凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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70.契約

ウィン・D・ファンションがそれを調べ始めたのは只の好奇心だった。リンクス戦争を生き延びたローディーと王小龍をして『撃墜は不可能』と言わしめる【アナトリアの傭兵】。その実力はどれほどのモノなのか。

 

王小龍の言った通り、インテリオルグループ宗主に直談判して【アナトリアの傭兵】の戦闘記録に掛けられたアクセス制限を解除して貰い、同世代であるオッツダルヴァとジェラルド・ジェンドリンと共に記録を再生する。

 

記録を見る前にウィンが抱いていた感情は、ロートル達への嘲りだった。――十数年前に活動したノーマル乗り崩れのリンクスに負ける筈がない。大方、薄くなり始めた記憶を美化して当時最強だった【アナトリアの傭兵】を神格化しているだけだ。

 

初めからネクストに搭乗するために訓練してきた私達とは土台が違う。負ける要素などない。

 

()()()()()()()

 

映し出されたのは旧ピースシティで待ち構える4機のネクスト部隊に突撃していく1機の黒いネクスト。

 

――なんだ。こんなリンチ映像で実力を推し量れというのか。味方が4機もいては【アナトリアの傭兵】の実力など分かるはずが無いだろう。

 

そう思っていた矢先、4機のうちの桃色の機体が黒いネクストに撃墜される。

 

『戦場だ。覚悟は出来ている』

 

4対1という圧倒的不利でありながら敵を撃墜するとは、黒いネクストはかなりの手練らしい。【アナトリアの傭兵】はどうやって黒いネクストに勝ったのだろうか。

 

次は4機のうちの青い機体が撃墜された。

 

『なるほど……強い……』

 

黒いネクストには未だ損傷らしい損傷は見当たらない。4対1が瞬く間に2対1になった。かと思えば4機のうち、頭部の赤い四脚が撃墜されて1対1になる。

 

『くそっ!俺のせいかよ!』

 

ここでやっとウィンは自身が抱いていた違和感に気付き、自身の間違いに気付き、同時に恐怖した。

 

――ふざけるな。圧倒的過ぎる。こんな人間がいてたまるか。

 

そんなウィンの希望的観測を踏みにじるかのように最後に残った4機のうちの黒いネクストが撃墜される。

 

『良い戦士だ。感傷だが、別の形で出会いたかったぞ』

 

そこで映像は途切れてブラックアウトし、ある文章が表示された。

 

 

 

 

 

 

【アナトリアの傭兵】は【ランク9】レイブンとして活動中。なお現在の戦闘パターンを測定した結果、本戦闘記録との戦闘能力減少率は30%であることが観測された。

 

よって【アナトリアの傭兵】への軍事介入はカラードに十分な戦力が整った場合にのみ許可するものとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――なるほど、ついに企業連は重い腰を上げた訳か」

 

「ええ。ですが王大人(ワン・ターレン)曰く『勝者無き戦いに自ら挑むほど【アナトリアの傭兵】は愚かではないだろう』と」

 

「……そのための君達だな?」

 

「話が早くて助かります」

 

 

五月特有の心地良い日差しが入り、日光浴と瞑想には最適の設備が揃った穏やかな一室では七名の男女が木目の美しい黒樫のテーブルを境に四:三に別れて剣呑な雰囲気を漂わせながら座っていた。

 

一方には王小龍の代理人兼交渉人(ネゴシエーター)の【ダン・モロ】を筆頭として【ロイ・ザーランド】【キドウ・イッシン】【セレン・ヘイズ】が。もう一方にはラインアーク首長ブロック・セラノの代理として【レイブン】【フィオナ・イェルネフェルト】【アブ・マーシュ】が座っている。

 

 

「僕自身、老人達のワガママで貴方を失うほど馬鹿らしいことは無いと思っています。だからこそ、微力ですが助太刀に参上しました」

 

「独立傭兵のトップ3が微力とは。これ以上は望めない最高戦力じゃないか」

 

「ありがとうございます。それでは「その前に一つ」

 

 

交渉が上手く進んだと思っていたダンは、不意に発せられたレイブンの遮るような力強い声に身体を強張らせた。彼の目は先ほどまでと同様に鋭くも穏やかな光を宿しているが、奥に携える芯は全く別物のように見える。つまり、節度ある協和ではなく猜疑ある最大級の警戒にシフトしていたのだ。

 

試されている、と直感的に判断したダンは声色と態度を一切変えること無く応対する。――あくまで平常心で、精神を鎮めて、ゆっくりとアクションを起こせ。

 

 

「……なんでしょう」

 

「一応聞いておきたい。()()()()()()()()

 

「は?」

 

どういうつもり?

