凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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ノートPC用冷却板を買ったのですがイマイチ効いてる気がしないんですよね。もっと高いのにすればよかったのかな。


65.損して恥かく生還者

《終わったようだな》

 

「ああ。……悪いことしたなセレン」

 

《よくもまぁ、あそこまで聞くに堪えん言葉をイキイキと吐けるものだ。日頃の鬱憤がそこまで溜まっているのか?》

 

「意地悪いこと言わないでくれよ」

 

 

イッシンは肩をすくめながら操縦桿を前に倒すと同時にガキンッ!と鋭い金属音が辺りに響く。その金属音は砂漠の上で鉄塊と化しているビックバレルのコックピットハッチに対して、隻腕のJOKERが右手に握られた【AR-O700】を器用に使い熟してこじ開けている音だった。

 

リンクスであるブッパ・ズ・ガンが気絶している事は間違いのだが、何かの拍子で覚醒して暴れられても困ると判断したイッシンがブッパ・ズ・ガン本人の拘束をセレンに提案したのである。最初は無駄な衝撃を与えないためにイッシン自身が地上に降り立って携帯デバイスを用いた電子ハックでコックピットを開放するつもりだったのだが、セレン曰く『作戦行動中に身を晒すリンクスがどこにいる』と叱責され、仕方なくこじ開ける事にしたのだ。

 

 

「そういやロイの方は大丈夫なのか? 向こうから戦闘音が何も聞こえないんだけど」

 

《問題ないさ………ふん、噂をすれば》

 

《よぉ青年。心配してくれるなんて優しいんだな》

 

 

イッシンは声のする方向を見ると、鈍色の巨人であるマイブリスが左手で()()()()()()()()を引き摺りながらJOKERに近付いて来ている。へらへらと笑うロイとはあまりに対照的で殺伐とした光景に思わずイッシンは問いかけてしまった。

 

 

「ロイ、なんだよそれ」

 

《ん? 見りゃわかるだろ、さっきのイレギュラーだよ。プライドを完璧にへし折ったんだが、暴れられたら面倒だからコア以外全部()()()

 

まだまだ、まだまだ、まだまだ――

 

「めちゃくちゃブツブツ言ってるじゃねえか大丈夫かよ。てかネクストってもげるもんなのかよ」

 

《案外簡単だぜ? スノウクラブみたいにこう、ポキッとな》

 

「えぐいな」

 

《安全管理がなってるって言って欲しいね。それより()()、まだかかりそうか?》

 

「いやもうすぐ……っと! ほら、開いたぜ」

 

 

イッシンの掛け声と同時にJOKERが握っている【AR-O700】をテコの要領で押し倒すと、ビックバレルの搭乗口に設置されたモーターが無理矢理逆回転させられた音をアクセントにしてガガガッ!と嫌な音を立てながらゆっくりと開いた。テコにした【AR-O700】は反動で切っ先が曲がってしまい使い物にならなくなったので、JOKERは近くの砂丘にブンと放り投げる。太陽光が射し始めたコックピットを見遣ると、中には眼鏡を掛けた男性がグッタリと操縦席にもたれ掛かっていた。

 

齢30前半に見える男性は引き締まった痩躯に似合う透き通った金髪を短めのワンレングスで整えており、色白で若干骨張った輪郭は掛けられた黒縁眼鏡と相まって神経質そうな印象を与えた。メインカメラを隔てて観察するイッシンはあからさまに溜息をつきながらポリポリと頭を掻く。

 

 

「なんだよ、ダンと似たり寄ったりの優男かよ。なんか腹立つな」

 

《……イッシン。カメラの解像度を上げられるか?》

 

「ん? あぁ構わないぜ」

 

 

敵リンクスを姿を見て、それまで黙っていたセレンが急な興味を示す。特段断る理由もなかったイッシンはJOKERのメインカメラ倍率を絞り上げてピントをより近くで合わせる。気絶しているため顔は伏しがちになってはいるが、ここまで近づけばセレンも問題なく見れるだろう。

