凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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皆様、明けましておめでとうございます。

今年こそアーマードコアの新作が発売され、俗世に身を潜める数多のレイヴン・リンクス・ミグラントが狂喜乱舞の末に戦場に返り咲く年となりますよう願いまして、新年のご挨拶とさせて頂きます。


47.下に付くか、飼われるか

「ワンダフルボディがJOKERと交戦中?」

 

 

軽めの昼食後、執務室に併設したスタジオで日課のギターチューニングをしていたローディーは突然怒鳴り込んできた、青筋を立てている将校の言葉をオウム返ししていた。

 

 

「そうだ!マザーウィルはまだしも、我が社のNSS計画すら潰されては敵わん!ついてはローディー特別顧問、至急現地に急行しワンダフルボディの救援を要請する!」

 

「悪いがお断りですね」

 

「なにっ!?」

 

 

ローディーは子供の我が儘を相手にするように将校と目を合わせず、鼻歌混じりでペグをいじくり回しながら即答した。

 

 

「そもそも小龍の忠告を無視してインテリオルの海洋拠点であるミミル軍港を叩くと言いだしたのはアンタら上層部でしょうに。自分の尻は自分で拭いたらどうですか?」

 

「ローディー特別顧問!軍規上、貴方の役職は大佐相当と位置付けられている。正規軍少将である私の命令に従えないなら然るべき手順の基で軍法会議にかけても構わんのだぞ!」

 

 

ローディーの連れない態度と自身の意見が通らなかった事に腹を立てた少将は、軍法会議という伝家の宝刀を躊躇なく引き抜いた。彼の経験上、自らの階級より低い者に対して使えば間違いなく平伏す最高の脅し文句だったのだが、いかんせん使う相手が悪すぎた。

 

ローディーは微かに眉を動かすと、ゆっくりその場に立ち上がる。そのまま臙脂色のMA-1を揺らしながら少将に鼻先が触れるか触れないかの距離まで近付くと、凄みを利かせた不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「ほお?なら掛けてみろ。その代わり、俺はGAから離れて独立傭兵としてGAを潰しに来るぞ。お前さん、本気の俺とやり合う覚悟はあるんだろうな?」

 

 

粗製と蔑まれてなお幾多の死地をくぐり抜けた歴戦の英雄が醸し出す覇気は百獣の王そのものと呼べる程に並大抵ではなく、彼自身が途轍もなく強大な兵器である証左でもあった。かつて世界を手中に収めた旧合衆国最強の称号『一人の軍隊(ワン・マン・アーミー)』の化身とも言える圧倒的な覇気に当てられ、かつ獅子の目で見据えられた少将は足元がガクついて顔面から血の気が引き、今際の際のように蒼白となってしまう。少し脅しすぎたか、とローディーは覇気を引っ込め、哀れな子羊の肩をポンポンと叩いて身を翻すと再びギターチューニングを始める。

 

 

「まぁ安心して下さい、ドンはそこまで心配するほど弱いリンクスではないですよ。直接指導した私が保証します」

 

「し、しかし万が一と言うことも――」

 

「少将もクドい人ですな。……相手のキドウ・イッシンは小龍が目を掛けている男です、貴方が思うような事態にはなりませんよ」

 

 

そこまで言うとローディーは弦の調整具合を確認するためにギターをアンプに接続して軽くリフを奏でた。エレキギターならではの力強く、真っ直ぐな音質はスタジオ全体に反響し音色の雨を降らせる。立ち竦む少将を尻目にローディーはその雨を心地良く全身で受け止めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

《残弾40%……あまり無駄撃ちするなよ、弾が切れてはどうしようもないぞ》

 

「分かっちゃいるが、()()も堅いと無駄撃ちの一回でもしたくなるだろ!」

 

 

交戦開始から15分。JOKER、ワンダフルボディ共に有効打を当てる事無く、だた(いたずら)に時間のみが過ぎ去っていく。どこぞの化け梟のように千里眼じみた先読みをしてこないだけマシではあるが、それとは違った意味でワンダフルボディは面倒な相手だった。

 

 

(一瞬一瞬の対応力が半端じゃねえ。反射神経イカレてんのかコイツ!?)

