凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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どんなにイライラしていても、ステーキを食べればどうでも良くなるからステーキは偉大。


66.大戦の残滓

カラード本部 地下15階 通称【茶の間】

 

 

「……失礼。仰っている意味を理解しかねるので、もう少し噛み砕いてご教示願えますか」

 

「何度も言わせるなジェラルド。我々、企業連はラインアークを墜とす方針だ」

 

「それはホワイト・グリントの撃破と同義でしょう」

 

「君達というホワイト・グリントを上回る戦力を我々は有している。問題は無い」

 

「買いかぶるのは結構ですが、随分と急な話ですな」

 

 

カラードランク一桁の最上位かつ企業専属のリンクスのみが参加することを許される【お茶会】の場所には今現在、いつもの参加者――オッツダルヴァ、リリウム、ウィン・D、ローディー、ジェラルド、王小龍の6名――に加えて3名の老人達が相対して顔を合わせていた。老人達は年相応の年輪が肌に刻まれており、それなりに良いスーツを着こなして如何にも紳士然としているにも関わらず圧倒的威圧感を以て常人では無いことを知らしめていた。

 

3名の老人は各企業グループの宗主であり、企業連の最高権力者である。無論その中にはGAグループ宗主であるスミス・ゴールドマンの姿もあり、対面に座るローディーは居心地が悪いのか少々苦々しい顔をしていた。

 

 

「不明ネクストとの戦闘は今月に入って3回。うち1回はリッチランド農業プラントに再び多大な影響を与え、財政の芳しくないコロニーの多くは食料の配給制にシフトした」

 

「これ以上の食糧危機は、いずれクレイドルにも波及する。だからこそ早急に手を打たねばならん」

 

「それとラインアークがどう関係するんだ?」

 

 

目を瞑って腕組みをしたまま話を聞いていたウィン・D・ファンションが口を開く。その口調には明らか不快感が込められており、彼女の鋭い眼光が老人達を襲う。しかし彼等は子供の駄々を軽く受け止める親のように返答した。

 

 

「不明ネクストの出所が分からない以上、万事に備えて我々は一枚岩にならなければならない。その実現には反クレイドル主義のラインアークを傘下として、より強固な基盤を作り上げる事が急務だ」

 

「良く言う。目の上の(こぶ)を早々に取り除いて自身の地位を高めたいだけだろう」

 

 

老人達のそれらしい高説をオッツダルヴァは喜劇でも見るかのように鼻で嗤う。インテリオル・オーメルの宗主は飼い犬に『お手』を無視されたような表情で眉を(ひそ)めるが、隣に座るゴールドマンは顔色一つ変えずにオッツダルヴァに向き直った。

 

 

「その通りだが、何か問題でも?」

 

「ふん。ラインアークのスポンサーの割には随分薄情だと思っただけだ」

 

「GAの正式名称はGlobal(グローバル) Armments(アーマメンツ)、故に武器を求める者には分け隔て無く与えるのが我がグループの基本思想だ。それが世界最大の経済圏だろうと、反企業主義の最大勢力だろうと変わりは無い」

 

「時代遅れの巨人だとは思っていたが、死の商人も請け負うか。下らん飼い主を持った【アナトリアの傭兵】には同情する」

 

 

GAグループは先の大戦――リンクス戦争――において滅亡した旧レイレナードグループを筆頭とする新興企業勢力に対抗するために、オーメル・ローゼンタール・旧イクバール(現アルゼブラ)との共同戦線を敷いた。新興企業勢力はエネルギー兵器を得意とした企業体であったため実弾防御に重きを置いたGAグループは足手まといとなるはずだったのだが、そこに一筋の眩しい光が差し込む。

 

伝説のリンクス【アナトリアの傭兵】だ。

 

様々な紆余曲折により困窮せざるを得ない状況だったコロニー【アナトリア】が最後の手段としてGAに売り込んできた傭兵は当初の下馬評を大きく上回り、まさしく破竹の勢いで戦場を駆け巡った。その戦績たるや圧倒的と言うほか無く計17機のネクストを撃破し、最終的には旧レイレナード社とBFF社を単機で壊滅状態へ追い込むという八面六臂の活躍を見せつけている。

