凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

84 / 140
賛否両論はあると思いますが、暖かい目で見て頂けると幸いです。過去最長の文量になってしまいましたけど。

それでは、どうぞ。


81.ラインアーク事変・Ⅸ

ダンの脳内は混迷を極めていた。

 

突如として戦場に乱入してきたセロと名乗るリンクスが、両腕をもがれて俎板(まないた)の鯉になったホワイト・グリントを目の前から掻っ攫い、挙げ句の果てには『最初の転生者である』と言う始末。オマケに乗っているネクストは原作に一切登場しない幻のネクストであるマグヌスときた。

 

次から次へと舞い込む特大級の情報量に頭の回転数が遅くなっていく過程を何とか食い止めようとダンは脳内処理速度を上げることに努めるが、コンマ数秒の状況判断が求められる戦場において周囲を警戒しながら大局観を把握し、理路整然とした最適解を導くという至難の業はやろうと思って出来るものでもない。

 

結果としてCPUの過熱を彷彿とさせる苛立ちに駆られたダンは排熱を意識した熱い溜息を何回か吐きながら脳内をクールダウンして処理速度を回復させ、把握するべき情報を目の前に表れたセロから聞き出すことに専念した。

 

 

「予想はしていましたが、まさかリンクス戦争前の転生者がいるとは思いもしませんでした。この場合、先輩とお呼びしたほうが?」

 

《下手な芝居はよせ。それよりも僕は、転生者である君が旅団に与した理由が聞きたい。未来(ルート)の結末を知った上での選択なんだろ》

 

 

下手な時間稼ぎを兼ねた雑談に付き合っている暇はないと言外に含めたセロの好戦的な言葉にダンは歯噛みする。来たるべき計画の始動が目前に差し迫っている以上、不必要の戦いで戦力が低下する事態はダンとしても避けたいシチュエーションであり、それは相手が転生者であれば尚更だ。

 

――しかしダンは、敢えて立ち向かうことを選んだ。その行動原理が勇気であるか無謀であるかは議論の分かれるところだが、少なくともダンは己の選択した答えに殉ずるために立ち向かったのだろう。

 

五を殺して五を救う。

 

消えない痛みを伴う革命しか選べなかった己のために。

 

 

「敢えて違うと言わせて貰います………革命とは得てして罪無き者の血が流れるものです。僕だってしたくない。ですが醜悪で厚顔無恥な老人達が玉座を拝する腐りきったカラードでは、この世界が掴み取るべき未来(ルート)を担うに値しません」

 

《偽善だな。そんな独善のために革命が正当化されると?》

 

「どう罵って貰っても結構です。貴方がホワイト・グリントに役目を受け継がせることを選択したように、僕も選択をしたまでなので」

 

 

ゆらりとセレブリティ・アッシュの左手に握られた【047ANNR】の銃口がマグヌスに向けられ、交戦の意思がひしひしとセロの肌をチリつかせる。

 

ダンの固い決意を感じ取ったセロは交渉の余地はないと判断した上で軽く左を見遣り、先達ならではの老婆心で彼に呟いた。

 

 

《なら早く逃げた方がいいぞ》

 

「? 何を―――」ドシュンッ!!!

 

 

刹那、セレブリティ・アッシュの構えていた左腕がクルクルと宙を舞いながら吹き飛んだ。数瞬遅れて盛大な電子ショート音がバチバチと鳴り響き、数秒遅れてダンのAMSに被弾のノイズが流入する。レイヴンほどの苦痛ではないもの、顔全体が苦悶の表情に支配されたダンは再び脳内処理を最高速度に引き上げて状況判断を下す。

 

 

狙撃?

どこから?

イッシンはオッツダルヴァが相手だ。

ロイも戦闘不能。

カラードの援軍?

