凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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最近、家飲みを始めまして。
楽しいは楽しいのですがアルコールが回る事で遅筆が更に悪化するのではと危惧しております。


42.親の心、子知らず

夕闇が青空に取って代わろうとする頃、日の光が遮断された岩盤の中でイッシンは椅子にもたれかかりグッタリとしていた。そこへ両手にコーヒーを持ったセレンがどこか申し訳なさそうに近付いてきた。

 

 

「……大丈夫か?」

 

「なんとかね。ジョニーは?」

 

「あの機体の再調整中だ。個人的に興味が湧いたらしい」

 

 

セレンはイッシンにカップを一つ手渡すと、自身が来た方向を見遣りながらコーヒーを一口含む。視線の先には腕(まく)りをした白衣姿のジョニーがあの機体――JOKER――のコックピットを我が物顔で占領しており、周辺にはケーブルやらモニターやらイソギンチャクのように飛び出していた。ここからは表情を読み取ることは出来ないが彼のことだ、最新の玩具を与えられた子供の如く笑いながら作業をしているに違いない。その証左として薄ら寒くなるほど狂気的な笑い声が時折聞こえてくる。安息を求めている身としては迷惑なことこの上ない。

 

 

「しかし接続した瞬間に意識が飛んだときは流石に肝が冷えたぞ。本当にアレを買うのか?」

 

「一分もしないで復帰出来たんだからヨシとしてくれよ。それに完品のチューンネクストを買える機会なんてそうそう無いだろ?」

 

「それはそうだが、不安要素が大きすぎる。戦闘中のブラックアウトは洒落にならん」

 

 

セレンが深い溜息をつきながら諭すなか、イッシンは()()()()に戻ってきた際の状況を思い出す。AMSのシステム上で待ち構えていた神様と鍋をつつきあいながら今後の展望を話し終えて現実に意識を戻した時、眼前に有ったのは今にも泣き出しそうなセレンの悲痛な顔だった。瞬間、無情とも言える張り手がイッシンを襲ったのは致し方ない事だろう。未だヒリヒリと痛む左頬をさすりながらイッシンはセレンの説得にかかる。

 

 

「問題ないって。リッチランドの時もなんだかんだ大丈夫だったろ?」

 

「アレは2対1だったからだ。第一、あんな欠陥品にお前を乗せる訳には――」

 

「大丈夫だよ、あの子は」

 

 

二人が振り向くと潤滑油まみれになったジョニーが袖で汗を拭きながらスポーツドリンク片手に近付いてきていた。まるで久方ぶりに運動したような爽やかな笑顔は、ジョニーの普段を知る者からすれば逆に不気味に感じるだろう。そんな彼に臆すること無くセレンは問い詰める。

 

 

「言い切れる根拠は?」

 

「操作系の遊びが皆無だったから、まさかと思って接続設定を見たら案の定()()()()()()()が120%に合わせられていてね。そりゃブラックアウトもするさ。急(こしら)えだけど遊び幅を作って、シンクロ率も90%に再調整しといたから、とりあえずAMS接続の心配は無用ってとこかな」

 

 

ジョニーはやれやれと言った様子でスポーツドリンクを口に含む。イッシンの記憶が正しければジョニーが再調整を始めたのが15分前であったはずだ。その短時間で原因を究明し、即座に解決策を講じるという事実から彼が並の設計者(アーキテクト)で無いことを改めて実感した。心強い味方を手に入れたイッシンはセレンに向き直り、ニヒルな笑みを浮かべる。

 

 

「だとさ」

 

「……はぁ。好きにしろ」

 

「うしっ!ジョニーさん、再接続のお願いします!」

 

「君も相当な物好きだねぇ。まぁ嫌いじゃ無いよ」

 

 

ジョニーは笑いながらスポーツドリンクを飲み干し、ついておいでと手招きしながらJOKERの下へ戻っていった。それを追うイッシンはやる気に満ち満ちており、対照的にセレンはどうしたものかと困り顔で額に手を置いていた。JOKERの下へ着くと、接続テストを受けた時と同様の機器が整然とセッティングされていた。刻一刻と自己診断プログラムを実行し、電子音声で現状を暫時報告する様子はまさしく最新型の名にふさわしく思える。

 

 

「じゃ、そこに座って」

 

「ういー……ってセレン、そんな顔するなよ」

 

「こんな顔をさせる原因(おまえ)が言うな。――ジョニー、さっきと同じようなことがあればお前の卸売免許を永久凍結してやるからな」

 

 

滑らかな流れ作業のように最新機器を操りながら準備を進めるジョニーに対してセレンは三白眼で見据えながら恫喝紛いに忠告する。ジョニーはそれに対していつものことのように無視しながらテスト用椅子に座るイッシンに、彼にしか聞こえない声量で話しかけた。

 

 

