A:負けイベントです。勝つとフリーズするので大人しく負けましょう。
《
ワンダフルボディのコックピットにノーマンの声が抑揚なく響き鳴るがドン・カーネルは応じず、無言のまま正面を見据えていた。確かにノーマンの言う通り、相手は間違いなく手詰まりである。天然の要害であるミミル軍港も攻め込んだ今となっては脱出経路が2ヵ所しか存在しない堅牢な監獄に様変わりしていた。内1ヵ所はドン・カーネルが地獄の門番の如く陣取り、反対側のもう1ヵ所には特務遊撃大隊の最精鋭〝デルタ〟を秘密裏に潜ませている。
ハイエンドノーマルのみで編成されたデルタは通称〝
逃げ場など存在しない絶対的な詰み。
答えはシンプル。キドウ・イッシンとBFF第8艦隊の交戦記録を見ていたからである。BFFが誇る二枚看板『陰謀家』王小龍と『新女王』リリウム・ウォルコットの猛攻を柳のように躱しきり、仕舞いには魚雷ミサイルというトンデモ兵器でAFギガベースを撃沈した一部始終はカラード内でも語り草となっていた。
そんな奇手珍手を自由自在につかいこなす相手が、この程度で諦める筈がない。カーネル、いやイワンは前世の記憶を辿って考えられる手段を思案する。この状況をひっくり返せるような
「ノーマン、警戒を怠るな」
《……了解。各機オペレーション・レッドを維持し――》
ドオォン!!!
「《!?》」
ノーマンの応答を食い千切った半端でない轟音は辺り一帯を支配し、誰しもが行動の中断を余儀なくされる。見ればミミル軍港の内部から入道雲のような黒煙がもうもうと立ち上っていた。丁度その場所は敵旗艦であるティターンが潜伏している場所とほぼ同位置であり、同時にティターンの反応も消滅したことをレーダーは示している。疑念の残る爆弾音が収まった十数秒後、ワンダフルボディのコックピットに凜とした女性の声が響く。
《――こちらJOKERオペレーター、セレン・ヘイズだ。護衛対象の自爆を確認したため、停戦を申し入れたい》
《自爆だと?このタイミングでか?》
あまりに突飛過ぎるためにオープン回線で問いかけたノーマンの至極もっともな問いに、スピーカーの向こう側で耳元のインカムを触りながらセレンは呆れ声で答える。
《これ以上の戦闘は金にならん。イッシン、戦闘態勢を解いてやれ》
セレンの一声にピクリと反応したJOKERは、ワンダフルボディに向けて構えていた【AR-O700】および【04-MARVE】をダランと降ろし、展開中のプライマルアーマーの翡翠色も徐々に薄くなっていく。ネクストの生命線とも言える
レーダー上でティターンの反応が消滅しているためGA側としても戦闘継続は無駄と判断する他なく、まして武装解除したJOKERをここぞとばかりに袋叩きにしたとなればイッシンの支援企業であるローゼンタール擁するオーメルグループと各種大衆マスメディアの格好の的とされる事は分かりきっている。
生殺与奪の支配権は
「……証拠はどこだ」
《あぁ、こちらとしても急だったのでな。音声データしか残っていないが十分だろう》
セレンのあっけらかんとした返答から数秒後、未だ警戒態勢を崩さないワンダフルボディに一つのデータが転送された。多少のノイズが混じっているが、話の大筋になんら影響を及ぼさない
《あなた方には最善を尽くして頂きました。感謝しています。ですが脱出の手立てがない以上、選択の余地はありません――ザザッ……リンクス、我々はティターンと共に沈みます》
《ティターンに搭載された軍事機密がGAの手に渡る事は絶対に阻止しなければならないんです。仮に捕虜になっても尋問で機密を漏らしてしまう可能性が考えられます。――ザザッ……本艦には自爆装置が、ついています。尽力して頂きありがとうございました、リンクス。――ドオォ》
そこで音声はブツリと途切れた。状況証拠としてはほぼ完璧に近いデータである以上、流石のドン・カーネルも渋々とはいえ退かざるを得ない。ワンダフルボディは両手に構えていた【GAN02-NSS-WR】および【GAN02-NSS-WBS】を下げつつ、全武装の有効射程距離外まで機体を後退させた。
《停戦感謝する。……さて、お互いティターンが完全に海の藻屑になった確証は無いんだ。ここは仲良く現場検証でもどうだ?》
不意に言いだしたセレンの提案にノーマンとドン・カーネルは再び面食らうものの、確実にティターンが沈んだという事実はGA側でも未だ確認出来ていない事を加味し、共同での現場検証を容認。数分前まで殺し合っていた者同士が肩を並べて爆心地に向かうという不思議な光景が出来上がった。
《さっきの敵は今の友ってやつだな。仲良くしようぜ、ドンちゃんよ》
「黙れ」
程なくして爆心地付近に到着すると、ティターンが潜伏していたであろう格納庫は見る影もないほど跡形無く消し飛んでおり、付近には艦船の残骸であろう鉄塊がゆらゆらと漂っている。よく見ればインテリオル将校が着用する制帽も浮かんでおり、そのツバは大きく焦げ付いていた。
《完全に消し飛んだな、こりゃ》
《――司令、残骸からティターンの照会が完了しました。どうやら本当に自爆したようです》
「……ふん」
《おんやぁ?俺を殺すんじゃなかったっけ、ドンちゃん》
ノーマンからの報告にドン・カーネルは心底不愉快そうに鼻を鳴らすとワンダフルボディに踵を返させて爆心地を後にしようとするが、イッシン駆るJOKERはメインカメラの発光と手指を巧みに操り、その背中にあからさまな挑発を向ける。ワンダフルボディはその言葉に一瞬ピタリと動きを止めるが、すぐに歩を進めることを再開した。安く下らない挑発に乗るほどドン・カーネルは甘くなく、また優しいわけではない。なにより――
「興が覚めた、失せろ」
《おぉ怖い。言われなくても消えるぜ》
なにをどう操縦すればそこまで表情豊かなジェスチャーが出来るのかと不思議になるくらいの身振り手振りで応対するJOKERはドン・カーネルの言葉で弾かれたようにメインブースターを噴かすと、そのまま奥に続く反対側の通路へ瞬く間に消えていく。両ネクストがいなくなった爆心地には数機のノーマルが詳細な検証のために残っているだけであり、なんとも物寂しい風景となっていた。
ミミル軍港を離脱して帰投する道中のドン・カーネルは待機している〝
その考えに及んだ瞬間、ドン・カーネルは停止する。
爆発の衝撃音で掻き消されていた思考は積み木のように脳内で組み上がっていき、それと連動するようにドン・カーネルの顔が険しくなっていく。
――何故気付けなかった……!あるではないか、一発逆転の
ドン・カーネルはフットペダルを蹴り抜いてQBを発動。ワンダフルボディに180度の高速ターンを決めさせると同時にOBを展開して、再びミミル軍港へ舞い戻っていった。
いかがでしたでしょうか。
いつも使っていたマウスが壊れてしまったので人間工学に基づいたマウスとやらに新調したのですが、あまりにフィットし過ぎて小一時間ニギニギしてました。
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