凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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今回はちょっと長めです。


69.旧き伝説たち

「アレがラインアークで開発中の無人MTだよ! 今は半自律思考型だけど、完成形は完全自律型の学習AIを搭載しようと思ってるんだよね! それと向こうでプカプカ浮いてるのが小型AFの試作機でさ! あっ旧世代のフェルミと同じサイズだって侮らないで! 総火力はフェルミの2.5倍をマークしてるし、現行のAFと比べて人員も7割カット出来るから万年欠員だらけのラインアークにぴったりなんだ! それにねそれにね――」

 

「なぁ、アイツぶん殴ったら黙るかな」

 

「止めときなよ。死んでも喋り続けるよ? たぶん」

 

 

ロイの知己であるアブ・マーシュとの邂逅から一時間弱。イッシン達一行は今回の訪問の本命である【ランク9】レイブンに会いに行くに当たってどうしても技術開発研究所の通路を通過せざるを得なかったために、かれこれ約40分ほどアブ・マーシュの新兵器談義に付き合わされていた。

 

アブ・マーシュ。

 

AMS技術の最前線であるアスピナ機関に主席研究員として所属していた彼は、伝説の名機【ホワイト・グリント】を設計した功績を称えられて各企業グループ宗主から直々にヘッドハンティングの連絡が飛び込んでくるほどに優秀で不世出な人物だった。

 

彼自身、その待遇に満足して甘んじていたのだが、その折、突如として世界中に未曾有の被害を巻き起こした企業間戦争――リンクス戦争――が発生する。

 

戦争終結後、戦火を拡大させた一因に【ホワイト・グリント】が深く関わっている事に葛藤したアブ・マーシュは責任を取る形でアスピナに辞表を提出する。当然アスピナはその提案を一蹴し、逃げ出さないように彼を身柄を軟禁状態で拘束するが、『現職を辞める』と岩のような固い意志を持っていたアブ・マーシュは隙を見て脱走。

 

しかし頼れるツテも無くどうしたものかと思案しているなか、かつて協力関係だったコロニー【アナトリア】の研究員がラインアークに偶然にも身を寄せているという情報を聞きつけ、善は急げとラインアークの門を叩き、無理矢理研究員として雇ってもらい今に至っていた。

 

そんな行き当たりばったりな彼の勝手を知っており、先程まで一同を牽引していたロイも熱心な研究談義にはお手上げ状態のようでウンウンと頷いては会話を切り出そうとして(ことごと)く機会を潰されていた。セレンに至っては熱心に聞き入ったのちに詳細な質疑応答を求めている。

 

灰色に統一された周囲の護衛兵士達も『また始まったよ』と言わんばかりに呆れた笑いを浮かべている始末だ。

 

 

「Dr.マーシュ、そろそろ……」

 

「そうだった!アレを紹介するのをすっかり忘れていたよ! ほら見える? あそこに懸架されてる菱形の! 実はホワイト・グリント用にレーザーブレードを開発中でさ! あれが記念すべき第一号試作品なんだ! でも課題がいっぱいあってさ。威力はピカイチなんだけど、消費ENが尋常じゃないんだよねぇ」

 

「それはブレードの発振時間を短くすればいいのではないか? 現行のレーザーブレードは残心中にもブレードが発振している。それを無くせば――」

 

「!! ナイスアイデアだよ霞スミカ! さっそく開発班に伝えないと!」

 

「……なぁ、やっぱりぶん殴った方がいいんじゃねえか?」

 

「だからやめなって」

 

「ずいぶんと楽しそうで何よりです。マーシュ博士」

 

 

急に女性の声が聞こえたのでその方向を見ると、ライ麦畑のような(たお)やかな金髪のハンサムショートがよく似合うスーツ姿の一人の女性が立っていた。

 

20代後半らしい大人びた魅力と可憐な少女の愛しさを併せ持ったその女性はツカツカとアブ・マーシュに歩み寄って再び声を掛ける。

 

 

()の客人を案内するとは聞いていましたが、技術開発研究所の中枢を公開するとは聞いていませんよ?」

 