「ふふ、イッシン君は良いオペレーターを持ったね」

 

「そうですか?只のスパルタ鬼教官ですよ」

 

「まさか。スパルタは彼女なりの愛情さ」

 

「歪みすぎでは?」

 

「……そうかもね」

 

 

ほんの一瞬、物憂げな表情を見せたジョニーだったがイッシンがその表情に気付く前に消し去り、代わりに軽快な笑みを浮かべる。ジョニーは身を翻してAMS制御装置の前に立つとコンソールパネルを操作して各機材の動作確認を行った。

 

 

「手順はさっきと一緒だ。イッシン君のAMS接続用ジャックにプラグを差し込んでネクストと同期させる。途中、気分が悪くなると思うけど我慢してね」

 

「さっきはそんな説明受けなかったんですけど」

 

「だって逃げようとした人に説明しても、どうせ聞かないじゃない?」

 

「」

 

 

ぐうの音も出ない正論に押し黙ったイッシンを見てジョニーはケラケラと笑っていたが、自身の背後で揺らめき立つ般若の気配を直感的に感じ、咳払いで場の空気をリセットする。

 

 

「それじゃ行くよ。3……2……1……接続」

 

 

合図と同時にジョニーは頸椎に設けられているジャックに接続端子を繋いだ。瞬間、イッシンは異常なほどの眩暈と吐き気に襲われるが数秒後には元の体調に戻り、イッシンの目線は通常の遥か上、白銀一色のSOLUH(ソーラ)と対等の目線となっていた。同じ目線で見るSOLUH(ソーラ)は最初に感じた華奢な印象と打って変わり、絞り上げられているという表現が適切であった。

 

 

「イッシン君、調子はどうだい?」

 

「良好だ」

 

「バイタル、AMS制御ともに安定、アクチュエータ複雑系の駆動伝達にも異常は見られず……成功だね」

 

「ふ~。どうだいセレン、感想は?」

 

「とりあえず安心しているよ」

 

 

手頃な椅子が無かったのか、1m四方の機材箱に腰掛けて接続テストを見守っていたセレンはジト目ながらも胸をなで下ろしている様子だった。確かにぶっきらぼうな返答ではあったが、自身のリンクスがリスクを(かえり)みず半ば強引に接続テストを敢行したのだから仕方ないことだろう。

 

最低限の動作確認を終えAMS接続の不快感から解放されたイッシンは立ち上がり、上に向かって大きく伸びをする。神様との邂逅をカウントに入れるとすれば、本来5分程度で完了するAMS接続のテストだけで1時間は経過しており、その開放感も一入(ひとしお)だ。

 

 

「んん~~疲れた!セレン、帰ろうぜ」

 

「待て。一番大事な事を忘れているだろ」

 

「へ?」

 

 

間の抜けた声を出したイッシンに、セレンはこの日で最大級の溜息を尽きながら腰に両手を当てて詰問する。

 

 

「お前はタダでそのネクストを持って帰るつもりだったのか?」

 

「………あ」

 

「まったく。――ギャラハンさん、このネクストは幾らで譲って頂けますか?」

 

 

セレンはそれまで一行に追随しながらも空気の如く振る舞っていたギャラハンに向き直ると、内ポケットの情報端末を取り出しながら金額の提示を求めた。ギャラハンも唐突に会話を振られたので幾分かドキマギしながらも、使い込まれた銀色の電卓を即座に取り出してカタカタと音を立てたかと思えば、今までのやり取りからイッシンとセレンの主従関係を理解したのか、小動物のような慎ましさをもってセレンに金額を提示する。

 

 

(あね)さん、申し訳ねぇが此方(こっち)も利益を上げなきゃいけねぇので110万コームで勘弁して下さい」

 

「ええ、問題ありません。売買成立ですね」

 

 

普段見る事のないビジネスライクな笑みを浮かべるセレンの姿にイッシンは言葉を失いながら彼女に向けて指を指すが、そんな些事に気を向ける事無くセレンは淡々と入金の手続きを終える。

 

 

「はい、確かに110万コームの入金を確認しました」

 

「今後とも御縁があれば宜しくお願いしますね、ギャラハンさん。………ジョニー、この機体はいつもの住所に送っておいてくれ」

 

「了解、マドモアゼル」

 

「その言い方はよせ。――行くぞ、イッシン」

 

 

刹那、ビジネスライクなセレンが一瞬にして消え失せて、いつものスパルタ鬼畜般若教官の顔になった事に再び言葉を失いながら指を指すが、セレンはそれを咎めることなくツカツカと地上エレベーターへと歩を進めていった。




いかがでしたでしょうか。

イッシン君が前世の愛機を手に入れたので、次回からはようやくの戦闘パートの予定です。

前回の戦闘パートから約一ヶ月以上空いてるので不穏な空気が流れていますが、頑張ります。
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