彼方の空で高速戦闘を繰り広げる二機のネクストによって煌めくQBの輝きは、ハイウェイの上で跪いているホワイト・グリントとそれを見下ろすセレブリティ・アッシュからもよく見えた。
「中々見応えのある戦闘だ。君もそう思わないかい?」
《………》
「無視はよくないな。これから尋問する相手の緊張をほぐす意味でも何かしらの受け答えはするべきだよ」
《……この状況でも貴方は変わらないんですね》
生殺与奪の権を握られているにも関わらず大人びた余裕を見せるレイヴンに対して、ダンは相変わらず傍観者然とした無感情を貫いている。
「逆に聞くが、変わって何になる? 悲壮に打ち
《………そうですか》
「それで? 私に何を尋問するんだい? まさか『ホワイトグリン子タルト』の秘伝のレシピを聞くためにこんな大掛かりな作戦は立てないだろう?」
《……聞きたいのは3つです》
レイヴンが自身に課せられる尋問の内容を話すよう促すと、それまで無色透明無味無臭だったダンの声に僅かではあるが若干の色が乗り始めた。
それは諦観や後悔といったあからさまな負の感情ではなく、何かに
《まず一つ。何故、今回のミッションから正規オペレーターのフィオナ・イェルネフェルトを外したのですか》
「――よく気が付いたね。流石にバレないと思っていたけど」
《質問に答えて下さい。何故彼女を外したのですか》
しかしダンはそれ以上色を乗せることはせず、淡々と自身が為すべき尋問を進めた。感情を押し殺した様子も見受けられない彼にレイヴンは微かな違和感を感じるが、深く探った所でどうにかなるものでもないと断じ、問われた内容に意識を集中させる。
「今回の一件が上手く出来過ぎていると思ったからさ。企業連が一枚岩では無いのは知っているが、それでもラインアークへの援軍交渉がトントン拍子で進めば誰でも疑うだろ? だから彼女には万が一のために待機して貰ったんだ」
《死なれたら困る理由が?》
「私はアナトリア復興のために戦場に戻った訳じゃない。死の淵を彷徨っていた私を救ってくれた彼女の恩に報いるために戻ったんだ。そんな恩人を護るのに理由が必要かい?」
戦争によって故郷を失った時代遅れのノーマル乗りとして惨めに野垂れ死ぬしか無かった自身に手を差し伸べ、あまつさえ『
それは誇りと覚悟を胸にしたレイヴンの偽りのない本心だった。
《……分かりました。では二つ目の質問です》
《貴方は、転生者ですか?》
《どうした、狙いが定まっていないぞ。私を倒すのだろう?》
「くそっ! 蠅みてぇにビュンビュン飛び回りやがって! 男なら真正面から勝負しろ!!」
《生憎、貴様のような格下に捉えられてやるほどステイシスは遅くない。恨むなら反応の
「お前絶対友達いないだろ! 小龍の爺様のほうがまだオブラートに包んで言ってくれるぜ!?」
《イッシン、あまり口喧嘩で本気になるなよ。操縦にムラが出始めてるぞ。あと……曇った先見の下りについては同意見だ》
「セレンはこっちの味方だろ! 戦闘中くらい優しくしてくれよ!?」
イッシンがセレンの忌憚ない辛口にツッコミを入れている間に、空中を縦横無尽に駆け抜けるステイシスはPMミサイルに分類される背部兵装【MP-O901】を起動させてミサイルを四基連続で射出した。
PMミサイル特有の三次元的で回避困難なカーブを描きながら飛来するミサイルの群れに対し、ストレイドは背部チェインガン【CG-R500】で応戦する。
空中に投げ出されたロープを彷彿とさせる【CG-R500】の絶え間ない弾幕はムチのように苛烈な
好機と見たオッツダルヴァはすかさず【ER-O705】をステイシスに構えさせ、小生意気で礼節を知らない素人を屠ろうとトリガーを引いた。