「まぁまぁ、そう怒らないでイェルネフェルト女史! たったいま霞スミカからナイスアイデアを――アイタタタタッ! 耳をつねらないで!」

 

「ご自分の発明を無闇矢鱈に見せびらかさないようにと何度言ったら分かるんですか? ご自分の署名付きで誓約書も書いてるでしょう」

 

「は、発明に善も悪もないだろ! 私は科学者としての本分を――だから痛いって! 耳が! 耳がモゲる!」

 

「マーシュ博士が研究成果を見せびらかさずに生活してくれるならいっそ、モぐのも手ですね」

 

「……相変わらずスパルタだな、フィオナ」

 

「そう? 貴方は相変わらず軽薄そうね、ロイ」

 

 

フィオナと呼ばれたハンサムショートの女性はマーシュ博士の耳をつねったまま一同の前に移動し、敵意は一片も無い事を示すように(うやうや)しく頭を下げた。

 

 

「申し遅れました。ラインアーク防衛管制指令室特別補佐官および中央特区特別監査役のフィオナ・イェルネフェルトです。貴方方の来訪を歓迎します……ほら、博士も」

 

「僕はさっき自己紹介したからアイタタタッ!――アブ・マーシュ、47歳、男、好きな食べ物はチョコチャンククッキー、これでいい?」

 

「役職もです」

 

「あ~~一応ここで開発責任者をしてて、防衛兵器の開発だったりホワイト・グリントの調整だったりを任されてるよ」

 

 

フィオナに耳をつねられたままのアブ・マーシュは悪戯のバレた猫のようにシュンとさせて、何処となく哀愁を感じさせる表情のまま滔々(とうとう)と言われた事を喋っている。一瞬その様子に同情しそうになるも、先ほどまでのマシンガントークに付き合わされた恨みでイーブンだと判断したイッシンは気にすることなく返答した。

 

 

「キドウ・イッシン、カラード所属の【ランク18】だ。そんでこっちが――」

 

「【ランク3】ダン・モロです。一つ聞きたいんですがロイとは古い仲なんですか?」

 

「出会って8年になります。俗に言う腐れ縁のようなものです……それで、その、後ろにいらっしゃる方は【オリジナル】の霞スミカさんとお見受けしますが」

 

「その名は捨てた。今はセレン・ヘイズとしてこいつ(イッシン)のオペレーターを務めている」

 

「……分かりました。それでは皆様こちらへどうぞ、彼の待つ部屋までご案内します」

 

「ねぇ、いい加減離してよ。本当に耳がモゲそうなんだけど」

 

「あっそうでしたね」

 

 

アブ・マーシュの沈痛な嘆願を聞き入れたフィオナはパっと手を離して哀れな変態科学者を解放した。彼はヒリヒリと赤くなった耳をさすり、フィオナの横で年端もいかない子供のような愚痴をわざと聞こえるように呟くが彼女は特段気に掛ける事もせず、はいはいと受け流しながら歩を進めていった。

 

イッシン達はその様子に肩を竦めつつも、フィオナの先導に応じるように追従して進んでいく。一同を飲み込む少し入り組んだ造りの廊下はツカツカと鳴る足音を無機質に反響させ、会話らしい会話がなされる訳では無い彼等に何かキッカケを作り出そうとしているようだった。

 

そんな善意を知ってか知らずか、セレンが口を開く。

 

 

「イェルネフェルト補佐官。一つ質問をしていいか」

 

「私が答えられる範囲であれば構いませんよ」

 

「アナトリアには、いまでも?」

 

 

セレンの問いにフィオナは(まばた)き程度のほんの一瞬だけ動きを凍らせるが、すぐにそれは氷解して何も無かったと言わんばかりに平然と歩みを再開させた。尤も、横にいたアブ・マーシュは気付いたようで彼女を心配するようにチラチラと横目で流し見ているが。

 

 

「ええ。年に一回、彼と一緒に」

 

「贖罪か」

 

「いいえ、覚悟のためです。二度と繰り返してはいけないという覚悟のために」

 

