凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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久しぶりに体重計に乗ったら5kg太ってました。

なので今回は通常より1.5倍増量してお送りいたします。


49.死神は波に乗った

《そっちはどうだ》

 

《どれも損傷が激しいな。基板が半分残ってればいいほうだぞ》

 

《この調子じゃブラックボックスに期待は出来ねえな》

 

《そもそも探す意味あんのかよ》

 

「無駄口はそこまでだ。回収を命じられている以上探さんわけにもいかんだろう」

 

《隊長だって無駄だと思ってんでしょ?》

 

「命令は命令だ。ほら、ちゃっちゃと動け」

 

 

ティターンが自爆した格納庫付近。詳細な現場検証を行っている特務遊撃大隊所属チーム〝ヤンキー〟は、おおよそ無駄と思える地道な回収作業に従事していた。目的はティターンが保有していたとされる軍事機密の確認および確保だが、対象が跡形もなく自爆しているため回収チーム内でも早々に消化事務的な諦めムードが支配しており、現場責任者である隊長が隊員の尻を叩いて何とか士気を維持している有様だった。

 

 

《それにしても、あのリンクス()()()()あそこにいるんですかね?》

 

《待機していた回収機がエンジントラブルで帰っちまったから代替機待ちだとよ。》

 

《どこまで本当か分からないけどな。まぁ護衛対象は自爆してるし、ちょっかい出さなきゃ大丈夫だろ》

 

 

そう言って隊員の一人はコンソールパネルに表示されている、反対側の入り江付近で静止している赤い光点を人差し指でチョンッと叩いた。刹那、隊長機を含むヤンキー全機のコックピットに標準装備されている赤い非常灯が眩しいほどに灯り、それまでの緩んだ空気が一気に張り詰める。赤い非常灯の意味は2通り。すなわち搭乗するノーマルが活動限界を迎えて自爆する意味と、司令部から緊急警戒が発出され直ちにその場で戦闘態勢をとれという意味である。回収作業に徹しているヤンキーにおいては前者の選択肢は自動的に消滅するため、その場の全員が非常灯の意味が後者であることを瞬時に理解し、過酷な訓練の賜物である早業で円形陣を展開。各機チームとの連携を念頭に置いた兵装を携えて抜け目ない警戒態勢を構築した。

 

 

《クソッ! いったい何なんだよ!》

 

《当該ネクストに動きなし! 半径3km圏内、敵影、不明機影反応なし!》

 

「レーダーに頼りすぎるなよ! 追従型ECMもあり得る。目視での確認も怠るな!」

 

《 《 《イエッサー!!》 》 》

 

 

およそ先程までと同じチームとは思えない緊張感に満ち満ちた気迫は、GAグループでも最強と名高い特務遊撃大隊所属であることの証左とも言える。静まり返る爆心地周辺にはヤンキー各機が発するブースター音しか響いておらず、それが逆にチームの緊張感を底上げしていた。時間にして約10秒、隊長機に司令部からの直通通信が飛び込んできた。

 

 

《ヤンキー全機、こちらノーマン准将である。貴官らが従事する回収作業は現時刻をもって中止、緊急任務として入り江に待機中のネクスト〝JOKER〟に対し遅滞攻撃を仕掛けてもらう》

 

「ノーマン准将、こちらヤンキー1。現戦力ではネクスト〝JOKER〟の遅滞攻撃は困難です。作戦変更を願います」

 

《ヤンキー1、こちらノーマン准将。残り120秒でワンダフルボディがそちらに合流する。それまで時間を稼いでくれ》

 

「ノーマン准将、こちらヤンキー1。……了解しました。骨は拾ってくださいよ、アウト」

 

 

隊長は乱暴に終話ボタンを叩き押して通信を終了させた。作戦内容の意識共有化のために敢えて通常回線での応答を行ったのだが、今のやり取りを聞いていた隊員達は皆一様に沈黙していた。ある者は溜息を漏らし、またある者は盛大な舌打ちをかましている。隊長とてそれは同じだった。

 

戦闘終了後の残務に偶然あてがわれただけで絶対的強者(ネクスト)と一戦交えるという不運は唐突な死刑宣告にも似ている。望みがあるとすれば、砂粒程度の確率で生還できるという点だけであるが。

 

 

「お前達、今の通信は聞いていたな。……これより我が隊はネクスト〝JOKER〟と交戦する!全機第甲種戦闘態勢!」

 