しかしこの威力、一体だれが――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《私の期待を裏切るなと言った筈だぞ、ダン・モロ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てを見透かすかのような嗄れた老獪な声にダンの背筋が瞬時に凍り付いた。ダンは声の主を確かに知っている。酒を酌み交わしたこともあったし、互いの利害のために協力している間柄である。

 

だからこそ理解できない。この展開は確実に摘み取った筈なのに、()()()()()()()()()()()()

 

 

王大人(ワン・ターレン)……!」

 

《背信してなお私を大人(ターレン)と呼ぶか。警告を無視した分際でよく言えたものだ》

 

「警告? そんなもの、受けた覚えは――」

 

 

瞬間、ダンの脳内にある場面がフラッシュバックする。今回の作戦前に王小龍と訪れた檉の園での一幕だ。王小龍は不意に鬼灯の前に立ち止まり、物憂げな表情を浮かべて眺めていた。

 

鬼灯(サイサリス)の花言葉は『心の平安』の他にもう一つ持っている。

 

 

『偽り』

 

 

その情景を鮮明に思い出したダンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて王小龍の声が流れるスピーカーを睨みつけた。

 

あの老人が本気で狙撃をしているなら自分如きが捕捉出来る距離にいないだろう。数キロ先か、或いは数十キロ先か。どちらにせよ迂闊に動けない状況に変わりは無かった。優秀な狙撃手とは金輪際、刃を交えないと誓う程度に。

 

思わぬ王小龍の登場に身動きが取れないダンであったが、その近くで手負いのクラースナヤのブースターを冷やす事に専念していたハリはそうではない。彼からすれば本ミッションの依頼主が直々に現れて、彼の不始末の尻を拭った様相となっており、身を縮こませながら()()ずと通信を開いた。

 

 

「わ、王小龍。申し訳ありません。僕の不手際で――」

 

《皆まで言うなハリ、確かにお前は今までよく働いてくれた。それについては礼を言おう。しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから謝る必要などない》

 

「………は?」

 

《聞き捨てならんな、御老体。ハリに期待していなかったとはどういう意味だ》

 

 

王小龍の言葉にハリは豆鉄砲を喰らったような顔をし、オペレーターであるヴァイオレットは自身のリンクスを貶められた事に憤慨して語気を強める。

 

このやり取りを傍から聞いていたダンは違和感を覚えていた。二日前の時点で、確かに王小龍はハリをこのミッションに出撃させる算段だったはずだ。その理由は戦況の掌握であり、ホワイト・グリントを撃破させないようにするためなのは言わずもがな。

 

しかし現実は依頼した本人がハナから作戦成功を期待していなかったと言い切った。となるとハリにわざわざこのミッションを依頼した意味がなくなってしまうのだ。

 

唯一あるとすれば、ハリがこの戦場に確実に現れるという事くらいだろう。――一体なにを考えているんだ?

 

そしてダンは思い知る。王小龍は『狙撃手』である前に『陰謀家』であることを。

 

 

 

 

 

《それにしてもORCA旅団か。全て(アルテリア)を喰らう覇者気取りとは大層な名前だな》

 

「!!!???」

 

《気付いてないとでも思ったか、(わっぱ)。先日キタサキで捕虜にしたイレギュラーリンクスを軽く尋問しただけで簡単に吐きおったぞ? ――しかし忠誠心の薄い反動勢力に与するとは、存外貴様の眼も節穴だったのだな。……いや、それは私も同じか》

 

 

皮肉げに嗤う王小龍に対して、ダンは言葉を失う以外の反応しか出来ずにいた。前世の記憶があるが故に想像すらしていなかった正真正銘の想定外。

 

来たる七月に世界各地に点在するアルテリアを襲撃したのちに世界へその姿を現し、企業による(いびつ)な平等支配の打破をスローガンとして宣戦布告するはずだったORCA旅団の登場が、まさかこんなあっさりと『陰謀家』王小龍に見抜かれるなど夢にも思わなかったのだ。

 

それは世界が本格的に動き始めるのは本ミッション以降だと勝手に思い込んでいたダン自身の過ちであり、同時に避けられない未来(ルート)への確定路線に世界が乗り入れた瞬間でもあった。

 

絶句したままのダンを差し置いて、再び王小龍は言葉を続ける。先ほどと変わらず揶揄(からか)うように嗤っている嗄れた声だが、その声色には一片の情も隙も見当たらない。

 

 

《では改めてタネ明かしといこう。今回の作戦で私がハリを捩じ込んだのは戦況を支配するためではない。貴様も、ハリも、オッツダルヴァも旅団とやらの一員であることが分かったから捩じ込んだに過ぎん。……理由は言わずとも分かるだろう。

 

ホワイト・グリントを餌に、貴様らを一掃するためだ》

 

 

王小龍が脅しでは無いドスの利いた台詞を言い終えたタイミングで指を鳴らすと、セレブリティ・アッシュのレーダーに大量の熱源反応が突如として表れた。数にして百を優に超える熱源の集団は非常に統率の取れた動きでこちらへ迫ってきており、その距離はおよそ10000。

