最近はブランデーにハマってます。
「死にたくなけりゃ道を開けな!イッシン様のお通りだぜぇ!!」
《調子が良いことは結構だが、ハメを外しすぎるな。不注意でティターンが沈められては元も子もないぞ》
「出来るもんならやってみろ!今の俺は最強だぜ!」
《……オペレーター、心中お察しします》
《憐れむな。余計恥ずかしくなる》
水面をフィギュアスケートの如く舞い踊るJOKERは一騎当千の誉れが相応しい活躍を奮っていた。先ほどの9機編成のノーマル部隊を即座に撃破したイッシンは、救援に駆けつけたノーマル部隊2個小隊も難なく撃破。破竹の勢いを保ったまま、港湾部に陣取る砲撃部隊と会敵していた。
威力こそネクスト兵装よりも劣るが、弾速のみに焦点を当てれば遜色ない速度を誇るノーマル用ライフルの雨嵐を児戯のように躱し、倍返しと言わんばかりに両の手の突撃ライフルで味方部隊を穿ち続けるJOKERに対し、ノーマル部隊の指揮官は歯噛みする。
「やはりネクスト、一筋縄ではいかんか」
《ブラボー3撃墜!ジュリエット5も戦線を離脱します!》
「……チッ、一旦退くぞ!通信手、司令部へ現状況を報告!動けるものは敵ネクストを牽制しつつ後退しろ!化物相手にジリ貧など割に合わん!」
自らも最前線に立つ指揮官は、現時点での状況改善は絶望的と判断しマイク越しに怒声を発する。後退の旨が全隊に伝達させると、それまでの攻勢を維持しつつ各ノーマルが後退を始めた。
《敵ノーマル部隊、後退を開始。退き際を心得ているようだな》
「まっ新生イッシン様にかかればこんなもんよ!」
(……むしろ
スピーカー越しではしゃぐイッシンを尻目に、セレンは現状況を訝しむ。確かに敵指揮官の判断は間違っていない。勝てない戦と負け戦の違いを明瞭に理解している優秀な指揮官であろう。
しかし、それはあくまでも現場での話。
この戦場のGA側において最も大きい権能を所有するのはミミル軍港の半包囲を指揮した司令官である。それもインテリオル海上戦力の要諦の襲撃任務に就ける程度には優秀な司令官だ。そんな司令官がネクストが登場してなお戦場の主力に座するノーマル部隊の独断後退を容認するはずがない。
《……腑に落ちんな》
「ん?なんか言ったかセレン」
《いや、独り言だ。それよりもティターンの護衛に集中しろ。敵が撤退したとはいえ、まだ包囲網の中だからな》
「了解、プリンセスには指一本触れさせねぇよ」
イッシンは向かってくる敵影が視認できない事を確認するとJOKERをティターンの傍に移動させ、それまでの苛烈な機動が噓のように粛々と警戒態勢を取る。まるでオセロのように静と動を使い分けたイッシンに、実直が取り柄のカーティス大佐は戸惑いを隠すことが出来なかった。
「ネクストだと?」
「はっ。先行したアルファおよび救援に向かったチャーリー、エコーは全機大破。現在ブラボーとジュリエットが応戦しています」
GAらしく頑丈そうな機器が備え付けられている無骨な司令室で、ノーマン副司令はネクスト出現の報を受けて片眉を上げた。肥満気味な体型とふくよかな丸顔にはあまり似合わないスクエア型の銀縁眼鏡を掛け、綺麗になでつけられたオールバックをトレードマークとするノーマンは見た目通りの堅物らしさを全面に出しながら状況対応を指示する。
「ゴルフとフォックストロットを増援に回せ。控えのデルタもだ。曹長、敵ネクストの照会は済んでいるか」
「はっ。敵ネクストはランク18〝キドウ・イッシン〟です」
「売り出し中の新人か、面倒な相手だな。なら――」
「……人的被害は?」
背後からの声にノーマンが振り向くと、制帽を目深に被った無愛想な男性がナイロン張りの司令官席にだらしなく座りながら横目でこちらを見ていた。歳は40代前半、口髭を生やした東欧系のクッキリとした顔立ちは筋骨隆々の体格と相まって精悍な印象を与える。しかし顔の端々から神経質さが滲み出ており、目つきに至ってはカミソリの如き鋭さで相手を切り裂かんばかりであった。
ノーマン副司令に現状況を報告していた士官はそのカミソリに一瞬怖じ気づいたものの、直ぐに質問された事項の回答を用意する。
「は…はっ!軽傷者6名、重傷者15名、うち2名が四肢の欠損を伴う負傷ですが、現在殉職者は出ておりません!」
「……そうか」
そう言うと男性はゆっくりと席を立ち上がり、廊下に続く扉の方向へフラフラと歩いて行った。男性はGAから支給された制服を着崩しており、規則で許されるギリギリのラインを綱渡りしている。そんなシワだらけの背中との距離が離れていくノーマン副司令が、何処へ行くのかと尋ねると男性はただ一言。