 

 

「これでいいか?」

 

《――ああ、問題ない》

 

「どうしたよ、昔の男にでも似てたのか?」

 

《馬鹿なことを言うな………まもなくインテリオルの回収チームが到着する連絡が入った。それまで待機しろ》

 

《ならMs.セレン。回収チームの到着までに()()()()()()()()()()を片付けるというのはどうです?》

 

 

不意に鈍色の巨人を駆るロイは焦げ茶色の塊を引き摺ったまま提案した。もう一つのミッション? そんなものあったか? とイッシンとセレンの頭には疑問符が浮かんで、間もなく思い出す。確かにあった。だがしかし、あれをミッションと呼んでいいのか?

 

 

「あ~~、うん、まぁ、一応ミッションだし、うん、やるか」

 

《そうだな。面倒だがやらない訳にはいかないだろう》

 

《じゃ決まりってことで。行こうか》

 

 

心の底からどうでもいいと思っている男女二人組の主導権を上手くロイが取りまとめた形で、一行はある地点に向かう。一進一退の激闘が繰り広げられた砂漠地帯には赤茶けたクレーターがいくつも誕生しているが、目的地はそこを抜けた先だった。およそ戦闘らしい戦闘の跡がほぼ見受けられず、近くにあるのはキタサキジャンクションの一部が倒壊した際に生じた瓦礫(がれき)くらいだ。そんな平和な場所に到着すると、一体の巨人が呑気に伸び上がっていた。

 

異形というより(あやかし)と呼んだ方がしっくりくるアンバランスで不格好な巨人の名はノーカウント、リンクスは【ランク28】パッチ、ザ・グッドラックである。JOKERとビックバレルの激闘についぞ参戦することなく、開幕前場外ノックアウトを華麗に決めた傑物はJOKERとマイブリスが足元に来てなお覚醒する気配は無い。

 

 

「おい」ガンッ

 

《うぅ――はっ!な、なんでアンタらが!?》

 

「なんでって……もう終わったんだよ。お前がのんびり昼寝こいてる間にな」

 

《そそそそそそんなっ!》

 

《そういやお前さん、インテリオル領内で略奪してるんだってな?》

 

「腐っても独立傭兵だ。こういう場合はどうなるか。パッチ、お前なら分かるだろ?」

 

 

生殺与奪を他人に握られた状況はかなりシリアスになるはずなのだがパッチ、ザ・グッドラックの圧倒的小物感によって単なるカツアゲにしか見えず、その事実にJOKERの肩越しにパッチを見下すロイはクスクスと笑っている。対するパッチは状況が状況なだけに、どうにかして生き延びる方法を考え抜いていた。

 

 

《待ってくれ! 降参だ!俺は、指示された通りやっただけだ!あいつらがいなけりゃ戦う意味もない!》

 

――お、やっぱ原作通りにやっちゃう? それなら乗ってやるか。

 

「じゃあなんだ? インテリオル領内の略奪もアイツらに指示されたってことか?」

 

《そ、そうなんだ!それにあんた達はまだ生きてる!ノーカウントだ、ノーカウント!》

 

 

『人を呪わば穴二つ』とは良く言ったものだ。

 

相手を地獄に叩き落とすのならば自身も叩き落とされる覚悟が必要だと言う慣用句だが、なにも呪術に限ったことではない。どの世界、どの業界にも少なからず存在する不文律であり因果律でもある。

 

そしてそれは傭兵稼業においても同様だ。

もし例外があるとすれば、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ぐらいだろう。

 

実践こそしたことはないがパッチ、ザ・グッドラックはこれをよく理解していた。多かれ少なかれリンクスとして傭兵稼業に勤しむ者は一定以上のプライドをもっている事が(ほとん)どであり、取るに足らない屑のために手を下すリンクスは皆無と言っていい。

 

