ということで同時投下です。
カラード本部 地上1階 リンクス専用ラウンジ
「まぁ~た面倒臭いミッション持って来てさぁ? なに? 爺さんは俺に恨みでもあんの? 俺アンタの四〇元ポケットじゃないんだけど」
「ラインアーク事変でダンを捕り逃がしただろう。その穴埋めだ」
「だから動けなかったんだって。あの時のセロがこっち側なんて保障はなかったんだぞ? 俺からしたら棍棒一つでシールズ一個小隊を倒せって言われてるようなもんだね」
経年変化によって良い風合いに醸されたカウンターテーブルには数十種類の多種多様なウイスキーボトルが一点の曇りも無く整列しており、その目の前では憎まれ口を叩くキドウ・イッシンとジト目の王小龍が珈琲を飲みつつ並んで座りながら仕事の話をしていた。
奥に引っ込んでシフォンケーキの焼き加減を見極めている店主のレイ・フリードマンはその様子を心底嫌そうに流し見ながら鬱憤を晴らすかのように念入りにグラスを磨いている。
「私からすれば
「どうせもうセレンに話通してんだろ? 有難く受けるさ」
「ほぉ、少し見ぬ間に物分かりの良い
「いんや、裏切った反面教師様のお陰だよ」
「あ~~お二人さん。ちょっといいかい」
不意の呼び出しにイッシンと王小龍が首を前に戻すと革エプロン姿のレイがコーヒーポット片手に腕を組み、呆れながら視点を右へ左へと移して二人を見比べながら溜息を吐いていた。
「なんかあった? シフォンケーキ焦がしたとか?」
「……あのなぁ。確かにココはリンクス専用ラウンジだし、今居るのは俺達三人だけだ。それにココで聞いたことを俺は他言しない契約になってる。けどよ? そう開けっぴろげにミッションの密約交わすのは流石に勘弁してくれないか」
「良いではないかレイ・フリードマン。人払いはリリウムに任せている、乱入してくる輩はおらんよ」
「8割は貴方に言ってるんですよ、Mr.小龍。このラウンジに少なくない出資をして下さっていることに関しては感謝してもしきれませんが、それを勘定しても目に余ります」
我が儘な上司をなだめるような物言いで王小龍に反省を促すレイだったが、当の本人は全く素知らぬ顔で手元のカップを手に取ると中に残った冷めかけの珈琲をクイッと飲み干してレイに目配せをする。意図を察したレイは不服そうに鼻を鳴らすと、右手に持ったコーヒーポットを空のカップへ傾けて音も無く静かに珈琲を注いだ。
「やはりお前の珈琲は旨いな。BFF本社のドリップコーヒーが泥水に思えてくる」
「それはどうも」
「――して、貴様はミッション内容の理解は出来たか」
「急に振んなよ。あとなんで俺が『貴様』でレイさんが『お前』なんだよ。格差有り過ぎだろ」
「敬意を払うべき目下の人間に必要最低限の礼節を弁えているだけだ。貴様は……そうだな、ランク1になったら考えてやらんこともない」
「絶対出来ないの分かって言ってるよな」
話を急に振られ、かつレイよりも自らの価値は下であると真正面から言い放たれたイッシンの額にはうっすら青筋が立つが、言い放った本人は目を閉じながら珈琲を深く味わい始めた。こんな傲岸不遜なロリ爺をまともに相手するだけ無駄だと判断したイッシンは短い嘆息を吐いて胸中の感情を凪いだ状態にすると、王小龍の確認に従って先ほど言われたミッション内容を復唱する。
「一週間後にオーメルから『サイレント・アバランチ撃破』の依頼が来るから受けろ。但し撃破するな、だろ? なんでそんな回りくどいことしなきゃなんねぇんだよ。爺さんならお得意の口先でなんとでも出来るだろ」
「……実は今回、サイレント・アバランチに配備されている機体を刷新してな。対ネクスト戦の性能試験を実地で評価したいという開発チームの無茶な要望を上層部が聞き入れたまではいいが、今度は上層部がそれなりの開発費を出した新機体を他グループに早々と撃破されるのは面白くないと言い出しおった。そして最終的に私に話を回してきたという訳だ」
「ほんとさぁ、いつも思ってるんだけど内々の話に巻き込まないでくれる?」
