「どうした。アスピナで生まれた改造人間様の実力は逃げ回るだけじゃないだろ?」
《生まれたという表現には
マイブリスの背部兵装【VERMILLION01】および左腕兵装【GAN01-SS-WGP】の二重奏が高速で移動するフラジールを捉えようと四方八方に飛び回るが、フラジールは反則的で不規則な軌道をとることにより的を絞らせないようにしていた。
殺人的な加速度による乱上下の連続は対G訓練を行ったベテランの戦闘機パイロットでも吐瀉物を吐いた上で気絶するレベルである。しかしCUBEは涼しい顔で淡々と操縦しており、呼吸一つ乱れる気配がない。
「一発も当たらないのは流石に悲しくなるな……」
《言ったでしょう、貴方の戦闘記録は学習済みです。こちらとしては
「――奥の手ってのは出し渋るから奥の手なんだよ!」
ロイはそこまで言うと、右腕兵装【HLR09-BECRUX】および背部兵装【DEARBORN03】を展開して発射した。ロック対象に接近次第爆発する近接信管式ミサイル【DEARBORN03】と、高い弾速と瞬間火力を誇るハイレーザーライフル【HLR09-BECRUX】のマリアージュは被攻撃者側の動揺と攻撃命中時の威力を両立させた良いコンボなのだが、それすらもフラジールは反則的で殺人的な軌道と速度で軽々と躱していく。
《イレギュラーとの戦闘記録ではマイブリスが緋色のコジマ粒子を展開した瞬間、
「悪いが担当責任者にキツく言われてるんでな。タネ明かしをするつもりはないぜ!」
《問題ありません。あのような技術を開発出来るのは世界広しといえどアブ・マーシュ博士だけでしょう。ですので本作戦達成後、アスピナが責任を持って博士を
「尋問の間違いだろ、改造人間!」
マイブリスは両手の【HLR09-BECRUX】および【GAN01-SS-WGP】を再び構え、大胆かつ精確にフラジールへ攻撃の牙を向けた。先ほどのようなミサイル+レーザーの攻撃では捉えきることは出来ないと判断したロイは戦法を変えて、空を這う縄のような【GAN01-SS-WGP】の弾道と直線的な弾道の【HLR09-BECRUX】を掛け合わせた攻撃方法に移行する。
ミサイルを織り交ぜないことにより敵機への命中率は下がるが、それは通常の話。巡航ミサイルを余裕で振り切る速度を常時出力することが出来るフラジール相手に『追い着いて爆発する兵器』など分が悪いにも程がある。だからこそ多少の命中率低下は自身の技量で補い、より柔軟な対応が可能になる射撃武器をロイは選択したのだ。
縦横無尽に追いかけてくる光と弾丸のパレードに対して、被弾するのはマズいと判断したCUBEは細やかなブースター調整と思い切りの良い踏み込みを駆使し、紙一重で弾丸を躱していく。更に、ロイの攻撃を中断させるためフラジールの背部兵装【XMG-A030】を起動して横っ飛びの状態になりながらも射撃を開始した。近距離用スラッグガンに分類される【XMG-A030】は双方共にある程度の距離を保っている現状況に於いて打撃力の見込めない兵装の一つであるが、CUBEの目的は別に存在するため構うこと無く射撃を継続した。
その目的とは『兵装破壊』である。
ネクストは機体の駆動部分にアクチュエーター複雑系を採用しているとはいえ、様々な外気に晒された千差万別の環境でQBなどの急激な加速による高負荷と、敵兵器による実弾・ミサイル・レーザー・コジマ兵器の、衝撃・過熱・汚染に耐えられるだけの耐久性と頑丈さを兼ね備えている。
それらは
威力に特化した超大型ミサイル、数発しか撃てないレーザーライフル、搭乗リンクスを殺しかねない致命的なコジマ汚染を引き起こすブレード等々……。特定のリンクスしか買わないんじゃないかと疑うような、本当に様々な兵装が開発されたのだが、問題はその全てにおいて【耐久性能】のスペック欄が省かれているのだ。これについて指摘された各企業の広報担当は、みんな異口同音に声を揃えてこう言った。
「消耗品ですから」
企業の意地汚い商魂の逞しさを垣間見た所で、場面はフラジールが【XMG-A030】でマイブリスの兵装を砕こうとしている最中へ戻る。
CUBEの意図に僅かながら気付くのが遅れたロイは、既に着弾してしまった【GAN01-SS-WGP】をパージして出来るだけ遠くへ放り投げた。数秒後【GAN01-SS-WGP】が内側から線香花火のような火花と共に赤熱したかと思えば、次の瞬間には一輪の爆炎が発生する。
空中に創り出された小型の太陽に赤く照らし出される鈍色の巨人は迷う素振りも見せずにQBを発動して、その場を離脱した。
――強いとは思っていたが、まさかここまでとは。
自身の先見の甘さに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるロイは、援護を求めるべきか計りかねたためにマイブリスのメインカメラをもう二つの戦場に向ける。
建前は向こう側の戦況を確認した上で判断しようと。本音は向こうにホワイト・グリントがいるのだから、少しの間ダンを借りても問題はないだろう。しかしその考えは甘過ぎたということをロイは直ぐに認識する。
何故なら、古代の英雄譚から飛び出してきたのかと錯覚するような壮絶な闘いが繰り広げられていたからであった。