 

 

王小龍が先読みの達人であるならば、ドン・カーネルはさしずめ『後出し』の名手と言ったところであろうか。数十秒前も【04-MARVE】による刺突をフェイントに据えたハイキックを繰り出して首ごと刈り取ろうとしたのだが、ドン・カーネルは機体をほんの少し屈ませる事でハイキックを首ではなく頭部装甲で受け流し、その衝撃を空へ逃がしたのだ。

 

巷(と言っても週間ACマニアだけである)でエンターテイナーと揶揄されるイッシンでも、流石にこんな芸当は危険過ぎて出来たものではない。この前のハリとは別の意味で苦手な人間であることはイッシンの中で確定しつつあった。

 

加えて、あの重装甲である。放った弾丸の殆どが本来の役目を果たす事無く弾かれる様子は気を削がれることこの上ない。接戦と言えば聞こえはいいが彼我の戦力差は確実に広がりつつあり、世間一般で言うところのジリ貧状態である。兎にも角にも打開策が必要だ。この盤面を根底からひっくり返せる、強烈な打開策が。しかし……

 

 

「完全に手詰まりだな、これ」

 

《お前が言うか》

 

「セレンだって気付いてんだろ。どう足搔いてもティターンの脱出なんて無理ゲーだぜ?いっそ引き渡して捕虜になって貰った方がティターンの連中が生き残る確立は高いと思うぞ」

 

《確かにそうだが、インテリオルにどう説明すればいいと思って――》

 

《リンクス、もう結構です》

 

 

二人の悲観的な展望論に嫌気がさしたように会話を中断させたのはティターン艦長のカーティス・V(フォン)・ミュラー大佐だった。ワンダフルボディとの交戦時から、当初身を潜めていた格納庫に避難していたカーティス大佐は一言一句逃すことなくイッシンとセレンの会話を聴いていた。敵ネクストが相当の手練れであること、ティターンが未だ存在出来ているのは敵ネクストの気まぐれであること、そして現状況の打開は極めて困難であること。

 

 

《あなた方には最善を尽くして頂きました。感謝しています。ですが脱出の手立てがない以上、選択の余地はありません……リンクス、我々ごとティターンを撃破して下さい》

 

「はぁ?」

 

《ティターンに搭載された軍事機密がGAの手に渡る事は絶対に阻止しなければならないんです。仮に捕虜になっても尋問で機密を漏らしてしまう可能性が考えられます。……不幸にも本艦には自爆装置がついていません。なので――》

 

 

隠しきれない悲壮感を漂わせるカーティス大佐の顔はスピーカー越しでも想像できる。自身の職務と責任なんて大層な御託を並べて自分の生存欲求を押し殺し、それでも足りないと鉄仮面を顔に貼り付けた見るに堪えない表情だろう。

この仕事で偶々知り合っただけのビジネスライクな関係だし、今後一生会うことも無いだろうが、それでも一人の女性が自ら死のうとしているのを黙って見ているのは男ではない。

 

 

「下らねぇ」

 

《え?》

 

「下らねぇって言ってるんだよ。そもそもそんなに大事な軍事機密なら、どうして俺じゃなくランク5のレイテルパラッシュに依頼しないんだ?俺よか強い筈だし、何より専属だろ?」

 

《それは……》

 

「どの道、俺を寄こした時点で大した機密じゃねえって事だ。そんなもんの為に死ぬなんてバカらしいにも程があるぜ」

 

《しかし――》

 

「しかしもクソもねぇ。大体、そこまでして守りたい軍事機密ってなんだよ?まさかグループ宗主の痴態なんて事はねえだろ」

 

《……カーティス大佐、コイツの口の悪さは心から謝罪するが、コイツの言っていることにも一理ある。申し訳ないが軍事機密の概要だけでも教えて欲しい。無論、契約に則って守秘義務を遵守する。――機密の重要性によって貴官らの命運が別れるんだ、頼む》

 

 

少しの沈黙。ほんの、ほんの一瞬だけカーティス大佐が鼻をすすったような音が漏れ出たように聞こえたが、彼女はそれをおくびにも出さず気丈に応答した。

 

 

《了解しました。軍事機密の内容は――》

 

 

カーティス大佐は淀みなく説明する。この事がインテリオル上層部に知れれば軍法会議は待ったなし、どんなに良く見積もっても懲戒解雇は免れないだろう。だとしても、僅かでも生き残れる可能性があるのなら彼等に賭けよう。

 

 

私はまだ死にたくない。

 

 

「――以上が概要です。リンクス、この機密は有用な情報でしたか?」

 

《いや、その、何つーか……》

 

 

スピーカー越しのリンクスが言い淀む。

 

嗚呼、ダメだったのか。だが仕方ない、足搔くだけ足搔いたんだ。ならば最後くらい軍人らしい花道で生涯の幕を下ろすのも悪くはない。リンクス、貴方のお陰で生の執着を取り戻す事が出来た気がする。

 

カーティス大佐は口を開き、せめて感謝の言葉を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《……大逆転カードすぎて笑っちまうよ》

 

 

 




2021年は占星術で言うところの「風の時代」に変わるそうでして。正直だからどうした感が強いんですが、仮にアーマードコアの新作が出たら、ちょっとだけ信じてみようとは思っています。
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