凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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生まれて始めてドンペリロゼとアルマンドゴールドを飲みました。高いお酒ってしゅごい。


54.割れ物VS古豪・Ⅱ

「うわっ何だあれキモチワル」

 

《背部兵装をネクストの腕部に見立てて改造したようだな。奇っ怪だが理にかなっている》

 

「四本腕って事か。だけどAMSの負荷がとんでもねぇんじゃねえか?」

 

《オートメーション化してしまえばある程度のAMS負荷は軽くなる。お前のネクストも出来なくは無いぞ?》

 

「丁重にお断りするわ」

 

 

フラジールとフェラムソリドスが会敵した戦場から約2km離れた農業地区。黄金色の小麦畑が光り輝くその場所ではJOKERのコックピットで胡座をかきながら戦況を傍観するイッシンとオペレーターのセレンは真の姿を現したフェラムソリドスに対して率直な感想を言い合っていた。

 

フラジールのリンクスであるCUBEから手出し不要を告げられた以上、下手に加勢する必要も無いと判断したイッシンは言いつけ通り傍観しているのだが、いかんせん当初予想していた雲行きとはだいぶ違ってきており内心穏やかでは無い。

 

 

(しれっと退場するランキングNo.1のラスター18が魔改造受けてるとは思わなかったな。こりゃORCA(オルカ)の連中も一筋縄じゃいかないかもな)

 

《どうする、加勢するか?》

 

 

イッシンの思案へ楔を打つように滑り込んだセレンの言葉は彼の耳朶を的確に捉えた。先々の心配より目の前の戦場に目を向けた方が優先順位は高い事に改めて気付いたイッシンはセレンに感謝しつつも、自前の暗算で状況を読み解く。

 

 

「いんや。次の隠し玉が無いとは限らないし、フラジールもまだ動ける。しばらく様子見だ」

 

《ずいぶん手厳しいな、一応僚機だぞ?》

 

「今後敵にならないとも限らないだろ。後学のためだ」

 

《オーメル寄りのアスピナがか?》

 

「警戒に越したことはないからな」

 

《……いや、お前が構わんならそれでいい》

 

 

セレンはそれ以上言葉を重ねず押し黙った。イッシンは多少の居心地の悪さを感じながらフラジールとフェラムソリドスの戦況を再び傍観する。両ネクストの実力は拮抗しているようでフェラムソリドスの初撃以降、双方とも有効打を当てるに至っていない。相性で言えば速さで勝るフラジールが優勢にも見えるが縦横無尽に動き回る背部兵装が搭載されたフェラムソリドス相手だと話が違ってくる。

 

死角となる背後を取ろうにも背部兵装が180度反転して狙ってくるし、だからといって正面から立ち向かうのは愚の骨頂である。それに加えて敵リンクスはベテラン。相手の判断ミスにつけ込んだ戦法を取ろうにも隙がない以上、実行する事は困難だ。故にフラジールはフェラムソリドスの弾薬が切れることを待つしか出来ないジリ貧の状態であった。

 

 

 

 

 

 

《さっきまでの威勢はどうした! 俺に負ける要素はないんだろう!? なら早く俺を墜としてみせろ!》

 

「戦場において焦りは禁物です。然るべきときに然るべき方法で墜としますのでご安心を」

 

《貴様ごときが俺に戦場を語るな! このカトンボ風情が!》

 

 

CUBEの淡々とした受け答えに業を煮やしたラスター18はフェラムソリドスの両手に握られた【GRA-TRAVERS】を構えさせて砲撃を開始した。対するフラジールは難なく砲撃を躱しつつOB(オーバード・ブースト)を発動。その意図に気付いたラスター18はQBを噴かして後退しつつ迎撃を開始する。しかし通常ネクストよりも遥かに速い超スピードで彼我の距離を縮めるフラジールから逃れられる道理はなく、瞬く間にフェラムソリドスの懐に潜り込まれた。

 

自身をコケにされた気がしたラスター18は、こめかみに青筋を立てながらフェラムソリドスに【GRA-TRAVERS】を振り下ろさせてフラジールを叩き潰さんとするが、フラジールは直前でQBを発動。フェラムソリドスの振り降ろしを回避して背後に回り込んだ。ガラ空きとなった背中にゼロ距離での【XCG-B050】を叩き込もうとCUBEは狙いを定めるが、それまで格納されていたフェラムソリドスの背部兵装【GRB-TRAVERS】が待っていましたと言わんばかりに起動してフラジールに砲撃を仕掛ける。先程の奇襲がマグレで無かったことを確認したCUBEは早々に離脱、再び距離をおいてフェラムソリドスの観察に努め始めた。