なんのことだ?

不快にさせる行いはしていないぞ?

まさかバレた?いや有り得ない。

 

「ああダン、君じゃない。隣の彼女だ」

 

 

レイブンの言葉にハッとしたダンは跳ね上がるように素早く振り向く。するとそこには、右腰に据えられたホルスターに手を掛けたまま微動だにしないセレンがいた。幸いにも呼吸に乱れが無いことから彼女自身が冷静であることは一目で分かり、情動に駆られて銃を抜く気配は一切無いのだが、それでも交渉の場にそぐわない行いに変わりない。

 

――最悪だ。最悪のタイミングだ。

――少し考えたら分かることなのに何故気付かなかった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「おいセレン! なにやってるんだよ!?」

 

「黙ってくれイッシン。私はコイツに聞きたい事がある」

 

「馬鹿言うなよ! 今現在で企業連とラインアークの戦争より大事な疑問なんてあってたまるか!」

 

「少なくとも私にとっては最重要だ。これを聞けないなら私は降りる」

 

 

鋼のような固い意志でイッシンの問答を一蹴したセレンはホルスターから手を離すこと無くレイブンを見据える。黒樫のテーブルを(また)いだ距離は約1.5mほど。この距離で発砲するなら外すことはまず無いだろう。

 

生殺与奪を権を握られたレイブンであったが、さすが歴然の英雄といったところだろうか。弾の込められた銃が向けられるかも知れない状況を特に気にする事なくセレンの眼差しに答えた。

 

 

「なら最初から言ってくれ。重要な会談の場を蔑ろにして、それも銃を握って脅すほど聞きたいこととはなんだ?」

 

「………サーは、サー・マウロスクはどんな最期だった」

 

 

自然と右手に力が入るのを自覚したセレンは、自らの意志が暴走しないように深く息を吐いて絞り出すようにレイブンへ問う。ネクストの操縦を教わった師を、身寄りの無い私にとって父親のような存在を、生まれて初めて慕情を抱いた男性を殺した相手に。

 

 

「――彼は最期の最後まで()()だった。劣勢に追い込まれても自身の勝利を疑わず、機体が完全に停止してもなお目的のために戦おうとしていた。正真正銘の騎士(サー)だよ、彼は。……これでいいかい? セレン・ヘイズ、いや霞スミカ」

 

 

レイブンの淡々した答え方に、ダンはセレンの方を恐る恐る見遣る。聞く人が聞けば挑発にも聞こえる口調が彼女の逆鱗に触れないか心配した故の行動だったが、当の本人は既にホルスターに掛けられた右手を降ろしていた。尤も、レイブンに向けられた視線はジト目のままであるが。

 

 

「ああ。だが納得した訳じゃない、それを忘れるな」

 

「構わないさ」

 

 

一気に高まった緊張感にとりあえずの段落をつけられた事で軽く弛緩した空気が流れ始め、アブ・マーシュに至ってはあからさまに胸を撫で下ろす仕草をしている。交渉人(ネゴシエーター)であるダンも、この会談がご破算にならなかった事に内心ホッと一息ついて安心するが、当初の目的を達成していない事に気付いてコホンと咳払いをした。

 

 

「……話を戻しましょう。改めて確認ですが、ラインアークは我々の援助を受ける形でよろしいですね?」

 

「もちろん。企業連がラインアークを襲撃するのなら僕はラインアークを(まも)るだけだ。それに人手は多いに越したことは無いだろ?」

 

「仰る通りです。――作戦概要は近日中に暗号化した秘匿回線でお知らせします。双方にとって利益ある関係になれたことに感謝致します。それでは」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 