《了解! 第甲種戦闘態勢!》

 

《畜生! やればいいんだろ、やれば!》

 

 

隊長の一声で振り返る退路は既に断たれている事を再確認したヤンキー各機は、各々が装備する最大火力兵装を構えるとメインブースターを最大推力で噴かすと反対側の入り江に向かって水上を猛スピードで滑走する。接敵まで約20秒、狙うなら教科書通りに出会い頭で全火力を叩きこむしかない。隊長は操縦桿を強く握り直して深く息を整えた。

 

――大丈夫、俺たちは生き残れる。

 

そう自分に言い聞かせているうちにヤンキーは反対側の入り江付近に到着した。息を潜めながら光信号による合図でタイミングを合わせたヤンキー全機は、飢えた猛獣のように一斉に飛び出して照準を合わせる。狙うはもちろんJOKER……のはずだった。

 

 

「な、んだこれは」

 

《隊長、これは一体……》

 

 

JOKERは佇んでいた。ただ佇んでいた。

 

敵意の一片すら感じない棒立ちだった。

 

しかし格好の獲物を前にしたヤンキーもまた、棒立ちとなってしまった。

 

何故ならJOKERの背後には見たことのない()()()()()が鎮座していたからである。高さ100mを優に超える巨大兵器はホバークラフトの要領で水面に浮かび、何とも形容しがたい生物的な異形のフォルムをしていた。敢えてカテゴライズするなら半没翼型水中翼船といったところか。艦橋にあたる箇所は流線形に前へ突き出し、上下一対で横長に設置されているメインカメラは複眼式を採用しているために生物的な生々しさをより強調している。

 

 

「おっ意外と早かったな。さすが精鋭部隊」

 

《リンクス、こちらは準備完了しました。いつでも行けます》

 

「それじゃぼちぼち逃げますか」

 

 

JOKERのリンクスであるキドウ・イッシンはコックピット内に響いた女性の声に答え、JOKERにQBを噴かさせながら軽業師のように巨大兵器の背中へ飛び乗らせた。同時に巨大兵器の内部からモーターの轟音が聞こえ始め、複眼式メインカメラからは赤い光が迸り始める。その状況を前にしてやっと我に返ったヤンキー1は全機に攻撃を指示、可能な限りの弾幕を垂れ流して巨大兵器の進行を止めようとするが効果という効果は全く見られない。その様子を巨大兵器の艦橋から見下ろしている制服姿の実直そうな女性は満足そうに頷くと、微かに笑みを浮かべて思わず独りごちる。

 

 

「――ふっ、数時間前の私では考えられない手段ですね」

 

「カーティス大佐、ご指示を」

 

「よし……AF〝スティグロ〟発進せよ!」

 

「了解。スティグロ、発進します!!」

 

 

操舵班の掛け声と共に後部ジェットブースターに青白い炎を宿したAF〝スティグロ〟は最初こそゆったりした動きだったが、メイン推力である水中核パルスブースターが始動した瞬間、時速1200km/hの超高速域に到達。いまだ進行を妨害しようと攻撃を続けるヤンキー全機に特大の引き波をお見舞いすると、そのまま勢い良く入り江を脱出した。

 

その様子は丁度ミミル軍港へ舞い戻ってきたワンダフルボディのメインカメラにはっきりと捉えられており、リンクスであるドン・カーネルは忌々しそうに歯噛みする。相手は既にワンダフルボディで追いつけない速度に達しており、みすみす逃がすしか選択肢がなかったからだ。

 

 

「この……下衆が!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミミル軍港より南西に約1000km。AF〝スティグロ〟は穏やかに凪いだ海上に停泊しており、その背中では両手を頭に回したJOKERが寝転んでいる。逃走劇を演じたばかりとは思えない気の抜けようであった。JOKERと同じ体勢でパイロットシートに身体を預けているイッシンは、ふと思い立ちスティグロに通信を入れる。

 

 

「カーティス大佐、いるかい?」

 

《えぇ。聞こえています》

 

「どうだ。九死に一生を得た感想は」

 

《まだ完全に信じ切れていない自分がいますね》

 

「だろうな。俺もこんなに上手くいくとは思わなかった」

 

《全くだ。賭けにもほどがある》

 

「いやいや、音声データを即興であそこまで改変してくれたセレンさんのお陰ですよ?」

 

