さて次の具材は……チゲ鍋でいいかな、ほい♪」
そう言って神様が指をパチンと鳴らせば、卓上の水炊き鍋がたちまち赤く染まりマグマの如くボコボコと湯気を出し始めた。中の具材もあの一瞬で入れ替わったようで青々しいニラや、卑猥なほど大きな牡蠣などが入った本格的なチゲ鍋が姿を現す。
美味そうに出来たチゲ鍋を見て満足げな神様はすかさず箸を伸ばしてハフハフと汗をかきながら食べ進める中、斜向かいの凡人はその様子を視界に捉えながらも、ただ呆然とするしかなかった。
いかがでしたでしょうか。
次回の投稿は作中に出て来たオリジナルネクスト【JOKER】の機体解説となります。
まだリクエストは受け付けておりますので、ご要望があれば感想欄からお願い致します。