凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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ワクチンを打ちました。思いのほか肩が痛くてビックリしてます。


80.ラインアーク事変・Ⅷ

「転生者……聞き慣れない言葉だな。どういう意味なんだい?」

 

《とぼけないで下さい。貴方は知っているはずだ》

 

 

レイヴンの返答にダンの語気が一気に強まり、ホワイト・グリントに向けられたBFF製ライフル【047ANNR】を握るセレブリティ・アッシュの左手アクチュエータに力が込められた。

 

ダンの意志一つでコックピットを穿たれる現状況はパッチ、ザ・グッドラックに代表される下級リンクスなら勝ち目は無いと大人しく観念して洗いざらい情報を吐く場面だが、レイヴンは気にすることなく自分のペースで言葉を紡いでいく。

 

 

「残念だが本当に分からないんだ。力になれなくてすまない」

 

《いいえ、有り得ません。貴方は絶対に知っている》

 

「君がそう信じ込むのは勝手だが、私が知らないのは事実だ。それ以上でもそれ以下でもな―――ドンドンドン―――ぐっ!?」

 

 

のらりくらりと回答を躱すレイヴンの言葉尻を聞き終える前にホワイト・グリントの右腕ジョイント部へ【047ANNR】から放たれた三発の弾丸が撃ち込まれ、バチバチと大きなショート音を鳴らしながら白亜の巨人の右腕が地面にズシンと落ちた。

 

突然の攻撃にAMSの痛覚抑制装置の反応が追いつかず、接続障害によるノイズがそのままリンクスであるレイヴンにフィードバックされてしまう。

 

脳味噌を無理矢理かき混ぜられたような頭痛と、久方ぶりのAMS越しに感じる痛覚が綯い交ぜになった不快感が見事にマッチしたこの感覚は何度経験しても馴れるものでは無いと今一度思い知らされたレイヴンは、若干の冷汗を滲ませながらダンとの会話を再会した。

 

 

「はぁ……はぁ……突然撃つとはあんまりじゃないか? まだ心の準備が出来てな――ドンドンドン――ぐがぁっ!!!」

 

 

再び銃声。

 

今度は反対側の左腕ジョイントに三発撃ち込まれ、ホワイト・グリントの左腕は右腕と同様にズシンと地に落ちる。先程の尋常ではない痛みが冷めやらぬ内に追撃の苦痛を受けたレイヴンは思わず大声で叫び、刈り取られそうになる意識をなんとか保とうと首に血管が浮き出るほど力を込めて歯を食い縛った。

 

跪いたままの状態で両の腕が失われたホワイト・グリントは、白亜の装甲と特徴的なコア一体型背部ブースターの形状が相まって『ミロのヴィーナス』と『サモトラケのニケ』を彷彿とさせる未完の美しさを醸し出しているが、実際はそんなに優雅なものではない。『ラオコーン』や『嘆きのライオン』に近い悲壮感を漂わせた、痛ましい姿の巨人がそこにはあった。

 

両腕がもがれたホワイト・グリントのコックピットの中で、冷えた脂汗にまみれたレイヴンはゼイゼイと荒くなった息と(もや)の掛かった思考をなんとか整えつつコンソールパネルを素早く叩いて操作する。

 

敵に甚大な被害を受けようとも決して焦らないで、気配を悟られずに脳内ロジックを再構築しながら可能な限り速く現状把握を行う一連の流れるような動作は、リンクス戦争の最前線を生き抜いた正真正銘の英雄であるレイヴンだからこそ可能な芸当だ。仮にこれがイッシンだったとしたら、脂汗を垂れ流して皮肉の一つや二つ吐き捨てるのが精一杯の作戦だっただろう。

 

結果、不幸中の幸いと言うべきかコンソールパネルに示されたメインブースター関連の項目には目立った損傷は確認できないと表示された。

 

無論、両腕を落とされたことでQBの発動は出来ないがレイヴンの技量を以てすれば些事に等しい問題でしか無い。本当の問題は、最上位ランカーにライフルを突き付けられた現状況からいかに脱出するかである。

 

どうしたものかとレイヴンが思案していると突然、オープン回線で通信が開いてティーンエイジャーのような若々しい声が木霊した。

 

 

《ダンさん、いくらなんでもやり過ぎだよ! ホワイト・グリントは尋問したあとバレないように生け捕りにするって作戦でしょ!? このままじゃ死んじゃうって!》

 

「黙ってろハリ。僕には彼にどうしても聞かなきゃいけないことがある」

 

《だからって両腕落とすことはないだろ! 変にラインアークを刺激したら、そのしっぺ返しは僕たちに返ってくるんだぞ!?》

 

「そんなのは僕が跳ね返せばいいだけの話だ。それに、見くびった相手に狙撃でネクストの頭部を吹き飛ばされた君に言われる筋合いは無いよ」

 

《ずいぶんと言ってくれるなダン・モロ。少年を貶めるということは俺を貶めると、ひいては旅団を貶めるのと同義なのと分かっていての発言か?》

 

「ええ、分かっていますよヴァイオレットさん。なので黙っていて下さい。メルツェルから許可は得ています」

 

 

尋問というより、もはや拷問と化した問答のあまりの苛烈さに事態を重く見たハリとヴァイオレットがモニター越しでダンに詰め寄るが、当の本人は相変わらず他人事のように無感情で機械的な応答しかしない。もはや狂気の類に犯されているのではと疑いたくなるようなダンの冷たい言葉は、二人を無視して再びレイヴンに向けられた。

 

 

《最後にもう一度だけお聞きします。貴方は転生者ですね?》

 

「――知らない、本当さ」

 

 