《アイツ等があの程度で信じ込んだから良かったものを。失敗したらどうするつもりだ》

 

「まぁ結果オーライってことで」

 

 

会話に割り込んで嫌味を言ってきたセレンを受け流し、イッシンは瞳を閉じて口元を緩める。

 

まさかカーティス大佐が大事そうに抱えていた軍事機密がAF〝スティグロ〟本体と、その設計図および性能表、応用を含めた操縦マニュアルだったとは彼自身思いもしなかった。聞けば元々ティターンと護衛艦2隻に積まれていた自爆装置を証拠隠滅のためにわざわざスティグロに積み込んだらしく、ティターンの反応が消えるか、一定以上の距離に達したときに爆破する設定にしていたようだ。そこまで頭が回って、なぜスティグロを使って脱出する手が見えなかったのかと問えば『私の権限ではスティグロの運用が出来ない』と返ってきた。

 

職業軍人というのも考え物である。

 

しかし手立てが見えた以上、そこからはトントン拍子で進んでいった。まずスティグロに積み込んだ自爆装置を再度ティターン艦隊に積み直し、遠隔操作で起爆できるように再設定。そのあいだ、セレンにはイッシンとカーティス大佐の通信記録から会話を抜粋、抽出して可能な限りの音声データ改変を行って貰った。そのあと護衛艦を含めた全船員をスティグロに移動させ、ワンダフルボディが撤退するまで待機。タイミングを見計らって颯爽と脱出するという単純かつ大胆な作戦は、恐ろしいほど見事な成功を収めるに至ったのだ。

 

 

《……リンクス、改めて言わせてください。本当にありがとうございました》

 

「なんだよ急に」

 

《私たちは帰投後、恐らく軍法会議にかけられます。理由はスティグロの無断運用およびティターンの損失と言ったところでしょう。ですので、今一度感謝の言葉を――》

 

「あ~~それなんだけどさ。たぶん大丈夫だせ?」

 

《えっ?》

 

 

自身の行く末を予見しているカーティスに対し、イッシンはバツが悪そうに言葉を漏らすと憮然とした声のセレンが再び割り込んでくる。

 

 

《今回の任務は私も腹が立っていてな。こちらに()()()()()()が知らされず、スティグロの存在についても伏せられていた。知ってさえいれば必要な策は講じることが出来たにも関わらずな。だから追加マージンで報酬の30%上乗せと、大佐に対する軍法会議での罷免撤回を要求するつもりだ》

 

「初めてとはいえ同じ戦場を戦った仲だからな。アンタ等だけ罰を受けるってのは俺も目覚めが悪いんだ」

 

《…………》

 

《ほぉ、妙に格好つけるじゃないか。惚れたか?》

 

「なっ! そんなつもりじゃねぇって! だいたい――」

 

 

イッシンとセレンがスピーカー越しで繰り広げる賑やかな押し問答はカーティス大佐が装着するヘッドセットに筒抜けで入って来ていたが、当の本人は言葉を飲み込み、涙をこらえて感情の波を抑えるのに必死だった。しかし、その顔を隠す最良の道具であった制帽は彼女の頭にも、手元にも無い。

 

 

何故ティターンに置いてきたのかと問われれば、回答に耐えうるだけの明確な理由はない。

 

ただ、置けば自由になれる気がした。そんな気がしただけ。

 

 

(…………ありがとう、リンクス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カラード記録ファイル(整理番号:IU-201)

 

 

 

依頼主:インテリオル・ユニオン社

 

依頼内容:ミミル軍港脱出支援

 

結果:成功

 

報酬:400000c

 

備考:ネクスト〝ワンダフルボディ〟ならびにGA正規軍特務遊撃大隊との交戦有り。なお、本依頼の受注リンクス〝キドウ・イッシン〟に交戦による身体的外傷および精神的外傷は確認出来ず。

 

また、インテリオル仲介人であるマリー=セシール・キャンデロロに対し、仲介業務の資質の重大な欠如があるとしてオペレーター〝セレン・ヘイズ〟等より異議申し立てが提出されている。

 




いかがでしたでしょうか。

実験的にモブキャラメインの回にしてみたので、好みが分かれる展開だとは思います。

そういえば友人に勧められて呪術廻戦をアニメで見始めたのですが中々面白いですね。
個人的には花御の見た目にグッときます。
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