 

セレブリティ・アッシュのコンソールパネルに表示された予測計算をダンが見遣ると、この大戦力は無情にも数分で到達する計算結果を弾き出している。更に追い打ちをかけるように大戦力の先頭に並び立つ二赤点の情報欄にはハッキリと『Rank.12』および『Rank.17』が表示されており、それが何を意味するかはダンが一番よく知っていた。

 

 

「ランク12……ドン・カーネル、特務遊撃大隊か!」

 

《加えてメイ・グリンフィールドを筆頭としたGA正規軍の手練れを集めた。手負いの貴様らに勝ち目なんぞあると思うなよ》

 

《うっそだろ……どうすんだよダンさん! いっそやり合うか!?》

 

 

王小龍の言葉通り死神の鎌が喉元に当てられた状態となったダンは、こめかみに数本の野太い青筋を立てながら打開策を見いだそうと脳内をフル稼働させた。隣では梯子を完全に外されて慌てふためいているハリがクラースナヤの両手に握られた【04-MARVE】のマガジンを交換して弾薬をフル装填している。

 

刹那、機械のように冷たく、しかし穏やかな声がセレブリティ・アッシュとクラースナヤ、加えてステイシスのコックピットを包み込む。

 

 

《潮時だな。ゴルディロックス、浮上する》

 

 

声と共にラインアークの海上が海底火山のように大きくせり上がり、白い波を立てながら黒一色で構成された500m超のAF(アームズフォート)型巨大潜水艦が姿を現した。その姿は全身が厚さ1.5mの超硬チタンカーボン合金の鎧に身を包んだ(シャチ)そのものと言ってよく、背ビレに当たる場所には艦橋が、尾ビレに当たる箇所には六基のスクリュー推進器が、胸ビレに当たる部分には進路変更用の分厚い胸ビレがついている。

 

 

《メルツェルさん!!》

 

《あまり時間がない。三人とも格納庫に入れ》

 

「だがホワイト・グリントがまだ――!」

 

《ダン。確かに現状況は想定外だが、ホワイト・グリントの未撃墜よりも今この局面で君達を喪失する方が旅団にとっては痛手だ。それは君が一番理解しているだろう》

 

「……くっ、了解した」

 

《逃がす訳がなかろう》

 

 

自らを裏切った反逆者に絶対的な死をもたらさんとする王小龍は、地獄の底に居座る閻魔が言い放ったと錯覚するしてしまうほどの悍ましい怒気がこもった声と共に、遥か彼方から音速の壁を越えた砲弾をセレブリティ・アッシュのコアめがけて撃ち込んだ。

 

着弾までおよそ2秒。一抹の安堵を胸に抱いていたダンの隙を突いた狙撃は見事な必殺の弾道を描きながらセレブリティ・アッシュを穿たんとするが、その攻撃が届くことは無かった。

 

何故なら両者の間に割って入ってきた丸みを帯びた灰色の重量級ネクストの装甲に着弾し、傷が浅いとはいかないまでも防がれてしまったからである。

 

その正体はカラードの中でも変態企業の一角を担うトーラス社が誇る最新鋭ネクスト【ARGYROS(アルギュロス)】をベースにしたコジマ粒子特化型ネクストであり、背部兵装には特徴的な半月状の何かが互いを補い合いながら円を形成していた。

 

 

《なに?》

 

《そのまま物陰から指をくわえて見てるがよいよ、王小龍。戦場に陰謀屋は不似合いだ》

 

「銀翁!」

 

《さ、早く入らないか。私とて壁役を好き好んで引き受けている訳ではないからな》

 

 

銀翁と呼ばれた老齢の男性は歴戦の古参を思わせる悟った声でダン達にゴルディロックスへ着艦するよう促すと、今度は視線を別の方向に向ける。その先にはカラードのリンクスを前に適当な応戦をしているステイシスの姿があり、銀翁は彼に対して半ば呆れながら回線を繋いだ。

 

 

「テルミドール、早くしろ。遊んでいる時間はないぞ」

 

《……分かっている》

 

 

テルミドール。確かにそう呼ばれたオッツダルヴァは普段の振る舞いが鳴りを潜めた貞淑な受け答えをしたのち、自身が駆るステイシスの(きびす)を速やかに返してQBを噴かし、戦線を離脱する。

 