自ら諸悪の種を蒔いておきながら形勢が変わった途端、不様に命乞いを晒す輩なぞに放つ銃弾より、試し打ちの銃弾のほうがまだ価値がある。

 

パッチの卑屈で浅ましい言葉をスピーカー越しで聴いていたセレンは辟易としたジト目で溜息をつき、ロイはある種の驚嘆を感じていた。

 

 

《な、分かるだろ?同じリンクスじゃないか》

 

《イッシン、ああ言ってるがどうする? 私はお前に任せるよ。なんだか馬鹿らしくなっちまった……》

 

《……青年、すげぇなこいつ。大物だ。感動した……》

 

 

――よし! よし!! よし!!! これでなんとか生き残れる! 死んじまったら元も子もねぇ。泥水啜ろうが砂利を食らおうが、生きてりゃどうとでもなる! 先ずはこの場を切り抜けて――。

 

 

「分からねぇな」

 

《……………え?》

 

「お前が降参しても、お前を見逃す理由はないだろ?」

 

 

イッシンの冷徹な言葉とほぼ同時にジャキンッ!とJOKERの右腕部格納からアルゼブラ製ハンドガン【LARE】が飛び出して、右手にしっかり握られた。その威力と連写性能からハンドガンというよりもマシンライフルの趣が強い【LARE】を至近距離で突き付けられたパッチは突然の状況に気が動転してしまう。あんなものを全弾受けたら確実に死ぬ。

 

 

「インテリオルからキツい(きゅう)を据えてくれって言われてるんでな。悪く思うなよ」

 

《やっ、止めてくれ! 金ならいくらでも払う! 俺の全財産700000C(コーム)をそっくりアンタにやるよ!悪い話じゃないだろ!?》

 

「そんな端金(はしたがね)よりもインテリオルとの関係性の方が100倍上等だろ。関係悪化でパーツが買えないなんて洒落にならないからな」

 

《待ってくれ! なんでもするから! 言う通りにするから! だから、だから命だけは……!》

 

「………いま、なんでもするって言ったな?」

 

 

パッチの言葉に反応したイッシンは【LARE】を降ろし、倒れたままのノーカウントをよく見るためにJOKERをしゃがませる。――口から咄嗟に出た言葉だが、生き延びるためには縋るしか無い。そう判断したパッチはここぞとばかりに自身を売り込んだ。

 

 

《ああ、ああ! 何でもするさ! 尾行、情報収集、便所掃除に犬の散歩! ノーマルで編成されたゲリラの掃討、ネクストの整備、模擬戦の相手!何でもやってやる!》

 

「じゃあよ、()()()()()()()()()()()

 

《…………へ?》

 

 

子供のように純粋で無邪気で屈託のない意地悪な笑みを浮かべたイッシンの顔をパッチ、ザ・グッドラックは見ることは出来ない。しかしコックピットに反響するイッシンの声色で彼は全てを察し、同時に後悔した。

 

あんなこと言うんじゃ無かった、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カラード記録ファイル(整理番号:IU-202)

 

 

依頼主:インテリオル・ユニオン社

 

依頼内容:不明ネクスト+ノーカウント撃破

 

結果:成功

 

報酬:600000c

 

備考:不明ネクストおよび不明リンクスの鹵獲に成功。インテリオル・ユニオン回収チームにて精密検査を行った後、カラード本部に移送予定。また、本依頼の受注リンクス【キドウ・イッシン】ならびに【ロイ・ザーランド】両名について、交戦による身体的外傷および精神的外傷は確認出来ず。

 

なおインテリオル・ユニオン領内にて多数の略奪行為が確認されている【パッチ、ザ・グッドラック】の身柄を【キドウ・イッシン】が預かりたいとの要請を受け、インテリオル・ユニオンは24時間の拘束具着用とGPS監視下を条件にこれを承認。以降の管理を【キドウ・イッシン】および【セレン・ヘイズ】へ移管する。




いかがでしたでしょうか。
パッチくんは犠牲になったのだ……。

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