お待たせし過ぎたかも知れません。
今週より《凡人は気まぐれで山猫になる》の連載を再開致します。
黄金に輝く小麦畑に細く薄い轍が刻まれる。しかし、それは太く厚い轍によって上書きされ跡形も無く消え去った。上書きされた際の摩擦熱によって生じた小麦の香ばしい薫りが辺りに立ち込めるが、次の瞬間には鼻につく焦げ臭さに変貌し、遂には灰の焼けた匂いに変わりきる。
《逃げてばかりでこのラスター18に勝てるつもりか!》
「うっせぇ! 三十六計逃げるに如かずって昔の偉い人も言ってんだろ!」
イッシンはJOKERを巧みに操って身体ごと振り返ると
対するラスター18は先刻までのCUBEとの戦闘時と打って変わって無闇矢鱈に【GRA-TRAVERS】と【GRB-TRAVERS】を乱射することを止め、至近距離での迎撃を主軸としたカウンター戦法もシフトしていた。
CUBE戦での苛立ちにより、不覚にも残弾僅かとなってしまう失態を犯したラスター18は己を呪いながらも、自由に攻撃出来ないフラストレーションで更に苛立ちを募らせてしまう悪循環に陥り、操縦にも少なくない影響が出始める。
《戦士なら正々堂々と立ち向かってこい、戦場とは常にそうあるべきなのだ!》
「殺し合いに正々堂々もクソもあるかよ! 勝った方が生き残るだけだろ!」
《!!……戦場において何たる侮辱! ならば貴様の望み通り殺してやる!》
自身が崇拝する戦場の在り方を真っ向から否定されたラスター18は、修羅の形相で顔を真っ赤にして憤激する。彼はそれまで徹していたカウンター戦法をかなぐり捨て、フェラムソリドスが構える【GRA-TRAVERS】と【GRB-TRAVERS】の砲口をJOKERに突きつけ一斉砲撃を敢行した。
着弾による爆発範囲こそ有澤重工製グレネードに劣るが、威力に関して言えば遜色ないレベルの砲弾を打ち出す【GRA-TRAVERS】と【GRB-TRAVERS】は間違いなく一線級の脅威である。しかし惜しむらしくは、この脅威達が近距離高速戦闘に特化したJOKERを捉えられるだけの弾速を持ち合わせていなかったことであった。
一発一発がノーマルを木端微塵にできる死の種を、JOKER駆るイッシンは
「おいおい、弾数管理もロクに出来ないで良く今まで生き残れたな?」
《これ以上長引かせるのも面倒だ。イッシン、ケリをつけるぞ》
「イエス、マム!!」
イッシンは勢いよくフットペダルを踏み抜いてQBを発動。ソニックブームが発生するほどの超加速を以て一気に彼我の距離を縮めると、背部兵装である【MP-O901】および【TRESOR】を起動させフェラムソリドスに照準を合わせる。
敵は弾切れ。
動きは鈍重。
防御は鉄壁。
「だったらゼロ距離で仕留めるだけだろ!」
イッシンの掛け声と共に【MP-O901】から射出されたミサイルは空高く打ち上がると、猛禽類のような滑空でフェラムソリドスに襲いかかる。
【MP-O901】はPMミサイルに分類される兵器だ。威力は平均的なミサイル兵器程度しか持ち合わせていないが【MP-O901】の真価はその回避難度にあった。
通常のミサイル兵器は搭載されているネクストが向いている直線方向にしか発射することが出来ない。垂直型のミサイル兵器も同様だ。しかし【MP-O901】は発射口を敢えて斜めにする事で三次元的なカーブを描きながら目標へ飛来する特殊形式を採用している。そのため【MP-O901】の軌道を見慣れていないリンクスであれば間違いなく後手に回らざるを得ない。それはラスター18も例外では無かった。
《小賢しいマネを!》
舌打ちを噛み潰しながらラスター18は背部兵装である【GRB-TRAVERS】を展開し、独特な軌道を描いて迫ってくる三発のミサイル群を迎撃する。残弾数が残り僅かであるためグレネードの無駄撃ちは許されない状況だが、フラストレーションが溜まりに溜まっているラスター18にそれを判断出来る思考容量は残っておらず、本能の赴くままにトリガーを引く。