 

そしてその威光は兵装・内部パーツ・フレーム等の供給と彼の実質的な雇い主となったGAグループを大躍進させ、戦争終結の一助を担うに至らせたのだ。そんな経緯もあって内外から『リンクス戦争の立役者』と呼ばれる事が多々あるのだが、今のゴールドマンはオッツダルヴァに対して強く言い返す気力を練ることが出来なかった。

 

それもそうだろう。

 

議題になっているホワイト・グリントこそ、他ならぬ【アナトリアの傭兵】その人だからだ。

 

 

「我々は()()()()()()()()()にすぎない。時代が変われば立場も変わるのは必然だろう」

 

「……なるほどな」

 

「いずれにせよラインアーク襲撃もといホワイト・グリント撃破は決定事項だ。くれぐれも他言しないように。……では失礼する」

 

 

主題を話し終えた宗主達はすっかり重くなった腰を上げて【茶の間】を後にする。その後ろ姿が重厚な扉に吸い込まれるまでローディーは無言で中指を立てており、ジェラルドは終始苦い顔をしていた。そして扉が閉まったと同時に王小龍はらしくない溜息を思いっきり吐く。

 

 

「簡単に言ってくれる。【アナトリアの傭兵】を墜とせる人間などいるものか」

 

「それに墜とす理由もいまいち薄い。こりゃ貧乏くじだな」

 

「ほぉ、お二方とも弱気とは珍しい。GAの稼ぎ口が減るのがそこまで口惜しいですか」

 

 

ジェラルドを挟んだ向こう側で、ウィン・D・ファンションが皮肉っぽく笑いながら言い放つ。『GAの災厄』と揶揄される彼女らしい一声だが、王小龍とローディーは事態の深刻さを()()()()()()()ウィンに対して釘を刺した。

 

 

「……ウィン・D。君は【アナトリアの傭兵】の資料を見たことがあるかね」

 

「もちろんです、王大人(ワン・ターレン)。伝説的な元ノーマルパイロットであり、AMS適性の低さを操縦技術で補う戦闘スタイルで数々のネクストを屠ったリンクスであると聞いています」

 

「そんな概要説明じゃない。()()()()()()を見たことがあるかと聞いているんだ」

 

「? いえ、ありません。【アナトリアの傭兵】の戦闘記録にはアクセス制限が掛かっているので」

 

「ではインテリオルの宗主にでも頼んで見せて貰うといい。彼等が如何に無理難題を我々に押し付けているかが分かる筈だ」

 

「まぁそういう事だ。俺と小龍(シャオロン)は用事があるから先にお(いとま)するよ。ロートルは出る幕じゃないだろうから、精々頑張ってくれ若者たち」

 

 

そこまで言ってローディーと王小龍は席を立ち、最後まで無言を貫いたリリウムを引き連れて【茶の間】を後にする。残された新世代達は多少不満そうな表情を浮かべてはいたものの、彼等を別段引き留める理由も無いといった感じで各自の椅子に座ったままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

席を外したローディー、王小龍、リリウムの三人はエントランスで迎えのエレベーターに乗るために長い廊下をツカツカと歩いていたのだが、ローディーが待ちくたびれたように口を開く。

 

 

「それで? 見せたいものってなんだ」

 

「キドウ・イッシンとロイ・ザーランドが鹵獲した不明ネクストのリンクスと、ハワイの一件の敵工作員だ」

 

「おいおい尋問でもしようってのか。それは本職の仕事だろう」

 

「そうも言ってられん状況なのだ。少しばかり()()()()()が、彼等に会う以外の選択肢は無い」

 

 

普段よりも語尾に力が込められている王小龍の口調に重大さを感じたローディーはそれ以上詮索することをやめて、素直に従うことにした。一行はエントランスに降り立った迎えのエレベーターに乗り込むと、王小龍は【B20F】のボタンを迷い無くしっかりと押す。