「散歩だ」
そう言い残し司令室を後にした。それを見送ったノーマンは額に手を当てながらヤレヤレと首を振りつつ溜息を吐き出す。まるで言いつけを守らない子供に手を焼いている母親のような表情を浮かべていたが、一呼吸置いて気持ちを入れ替えて司令室前方に向き直った。
「展開中の全部隊に伝えろ。司令の散歩の時間だ」
《リンクス、一つ聞きたい》
「ん?なんだ?」
《GAノーマル部隊の練度はこれが標準なのか?》
ティターンの護衛に回って約5分。GAノーマル部隊からの主だった攻勢は鳴りを潜めたものの、敵の行動パターンが要所でティターン一行に対し妨害攻撃を仕掛けるゲリラ戦術に移行したことにより、足止めを余儀なくされていた。
もちろんJOKER単機であればノーマル部隊の殲滅など造作無い。どんなに多く見積もっても数分でカタが着くだろう。だが、それを差し引いても護衛対象から離れる事はあまりにもリスキー過ぎる状況だった。
何故なら、さきほどJOKERが迎撃のためにティターンから離れた瞬間、岩陰に潜んでいたノーマル部隊がECM(Electronic Counter Measures)を展開し、ティターンに襲いかかる事案が発生したからだ。幸いイッシンの即時対応により事なきを得たものの、以降は徹底した防戦に回らなければならなくなっていた。
「いや、ここまでの部隊は俺も始めてだ」
《GAの精鋭部隊に狙われるとは、我々も運が無いな》
「かもな。……にしてもアイツら、変なデカールしてるよな」
《変、とは?》
「だってよ、ヘルメットに弾丸がめり込んでるデカールなんて縁起悪いと思わねえか?」
《イッシン、今なんて言った》
不意にセレンが通信に割り込んできた。それまで沈黙を守ってきた彼女が突然口火を切ったことを疑問に思いながらも、深く気にすることなく復唱する。
「いやだから。ヘルメットに弾丸がめり込んでるデカールなんて趣味悪いと――」
《あの腹黒女!最低限の情報すら仕入れられんのか!!》
突如として張り上げられたセレンの怒声と共にコンソールパネルに怒りの拳を叩きつける衝撃音がスピーカー越しに構えるイッシンの鼓膜を揺さ振った。あまりにも突然すぎる急展開に動揺しながらもイッシンは彼女に確認する。
「どうしたよセレン!?」
《ソイツらはGAの特務遊撃大隊だ!チィ!相手が悪すぎる!!》
「そんなにマズい相手なのか?」
《大ハズレもいいところだ!!コイツらが居るということは……やはり出てくるか!》
セレンの怒りを滲ませた呟きと同時に、JOKERのレーダー上に赤い点が新たに表示された。明らかにノーマルの移動速度ではない速度で近付いてくる赤い光点のプレッシャーは尋常では無く、セレンの警告も手伝ってか、イッシンの精神的余裕は瞬く間に失われていく。
何故なら赤い光点の注釈には――
Rank.12
そう記されていたのだから。
刹那、オープン回線が開かれると聞き覚えのない男性の声が聞こえてくる。いかにも堅物そうな、ジョージ・オニール辺りに聞かせたら蕁麻疹が出かねない堅い言動だった。
《こちらグローバルアーマメンツ社所属特務遊撃大隊副司令官、ノーマン・オットーだ。企業間国際協定に則り、降伏を勧告する》
「だってよセレン。どうする?」
《こちらJOKERオペレーター、セレン・ヘイズだ。そんな国家解体戦争以前の古典を持ち出した降伏勧告に乗るつもりはない。とっとと荷物をまとめて帰ったらどうだ》
《……傭兵屋は無礼なのが売りなのか?貴様等のような金の亡者に慈悲を掛けるだけ有難いと思え》
《企業に魂を握られた家畜の下らん慈悲など、野良犬にでも喰わせておけ。
《貴様、言わせておけば――》
《ノーマン》
不意に別の男性の声が聞こえた。スピーカー越しに切りつけられたような鋭い威圧感に、その場の全員が口をつむぐ。シンと静まり返った空間には独特の緊張感が流れ、再び男性の声で切り裂かれた。
《言葉は不要だ》
赤い光点の敵はイッシンがかろうじて視認出来る位置にまで達しており、その
「心の準備が整ってねえんだけどな」
カラードNo.18〝JOKER〟キドウ・イッシン
VS
カラードNo.12〝ワンダフルボディ〟ドン・カーネル
如何でしたでしょうか。
ドン・カーネルの人物背景は割と掘り下げていますので気長にお待ち頂ければと思います。
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