凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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ちょっと遅れちゃいました。

女子高生の姪に会ったのですが、彼女の周りでは『ナウい』が流行っているらしいです。やはり時代は一巡するものなんですねぇ(遠い目)


75.ラインアーク事変・Ⅲ

前方距離600の位置で緋色のコジマ粒子を纏うマイブリスの右手に握られた【HLR09-BECRUX】から放たれる二本の青い光条を対面するフラジールが紙一重で躱す。直後、フラジールの背中に鬼を(かたど)った濃密な死の匂いを知覚したCUBEはQBでその場を離脱すると同時にQTを発動。()()()()()マイブリスめがけて【XCG-B050】を掃射するも、緋色に輝くコジマ粒子の残像だけを残してマイブリスは距離を取っていた。

 

緋色のコジマ粒子を放出し始めて約3分。上記と同じ状況が幾度となく続き、闘いの天秤はロイに傾きつつある。

 

 

《……重量級ネクストである【HILBERT(ヒルベルト)-G(ゲー)7(ジーベン)】でフラジール以上の速度とレスポンスを生み出すとは。やはり驚異的な性能上昇率ですね》

 

「だろ? 分かったらさっさと投降しろ。お前さんじゃ俺には勝てないぞ」

 

 

ロイの言葉と同時に再び加速したマイブリスは緋色の残像と共にフラジールに肉薄する。【GAN01-SS-WGP】が破壊されたことにより身軽になったマイブリスの左手に拳を握らせてフラジールに殴りかかるが、これもまた紙一重で躱された。

 

体勢が崩れて背中が見えるほど前のめりになったマイブリスはその体勢を利用して左側背部兵装【DEARBORN03】を起動し、追撃を掛ける。放たれた近接信管ミサイルはロック対象であるフラジールが間近だったこともありゼロ距離で爆破。両ネクストを爆煙が包み込むが、数秒後ほぼ同時に両者とも弾かれたような速度で煙の中から脱出した。

 

戦力は拮抗しているが、押しているのは間違いなくマイブリスである。このまま情勢を維持しつつ着実に押していけば負ける相手ではない。ロイはひとまずの安心感を得たことで肩の力を抜いて確実な戦術プランを練り始めようとしたとき、不意にフラジールの通信がコックピットに木霊する。

 

 

《データ収集を終えていませんので投降するつもりはありません。ですので、()()()()()()()()()()を立証させて頂きます》

 

 

CUBEは先程のロイの言葉を時間差で冷たくあしらうと、フラジールにOBを発動させて一直線にマイブリスへ向かっていく。それに対して議論の余地無しと断じたロイは迎撃姿勢をとり、背部兵装の【VERMILLION01】および【DEARBORN03】を展開。先程までのロック制御が飯事(ママゴト)に思える超精密な行動予測を以てフラジールを迎撃せんとミサイルを放った。未来でも見てきたかのような予測精度で猛然とフラジールに襲いかかるミサイルだったが、流石に()()()()()()機体を捉える事は不可能だったようで、数秒ほど迷走したのちに本懐を果たさぬまま爆散する。

 

 

「――消えっ!いや違う……振り切られただと!?」

 

《当然です。フラジールを舐めて貰っては困ります》

 

 

直後、マイブリスの背中に鳥肌が立つほど冷徹で底冷えした気配を感じたロイは本能的にマイブリスの右手に握られた【HLR09-BECRUX】を大剣の如く横一文字に背後を薙ぎ払い、冷酷な気配を叩き割ろうとした。しかし冷酷な気配ことフラジールは既にその場を離れて距離を稼いでおり、何食わぬ顔で平然と【XMG-A030】のマガジン交換をしている。

 

 

《――ジェネレーター内で圧縮したコジマ粒子を気化させてブースターの添加剤とし、機体スペックを超えた速度を実現させている、と言ったところでしょうか。FCSのスペック向上は()()に対応するために一時的にメモリを解放出来る改良を施してあるからですね》

 

「……この戦闘でそこまで見抜くかよ」

 

《緋色のコジマ粒子放出と同時にプライマルアーマーの展開密度が低くなったので当初は一時的なものだと考えていました。ですが展開密度が回復する傾向が観測出来ない事実を鑑みて、私が考え得る中で最も現実的な仮定を試したまでです》

 

「流石アスピナ、腐っても研究屋ってことか」

 

 

ロイはCUBEの観察眼に脱帽といった様子で会話を続ける。その口調と声色は全くいつも通りの飄々(ひょうひょう)とした雰囲気を醸し出しており、コックピット越しの表情からも焦燥や憂虞(ゆうく)の念は一切見られない。しかしリンクススーツ内に収められた厚く逞しい背中には面積目一杯の冷えた脂汗が滴っていた。

 

だがそれも仕方ないだろう。未だかつて【ドルニエの黒鬼】状態のマイブリスを捉えることが出来たのはロイの経験上、ホワイト・グリントのリンクスであるレイヴンしかいない。それに、カラード上位レベルの技量と性能を有した先のイレギュラーネクストを無傷で完膚無きまでに叩き潰したばかりだ。いくらアスピナのリンクスと言えど本ミッションで負けるつもりは毛頭無く、ましてや捉えられるなど想定外中の想定外である。