 

カラード本部の地下20階は敵性組織の最重要人物を拘束・尋問するための特別収容施設となっており、セキュリティの都合上、茶会メンバーと極一部のカラード関係者にしか入階が許可されないフロアである。

 

その概要は究極の防御と称してフロア全体が防音型三層強化セラミックスで設計されており、収容人物の自殺防止を図るために拘束マスクの着用が義務付けられているほか、収容者全員にもれなく24時間のバイタルチェックと常時2名以上の武装した企業連専属の特殊部隊員がついている鉄壁の監獄であった。

 

地下20階に到着した王小龍一行は常駐管理責任者に用件を説明すると、すぐに目的の不明ネクストのリンクスと敵工作員が個別に収容される独房へ案内される。白く重々しい雰囲気の漂う扉の前で立ち止まった常駐管理責任者は王小龍達に向き直り、手のひらで扉を指す。

 

 

「こちらがスコフィールドバラックス駐屯地を襲撃した敵工作員の独房になります。何度か尋問を行ったのですが、恥ずかしながら情報の引き出しにはまだ成功しておりません」

 

「その程度は想定内だ。他に分かったことは?」

 

「はっ。収容時に着用していた通信機器の解析を行った結果、拘束される直前に暗号ファイルの送信を行っていることが分かりました。追跡を試みたのですが、幾重にも転送と暗号化が施されており受信者の発見はまだ発見には至っておりません」

 

「そうか。それで送信された暗号ファイルの解析は?」

 

「既に終わっています。……実は、その内容なのですが」

 

「なんだ」

 

「【オリジナルNo.10】メノ・ルーの全遺伝子データでした。スコフィールドバラックス駐屯地は本社機能の改修に伴い一時的な仮設情報保管庫も兼ねていましたので、恐らくコレが狙いだったのかと」

 

 

常駐管理責任者の言葉にローディーと王小龍は眉を顰める。この世界において遺伝子データを奪取されるという事は、クローン技術を用いた人造人間の作成が可能となる事と同義だ。そしてそれが【オリジナル】のリンクスとなれば利用価値が飛躍的に高まる。なにせ代替不能の強大な戦力が()()()()になるのだから。

 

衝撃の事実に頭を抱えそうになる王小龍だったが、ここに来た目的をなんとか思い出して隣に立つローディーに促す。

 

 

「ローディー、ここはお前だけで入れ。私達は部屋の外でまっている」

 

「分かった。こんなこと早く終わらせてコーヒーで一服しよう」

 

「……だといいな」

 

「じゃ行ってくる」

 

 

そう言ってローディーはガチャリとドアを開けて同伴する特殊部隊員と共に部屋の中に入ったが、収容されている人物の顔を視界に入れるや否やローディーは目を見開き絶句した。

 

備え付けの座椅子に腰掛けていた収容人物はガッシリとした筋肉質な体格で、背格好と年齢はローディーと同じくらいの壮年だろうか。オールバックに撫でつけられていた栗毛色の髪は収容時に抵抗したせいか雑に乱れており、着用していた黒い眼帯は、代わりに電波妨害用の拘束眼帯に換えられていた。

 

ローディーはガサツな見た目に反して思慮深い性格である。今回の件も、小龍が何を考えているかを彼なりに汲み取って臨んだつもりであった。

 

 

 

しかし誰が想像出来ようか。

 

 

 

遥か昔に死んだ筈の()()が目の前に現れるなど。

 

 

 

 

 

「久し振りだな、兄弟」

 

「…………ユナイト?」

 

 

 

 

 

時は五月、大いなる変容の(さなぎ)が形作られる季節の事である。




いかがでしたでしょうか。

今回からチャプター2のクライマックス突入です。ここまで一年……やっぱり長い……。
オリジナル要素もここからガンガン出す予定なので、今後ともお付き合い頂ければと。

励みになるので、感想・評価・誤字脱字報告よろしくお願いします。
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