凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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今期アニメのゴジラSPがめちゃめちゃ面白いです。
SF好きの元理系としては「光が過去に屈折して現在の光を増幅させる」という発想がドストライクでした。

良ければ是非。


61.小物と色男

キタサキジャンクションは旧カナダ中心部に建造された世界最大級の交通結節点である。かつて『全ての北米はキタサキに通ず』とまで謳われた彼の地の隆盛は見る影も無く、辺り一帯がコジマ粒子汚染によって砂漠化している不毛の地となっていた。

 

その砂漠の中で奇っ怪な姿を晒す一体の異形がモゾモゾと蠢いている。角張っているが縦に並んだ双眼のお陰で洗練された印象を与える頭部、打って変わって無骨で重厚な鉄塊感が強調される巨大なコア、また打って変わってコア部と正反対とも言える貧相でか細い腕部、そしてそれらを支えるにはあまりにアンバランスで、どうやって上半身を支えているのか不思議になる逆関節タイプの軽量脚部。

 

異形というより(あやかし)の類と呼んだ方がしっくりくる巨人の名前はノーカウント。【ランク28】パッチ、ザ・グッドラックが駆る軽量級ネクストである。そのコックピットに収まるパッチは着用する鼠色のリンクススーツ越しに爪を噛む仕草をしながら苛立っていた。寂しい頭頂部と、落ち窪んだ嫌らしい目つき。日頃鍛錬している様子のない腹の出た小太り体型から、彼がマトモなリンクスで無いことは一目瞭然だった。

 

 

「おい! いつになったら迎えがくるんだ! もう丸一日経ってるんだぞ!」

 

《……騒ぐな、じき来る》

 

「その台詞は聞き飽きた! こっちはカラードを裏切ってまでアンタらに付こうとしてるんだぞ!? 悠長に待ってる時間なんて俺にはないんだ!」

 

《嫌ならカラードに戻れ。お前の利用価値など(たか)が知れている》

 

「ぐっ……!」

 

 

スピーカー越しに怒鳴るパッチは通信相手の返答に言葉を詰まらせた。幸い、パッチが裏切ったことはまだカラードにバレていないが、戻ろうとした瞬間にスピーカー越しの通信相手に背後を撃ち抜かれるのは目に見えている。反撃しようにも通信相手との実力差がありすぎて非現実的過ぎた。パッチにとって既に退路は断たれている状況に、彼は改めて自身の選択を呪う。

 

 

(くそっ!なんで俺だけこんな目に……)

 

――どこで間違った?

スラムのバーでイレギュラーの噂を聞いた時か?

それともカラードとイレギュラー、どちらについた方が得か考え始めた時か?

―― ちっ!ツイてねぇ、本当にツイてねぇ。

 

 

パッチが黙って悔恨の念を反芻している様子を確認した通信相手は、ゆっくりとコックピットの背もたれに寄り掛かった。彼は両眼を閉じて浅い深呼吸を数回繰り返して呼吸を整え、操縦桿を静かに力強く握った。

 

 

――こんな小物の首輪を外すとはメルツェルは何を考えている? 計画の邪魔になるだけだろう。

 

 

パッチの通信相手である男――ブッパ・ズ・ガン――は独りごちる。

 

実行段階にも達していないこの計画の(かなめ)は秘匿性にあった。密林に棲む虎のように最後の最後まで姿を見せることなく潜み隠れ、獲物の警戒が逸れた隙を見逃さずに一気に仕留める。そんな狩人(かりゅうど)のような忍耐力が必要とされる計画に、最も必要の無い人員を招き入れることがブッパ・ズ・ガンにとって理解できなかった。

 

 

《お、おい! 12時の方向からネクストが来るぞ! アレが迎えか!?》

 

「……いずれにせよ我々は駒か」

 

 

パッチのだみ声に反応して、考えるだけ無駄だと思考を遮ったブッパ・ズ・ガンは12時の方向に乗機である四脚型ネクスト【ビックバレル】を向け直した。

 

レーダーアンテナのような頭部にF1カーのような先鋭的なコア部、動力パイプが剥き出しの細い腕と比較的重厚な装甲を備えた四脚タイプの脚部で機体構成された深緑色のビックバレルは黄色に光るメインカメラの倍率を上げて迎えのネクストであるか確認を行うが、確認したブッパ・ズ・ガンは思わず顔をしかめる。

 

なぜなら迎えのネクストが予定と異なっていたからだ。すぐに秘匿回線を開いたブッパ・ズ・ガンはこちらに向かってくるネクストに対して通信を始める。

 

 

「PQ、なぜお前がここにいる。迎えは真改の手筈だろう」

 

《真改は例の施設の調査中に負傷してしまいましたので私が代理で参上したまでですよ、ブッパ・ズ・ガン》

 

「――そこまであの施設にメルツェルが入れ込む理由が分からん」

 

《分からなくていいのでは? 我々は計画を進める為の道具に過ぎませんからね。それで、そこのネクストが例の?》

 

「ああ。やかましいだけの雑魚だがな」

 

《なるほど、前評判通りですか》

 

 

ひとしきり会話が終わったと同時に到着した迎えのネクストは、全身焦げ茶色のペイントが施された逆関節タイプのネクストだった。つい最近発表されたばかりのアルドラ製逆関節ネクスト【SOLDNER(ゼルドナー)G9(ゲーノイン)】をベースに組まれたネクストの背部には一際異彩を放つ垂直ミサイルが装備されており、ときおり翡翠色のコジマ粒子がキラキラと漏れ出ている。

