ワンダフルボディは可能な限り動きを抑制して【GAN02-NSS-WR】および背部ミサイル兵装【WHEELING01】による精密迎撃で、ちょこまかと動き回るJOKERを的確に捉えようとしていた。
軽量機であるJOKERに純粋な速度で圧倒される重量機のワンダフルボディは、巧みな体裁きと予測射撃で速度差を埋め合わせていたが不意に海上に立った波に足を取られ、つんのめるように体勢を崩してしまう。
その一瞬を見逃さなかったイッシンはフットペダルを蹴り抜いて即座に連続QBを発動、JOKERの両の手に構えられた【04-MARVE】と【AR-O700】のトリガーを引き ながら猛然とワンダフルボディへ突撃した。至近距離でのダブルトリガーを受ければ、いくら重装甲のワンダフルボディとはいえ風穴の一つ二つは空けられるだろうという見立てのイッシンだったが、次の瞬間には自身の思考が甘かったと反省するしかなかった。
何故なら前方に大きく体勢を崩していた筈のワンダフルボディが、その勢いを利用しつつQBを発動してショルダータックルを繰り出して来たからだ。古武術歩法【縮地】を応用したような加速は高等技術である二段QBに迫る速度で彼我の距離を大きく縮める。
現時点での相対距離が短い上に、双方ともQBによる同等の加速に身を預けている以上、対面激突は必至。その上で相手に与える衝撃が大きく、かつ自身への被害が軽微なのは断然質量が重い方である。
容易に想像出来る最悪の事態を回避するべく、不利側のJOKERは正面衝突しようとした瞬間に両手の突撃ライフルを宙へ放り投げた。そうして空いた掌をワンダフルボディのコアに掛けると、同時に噴かしたメインブースターの推力を活かして跳び箱のように開脚して飛び越えた。大きくジャンプしたJOKERは放られていたライフルを華麗に掴み取って、背中を見せたワンダフルボディへ向き直ると突撃ライフルをこれでもかと連射する。
弾丸は一直線にワンダフルボディのブースターモジュールへ突き進んで推力の生産を失わせようとするが、着弾の直前にワンダフルボディはQBによる高速転回を発動。弾丸は交戦時と同じように厚い胸部装甲に吸い込まれ、浅い弾痕を残す成果しか出せなかった。
「隙って概念がねぇのかよコイツ!!」
《……躱すか、身軽だな》
両者とも手の内を見せすぎないギリギリのラインで一進一退の攻防を演じている中、GA司令室ではノーマン・オットー副司令が戦況を見守りつつコーヒーを嗜んでいた。直属の上官であり、特務遊撃大隊司令でもあるドン・カーネルが最前線で戦っている様子を、まるでアマチュアボクシングの試合でも観戦しているかのように見ていられるのは端から見れば正気の沙汰ではない。だからこそ特務遊撃大隊に配属されて間もない索敵班の士官は隣に座る班長にコソッと疑問をぶつけた。
「副司令っていつも
「司令と副司令は旧い付き合いだからな、勝手知ったるってやつだろ」
「それにしたって余裕過ぎでは……」
「聞こえているぞ」
「!!っもっ申し訳ございません」
ノーマン副司令直々の声掛けに飛び上がった士官は、その場に直立して向き直ると最敬礼する。隣に座る班長は我存ぜぬとばかりに肩をすくめる様子を見て溜息を吐いたノーマンは背もたれに深々と身体を預けた。あれはいつだったか。そう思い返しながら再びコーヒーを口に含み、ノーマンは戦況を見守る。
GA士官学校を歴代でも稀に見る好成績で首席卒業し、戦場を指揮すれば黒が白に変わるとまで評され、果てはGA正規軍大将とも目されたノーマンが当時抱いていた感情は虚ろな孤独感だった。右を見れば大局を理解できない愚図の将校がおり、左を見れば部下を理解するつもりもない無能な上官がいる。桁外れに優れた才覚を持っていた彼はメキメキと頭角を現し史上最年少で准将の座に着いたまでは良かったが、その桁外れの才能故に周囲からは疎まれ、遂にはGAグループ技術研究所・東テキサス支部という僻地に左遷されてしまう。そんな経験から自身より劣る者に対して寸分の興味を持つことも出来ず、自身の唯一の理解者は先達の偉人が遺した戦術指南書だけだと本気で信じていた。
