側頭部のショリショリ感がたまりませんね。
「いいよぉ~~!メイちゃんいいよぉ!もっと頂戴もっと頂戴!あっいいねぇ!その角度いいよぉ!」パシャパシャ
「もぉカメラさんったらエッチ~~♡」
「その笑顔もっと頂戴!もっと頂戴!リリウムちゃんの何百倍もカワイイよぉ!」パシャパシャ
「……何やってんだか」
白亜の砂浜にさざめくサファイア色の小波。
非日常的で穏やかな光景の中で戯れるビキニ姿のメイ・グリンフィールドがきゃっぴきゃぴの営業スマイルを輝かせている。その笑顔の向こうにはハンチング帽を被ったいかにもなカメラマンが、仰々しい一眼レフカメラを構えながら彼女の機嫌を上げようと太鼓持ちに徹していた。
ビーチチェアに寝そべるジョージ・オニールはそれを見ながらキューバリブレを一口含むと、手近のテーブルにおいて頭の後ろに両手を回す。……意外と度数高いな、これ。
撮影が落ち着くまでのあいだ一眠りするか、とジョージはサングラスをアイマスク代わりにして目を瞑り、周囲の環境音を子守唄にするために耳を澄ます。ヤシの葉を揺らす風の音、波打ち際のノイズ、うっすらと聞こえる屋台の調理音、雄々しい和太鼓の演奏…………和太鼓の演奏?
思わずサングラスを外して演奏の方向を見ると、ふんどし一丁の筋骨隆々なマッチョメン集団が、己の鍛え上げられた肉体を見せつけるかの如く一心不乱に和太鼓を演奏している。腹の底から沸き立つような衝動を感じつつも、流石に近くまで行くのは気が引けたジョージは首から掛けていた小型双眼鏡で演奏の主がどんな人物か確かめようとして、愕然とした。
「ハワイくんだりまできて何してんだよ、有澤社長……」
フンッ!!フンッ!!と一発一発に魂を込めて和太鼓を打ち鳴らす有澤隆文――雷電――を筆頭に、各々の矜持を誇示するかのようなマッチョメン集団による演奏はギャラリーを釘付けにしており、最前列で父親に抱っこされている幼児は口をあんぐり開けて呆然と見ている。
演奏のクライマックス、
ドコドコドコドコドコドコドコドコ
とボルテージが最大まで高まった瞬間、
ドン!!――ヤァッ!!!
で決まり、暫しの沈黙が訪れるが数秒後には大歓声が巻き起こっていた。ブラボー!ブラボー!!と叫ぶ男性や、あまりの迫力に感涙してしまう女性など様々である。
「……見なかったことにするか」
ジョージはサングラスを掛け直して、再び眠りにつこうとするが、それを狙ったかのように手元の通信端末から大音量の着信が鳴り出す。勘弁してくれよ、とジョージはうんざり顔で画面に目を落とし、相手を確認した上で更にうんざり顔を深くした。
「――もしもし?」
《なんだぁシケた声して。ハワイは楽しくないのか?》
「メイの子守さえ無ければこの世の天国ですよ、ローディーさん」
《ハハハッ! まぁそう言ってやるな。彼女も君がいるお陰でリラックス出来ているんだろ?》
「振り回される身にもなって欲しいですけど。……それで、どうしたんです? わざわざ世間話をするために秘匿回線を使っている訳じゃないですよね」
ジョージの言葉に電話の主であるローディーは一段階低い唸り声を絞り出した。それは、ここから先の話が重要かつ急を要する事案である時に発するローディーの癖である。
《最近ハワイ諸島で所属不明ノーマルの襲撃が起こっているのは知っているな?》
「ええ、かなり練度の高いゲリラ戦を仕掛けているとは聞いています」
《知り合いの情報屋から、そいつらが今日の正午にスコフィールドバラックス駐屯地に対して襲撃を行うとの情報を得てな。……動けるか?》
「正午まで23分……ギリギリですね。既存の駐留部隊で対処出来ないんですか?」
《可能だろうが、敵戦力が不明である以上保険をかけておきたい。一応、特務遊撃大隊にも話は通しておくから、必要なら彼等の支援も使ってくれ》
「分かりました。使えるものは全部使わせて貰いますよ」
《ああ、頼んだ》ツーツー
「ったく、人使いの荒い。――メイッ!」
「ほえ?」
ジョージの呼ぶ声に間の抜けた返答を返したメイは、扇情的な女豹のポーズでカメラマンを周囲のスタッフごと誘惑している最中だったが、ジョージの真剣な表情を見て事態を察した彼女はスクッと立ち上がってジョージの方へ駆けていく。
「ち、ちょっとメイちゃん! 撮影はどうするの!?」
「……ごめんねカメラさん。私、皆のアイドルである前に皆を守るリンクスなの♪」
メイはヒラヒラと手を振りながら悪戯っぽい笑顔をカメラマンに向けると、合流したジョージと共に海岸沿いの道路に駐車していたレトロ調のオープンカーに飛び乗る。運転席に座ったジョージは無言のままエンジンを掛け、始動したと同時にアクセルペダルを限界まで踏み込んだ。オープンカーの後輪は数秒空転して左右に滑るが次の瞬間にはロケットスタートを決めて、風の如く走り去っていく。
「とりあえず要件だけ教えて」
