ということで後日談パート2。
ラインアーク事変から二日後
ラインアーク 中央特区【ネスト】会議室
セレン・ヘイズは疲れ切った脳を気分転換させるために立ち上がり、窓に近づいて外を見る。眼下には二日前の戦闘の余波によって大損害を被ったハイウェイを元通りにしようと数百人単位の作業員達が急ピッチの復旧作業に追われている様子が見えた。
リッチランド農業プラントでのイレギュラーネクストとの戦闘によって発生したコジマ汚染に起因する世界的な食糧危機は未だ去っておらず、何とか生き延びるため配給制にシフトしたコロニーは数知れない。そんなギリギリの状況下で物資輸送が少しでも滞った際に起こる悲劇は想像に難くないだろう。
だがセレンは省みない。確かに業を背負うことによって己の覚悟をより強固にすることも出来るだろうが、業に押し潰されてしまっては元も子もないからだ。ならば最初から割り切った方が自分にとって楽である。
目の前の救える命は救う。
手の届かない命は無視し、捨て置く。
その感覚は傭兵稼業に身を置いて久しいセレンの培った処世術的基準であり、だからこそ眼下で繰り広げられる喧騒は彼女にとって気分転換の風景でしか無かった。
ふーっ、と深い一息をついてセレンが振り返る。そこには先程と変わらぬ位置で四人の男達が座っていた。左から順に何の変哲も無い凡庸な男、鋭いカミソリの目をした男、顔の左半分が火傷に覆われた男、優しい目をした壮年の男がそれぞれ思い思いの顔つきで彼女の表情を伺っている。
唯一共通していることとすれば、男達は全員『まぁ、そうなるよな』的な雰囲気をどこかしらに纏わせていることだった。セレンは何故か自分だけ仲間外れにされた疎外感を味わいながら辟易しつつも、これまでに話された内容を彼女なりに分かり易く総括した。
「すまない。要約すると今の話は三流SFファンタジー小説の世界観ということでいいか?」
「セレン・ヘイズ、君が信じられない気持ちは理解している。だが事実だ」
優しい目をした壮年の男――レイヴン――は諭すような物言いでセレンの総括を柔和に否定する。目の前にいる面子の中で最も長く生き、最も世の
「……悪いイッシン、もう一度だけ分かり易く説明してくれ。頭の理解が追いつかない」
「あぁ~と――じゃ、もう一度。俺とダン、あと目の前にいるドン・カーネルとセロの四人は別の世界から来た。そんで、同じ境遇の奴がどこかにあと二人いる。ちなみにレイヴンさんは元々この世界にいた人だからノーカン。ここまではオーケー?」
「その時点で意味が分からないが、まぁ理解した」
別世界から来た者。いわゆる転生者のことをセレンが知るキッカケとなったのはラインアーク事変におけるイッシンの一連の行動をこれでもかと咎め叱っていた時である。
旧【ランク1】オッツダルヴァとの単独戦闘中に意味不明な言葉の羅列を発しただけで、それまでの苛烈な猛攻を鎮めるどころかオッツダルヴァを戦闘放棄状態まで移行させたのだ。しかも直後にはセレンとの通信を一方的に切断して彼との対話を行っているとなれば問い詰めない理由は無かった。
セレンはラインアークに帰還したイッシンにズカズカと歩み寄って首根っこを捕まえると、人目も憚らず拳銃を彼の喉元に突き当てて公開尋問を開始したのである。彼女曰く『仮にイッシンが反動勢力に与していようとも私の知ったことではない、アイツが決めたことだ。だが私の
しかし、先の戦闘によって生死不明となったロイの安否を可及的速やかに確認するために風穴だらけのマイブリスを収容している最中の格納庫は多忙の極みと化しており、彼女達の行動を見咎める余裕のある作業員は誰一人としていなかった。
加えてイッシンも自らが転生者であると言ったところで信じて貰えるわけが無いと高を括っていたため、有耶無耶にそれらしい言い訳を並べ立てて追及を躱そうとしたため両者は膠着状態に突入する。
時間にして20分程度が押し問答に費やされた頃合に治療を受け終えたレイヴンが彼等を発見。事情を聞いている内にイッシンが転生者であることを見抜いたレイヴンは『真実を教えよう』と言って、この場をセッティングし今に至ったと言うわけだ。