 

 

(アルブレヒト・ドライス社の公式データが正しければ【GRA-TRAVERS】の残弾は計4発。背部の【GRB-TRAVERS】残弾も計7発と鑑みれば、弾切れまで回避するのが定石ですね)

 

 

いかに重装甲といえど武器が無いネクストは汚染物質をばらまく鉄塊に過ぎなくなる。そうなってしまえばフェラムソリドスは『まな板の鯉』となり鹵獲も撃破も自由自在だ。CUBEは至極合理的な思考の下、安全に確実な任務遂行を果たさんと操縦桿を握り直すがオペレーター役の研究員からの通信で再考せざるを得なかった。

 

 

《CUBE、聞こえるか》

 

「はい。問題ありません」

 

《この任務は君とフラジールの適応性に関するボトルネックを把握するためのテストだ。従って極限状態でのデータも当然必要になる》

 

「はい。理解しています」

 

《ならば敵ネクストの弾切れを狙わずに撃墜しろ。重要な研究データだ、アスピナもそれを望んでいる》

 

「はい。分かりました」

 

 

CUBEの機械的な回答に満足した研究員はスピーカーの背後で聞こえる複数人の雑音と共に存在を消し去る。ブツリと通信が途切れた瞬間、CUBEは即座にコンソールパネルを操作してフラジールの機体状況とフェラムソリドスの推定現況データを照らし合わせて最適な作戦プランを練り上げ始めた。

 

 

「【XCG-B050】の総残弾は残り僅か。死角からの攻撃が無効化されている以上、腕部【XMG-A030】を主軸とした至近距離高速戦闘を仕掛けるのが最ぜ――」

 

 

刹那、CUBEの脳裏にある情景がフラッシュバックする。

 

 

夕暮れの平地。

 

異形の兵器が炎の中で沈黙している。

 

傍らには半壊したネクスト。

 

しかしそのネクストの眼は死んでいない。

 

片腕が無いにも関わらず、頭部の半分が消し飛んでいるにも関わらず、何の問題も無いとでも言うように途轍もない覇気を纏ってCUBEを見据えていた。

 

 

 

 

「哀れだな」

 

 

 

 

その言葉でCUBEは我に返った。粘度の高い脂汗が全身から吹き出し、まるで脳味噌を直接握られたような不快感と吐き気で頭がズキズキと痛む。CUBEは額を右手で押さえ込み、荒げられた息を何とか整えようと努めた。

 

 

(なんだ、今のは……)

 

《戦場で棒立ちとは良い度胸だなぁ!!》

 

「――っ!」

 

 

ラスター18の怒声と共にフェラムソリドスの両手から打ち出された【GRA-TRAVERS】の砲弾は吸い込まれるようにフラジールへ着弾して巨大な爆炎を巻き起こした。その衝撃で紙飛行機のように吹き飛んだフラジールは全身から電子ショートを起こしつつも体勢を立て直すが、今の攻撃でフラジールのAPは70%減少。主兵装である【XCG-B050】と【XMG-A030】も衝撃により使用不可となってしまった。

 

 

「……限界ですか。脆すぎますね、フラジールは。まぁボトルネックは分かりました。パートナー、後はお任せということで」

 

《えっ、ちょっはぁ!?》

 

 

離れた場所で高みの見物を決め込んでいたイッシンは突然の出来事に驚いた様子を見せるが、CUBEは構うこと無くフェラムソリドスに背を向けて撤退を開始する。OB(オーバード・ブースト)を使用したフラジールは神速の如く作戦領域を離脱して、十数秒後には砂粒程度の大きさになってしまっていた。

 

 

「冗談だろ……?」

 

《残念だが冗談ではなさそうだ。たった今フラジールのオペレーターから撤退を伝えるメッセージを受信した》

 

「おいおい勘弁しろよ。久々にラクな依頼だと思ってたのにさぁ」

 

《僚機に戦闘を丸投げするのは褒められた事じゃ無いぞ》

 

「だってよ、だれがあんな戦闘狂とやり合いたいってんだ」

 

《そうは言ってもこちらに向かってきているぞ》

 

「……げっマジかよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次は貴様だぁ!!首輪付きぃ!!》

 

 

 




という訳でCUBE君はエスケープ。

来週はフェラムソリドスのアセンブルを紹介する予定です。――そこ、サボりとか言わない。

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