 

故に仕切り直しを強制するようにCUBEとの会話を繋げ、現時点のフラジールに対抗できる戦術を二通りに絞って練り直す。一つは『先程の瞬間移動じみた機動が一回もしくは連発出来ない場合』。この場合は油断さえしなければいいので大した労力を使う必要が無い。問題は『あの機動が常時保持される場合』だ。仮にこれが正解だった場合、ロイは今まで経験したことの無いレベルの高速戦闘を強いられる事になる。圧縮コジマ粒子放出により機動性が大幅に向上してるとはいえ、あくまで重量級ネクストであるマイブリスが超軽量級ネクストのフラジールとの純粋な速度対決で不利であるのは自明の理だ。

 

だからこそ祈る。前者であってくれと。

 

 

《これで重量級ネクストの戦闘データの収集は完了しました。良いデータを提供して頂いたお礼に、捕虜となって頂けませんか? 貴方のような優秀なリンクスを失うのは非常に心苦しいのです》

 

「ずいぶんな物言いだな。勝てるとでも思ってるのか?」

 

《その機体は先程の最高速度が限界でしょう。ですが、フラジールはまだ最高速度に達していません。戦力的優位に立っているのは此方だと思いますが》

 

――あぁそうかい、神もへったくれもないな。

 

「……なら試してみろ」

 

 

自らの不運を呪う思考が脳内を支配する前にロイは勢い良くフットペダルを踏み込んだ。僅か0.5秒で最高速に達したマイブリスに掛かるG(重力加速度)は筆舌に尽くしがたい衝撃を与え、搭乗者であるロイの頸椎がリンクススーツを着用しているにも関わらず比喩表現無しで飛び出しそうになる。眼球の白目部分は丹念に塗り込まれたように真っ赤に充血し、涙がブワッと溢れそうになって目を瞑りそうになるのをロイはグッと堪えてフラジールを睨む。

 

 

「こういうのはキャラじゃねえんだ、さっさと終わらせて貰うぜ!」

 

《!……初速から最高速度とは。最後の最後まで手を出し切らない姿勢、やはり素晴らしいリンクスですね》

 

 

いままでの戦闘から収集したデータからも想定出来なかった不測の事態。並のリンクスであれば動揺して対応に(いく)ばくかの隙を見せてしまうだろう。だがCUBEは隙を見せるどころか、寧ろ喜んでいるような声色を発しながらマイブリスと同等以上の速度で迎撃に当たった。

 

フラジールから放たれる雨嵐の【XMG-A030】は緋色の残像に吸い込まれ、マイブリスから放たれる正確無比な【HLR09-BECRUX】はフラジールのいた虚空を通過する。マイブリスがフラジールの背後に回り込めば既にフラジールはそこにはおらず、逆にマイブリスの背後を取ったフラジールが必中の距離で【XCG-B050】を撃ち込むと、次の瞬間には緋色のコジマ粒子だけが儚げに漂っている。

 

間違いなく一進一退。

 

将棋の千日手のような攻防が尋常ではない苛烈さを以て過ぎ去っていくが、傍目には全く分からないほど僅かに、そして徐々に、じりじりとマイブリスが劣勢に歩を擦り進めつつあった。それまで完璧に避けきっていたフラジールの放つ【XCG-B050】が一発だけカンッと当たるようになったのだ。

 

対するフラジールは先程よりも回避行動が洗練されて来ており、最高速度も目に見える上昇率で更新していく。【HLR09-BECRUX】の光条を避け、【VERMILLION01】をいなし、【DEARBORN03】を即座に迎撃している。実力の差があるのは明白だった。

 

ロイの脳裏に浮かび始めるのは敗北のイメージ。煤と風穴だらけになったマイブリスを見下すのは傷一つ無い漆黒の異形。

 

指先の感覚が鈍くなるのを感じる。

本能が敗北の甘い蜜を分泌する。

ここで認めれば楽になれる。

()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――巫山戯(ふざけ)るな。

 

 

ロイは弛緩する直前の指先に力を限界まで込めた。爪に肉が食い込み、血が滲み出ようが関係ない。脳内を支配しようとしている邪悪で甘い蜜をロイは無造作に意識の外に投げ捨てる。

 

 

――負けるのは俺の幸福じゃない

――本能如きが俺に指図するな

――俺の幸福は俺が決める

 

 

「まぁだまだぁ!!」

 

 

マイブリスのメインカメラが一際大きく輝いたかと思えば弱まりつつあった速度と攻撃のキレが戻り、最高速度を更新中のフラジールに迫る勢いで攻勢に転じていく。これには流石のCUBEも驚きを隠せず、目の前で縦横無尽に駆け回る鈍色の巨人に危機を感じざるを得なかった。

 

 

《……プランD、所謂ピンチですね》




いかがでしたでしょうか。

また一人、レイヴンが旅立ってしまいましたね……。
お疲れ様でした。

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