凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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今回は下品で不躾な表現が多々あるので、免疫のない方はお気をつけ下さい。


64.化け猫と猟師

「くそっ! 鬱陶しい!」

 

《もっと動け、その方が狩り甲斐がある》

 

「俺は鹿や猪じゃねえぞ!」

 

《冷静になれイッシン、焦れば相手の思う壺だ》

 

「そんなの分かってる!」

 

 

セレンの助言に怒鳴り返したイッシンの駆るJOKERは独壇場の空中戦から地上でのブースト戦闘に戦法を移行して縦横無尽に砂漠を滑っていた。目の前では深緑色の四脚ネクスト【ビックバレル】が左手に握られたハンドミサイル兵装【NIOBRARA03】で牽制のミサイルを発射しながら右肩に顔を覗かせる巨大砲門――両背格納式ハイコジマキャノン【FEFNIR(ファフニル)】――を放つ好機を伺っている。

 

ジリ貧まっしぐらの状況だが、打開しようにも砲門が常に向けられているストレスとミサイルの細やかな妨害により接近できず、開戦時に穿たれた左腕は融解によるジョイント不良でパージする事が出来ずただのデットウェイトに成り下がっていた。まさに手負いの獣である。

 

 

「さてどうするか……!」

 

 

イッシンは脳をフル回転させながらJOKERに回避行動をとらせて的を絞らせないよう地上で円舞曲(ワルツ)を踊らせる。横方向へ滑りつつ後方へQBを噴かしたり、右へQBしたと思えば踵を支点に一回転して左に急旋回したりと無作為に世話しなく動くが、ブッパ・ズ・ガンは氷点下のような冷静さを保ちながら照準を合わせようとスコープを覗き続ける。

 

 

(良い動きだ。腕のいいスナイパーに狙われた経験があるようだな)

 

 

ふっと彼が気を緩めた刹那、JOKERはブッパ・ズ・ガンの思考の隙間を縫うようにプラズマキャノン【TRESOR】を放った。ブッパ・ズ・ガンは僅かに身体を強張らせるが直ぐに状況を把握。視界からJOKERを外さないよう落ち着いてQBを噴かして回避しつつ、ハイコジマキャノン【FEFNIR】の発射調整を行う。

 

 

(この距離で気配を読むとは。長引かせるのは悪手、か)

 

 

――次のアクション、そこで決める。

 

ブッパ・ズ・ガンは自らに言い聞かせるように脳内で反芻し、その指令を指先に伝えるように力を込めた。猟師が手札を読まれるということは死を意味する。だが、それを十分に理解していた彼の覚悟はイッシンから不用意に出た一言に呆気なく吹き飛ばされてしまった。

 

 

「畜生、いまの避けるかよ! ロリコン爺なら仕留められてたってのに!」

 

《……………ほぅ》

 

「あ? なん――」

 

《答えろ、首輪付き。お前は王小龍(ワン・シャオロン)を知っているのか》

 

 

互いに回避行動と迎撃を織り交ぜた鍔迫り合いの最中とは思えぬ問いの真意にイッシンは思考を巡らせる。目の前の四脚は一進一退の殺し合いの中でわざわざ聞いてきた。ならかなりの興味を持っている筈だ。打開の糸口が見えない以上、会話の揺さぶりで無理矢理こじ開けるしかない。

 

 

「知ってるもなにも(てい)の良いガキの使いを散々やらされて、挙げ句の果てにゃ死にかけたんだ。(はらわた)が煮えくりかえるくらいにいけ好かない爺だぜ」

 

《あの御仁らしい。黄泉の入口に立ちながら権謀術数は衰えを知らないようだ》

 

「そういうアンタも爺の知己って感じだな」

 

《かつて『師』と仰いだこともあった。先の大戦で間違いだと気付いたが………ふっ、喋りすぎたな》

 

 

皮肉交じりの自嘲がJOKERのコックピットスピーカーに虚しく響く。――ダメだ、まだ終わらせるな。考えろ、もっと喋らせろ。揺さぶりの材料を一つでも多く見つけるんだ。

 

 

「待てよ。先の大戦ってことはアンタもリンクス戦争に参戦してたのか」

 

《過ぎた話だ》

 

「リンクス戦争を生き抜いたリンクスが反動勢力に与する理由が分からねぇな。そんな強い奴をカラードが放っておかないだろ?」

 

《貴様と交わす言葉はもう無い》

 

「連れないこと言うなよ。リンクス戦争で身内でもぶっ殺されたのか?」

 

《……もう一度言ってみろ》

 

 

――かかった! 死んでも離すな、鬼が出るか蛇が出るか知ったことか。意地でも揺さ振って動揺と隙を引っ張り出してやる。

 

 

「ハッ図星かよ! それじゃ反動勢力についたのは弔い合戦ってか! 十年以上前の戦争を引き摺ってるなんざリンクスの風上にも置けねぇな、しょうもねぇ!」

 

《貴様に何が分かる》

 

「少なくともリンクス戦争で死んじまう程度には弱い身内だってのはわかるさ! 恨んでもいいんじゃねえか? 『お前のせいで俺は反動勢力に身を落とした。死んで償ってくれ』ってな………あっもう死んでんのか!」

 

 

