凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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美人ってなんであんなにガン見したくなるのでしょうか


68.変人と天才は紙一重

海上都市【ラインアーク】

 

洋上に建設されたラインアークには海面からそびえる高層ビル群が数多く立ち並び、その中央には巨大なハイウェイが原始の巨人の如く横たわっていた。スケールこそ北米の要所【キタサキジャンクション】に劣るが、各コロニーへの物資輸送における重要度で言えばラインアークのハイウェイが一歩リードしており、今も蟻の大群のような(おびただ)しい数の輸送トラックが排気ガスを吐きながら前へ前へと前進している。

 

そんな様子とは打って変わってラインアークの居住者が住む海上ビル間の移動手段は海中トンネルかヘリコプターによる輸送に限定され、どちらも混雑や渋滞とは常に無縁の快適な交通状況であった。海中トンネルは透明度の高い海を堪能出来るように耐圧型強化プラスチックで形成されており、時折小魚の群れが海面からの光を反射させながら頭上を通過していく様子が見られる中を一台の車両が移動している。

 

鈍色の塗装が施され、大振りな黒いグリルガードが目を惹く車両はどこからどう見ても完全武装の装甲車なのだが特筆すべきは内装だ。ふかふかのソファと大画面モニター、カラオケや小型のワインセラーまで備えた高級リムジンのようになっており、その煌びやかな車内の後部座席では三人の男女が対面しながら座っていた。

 

黒髪の一人は目をキラキラさせながら内装を舐めるように観察し、金髪の一人はワインを飲みながら車窓の外を眺め、桜髪の一人はその二人を見て眉間に手を当てていた。

 

 

「いやすげぇな! 俺リムジンなんて生まれて初めて乗るぜ! こんななってるのか!」

 

「僕も初めて乗った時は驚いたよ。こんなクルマ、世界中捜しても見つかるかどうか」

 

「二人とも浮かれすぎだ。もっと…………はぁ、言うだけ無駄か」

 

 

桜髪の女性――セレン・ヘイズ――は諦めたように溜息をついて背もたれに身を預ける。丁度その時、運転席側の仕切り壁が下方向へスライドしてティアドロップ型のサングラスを掛けたプレイボーイ然の男性運転手が上機嫌に彼等に話しかける。

 

 

「よぉどうだ御三方。俺自慢のクルマの乗り心地は」

 

「最っ高だぜロイ! テンション爆上がりだ!」

 

「相変わらず良い趣味してるよね、ロイって」

 

「ハハッ! 青年とダンの気に召して嬉しいよ。ミス・セレンは相変わらずですか?」

 

「当たり前だろう。これからラインアークと交渉するというのに浮き足立っていられるものか」

 

「……ま、正論ですな」

 

 

運転手――ロイ・ザーランド――はサングラスを外して正面に見え始めた一際大きいビルを見上げた。他の高層ビル群とは(おもむき)がだいぶ異なり、目に見えるだけでも50基以上の近接防御火器システム(CIWS)が全方位をカバーするように配置され、半径500kmの索敵範囲を備えた球形早期警戒レーダーが屋上に設置されている。

 

各企業グループの本社並とまではいかないが、それでも過剰と言える防衛能力を窓越しに目の当たりにした後部座席の二人の男性――キドウ・イッシンとダン・モロ――も流石に騒ぐのを止め、借りてきた猫のように静かになった。

 

そして煌びやかな車内に一時の静寂が訪れるが、後部座席のセレンが放つ緊張感丸出しのオーラに息の詰まる感覚を覚えたダンは、雰囲気を崩さないようにそれとなく今回の一件について自身の思う所を話し始める。

 

 

「しかし王大人(ワン・ターレン)は相変わらず食えない御仁だよ。急に連絡を寄こしたかと思えば『ロイとイッシン君を連れて【アナトリアの傭兵】と直接交渉してこい』なんて言う始末さ。僕はまだしも二人に断られるって想定をしてないのかな」

 

「あの(ジジイ)のことだから全部織り込み済みで動いてんだろ。陰謀家だかなんだか知らないけど、人の扱いをもっと勉強した方がいいんじゃねえか?」

 

「まぁ、ラインアークと交渉するって時に俺を呼ぶのは流石だけどな。青年には無い(したた)かさとインテリジェンスを感じるぜ」

 

「巻き込みながらディスるの止めてくれない? ……てかロイ。【アナトリアの傭兵】と知り合いならもっと早くに言ってくれても良かったんじゃねえか?」

 

「それは僕も同意見だね。どうして今まで黙ってたんだい?」

 

「聞かれないから言ってなかっただけだ、他意はねえよ。変にひけらかして仕事が減るのも勘弁して欲しいしな」

 

 

ロイは面倒臭そうにイッシン達を軽くいなしながら車を走らせ、やがて一行は大きな鉄門の前に辿り着いた。多少深い傷痕や赤錆が浮いているがあからさまな経年劣化を受けている様子は無く、部外者を阻む役割らしい鈍重な印象を与える。イッシン達を乗せた装甲車が鉄門の前で完全停止すると同時に、右斜め上方に設置された旧式のホーン型スピーカーから真面目そうな男性の声が発せられた。

 

 

《ここは中央特区【ネスト】です。ご用件は?》

 

「カラードのロイ・ザーランドだ。【ランク9】レイブン氏と面会のアポイントを取ってる」

 