そんなノーマンの転機となったのは三年前の夏の日のことである。空調を効かせた涼しい執務室でいつものように戦術指南書を読み耽っていると、GA正規軍特別顧問である〝GAの英雄〟ローディーが一人の精悍な男を連れて訪ねてきた。その男は近年目覚ましい戦績を残している元ノーマル乗りのリンクスらしく、現役軍人では異例となる名誉勲章の最有力候補に選出されたにも関わらず自ら辞退。代わりにノーマンとの会見を望んだ奇特な人間との説明をローディーから受け、流石の彼も困惑した。
『すいません、仰っている意味が……』
『いやな?お前さんも知っての通り、近く特務遊撃大隊を発足する動きがあるだろ?その司令官にコイツを推薦してそのまま決定しかけていたんだが、当の本人がノーマンを副司令に置かないと受けないなんて駄々をこねてな』
『私を?』
『なんでも士官学校時代の卒論に感銘を受けたらしくてな。まっ細かい話は二人で詰めてくれ。俺はコーヒーでも飲んで時間を潰している』
そう言ってローディーは身を翻してヒラヒラと手を振り、執務室から気怠げに出て行った。残された二人の間には何とも言えない微妙な雰囲気が流れるが、GA特別顧問からの紹介も無下には出来ないとノーマンから話を切り出した。
『何故私なんだ。他にも優秀な士官は山ほどいるだろう』
『貴官が最も優秀と判断した』
『その根拠は?こんな僻地に左遷された将校に価値などないだろう?』
『【ネクスト戦力の危険性を精神医学の観点から読み解く】』
『それは確かに私の卒論だが、大したことは書いていないぞ』
『下らん謙遜だ』
『……上官への言葉遣いではないな。面白い、ならその論文の総括を一言で言ってみ給え。君のような職業軍人に到底理解できるとは思わ――』
『
『――?!』
ノーマンは一瞬なにを言われたのか理解できなかった。確かに男が言った総括は合っている。だが今まで誰一人として答えを言い当てた者はいないのだ。大半の、それこそゼミで懇意になった名誉教授やGA正規軍大将レベルでもAMS技術絡みの問題であると勘違いしていた。だが目の前の男は平然と答えている。その事実にノーマンは言葉を失ってしまった。
『貴官の助力がいる』
『ま、待ってくれ。そもそも
『……言葉を重ねるのは好きではないが』
目の前の男はおもむろに制帽を脱いで脇に抱えた。露わになった眼光はカミソリのように鋭く、見据える者を切り捨てんばかりに威圧的な眼光である。
『貴官の提唱した
その一言と共に眼光が鋭く光った。威圧感がより一層増した気がするが、しかし不思議と恐怖感は無い。眼光の奥にあるどこまでも真っ直ぐな瞳が自身の使命を全うしようという強い意志を――必ず発現する
『君の名前は?』
『……ドン・カーネル。ネクスト〝ワンダフルボディ〟のリンクスだ』
以降、ノーマンはGA特務遊撃大隊の副司令に着任し数々の戦場をドン・カーネルと渡り歩いてきた。驚いた事に、司令となったドン・カーネルがこれまで戦場で使用してきた戦術は稚拙というほかなく、どうして今まで生き残れたのかとノーマンが問うと『勝ってきたからだ』と例の如く一言で済まし、更には司令という立場を拝しながら積極的に最前線でしのぎを削り合う始末。
最初こそ胃薬が手放せない日々が続き、どうやって副司令を辞そうか考える毎日だったが今ではこうしてコーヒー片手にくつろげている自分に驚く事もある。その理由は幸か不幸か信頼か諦めか、今となっては分からないが一つ確実な事実を知ってしまったからだ。
どんなに過酷な戦場であろうとドン・カーネルは必ず帰ってくる、と。
「さて、我等が司令にどう立ち向かう?
いかがでしたでしょうか。
正直、ノーマン君を掘り下げ過ぎた感が否めません(苦笑)
当作品は年末年始も通常通り更新する予定です。
今年一年、哀しい出来事が数多く世間を賑わせましたが来年は実りある吉報が沢山の年になればいいですね。
早めのご挨拶となりますが、良いお年を。