《20km先に目標の反応を確認。ミーティング通り、重量の二脚タイプだ》
「オーライ。それじゃCUBE、先陣は任せるぜ」
《問題ありません。フラジール、状況を開始します》
CUBEが言い切った瞬間、ネクスト用懸架ワイヤーアタッチメントがバツンと大きな音を立てながら解放され、フラジールは直立体勢のまま産み落とされた。
その特徴的な機体形状に起因する空力特性により、パラシュートの如くゆっくりと降下しているフラジールはメインブースター付近に密集した無数の動翼を小刻みに稼働させる。
「外気温摂氏25、湿度52、南西からの風2.1、汚染濃度0.02。プランAによる作戦行動を採用します」
《プランAによる作戦行動を許可する。……現状況は君とフラジールの適応性を検証するためのものだ。必要数のボトルネックが集まり次第、戦線から離脱せよ》
「了解、ボトルネック集積のプライオリティをティア1に配置します」
輸送機内で待機する研究員からの通信に機械的な応答を返したCUBEは手元に配置されたコンソールを無駄なく打ち込んで瞬時に情報整理を完了させるが、仮にこの様子が
フラジールのコックピットは空力特性を最優先に置いた結果、リンクスの可動範囲を一切考慮されておらず、成人男性が体育座りをしてやっと収まることの出来る極狭の空間と化していた。並の人間であればあまりの狭さに気が触れてしまいそうになる閉鎖空間の中、CUBEは平然とした面持ちで足元のフットペダルを踏み込んでメインブースターに完全燃焼を示す青白い炎を吐かせる。刹那、CUBEの全体液が背中に集約されてしまうと邪推するほどの超加速でフラジールは飛行を開始した。
通常ネクストの移動速度を遙かに上回る平均時速1500km/hを叩き出しながらCUBEは平然とした表情を崩さない。ただ粛々と、敵ネクストとの彼我の距離を縮めていった。そうして相対距離が5000を切った辺りでオペレーター役の研究員から通信が入る。
《敵ネクストの兵装構成を確認した。両腕部【GRA-TRAVERS】および両背部【GRB-TRAVERS】肩部は整波装置の【EUPHORIA】が搭載されている。典型的な高火力機体だ、注意しろ》
「問題ありません。その程度のネクストにフラジールは捉えられませんよ」
《なら試してみるか、首輪付き》
突如として通信に割り込んできた男の声が呟く。このタイミングでの挑発は間違いなく敵ネクストのリンクスからであるとCUBEは確信した。そして壮年に差し掛かろうとしている重い声質から察するに、おそらく歴然の兵士であることも。
「盗み聞きとは品が無いですね。ですが事実です。貴方ではフラジールを捉えきれません」
《元より捉えるつもりは無い。一発当てればこちらの勝ちだからな》
「でしたら一発も
《ほう……!》
敵リンクスとの通信がブツリと途切れたかと思えば前方においてブースターの煌めきが二度三度と瞬き、およそ農場には似つかわしくない灰色の巨人が猛然とフラジールめがけて突き進んできた。
モノアイがギラギラと輝く無骨な箱形の頭部は旧式然とした印象を与える上に、その頭部が据えられているコア部はゴリラの逞しい胸筋を彷彿とさせるマッシブな造りをしている。腕部は角張ったショルダーアーマーを背負っており重量級の兵装を手にしてもビクともしない力強さを醸し出していた。脚部は旧時代的なリベットが剥き出しのまま打たれた、いかにも頑強そうである。
そしてその灰色の巨人が両手両背に携えるのは、グレネードとしては控えめな大きさの【GRA・GRB-TRAVERS】だ。アルブレヒト・ドライス社が今年発表したばかりの
――だが、いかに弾速が速いとはいえ所詮はグレネード。フラジールを捉えられる道理は無い。
CUBEは能面のように冷静沈着な表情を崩す事なくコンソールパネルを操作し、フラジールの両背部兵装【XCG-B050】を起動させる。バリカンヘッドを彷彿とさせる特徴的な形状の【XCG-B050】はアスピナ機関が開発した四連装チェインガンだ。スペックシートだけ見れば一発一発の威力が豆鉄砲程度しかなく、おおよそ兵器としては落第点な兵装であるが【XCG-B050】最大の真価は発射レートと