放たれたオレンジ色の光条はストレイドのコアに風穴を開けるために一直線に突き進むが、すんでのところでイッシンはストレイドの上半身を捻り上げてレーザーの着弾位置をコアから背部兵装【RC01-PHACT】にズラすことに成功し、なんとか一撃死を免れる。
しかし盾としての運用など微塵も想定していない【RC01-PHACT】が無事である筈も無く、着弾した箇所がグズグズに融解して至る所から仰々しい火花が散り始めた。
流石にマズいと悟ったイッシンはステイシスに牽制の意味で【050ANSR】を撃ち込みながら距離を稼ぎつつ、時限爆弾と化した【RC01-PHACT】を即座にパージ。数秒後には滞留したエネルギーを火薬として大きな爆発が発生した。
「っぶねぇな! 陰気臭い戦い方ばっかしてんじゃなえよ!」
《隙を突くことに何の問題がある?――あぁ、正面から突っ込むしか能が無い貴様には理解できないか》
僅かな隙を
要因は純粋な技量差……というよりも操縦している機体の重量差による部分が大きい。
イッシン駆るストレイドは【TYPE-
対してオッツダルヴァ駆るステイシスは【TYPE-
『それに対応出来る機体』
と
『それに特化した機体』
その埋まることの無い差がジリジリと、そして確実に開いていくのが今の状況であった。このままでは天秤が振れる事無く一辺倒にオッツダルヴァの側へ傾いたまま勝負は決するだろう。
それでもイッシンは平静を失わない。
いや、
何故なら彼は転生者であるから。
もっと厳密に言うと、これから起こる一連の
「なぁ、陰キャ野郎。
《……なに?》
「何度も言わせんなよ。宇宙は好きかって聞いてるんだ」
イッシンからの問いにオッツダルヴァは思わず聞き返す。突然過ぎる脈絡の無い質問に戸惑ったからではない。
言葉に詰まるオッツダルヴァを尻目にイッシンは声を繋いでいく。
「そんなに答えづらいか? まぁ確かに、いい年した野郎が目ぇキラキラさせて『はい、宇宙が好きです!』なんて恥ずかしくて言えねぇわな」
《――下らな過ぎて少々面食らっただけだ。気でも触れたか》
「そう怒るなよ。代わりに別の質問してやるから、な? そうだなぁ……
《――貴様、どこまで知っている》
「なんのことだ? 俺はただ宇宙と鯱が好きかって聞いただけだぜ………分かった、教養あるお前のために歴史の質問をしてやるよ。
七月革命って知ってるか?」
瞬間、ストレイドとの会敵時から隙無く立ち回っていたステイシスの挙動に明らかな異変が現れた。それまでイッシンと言葉を交わしていても、隙あらば攻撃を加えようとビュンビュンと飛び回っていたステイシスがピタリと海上で静止したのだ。
これには流石のセレンも驚いた様子で、イッシンに状況の説明を求める。
《イッシン、どういうことか説明しろ! 宇宙・鯱・七月革命、何の脈絡も関連性も無い言葉で何故オッツダルヴァが止まる?!》
「悪いなセレン。ちょっとだけ切るぜ」
《な!? おい待――》ブツッ
追いすがるセレンの声に後髪を引かれる思いでイッシンは通信を切ると、今度は目の前に佇むステイシスと暗号回線を開いた。
――こっから先が正念場だな。鬼が出るか蛇が出るか。はたまたその両方か。いずれにしろ、流れをこう持っていった時点で他の選択肢は自分で潰したんだ。やるっきゃねえ。
「これでサシで話せるだろ? オッツダルヴァ」
《……お前は一体……》
「俺か? ただのしがない傭兵だよ、
いかがでしたでしょうか。
中々に入り組んでまいりました。
正直、ここからの展開は好みが分かれる可能性が大ですが引き続きご愛読頂ければ幸いです。
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