ダンとレイブンは同時に立ち上がって固く握手を交わす。契約締結まで漕ぎ着けたことで目的達成が果たされた交渉人(ネゴシエーター)サイドの面々は席を立ち、先導役であるフィオナに引き連れられてその場を後にしようとするが、レイブンが不意に声を掛ける。

 

 

「ロイ。親父さんには会わなくていいのか? 折角帰って来たんだから顔くらい見せてやれ」

 

「いや、今日は止めておきます。この面子(メンツ)でラインアークに長居するとカラードに怪しまれますから」

 

「……そうか。だが作戦決行前には会っておけよ、彼はああ見えて結構な心配性だからな」

 

「分かってますよ」

 

 

ロイはそう言って困ったように笑うと、退室する一同に続いて部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイブンとの邂逅を終えてラインアークを後にしたイッシン達はロイの装甲車に乗って帰路に着いており、時刻は既に陽が傾き始めた頃を示している。

 

装甲車は既に市街地に入っておりカフェや本屋などの一般的な娯楽施設が軒を連ねているが、緊張と緩和の波に幾度となく晒され続けた一行はどうしても行く気になれず全員車内でグタっとしながら他愛ない会話で消耗した精神を回復させようと努めていた。

 

 

「そういやロイ、父親がラインアークに居るってことは生まれがラインアークなのか?」

 

「そうだぜ。まぁ厳密にはラインアークが成立する前にあったコロニーだがな」

 

「だったら独立傭兵なんか辞めてラインアークの専属になればいいじゃねえかよ。父親も居るし、生まれ故郷なんだろ?」

 

「さっきも言ったが俺は企業連と揉めるのは御免だし、今の生活の方が性に合ってる。今更帰る気はねえよ」

 

「ふ~ん。そんなもんか」

 

「そんなもんだ」

 

「――あっ、ロイ。ここで降ろしてくれるか」

 

 

不意にダンが声を上げた。ロイはバックミラー越しに後部座席で気怠そうに座るダンを一瞥すると、路肩に装甲車を寄せてハザードランプを点灯させる。完全に停止した事を確認したダンはガチャリと後部ドアを開け、アスファルトの上に降り立った。五月だけあって過ごしやすい陽気だが、時折吹く風が妙に肌寒く感じる。

 

 

「ホントにここでいいのか? なんなら家まで送ってくぜ?」

 

「気持ちは嬉しいけど今は歩いて帰りたい気分なんだ。久々にムーンバックスのコーヒーも飲みたいしね」

 

「ならいいけどよ。気を付けて帰れよ? 最近は物騒な事件が多いからな」

 

「肝に銘じておくよ。……分かっていると思うけど今回の件は他言無用でね。カラードにバレたら台無しなんて話じゃ済まないよ? 特にイッシンくん」

 

「なんで俺だけピンポイントなんだよ」

 

「この中で一番口が軽いのがお前だからだ」

 

「ひっでーなセレン! もっとオブラートに包んで言ってくれてもいいだろ」

 

「ハハハッ! 相変わらず仲が良いね。――それじゃ決行日時が決まったら連絡するよ。それまで皆、英気を養ってくれ」

 

「了解。じゃあなダン」

 

「うん。じゃあ」

 

 

そう言ってダンは一行が乗る装甲車から離れ、人混みの中をスタスタと歩いていく。次いでロイ達もダンが帰った事を確認して車を動かし、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

prrrr…prrrr…prrrr……ガチャ。

 

 

《……首尾は?》

 

「問題ない。今のところ計画通りだ」

 

《気は抜くなよ。足元を(すく)われるぞ》

 

「心配し過ぎだ」

 

《正直、私は新入りのお前をまだ信用していない》

 

「信用しなくていいさ。忠誠は仕事で示す」

 

《……次の定時連絡は―――だ。忘れるな》

 

「ああ。分かってるさ、アラン」




いかがでしたでしょうか。

間延び感が否めない………。戦闘シーンを待っている方には申し訳ないです。もう少しだけお付き合い下さい。

励みになるので、評価・感想・誤字脱字報告よろしくお願いします。

PS,コストコの寿司を初めて食べたのですが、意外と美味しいですね。ちょっとビックリしました。
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