冒頭のように呆れた口調で悪態をつくイッシンであるが、それも仕方ない。思えば『ギガベース撃破』での邂逅から端を発し、今まで『
「三人の手駒のうち、有能な駒二人が離反したのだ。残った者の責任として尻を拭うのがスジだろう」
「それアンタが勝手に言ってるだけだからね? なんなら駒になった記憶が徹頭徹尾ないんだけど」
「ならば受けなければ良かろう。――まぁ、
「……はいはい。そうならないよう今後ともご贔屓によろしくお願いしますよ、
暗に選択肢など存在しない事を分かり易く提示した王小龍に対してイッシンは肩を竦めながら生返事を返しつつ、すっかり冷め切った珈琲をグイッと飲み干して席を立った。それを見たレイが少し驚いたようにイッシンへ声を掛ける。
「おい、シフォンケーキ食ってかねぇのか」
「悪いけど気分じゃないんだ。そこの爺さんに俺の分もやっといて」
「……
背中越しに右手をヒラヒラさせながらラウンジを後にしようとするイッシンを王小龍が呼び止める。相手を引き留める事など滅多にしない彼が、どういう風の吹き回しかと怪訝そうに振り返ったイッシンであったが引き留めた本人は
「なんだよ。用がないなら帰るぜ」
「風の噂で耳に入ったのだが、ラインアーク事変の時オッツダルヴァと何を話した」
「いや情報速すぎだろ……別に目立ったことは話してねぇよ。チョロッと世間話をしただけさ」
「只の世間話か」
「おう、只の世間話だ。いつの時代も権力者ってのは責任を取りたがらねぇとかな」
イッシンの言葉に一瞬だけ王小龍の片眉がピクリと動いた。しかしそれ以上のアクションは起こさず、淡々とした表情で珈琲の口に含む。
冷めてなお芳醇なアロマを醸し出す熟練の技に無言の賛辞を送った王小龍はイッシンの方を軽く流し見ながら言葉を紡ぐ事を決めた。――鼻の利くようになった
「今回の件は暫定宗主であるローゼンタールCEOに話を通してある。馬脚を現した
「……たくっ、初めからそう言えよ。他には?」
「ミッションエリアの『スフィア』は【槍の残党】共の直轄エリアになっている。奴等のことだ、
「墜としちまっていいのか?」
「それも一興だが、判断は貴様に任せる」
「最後は丸投げかよ。あ~あ~、すまじきは宮仕えってか」
そう言ってイッシンは気怠そうに前へ向き直るとラウンジを後にした。丁度バックヤードからシフォンケーキの焼き上がりを知らせるベルが鳴り響き、レイは待ってましたと言わんばかりにそそくさと奥へ引っ込む。
数分後、ホカホカとした美味しい湯気を漂わせた焼き立てのシフォンケーキが王小龍の目の前に差し出された。彼はフォークを手に取り、繊細なガラス細工を触るような慎重かつ大胆な手つきでシフォンケーキの端を掬い取る。
「若人を使い潰すのは老人のエゴでは?」
「生意気な小僧を教育するのも老人の役目だ。――ん、おぉ。これは中々……」
ミッションを説明しましょう。
依頼主はオーメル・サイエンス社
目的は、BFF社の大規模コジマエネルギー施設スフィアの防衛部隊【サイレント・アバランチ】の排除となります。
かつてネクストを超える戦闘力を喧伝されたアバランチは大口径のスナイパーキャノンを主兵装とする狙撃戦部隊ですが、いまとなっては旧世代の遺物にすぎません。ECMによる妨害工作も予想されますが、所詮は悪足掻きです。
なおBFFの試作兵器が導入されているという情報がありますが、貴方の実力なら特に問題ないでしょう。対処はそちらにお任せします。
説明は以上です。
オーメル・サイエンス社との繋がりを強くする好機です。そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが?
いかがでしたでしょうか。
シフォンケーキに舌鼓を打つ爺……どこに需要があるのか。
設定集については個人的なフロム脳全開ですので生暖かい目で見て下さると有難いです。ちょこちょこ更新していく予定なのでたまに覗いてくれると筆者が喜びます。
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