その様子を、特に追撃する素振りすら見せずにカラードのネクスト――キドウ・イッシン――はカラカラと笑いながら見送っていた。

 

 

「じゃあな、団長殿。次会う時を楽しみにしてるぜ」

 

《…………》

 

 

イッシンの緊張感のない言葉にオッツダルヴァはQBの加速を中断して立ち止まるが、返事をすることなく、ただ一瞥すると再び加速を開始。セレブリティ・アッシュとクラースナヤと同様にゴルディロックスの格納ハッチへ吸い込まれていった。

 

そして全機帰投したことを確認した灰色の重量級ネクストが最後に収容されるとハッチは重々しく閉ざされ、黒い鯱は潜航を開始する。

 

ゴポゴポと注水音を周囲に鳴り響かせながら沈んでいく様子は神話の時代に存在したとされる海上都市の沈没を連想させる壮大さであり、やがて何事も無かったかのように辺りには戦闘前の静寂が戻るが、それも長くは続かない。しばらくすると水平線の向こうから大袈裟な水飛沫を上げてGAの援軍が到着した。

 

先頭にはデザートカラー迷彩が目を引くネクスト、ワンダフルボディを駆る【ランク12】ドン・カーネルと緑一色で構成された重量級ネクスト、メリーゲートを駆る【ランク17】メイ・グリンフィールドがツートップで臨戦態勢を取っている。その背後では重武装のハイエンドノーマルが大量に控えており、なるほどロリ爺が勝ち目はないと言い切る理由がイッシンは分かった気がした。

 

 

《あれ、敵どこ!? 推し……間違えた、ダンさんは!?》

 

《遅かったか》

 

(やっこ)さん達なら今さっきトンズラしたとこだぜ。今頃は優雅に深海遊泳でもしてるんじゃねえか? ――それよかメイちゃん、今日は一段と可愛いね。このあと駐屯基地でお茶でもどう? 俺奢っちゃうよ?」

 

《結構ですありがとう》

 

 

取り付く島もない辛辣な即答をされたイッシンは意気消沈してガックリと項垂れるが、そんなことに興味が無いドン・カーネルは彼に詰問する。

 

 

《どうして()()()()。お前の実力なら時間稼ぎ程度は出来た筈だ》

 

「おいおい買い被り過ぎだぜドンちゃん。ランク一桁2人とランク二桁の天才、それに強者感ビンビンな謎のデカブツ野郎の4機を相手取れなんて流石にただの自殺行為だろ? 仕方なく見守ってただけさ」

 

《……まぁいい、先ずはホワイト・グリントの確保が先決だ。速やかに収容してラインアークに送り届ける。お前も手を貸せ》

 

「意外だな。企業連の総意はホワイト・グリントの撃破なんだろ? GAが出張って助けちまってもいいのか」

 

《所詮はパワーゲームの都合で作られたハリボテの組織だ。中身が一枚岩という訳ではない》

 

「なるほど、そこでロリ爺の出番って訳か。相変わらず権謀術数が得意なこって」

 

 

イッシンはやれやれと肩を竦めると、先行したワンダフルボディの後を追うようにストレイドのメインブースターを噴かしながら付いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カラード記録ファイル(整理番号:ACA-101)

 

依頼主:企業連

 

依頼内容:ホワイト・グリント撃破

 

結果:失敗

 

 

備考:企業連より派遣されたリンクスである【ランク1】オッツダルヴァ、【ランク3】ダン・モロ、【ランク13】ハリの3名がアルテリア襲撃犯と同一組織に所属している事が判明。

 

偶然、ラインアーク周辺で活動していた【ランク8】王小龍が対応にあたるも全機とも逃走。以後の動向は掴めず。この離反により上記3名のカラードランクの剥奪および登録抹消が全会一致で可決され、発見次第の撃墜を決定。

 

なお、カラードの象徴である【ランク1】が離反したことへの監督不行届によりオーメル社の弾劾を王小龍が提案。多数決によりオーメル社の弾劾が正式決定したため、今後のオーメルグループの宗主は暫定的にローゼンタール社CEOが務めるものとする。




という訳で、七月開催予定のORCA旅団お披露目会は中止となりました。チケット払い戻しは関係事務局にお問い合わせ下さい。

今後は完全にオリジナルルートでの展開となります。皆様のご期待に添えるよう、失踪しない程度に頑張らせて頂きますので気長にお付き合いして頂けると幸いです。

励みになるので、評価・感想・誤字脱字報告よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。