レイヴンの変わらない返答にハリとヴァイオレットは思わず身構える。今までの経緯を考えればダンがホワイト・グリントのコックピットを撃ち抜く可能性も十分に有り得たからだ。

 

しかし、ダンが発した言葉はそれまでの冷酷な雰囲気と打って変わって緊張の糸が切れて呆れたような、くたびれたような人間くさい物言いに変化する。

 

 

《………はぁ、分かりました。なら質問を変えましょう》

 

「なに?」

 

 

 

《貴方はどの転生者を()()()()()のですか?》

 

 

 

「―――!!」

 

 

ダンの言葉に、それまでどんな激痛にも耐え忍んで口を割らなかったレイヴンに初めて驚愕の色が明確に現れた。

 

誰を受け継いだのか。

 

単純だが不可解な問いの答えをハリとヴァイオレットはもちろん知らない。この場でその意味を知っているのはダンとレイヴンの二人だけであり、そしてダンが知っていた事実にレイヴンは驚くほか無かった。

 

何故なら彼が、リンクス戦争後に転生してきた彼が知っている筈がないのだから。

 

 

「どこでそれを知った……!」

 

《ビンゴですか。ですが質問しているのはこちらです。貴方が受け継いだ転生者は誰ですか》

 

「答える訳がないだろう……!!」

 

《――そうですか、残念です》

 

 

ガチャリという不吉な金属音が跪いたホワイト・グリントの背後で鳴り響いた。セレブリティ・アッシュの左手に握られた【047ANNR】の銃口は迷うことなくホワイト・グリントの無抵抗なコックピットへ向けられ、いまかいまかと舌舐めずりをしながら獰猛にバレルを光らせている。

 

 

「いいのか? 俺の戦力はそちらにとって強力な武器になるのだろう?」

 

《どのみち同志となる可能性のない武器なら此処で処分する方が効率的ですから。――さようなら、名もなき継承者》

 

《ダンさん、早まらないで!!》

 

 

ダンの意図を完全に察知したハリはメインカメラの吹き飛んだ手負いのクラースナヤとのAMS接続を100%まで同調させると瞬時にQBを発動。他の追随を引き離す超高速でホワイト・グリントの救出に向かうが、時間限定の天才と称されるハリはその圧倒的なセンスを以て同時に理解する。

 

コンマ何秒で間に合わない。

 

そして【047ANNR】から弾丸が放たれて真っ直ぐ、ただ真っ直ぐにコックピットめがけて進んでいく。死期を悟ったレイヴンは目を閉じて今生の別れを惜しむように深く息を吸った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那、ホワイト・グリントが消えた。

 

 

 

 

《………なにっ!?》

 

 

【047ANNR】から放たれた弾丸はハイウェイのアスファルト舗装を虚しく削り、弾痕からは仄かな白い硝煙を立ち上げている。

 

――馬鹿な、ホワイト・グリントのサイドブースターは完全に潰した。あの状態から逃れられる訳が……!

 

目の前で起こった事態を上手く飲み込めないダンはセレブリティ・アッシュに周囲を確認させ、ホワイト・グリントの機影を捜させる。そして見つけた。

 

3時の方向200m先に居る二つの機体を。

 

一方は両腕をもがれたホワイト・グリント。

 

もう一方はそんなホワイト・グリントを両腕に抱えて静かに佇んでいる、海底のように青く思慮深いイメージを与える細身の異形の巨人がいた。

 

上半身はステイシスのベースとなっている【TYPE-LAHIRE(ライール)】を採用した戦闘機を連想させる先鋭的なフォルムとなっており、脚部はフラジールのベースとなった【X-SOBRERO(ソブレロ)】が使用されている姿は、言うなれば双方のメリットのみを併せ持った軽量級ネクストの一つの到達点を体現しているような風格を醸し出している。

 

 

「――別に助けてくれと頼んだ覚えはないが?」

 

《お前は僕が倒すと言っているだろう。こんな三下に遅れをとるなんて許さないぞ》

 

「そういう割には帰りがずいぶん遅かったじゃないか。お陰で受け継いだことを後悔しながら死ぬところだった」

 

《文句はアスピナの馬鹿どもに言ってくれ。10年以上のカプセル軟禁生活で身体が鈍って仕方がない》

 

「まぁ助けてくれたんだ、良しとするさ」

 

 

レイヴンは死の淵から救い出してくれた青いネクストのリンクスに軽い文句を言うが、その言葉尻には懐かしさと感謝の念が端々に見受けられた。そんな二人の会話を、獲物を捕らえ損ねたトリコロールの巨人が苛立ちを露わにしながら遮る。

 

 

《感動的な再会のところ悪いが、何者だ? 返答によってはホワイト・グリント共々死んでもらうぞ》

 

「……傲慢だな。まるで昔の僕みたいだ」

 

《質問に答えろ、何者だ!》

 

 

ダンは怒声を発し、目の前に現れた青いネクストの正体を掴もうとする。普段の彼を見ている者からすれば最もらしくない行動だが仕方ないだろう。なんせ原作を知る彼ですら想定していなかった変化(イレギュラー)が、文字通り殺す筈だったホワイト・グリントを死神の鎌からいとも容易く助け出したのだから。

 

 

「はぁ……まぁいい。勉強不足な君のために特別に教えてあげよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕の名前はセロ。リンクス戦争の顛末を見届けた【オリジナル】にして、この世界における最初の転生者だ」




と言うわけでセロ君登場です。

登場経緯としては、セロ君の乗機『テスタメント』が箱っぽいなぁ→箱かぁ→英語でCUBEかぁ→……イケんじゃね?って感じの安直の極みみたいな構想でした。

次回も、というか次回が一番賛否を呼びそうで今から怖い……。生暖かい目で見守って貰えると嬉しいです。

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