《申し訳ありませんがお引き取り下さい。首長の許可の無い【ネスト】への訪問は禁止されております》

 

「……カタい所は相変わらずだなテッド。どうせ隣にDr.マーシュいるんだろ?」

 

《あっバカお前――《呼ばれて飛び出てジャジャジャジャジャーン!ロイ君ひっさしぶり~~!》――ああもう》

 

「お久し振りですDr.マーシュ。ゲート、開けて貰えますか?」

 

《モチのロンさ!チャチャッとこうして……マーシュさん何勝手に操作してるんですか!? セラノ代表の許可が無いと《大丈夫だって! 責任は僕が全部取るからいいでしょ!》

 

 

突如として現れた溌剌(はつらつ)で活気のある男性の存在感にロイを除く全員が対応出来ず挙動不審になる中、固く閉ざされていた鈍重なゲートが錆び付いた金属音を響かせながら独りでに開門する。運転手であるロイは窓を開けて軽く腕を上げると、自身が運転する鈍色の装甲車にゲートを(くぐ)らせた。ゲートの中はコンクリートで作られたトンネルとなっており、左右の側壁上部には白く輝く誘導用ライトが20mおきに周囲を照らしていた。

 

トンネルに入って少しすると、まるでアレがいつもの感じだと言わんばかりにラインアーク関係者のテンションをスルーしていた、いやむしろ懐かしんでいたロイにイッシンとダンは全力の畏敬と疑惑の目を向ける。

 

 

「あ~やっぱり落ち着くな、あのテンション」

 

「いやいやいやおかしいだろ? なにいまの? 今の歓迎ムードは知り合いってレベルじゃねぇじゃん。というかDr.マーシュって? まさかあの天才設計者(アーキテクト)アブ・マーシュ? それともう一人のテッドって誰よ? 」

 

「ロイ。僕たちにまだ隠している事があるだろ」

 

「だからなんも――」

 

「もういいんじゃないか?」

 

 

不意にそれまで目を閉じながら沈黙を守っていたセレンが腕組みをして窓の外を眺めながら口を開く。同じく後部座席に座っているイッシンとダンは意識を()()()()()()素振(そぶ)りのセレンに集めるが、彼女の言う『もういい』の意味を測りあぐねていた。その様子を見てなお出し渋るロイの背中を押すようにセレンが言葉を繋げる。

 

 

「あの老人のことだ、文字通り全て織り込み済みだろう。それに隠したところでなんになる? どのみち知ることになるなら早いに越したことはないだろう」

 

「……はぁぁ、わかりましたよミス・セレン。でもまずは彼等への自己紹介が先だと思いますがね」

 

 

ロイの言葉にセレン達がフロントガラスの向こう側を覗き込むと、500mほど先のトンネル終点付近に人が集まっているのが見えた。人数にして10人前後だろうか。中央には白衣を着た人物が立っており、その他の全員は灰色一色の戦闘用ヘルメットとボディーアーマーに身を包んだ兵士であることが確認できる。

 

ほどなくして彼等の前で停車し、イッシン達一行(いっこう)が車から降り立つと、兵士達の中央にいる白衣の人物が両手を広げて歓迎ムード全開で出迎えてくれた。歳は四十代半ばだろうか。好奇心の赴くままに研究してきたのだろう、白髪混じりの細身な男性だが疲労の色は一切見えず、むしろイッシン達と会えたことで刻一刻とバイタリティが満ちていってるようにも見えた。

 

 

「ようこそ【ネスト】へ! 君のような素晴らしいリンクスに直接会えるなんて、今日はなんて良い日なんだ!!」

 

「お久し振りです、Dr.マーシュ」

 

「なんでそう畏まるんだロイ君!僕のことは呼び捨てて構わないっていつも言ってるだろ?」

 

「ラインアークの技術開発主任を呼び捨てだなんて出来ませんよ」

 

「そういう所はオヤジさんそっくりだな! 優秀なリンクスは下手(したて)に出た方が得だって教育を履修しているのかい? じゃせめてマーシュさんと呼んでくれよ!Dr.なんてガラじゃないからね!」

 

「……すげぇハイテンションだな」

 

「僕もちょっとキツいかな……」

 

「おっそこにいるのは………ダン・モロとキドウ・イッシン!? それに霞スミカまで! 大盤振る舞いじゃないか!!」

 

 

ロイとの邂逅もそこそこにイッシン達の存在に気付いたDr.マーシュは、比喩表現なしで両目をキランと光らせると風のような速さで三人に掛けよる。

 

 

「ふむふむ! データでは確認していたが実物はこんななんだねぇ! ……あれ? ダン・モロ、君の上腕三頭筋がデータより1cm肥大しているけどトレーニング方法を変えたのかい?」

 

「いや、あの……」

 

「マーシュさん、その辺りで。今日はレイブンさんと交渉しに来たんです」

 

「ん?ああ! そうだったねゴメンゴメン! それじゃ行こうか! こっちだよ!」

 

 

嵐と呼ぶにはあまりに激しく、そして苛烈な出迎えにロイ・ザーランドを除く全員の心は一つになっていた。

 

 

 

(((………帰りてぇ)))

 

 

 




いかがでしたでしょうか。

ロイとラインアークの関係とは……。
アブ・マーシュはハンサム研究員にしたかったのですが、ホワイト・グリントにあんな変態可変機構(褒め言葉)を搭載した人間が変人じゃない訳ないんだよなぁ。

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