 

いつもの光景に若干の安心感を覚えたブッパ・ズ・ガンはモジモジと蠢くノーカウントを一瞥すると、早々にこの場を後にしようとした。

 

 

「まあいい、目的は達した。さっさと帰還するぞ」

 

《それがそうもいかないのですよ》

 

「……どういうことだ」

 

《先ほどメルツェルから連絡が入りまして。カラードの【ランク10】【ランク18】がこちらに向かっているので迎撃しろと》

 

《!? ふ、ふざけるな! あんなバケモノ共相手に勝てるわけないだろ!》

 

 

PQの口から発せられた【ランク10】【ランク18】の言葉に、それまで蚊帳の外のように黙っていたパッチが思わずがなり立てる。ロイ・ザーランドは独立傭兵として【ランク3】ダン・モロに次ぐ実力者、キドウ・イッシンはBFFフラグシップ級AF【スピリット・オブ・マザーウィル】を墜とし、イレギュラーネクストを2度退けている新進気鋭のリンクスだ。間違っても自分のような三下が挑んでいい相手ではないことぐらいはパッチも理解している。

 

 

「い、いくらアンタらでも無理だ! ここは一度トンズラして――」

 

《これは貴方の試金石でもあるのですよパッチ、ザ・グッドラック》

 

「何だって!?」

 

《組織はまだ貴方を信用した訳ではありません。カラードの内偵だという可能性も排除出来ていないのですから》

 

「そ、そんな訳無いだろ!俺が内偵なんて真似事出来ると――」

 

《ならば行動で示して下さい。カラードの追手を倒したら晴れて同志として迎え入れます。それに、帰る場所など既に貴方は無いでしょう?》

 

「……ちっ!やれば、やればいいんだろ!」

 

 

パッチは半ば自暴自棄になりながらPQと呼ばれた男に了承の意を吐き捨てる。

 

最下層の三下とはいえパッチもカラードのリンクス。それなりの戦場に出て、それなりの地獄を見てきた。

 

戦場に於いて、自分が所属しているコミュニティがどんなに小規模だろうと目先の利益欲しさに情報を敵組織に売れば凄惨な報いを受けること。

 

所属するコミュニティが大きくなればなるほど凄惨さは苛烈になっていくこと。

 

そしてそれを回避するには所属していたコミュニティを完膚無きまでに叩き潰すこと。

 

パッチは自分が置かれた状況を的確に理解していた。いけ好かないこの男の言う通り、退路は既に断たれている。ならば一蓮托生。最後まで付き合う他ない。

 

 

「畜生、本当にツイてねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《まさかあんな美人をオペレーターに据えてるとは隅におけないなぁ、青年》

 

「いい加減その青年って呼び方やめてくんねえかな、ロイ」

 

《三十過ぎのオッサンからしたら青年は妥当だろう? あんまり目くじら立てるなって》

 

「独立傭兵は初端(しょっぱな)からフランクに接しなきゃいけない法律でもあんのかよ。ダンも初対面で同じテンションだったぞ」

 

《敵が多いからこそ仲良くなれる内にしといた方が後々楽なんだよ。いわゆる処世術ってやつ》

 

《女を誑かすのが本業のお前にはピッタリの術だな》

 

《俺は美人を口説かない方が失礼だと思ってるんだが、気分を害したなら謝るよMs.セレン。お詫びに今夜ディナーでも》

 

《結構だ》

 

 

キタサキジャンクションより南東150km地点。

 

イッシンとセレンはいつも通り、桜色の輸送機と合金製多重層ワイヤーロープで懸架されたJOKERと共に目的地へ進路を取っている。唯一、いつもと違う事と言えば鈍色に光る最新型輸送機が伴っていることだ。最新型輸送機はネクストを懸架せずに機内へ格納することが可能になっているにも関わらず耐久性、航続距離、戦闘能力を向上させる事に成功したハイスペックモデルである。

 

その最新鋭機を操縦し、通信越しでセレンを口説こうとしている男こそ【ランク10】ロイ・ザーランドそのひとであった。筋肉質で厚めの体型、色気のある顔立ちに似合う雑に撫でつけられた栗毛色のオールバックと軽く整えられた無精髭がトレードマークのロイは鼻歌交じりにイッシンに話しかける。

 

 

《にしてもこんな胡散臭い任務、よく請けたな青年》

 

「請けなきゃ地方紙に載るって言われたから仕方なくだ。どうせロイも同じ口だろ」

 

《まさか。マージン上乗せとマーリー女史とのデートを交換条件にしたんだ。二つ返事で快諾してくれたよ》

 

「いやブレなさすぎだろ」

 

《悪いか? 俺は、俺の幸福の為に傭兵稼業に勤しんでるんだ。外野からとやかく言われようと変える気はサラサラ無いぜ》

 

 

ロイはニヒルに笑うと現地到着までのあいだ鼻歌を口ずさむ。イッシンはその様子に呆れながら着々と戦闘準備を進めていった。




いかがでしたでしょうか。

パッチ、ザ・グッドラックはトビー・ジョーンズをイメージして、ロイ・ザーランドはゴツめのオーランド・ブルームをイメージしています。

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