《私は! 猛る戦場に生き! 大戦争で死ぬ為にここに居る! こんな小競り合いで死ぬ訳にはいかんのだぁ!》
放たれた砲弾は見事にミサイル群に命中し、空中に爆炎の大輪を形成する。鮮やかな紅蓮が目の前を埋め尽くした瞬間のラスター18はどうだと言わんばかりの満足げな表情であったが、その紅蓮が物悲しい黒煤色に変わっていく様を見て、再び己を呪う。
この状況ではJOKERの動きが爆煙に包まれて全く視認できないのだ。
《謀ったか!だがこの程度で私を倒せると――》
「黙って死んどけ!イカレ野郎!」
イッシンの言葉と同時に、QBによって加速したJOKERが爆煙を穿ちつつ
絶体絶命。
だからこそラスター18は昂ぶり、吼える。
《――思うなぁ!!》
フェラムソリドスの両腕部からバシュンと何かが飛び出し、両手に握られた。工業用コンベックスに近い形状のそれらはバチバチと放電現象を起こしており、先端には申し訳程度の発射口が付いている。
アクアビット製格納型プラズマライフル【SOLO】
尋常ではないEN消費を引き換えに凄まじい威力と近接適性を得た【SOLO】を握りしめたフェラムソリドスは真っ直ぐJOKERを見据える。その吶喊する姿に若干の乱れが現れ、リンクスの驚愕している顔をラスター18は幻視した。少ない経験で敵を過小評価し、突発的な事態に対応する事も出来ない愚か者を。
《未熟者が。お前は熟練となる機会を永遠に失ったのだ……》
《それは此方の台詞です》
《!!!???》
フェラムソリドスは背後から突如出現した暗い影に包まれ、腹立たしい程に無機質な声がラスター18の乗るコックピットに木霊する。瞬間的に全身から脂汗が吹き出すのを知覚したラスター18はフェラムソリドスを振り向かせた。
全てがスローモーションに感じる一連の動作の終着点に待っていたのは、紫色の光を灯した異形のネクストがこちらを睨んでいる様子だった。
――馬鹿な。
――何故だ。
――
《カトンボがぁあ!!》
《言ったでしょう。然るべきときに、然るべき方法で墜としますと》
如何に重装甲で固められたネクストでも可動性を重視するジョイント部分は構造上必ず脆くなり、それは有澤重工製ネクスト『雷電』も例外ではない。そんな全ネクストのウィークポイントである箇所に連射性能の高い【XMG-A030】が撃ち込まれるとどうなるかは想像に難くないだろう。
ものの数秒でフェラムソリドスの内部機関はズタズタに蹂躙され、コックピットはラスター18の憤怒を体現したような鮮血の噴水で真っ赤に染まり始める。
瞬時に、しかし確実に己が死に向かう感覚の中、ラスター18は歯を食いしばり嘆く。
無念。
忸怩。
後悔。
全てを込めて。
「雌伏のうちに果てるとは……。これも
そしてラスター18は諦観と猛りが入り混じる感情を胸に、突然重くなった目をゆっくりと閉じた。
裏話的なものとして。
いやぁ~大部分の方々が「あ、こいつ失踪したな」って思ったことでしょう。正直それもアリだなと考えたんですけど、本作品が休載してから一ヶ月間。
だ~れもハーメルンでACfaメインの二次小説書いてないんですよ。既存作品でも書き直した形跡すら無いってどういう事ですか。少し前までちょこちょこ出て来てたじゃないですか、某レイヴンの話とかローゼン三人衆の話とか。結構好きだったんですよ私。
……コホン。そんなこんなで稚拙な文才しか持たない私ですが、流石にこれは失踪する訳には行かない!と気合いを入れ直して何とか書き上げた次第です。表現力や言葉回しが一ヶ月前と比べて随分鈍っているかも知れませんが、その辺りは大目にみて頂けると幸いです。
改めまして、今後とも末永くお付き合い頂ければと思います。