――話を戻そう。困惑するセレンに可能な限り分かり易く説明しようとするイッシンは彼女が前提条件を一応受け入れてくれた事を確認すると、簡単な応用問題を出すつもりで話を進めた。
「んで、この世界は今年の七月に神様に滅ぼされるから俺達でなんとかそれを防ごうって話」
「それが理解出来ん。子供でももう少しマシな終末論を唱えるぞ。ふざけるのも大概にしろ」
取り付く島もない圧倒的な拒絶。転生者という三流トンデモファンタジーの前段を受け入れてくれた人間と本当に同一人物なのかと疑うくらい落差のある対応に思わずイッシンはずっこけてしまう。
確かに生殺与奪が常の修羅の道である傭兵稼業に身を置いているとはいえ、時には旨いものを食べ、娯楽を享受し、惰眠を貪る日常が無いわけでは無い。だからこそ、そんなささやかな日常が数ヶ月も経たないうちに神などと言うチリ紙の代わりにもならない想像上の産物によって灰燼と化してしまうなどと突然言われて信じられる道理は無かった。
どうしたものかとイッシンが思案していると、彼の隣に座るカミソリのような鋭い目をした男――ドン・カーネル――が若干呆れた様子で口を開く。
「ふざけてなどいない。我々は別世界から転生し、この世界を救うため戦う運命にある。貴様に話した内容が全てだ」
「ほざけドン・カーネル。たしかお前の前世は旧ロシア連邦の生まれとか言ってたな。共産主義の夢想に浸りすぎて脳味噌までお花畑になったか」
「全てをいますぐ信じろとは言わん。だが、そういうものだと割り切ることは出来るだろう」
「だから終末論を受け入れろと? 馬鹿馬鹿しい」
ドン・カーネルの援護射撃も虚しく、頑として譲らないセレンは眉間に皺を寄せながら両腕を組んで盛大に舌打ちをかます。もはや話し合うつもりなど毛頭ない臨戦態勢に入った彼女に対し、それまで沈黙を保っていた
「こちらから話せることは話したんだから用は済んだろう。それじゃ、僕は先に失礼する」
「えっ、ちょ、セロさん?」
「何か問題が? 自身の理解が及ばない事象に対して拒絶しか出来ない人間に興味はないんだ。時代遅れなら尚更ね」
「……なんだと」
セロの言葉にセレンの肩がピクリと動く。痛烈な皮肉屋で有名だったオッツダルヴァの意図的な煽りとは違う、素の感情で人を煽る天才でもあったセロは躊躇いなく屈託のない言葉を紡いだ。
「だってそうだろ。依頼を受け、敵を倒し、報酬を貰う。そのスケールがすこし大きくなるだけだ。何も変わりはしない。それとも年を重ねた女性というのは物事を計る目が老眼で衰えてくるのかい? まあそれなら仕方ないけど」
「誰が年を重ねた女性だって?」
「この場所にいる女性は君しかいないだろ。なんならもう女性っていうかオバ――」
「殺す」
「わあぁ!!セレン、ストップ!ストップ!!」
ハイライトが消えた無機質な目のセレンが能面のような無表情でセロに殴り掛かろうするところを、イッシンはなんとか羽交い締めにして制止した。しかし、本当に女性なのかと勘ぐってしまうほどの膂力で前進しようとするセレンはゆっくりと確実にセロに近付いていく。
「訂正しろ。私はまだ若い」
「ムキになってる時点で若くないよ。本当に若い女性なら気兼ねなく年齢を言えるものだしね。君は言えないだろ?」
「イッシン離せ。コイツはいま此処で殺す」
「だからダメだって!年齢なんか気にすんなよ!」
「……なんか、だと?」
ユラリとセレンが振り向く。ハイライトが消えた深淵の瞳がイッシンを捉える。アッオワッタ。
「ギャアアアアアア!!!」
「ふむ、もう会話にならないみたいだね。まあ話すべきことは話したし、これでいいかな」
「同意見だ。俺は失礼する」
「じゃ僕も」
「おいフザケ……あ待ってセレン!そこは!そんな角度で曲がらないギャアアアア!!!」
いかがでしたでしょうか。
詰め込み過ぎ感が否めませんが許してやって下さい。
次回ですが、物語が一応の折り返し地点に辿り着いたので整理のためにキャラクター設定集を書こうか、そのまま突っ走ろうか悩んでいます。
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