――我ながらここまで下劣で低俗で情の欠片も無い罵詈雑言を並べられたものだ。スピーカー越しにオペレートするセレンも聞くに堪えないとヘッドセットを外した着脱音を感じる。生きて帰ったら精一杯の謝罪と詫び品を献上しないとな。――だが、まだ足りない。もっと我を忘れさせるようなネタを釣り上げる必要がある。

 

対して、親類の故人に最低最悪の愚弄を宛て()られたブッパ・ズ・ガンは無機質な表情のままモニターに映るJOKERを見据えていた。しかし彼が握る操縦桿はミシミシと不穏な音を立てて震えており、湧き上がる憤激をなんとか抑えようと努めているのは容易に判断できる。

 

 

(堪えろ、これは挑発だ。行けば相手の術中にハマる)

 

「おいおい、身内をこんなに(けな)してるって言うのに文句の一言も無いなんて随分薄情なヤツだな。それとも玉なしのカマ野郎なのか?」

 

(耐えろ、耐えろ、耐え――)

 

「そういえば死んだヤツとの間柄を聞いて無かったな。おおかた姉貴か? 妹か? どっちにしても生きてりゃ俺が丁寧に可愛がってやったのによぉ!」

 

 

 

 

《………殺す!!!!!》

 

 

 

 

 

気付いた時には遅く、ブッパ・ズ・ガンはトリガーを勢いよく引いていた。刹那に砲門から現れる翡翠色の光球は目の前を蝿のように飛び回る怨敵を抹殺せんと大きく膨れ上がり、コンマ0.2秒で臨界点に達した瞬間、オーロラを彷彿とさせる巨大な光条を放出する。

 

ネクストの脚部性能に於いて安定性では随一の値を叩き出す四脚だが、ハイコジマキャノン【FEFNIR】発射による急激な熱膨張で引き起こされた衝撃波により砂漠地帯を徐々に後退しながらもビックバレルは照射を続ける。

 

 

――もはや計画などどうでもいい。

――コイツは、コイツだけは生かして置けない。

――確実に、いま、殺す!!

 

 

怒りに身を任せた攻撃とはいえ、並のリンクスよりも遥かに精度の高い攻撃だったことに変わりは無い。彼が放った一撃が確実にJOKERを仕留めることを疑う余地はなかっただろう。しかしブッパ・ズ・ガンは一つ重大な勘違いを犯してしまっていた。

 

それはキドウ・イッシンが()()()()()()()()()であるという勘違いである。

 

 

「待ってたぜ! この時をよぉ!」

 

 

自身の命を刈り取ろうと一直線にコア部へ迫る翡翠色の光条に向かってイッシンは叫ぶとQBを発動して、JOKERの左腕に当たるように位置を調整した。……調整したと簡潔に書いているが時速3000km/hで飛来する死の光に臆すること無く最適なタイミングでQBを噴かす技術と、コア部に擦らせる事なく自身の左腕に命中させる操縦センスは並大抵ではない。加えて()()()()()()である【限界機動】を一切使用せずにこんな芸当を実現できたのは、(ひとえ)にイッシン自身の鍛錬の賜物だった。

 

そうして差し出された左腕は寸前違わず光の中に呑み込まれ、最後の足掻きを見せるように爆散した。爆散によって発生した小さな黒煙を仄かに纏う隻腕になったJOKERはOBを発動してビックバレルとの距離を一気に詰める。イッシンが予想していた通り、背部兵装のハイコジマキャノン【FEFNIR】は排熱段階に移行して水蒸気を吐きながら砲身を赤く染め上げていた。あの様子では連発できる仕様でないことをイッシンは瞬時に理解する。

 

 

《しまっ………!》

 

「後悔が遅れ過ぎだぜ、ブッパ・ズ・ガン!」

 

 

挑発されたとはいえ致命的なミスを犯してしまった事実に我を取り戻したブッパ・ズ・ガンは何とか態勢を立て直そうと両手の【NIOBRARA03】を乱発するが、左腕をパージして身軽になったJOKERは【NIOBRARA03】から放たれるミサイルの誘導性能を上回る速度でこれを見事に回避。ビックバレルに急接近してボクシングのダッキングのように懐へ潜り込む。

 

 

《……! アレを無傷で捌くか……!?》

 

「アンタにゃ悪いことしたからよ。これで勘弁してくれ」

 

 

イッシンは自戒と赦しを込めてそう言うとJOKERの右手に握られた【AR-O700】を投げ捨て、握り拳をぎゅうっと作り上げる。そのままお手本のような足の体重移動、腰の捻り、滑らかなフォームから繰り出される右アッパーをビックバレルのコックピットにクリーンヒットさせた。

 

JOKERの全トルクを集約させたアッパーは四脚タイプであるはずのビックバレルを僅かに浮かせ、絶大な威力であることを物語っていた。その衝撃をモロに受けたブッパ・ズ・ガンは耐えきれずコックピットに吐瀉物(としゃぶつ)を撒き散らして()えた匂いを充満させる。意識を手放しかけて朦朧としている中、ブッパ・ズ・ガンは最後の力を喉に込めて呪詛を吐いた。

 

 

《貴、様……!》

 

「無理な殺生はしたくねぇんでな、鹵獲させて貰うぜ」

 

 

イッシンの無機質な答えを耳にしたブッパ・ズ・ガンは、今度こそ意識を手放し深い深淵へ堕ちる。折しもそれは戦闘終了のゴングでもあった。




いかがでしたでしょうか。
どんどんイッシン君がダーティーになっていく……。

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