ヒロイックな見た目をしたトリコロールの巨人と悪魔のように先鋭的なフォルムの赤い巨人は先程までのガン・カタから近中距離での射撃戦に戦い方を変えているが、双方から放たれるプレッシャーは比較にならないほど増大しており、下手に手を出せばとばっちりを喰らうこと必定の様相を呈している。
流石に援護を頼める状況ではなさそうなので仕方ないと諦めてもう一方の戦場に目を向けるが、そちらでは白亜の巨人と深青の巨人が相も変わらずベーゴマのように弾かれては引かれ、弾かれては引かれの超高速戦闘を継続しており、むしろ戦闘速度と苛烈さは開戦時よりも大きく増しているように見えた。
都合、どちらの援護も受けられる可能性が絶望的であると理解したロイは浅い溜息をつきながら通信を繋ぐ。その間もフラジールから絶えず降り注ぐ【XMG-A030】の雨嵐を避けながら移動し続けるロイの技量もまさに一級品であるのだが。
「青年、聞こえるか」
《――いま二つ目のツインチーズバーガーを食べるとこだから後でもいいか?》
「出来れば早めに平らげてくれ。ちょっとジリ貧気味なんでな」
《おう、バッチリ見えてる。余裕かましてた割に旗色悪そうじゃん》
「お察しの通りすぎて笑えねえよ……その場所から援護射撃出来るか?」
《たぶんフラジール相手だと一発しか通用しねぇけどいいか?》
「充分さ。あとはこっちで何とかする」
《了解、それじゃ頼れるオッサンのために一肌脱ぎますか》
戦場より遥か後方、ラインアーク居住エリアを防御する巨体な隔壁の前で佇んでいたストレイドはリンクスであるキドウ・イッシンの
【RC01-PHACT】は弾速および射程距離だけに絞ればBFF社の誇る超大型スナイパーキャノン【061ANSC】を超える性能を有しているのだが、レールキャノンに必要不可欠な電磁を生み出すために尋常ではないエネルギー消費量がネックとなり、ネクストの兵装としてはあまり人気は無い。しかし固定砲台として運用するのであれば話は別だ。イッシンは【RC01-PHACT】の電磁出力を最大値まで上げてコックピットに備えられたスコープを覗く。
――この兵装の最大有効射程は2500ほどだが、あくまで有効射程。牽制用として運用するなら1.5倍程度の距離でも問題ないだろう。
そう判断したイッシンは自身のオペレーターであるセレン・ヘイズに戦場のリアルタイム分析を仰いだ。返ってきた返事はYES。しかしその声は気怠げで面倒臭いと言わんばかりの雰囲気だ。
「セレン、プレイボーイからのSOSだ。フラジールの行動パターン予測を頼む」
《……なぁイッシン。いっそのことアイツはここで死んだ方が世のためになると思わないか?》
「なんだよ急に」
《企業連のマーリー・エバンに手を出した翌日にインテリオル仲介人のマリー=セシール・キャンデロロに手を出し、その次の日には何食わぬ顔でスティレットさんと会食してた。しかも全て同じレストランでな。間違いなくアイツは女の敵だ》
「――その議論はおいおい。いまは助けるのが先決だ」
《チッ!!……完了した、ストレイドにデータを送る》
スピーカー越しでも腹立たしさを隠そうともしないセレンに苦笑いで応じるイッシンは、それでも一応自らの仕事を
そうこうしているうちに行動パターン予測が送られてきた。イッシンはストレイドのFCSにそのデータをインストールして再びスコープを覗く。蝿のように予測しづらく機敏に動き回るフラジールと言えど、予測パターン誤差±20%まで精度が上昇した【RC01-PHACT】ならば装甲を掠めることくらい問題なくこなせる筈だ。
フーッと息を吐いて精神を鎮め、イッシンは狙い澄ましたタイミングでトリガーを引いた。
レールキャノンである【RC01-PHACT】の砲声は【061ANSC】のようにバシュンと大袈裟な砲声が鳴ることは無い。ただ、バチバチッと放電の音が鳴っただけ。しかし間違いなく放たれた砲弾は音速を優に超えた速度でフラジールめがけて韋駄天の如く駆け抜けていく。
刹那、フラジールの装甲のごく一部が僅かに弾け飛んだ。箇所で言うと空力特性を最大限活かすために肩部に設置された小型の翼弦の先端という何とも言えない場所なのだが、撃たれた本人であるCUBEは一瞬なにが起こったのか理解できず、状況把握のためマイブリスに撃ち続けている【XMG-A030】の雨嵐を中断して即座に距離を取った。そしてコックピットから砲弾が撃たれた方向を見遣る。
「レーダー射程外からの狙撃……キドウ・イッシンですか。あの速度を捉えるとは見事です。彼には更なるデータ収集が期待できますね」
《それよりも、まずコッチのデータ収集に集中したほうがいいんじゃねえか?》
ロイの声にCUBEは顔を向け直すと、そこには緋色のコジマ粒子を爛々と輝かせたマイブリスが纏う雰囲気を明らかに変えて此方を睨んでいた。先程までを『練習』と表現するなら今の状態は間違いなく『本番』。手加減無し、慈悲無しの本気モードといったところか。
よく見るとマイブリスの頭部に設置されている折れた双角のような形状のスタビライザー上部が開き、中から先鋭的な角が生えてきている。その姿はまさしく『一つ目の鬼』であった。
「これはまた、面妖な――」
《【ドルニエの黒鬼】の本気、見せてやるよ改造人間》
いかがでしたでしょうか。
マイブリスのスタビライザーが変形する機構はオリジナルです。だってその方がカッコいいじゃん。
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