「……そうか。不躾な質問だったな、謝る」

 

「気にしないで下さい。多分、リンクス戦争が始まった時点で()()()()ことは決まっていたんだと思いますから」

 

 

フィオナは寂しそうに笑って気丈に振る舞うが、それを見てイッシンとダンは密かに心を痛める。転生者である彼等は、原作で彼女がどんな半生を歩んで来たかを目の当たりにしていたからだ。

 

彼女の故郷であるアナトリアはかつてアスピナ機関と双璧を成すAMS技術を基幹産業とした豊かな技術都市であり、その根幹を支えていたのがフィオナの実父【イェルネフェルト教授】だった。しかし【イェルネフェルト教授】の死後まもなく、アナトリアのAMS技術が何者かにより外部へ流出したことにより状況は一変する。

 

技術的なアドバンテージが失われたアナトリアは下り坂を転がるように凋落していき、最終的にはコロニー存亡の危機にたたされることになったのだ。

 

この状況を打開するためにはどうしたらよいかと皆が頭を悩ませている中、一人の男性が声を上げた。

 

『技術研究用のネクストを傭兵として企業に売り込めばいいのではないか』

 

当時活動していたリンクスの(ほとん)どが企業専属であった事に加えてリンクス自体の絶対数が少なく、需要に対して供給が間に合っていなかった。それに技術研究用のネクストを一機失ったところで痛手にはならない。偶然にも最近、AMS適性のある身寄りの無いパイロットが()()()()()()()()のもある。渡りに船ではないか。

 

アナトリアは男性の意見を是とし、傭兵ビジネスをスタートさせた。そうして矢面に立たされたのが【アナトリアの傭兵】であり、そのオペレーター役に選ばれたのが【イェルネフェルト教授】の実子フィオナ・イェルネフェルトだった

 

彼の圧倒的戦果によってアナトリアは再び潤い、その栄華を存分に満喫していたのだが、それを快く思わない勢力によって脅威に晒されることも多くなった。最初こそ【アナトリアの傭兵】によって壊滅した組織残党の襲撃が主だったのが、次第に企業との関係性を思わせる襲撃が多くなっていく。

 

そして最後にはアスピナ機関のリンクス【ジョシュア・オブライエン】による襲撃を受け、甚大な被害を受けてしまう。なんとか【アナトリアの傭兵】が彼を撃破するものの、アナトリアの再興は叶わず壊滅してしまった。

 

故郷の破滅の(さま)を間近で、最後まで逃げずに見続けなければ行けなかった彼女の心情は推し量って余りある。しかしイッシンとダンは言葉を掛けられない。

 

仕方ないだろう。あの世界を、あの戦争を、あの殺し合いを楽しいと感じながら()()()していたのだから。

 

 

「着きました、こちらです」

 

 

いつの間にか目的の部屋に到着していたようで、目の前には無機質な鉄製の扉が佇んでいた。フィオナはガチャリとドアノブを回して中に入る。一行もそれに従い部屋の中へ入った瞬間、窓際に一人の男性が立っているのが目に映った。

 

白いリネンシャツとクリーム色のスラックスというシンプルな服装に身を包んだ男性は黒々とした髪の毛に白髪がぽつぽつと見えており、それなりに年齢を重ねた容姿をしている。しかし体躯はカモシカのようにしなやかで力強い印象を与え、年不相応とも呼べる若々しさを醸し出していた。

 

そして何よりも特徴的なのがカミソリのように鋭いのに穏やかさに満ち満ちた眼差しと、本人から見て左こめかみから下顎に掛けて刻まれた大きな(きず)だった。

 

男性はこちらに気が付くと、ゆっくり振り向いて微笑む。待ちくたびれたように気怠げで平和な笑顔だった。

 

 

「こんにちは、私が【ランク9】レイブンです」




いかがでしたでしょうか。

そういえば7/10はアーマードコア24周年でしたね。24は2+4とも読め、答えは6になります。
もうお分かりですね? これこそ今年度中にアーマードコア6が発売されるという暗号なのです(暴論)

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