わずか2秒間でも直撃を受けようものならネクストの命綱である
そんな狂気の兵装を構えたフラジールと、両手両背にグレネードを構えた大艦巨砲主義の権化である不明ネクスト。
相対距離400となろうとした瞬間、先に口火を切ったのはフラジールだった。【XCG-B050】のダブルトリガーによる乱射は一瞬で弾幕の壁を生成して不明ネクストに押し迫らせようとするが、不明ネクストは重量級とは思えぬ身のこなしでQBを噴かして回避。お返しとばかりに構えていた【GRB-TRAVERS】にグレネードを吐かせた。従来製品の約1.2倍の速度で放たれるグレネードは真っ直ぐフラジールへ向かって行くが、遅すぎると言わんばかりに最小限の動きでこれを回避する。
「投降をおすすめします。貴方では私に勝てません」
《安い挑発だな、リンクスとしての日が浅いと見える》
「ネクストの総搭乗時間は1200時間です。日が浅いという指摘は見当違いだと考えます」
《……いちいち癪に障る。戦場とは己の存亡を賭けた魂のぶつかり合いだ。貴様のような奴が出てきて良い場所ではない!》
「戦場は戦争の一場面に過ぎず、戦争は政争の一場面に過ぎません。それに憧憬を覚える心理状態は理解に苦しみます」
静と動。
水と油。
本能と理性。
全く噛み合わない会話に痺れを切らした不明ネクストのリンクスはメインブースターを噴かし、フラジールめがけて突進を仕掛けた。両手の【GRA-TRAVERS】を構えながら向かってくる様子に飽き飽きした感情を抱いたCUBEは再び【XCG-B050】を起動させ、弾幕の嵐を以て迎え撃つ。案の定、不明ネクストは回避する素振りを見せること無く【XCG-B050】の直撃を受け止め、
《その程度で勝ったつもりか!》
「直線的な動き、感情的な行動理由、短絡的な状況判断……私が負ける要素が見つかりません」
《舐めるなぁ!》
不明ネクストはQBを発動させながら両手の【GRA-TRAVERS】でグレネードを乱射し、フラジールめがけて一直線に向かってくる。その様子は子供が駄々をこねて親に向かっていくようにも見えた。
もはや戦術と呼ぶ事すらおこがましい愚行。
更に不明ネクストは何を血迷ったか相対距離50を切った瞬間【GRA-TRAVERS】を振り上げ、ハンマーの要領でフラジールに殴りかかろうとしていたのだ。この行動を間近で見たCUBEは最早この戦場に価値は無いと判断し、早々に幕引きを図ろうとする。
フラジールは振り下ろされた【GRA-TRAVERS】を軽々と躱し、その勢いを利用して不明ネクストの背後に移動。コンソールパネルを操作して
CUBEは発動を強制解除し、フラジールに防御姿勢を取らせた。
なぜなら、不明ネクストの両背部に背負われた【GRB-TRAVERS】が
「っ!」
CUBEはQBを噴かして離脱を試みるが【GRB-TRAVERS】発射の方が数瞬速く、二発放たれたグレネードの一発がフラジールの右胴部に直撃した。幸い
《ふふふ……いいぞ、お前の感情が見えるぞ! やはりデカイだけの鉄屑とは違う!》
不明ネクストはゆっくりと振り返りフラジールを見つめた。その背後では両背の【GRB-TRAVERS】がまるで蜘蛛の足の如くワキワキと蠢いている。さながら神話に登場する四本腕の巨人のようだ。
《私の名前はラスター18! そして貴様を屠るネクストの名はフェラムソリドスだ!》
という訳でラスター君登場です。
また『うっすん』さんから頂いたリクエスト【重二グレのマッシブネクスト】は魔改造を経たフェラムソリドスに頑張って貰います。え?グリーヴァス将軍?知らない子ですね。
というかリクエストを頂いてから登場させるまでに3ヶ月……ホント遅筆ですみません。
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