「きっかり正午にスコフィールドバラックス駐屯地を所属不明ノーマルが襲撃するって情報が入った。お前にはパールハーバーに停泊中の移動式ドックからメリーゲートを引っ張り出して貰う」
「ずいぶん急じゃない。ローディーさんのワガママ?」
「そんなとこだ。俺はドックに着き次第オペレーションに回る。スマイリーに違わない活躍を頼むぜ」
「当たり前でしょ。それよりもジョージ」
「どうした?」
「さっきまでキューバリブレ飲んでたわよね?それも結構濃いやつ」
「……………正午まで時間が無い!飛ばすぞ!」
「――時間だ。状況を開始する」
《了解、状況を開始します》
男性の声と同時にスコフィールドバラックス駐屯地の近くを流れる川から黒一色の巨人が四体、音を立てずに浮上した。巨人達の全高はネクストと比べて一回り小さいが、全体的にずんぐりむっくりとした重厚な体型だ。また、頭部パーツは存在せず、全機左腕に特徴的なシールドを装備していることからアルドラ製ノーマル【GOPPERT-G3】をベースにした機体であることが推察出来る。
彼等は岸に上陸すると、すぐさまスコフィールドバラックス駐屯地に向けてブースト移動を開始。岸沿いの幹線道路を走る自動車なぞ眼中に無いとばかりに薙ぎ払い、右手に持つ小型普及式レーザーライフルで駐屯地めがけて攻撃を開始した。
レーザーは次々と基地施設に着弾して爆炎を立ち上らせ、所属不明ノーマル達の奇襲は成功したかのように見えたが、その爆炎の中からGA製ノーマルである【GA03-SOLARWIND】が十三機、颯爽と飛び出して迎撃を開始した。
彼等はローディーから敵の襲撃を知らされていた駐留部隊であり、万が一に備えて事前にノーマルに搭乗していたのだ。そんな彼等の駆る【GA03-SOLARWIND】はGAが誇る汎用ノーマルであり、見た目はGA製ネクスト【SUNSHINE】をノーマル用にリサイズしたような形状をしている。そして【SUNSHINE】同様、防御性能には定評があり通常兵器相手での多少の射撃戦ではビクともしない優秀な機体でもあった。
「へっ!まんまと掛かりやがって!スコフィールドバラックス第56小隊を甘く見るんじゃねえぞ!」
《冷静になれサイモン。……各機、ローディー特別顧問からの
「「「イエッサー!」」」
スコフィールドバラックス第56小隊の面々は隊長の一声に息を合わせて返答し、散開隊形にばらける。あくまでも最優先事項はスコフィールドバラックス駐屯地の防衛であるため、第56小隊は所属不明ノーマルの侵攻を極力食い止めつつカバーの応用が利きやすい散開隊形を採用したが、当の所属不明ノーマル部隊は不測の事態にも関わらず冷静に応戦を開始。数的不利を感じさせない立ち回りは歴戦そのものだった。
「即時迎撃……読まれていたか」
《隊長、監視役より連絡。メイ・グリンフィールドおよびオペレーターがパールハーバーに到着したようです》
「――作戦変更だ。交戦意思のある駐留部隊を殲滅しつつ最短ルートで目標を確保、派手に暴れて構わん」
《了解》
隊長らしき男性の一声に呼応するように【GOPPERT-G3】各機の内部からガコンッと音がしたかと思えば、装甲の隙間から覗いている放熱板が徐々に赤熱していく。
瞬間、【GOPPERT-G3】各機は
全く想定していなかった突然の出来事に反応が遅れた隊員達の隙を所属不明ノーマル達は見逃さず、各々の左腕に装備されたレーザーブレードで確実に仕留め続けた。一人は左肩から袈裟切りに、一人は腰から両断され、また一人は脳天から唐竹割りにされる。
《た、隊長おぉぉ――!》ブツッ
「サイモン……! 貴様ら、許さんぞ!!」
第56小隊の隊長は背部兵装のミサイルを発射しながら構えたライフルを乱射して、隊長格らしい【GOPPERT-G3】へ突撃する。対する突撃された【GOPPERT-G3】は他の機体と同様にハイエンドノーマル並の機動で弾丸とミサイルを回避すると【GA03-SOLARWIND】の懐へ潜り込み、そっとレーザーライフルの銃口をコックピットに添える。
「―――!!」
《恨むなら、自身の弱さを恨め》
刹那【GA03-SOLARWIND】の背中から白い光条が放たれたかと思えば、そのまま【GA03-SOLARWIND】の頭部から光が消えて活動を停止した。隊長格らしい【GOPPERT-G3】はノーマルだった鉄塊を払いのけると周囲を確認して脱落者がいないことを確認する。
「ここからは時間との勝負だ。全機、気を抜くなよ」
《了解》
現在時刻 00:02
GA正規軍
撃破 0機
被撃破 ノーマル13機
所属不明部隊
撃破 ノーマル13機
被撃破 0機
いかがでしたでしょうか?
幕間なのにシリアス展開で申し訳ないです……。
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