凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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里芋を収穫したのですが、30kg用の米袋がパンパンになるくらいの大豊作でした。食い切れるかな。


85.魔法の玉と雪化粧

大規模コジマ施設『スフィア』

 

南極大陸に居を構えるこの施設は名前の通り、巨大な球体(スフィア)状のコジマ粒子貯蔵庫が自らの大半を地面にめり込ませているような特異な形をしているのだが、その理由は安全面を最大限考慮した結果だった。

 

BFF社最大のコジマエネルギーを利用した発電施設であるスフィアが作り出すエネルギー量は月間電力換算で約5000億kWh。現実世界の日本の年間総発電量が約3500億kWhと言えば如何に天文学的な発電量を誇っているかの説明は不要だろう。

 

その膨大なエネルギーの行き先のほぼ全てがGAグループ管理の【クレイドル】体制において最重要施設とも言える【アルテリア・ウルナ】に供給されており、ひとたびウルナへの供給が止まろうものなら少なくとも10億以上の人々がその儚い生を終えかねない、まさに要となる施設であった。

 

そんな施設の警備態勢が生半可である筈がなく――。

 

 

 

 

 

 

現在時刻14(ヒトヨン)56(ゴーロク) 

 

大規模コジマ施設『スフィア』より北東へ400km、高度10000m。

 

眼下に平坦な雲を望む快晴の下で淡い桜色の新型輸送機がジェット音を鳴り響かせながら並行に飛行している。その下には先鋭的なフォルムの黒い軽量ネクストが合金製多重層ワイヤーロープで吊されていた。旧レイレナード社が生んだ名機【AALIYAH(アリーヤ)フレーム】と現オーメル社が生んだ新鋭機【LAHIRE(ライール)フレーム】とで混成されたその機体は、頭部のメインカメラである複眼に赤い光を艶めかしく灯しながら各所のスラスター可動部を細やかに動かして最終動作確認をしている。

 

黒いネクスト――JOKER――のコックピットの中では、これと言った特徴の無い青年がパイロットシートに頰摺りしながら恍惚の表情を浮かべていた。

 

 

「はぁぁ~~ヤッパリお前が一番だぁ~~」

 

《気色悪い声を出すな。こっちまで気が滅入ってくる》

 

「優等生のストレイドもいいけど、リンクスとしては尖ったJOKER(おまえ)の方が愛着湧くんだよな~~」

 

 

オペレーターであるセレンは蛆虫を見下すような声色でイッシンの奇行を咎めるが、そんなことはどこ吹く風。次第にエスカレートしていくJOKERへの異常な愛情表現は留まることを知らず、仕舞いにはパイロットシートめがけて腰を振り始めるのではと要らぬ心配をしてしまう程だった。――ちなみに、それまで通常通り稼働していたJOKERのジェネレーターに若干の不調が見られたのは誰も知る由も無い。

 

 

《30秒後に作戦区域へ進入する。投下準備を忘れるなよ》

 

「んだよ、人がせっかく感動の再会を果たしてる最中だってのに。それでも俺のオペレーターですか?」

 

《………》

 

「――え? セレンさん?」

 

《気が変わった。このミッションが終わったら私が直々に相手をしてやる。有難く思え》

 

 

腹の底からマグマの如く沸き立つ苛立ちの感情が絶対零度による急速凍結により声として吐き出されたとしたら、こんな声になるのだろう。寧ろ、それ以外に表現出来る言葉をイッシンは知らないし知りたくも無かった。

 

しかし現実は常に非情だ。イッシンが()()()()おちょくるつもりで言った言葉の返答である、セレンの口から流れ出た呪詛を越えるナニカは画面越しの映像のように逆再生で再びセレンの口に飲み込まれていくことはないし、スマートフォンのように上へスワイプして無かったことにも出来ない。

 

つまり何が言いたいのかというと、この哀れな子羊(イッシン)飼い主(セレン)の逆鱗に触れたことで逃れ得ぬ死を約束されたのだ。それ以上でもそれ以下でもない。

 

 

「――や、やだなぁ。冗談はヨシコちゃんだよ、ねぇ?」

 

《安心しろ。どこに出しても恥ずかしくないボロ雑巾にしてやる》

 

「ねぇ? 噓でしょ? 噓だと言ってよ?!」

 

《……クドい。降下》

 

 

断頭台のギロチンが落とされる瞬間とは、きっとこんな心持ちなのだろう。セレンの声と同時に輸送機のネクスト用懸架ワイヤーアタッチメントが解放され、合金製多重層ワイヤーロープによる支えを失ったJOKERは蜘蛛の糸に縋るような無様な体勢のまま自由落下していった。

 

 

「だぁぁもぉー! こうなりゃヤケだー!!」

 

 

イッシンは眼下の雲海にJOKERが吞まれる前に無様な体勢の機体を錐揉み回転させながら、機体全体が大の字に広がった降下姿勢を取らせる。それに加えて両手両背に装備している兵装の表面積もプラスされるため、鉄の塊であるネクストという事を加味しても十分な空気抵抗を得ることが出来た。

 

その空気抵抗を全身に受けながら雲海にダイブしたJOKERは慣れ親しんだ数秒間のホワイトアウトを経験し、ボフンと雲海から吐き出される。

 

――銀世界であれば黒一色のJOKERなどレーダーに頼らずとも目視で確認されてしまうだろう。まして周辺施設はアルテリアの基盤。開幕と同時に狙撃されてもおかしくない。そう考えたイッシンはいつも以上に気を引き締め、操縦桿を握り直していた。

 

しかし目の前に広がっていたのは一面の銀世界ではなく、雲海よりも多少マシなくらいのホワイトアウト。いや、ほぼ無風だった分だけ雲海の方が優しいかも知れない。

 

何故なら雲の下では台風かと錯覚するほどの暴風が吹き荒れ、それに加勢するように大量で大粒の雪が横殴りでJOKERの装甲を白に染め上げようと叩きつけてきていたからだ。挙げ句の果てには昼間にも関わらず3m先の視界すら奪われてしまっており外界温度は-35℃。辺り一面が極寒の白い夜と化していた。

 

 

「なあセレン。今日の周辺天気予報って晴れだったよな?」

 

《ああ、少なくとも濃霧が発生する程度だったはずだが……》

 

「後日の仕切り直しってのはアリ?」

 

 

先程までの寸劇はどこへやら、想定外の事態に思わず素に戻った両人は一端の傭兵らしく状況を素早く確認。オペレーターであるセレンは事態の重さを即座に理解し、リンクスであるイッシンもそれに反応して作戦プランの変更を提案する。

 

次世代兵器『ネクスト』であれば、この程度の視界不良など問題ない。むしろ丁度いいハンデだ。と(のたま)う輩がいるが、それは大きな間違いである。ネクストが戦場に於いて圧倒的優勢からスタート出来るのはコジマ粒子による恩恵が大部分を占めているからだ。いくら重装甲型ネクストであっても限界があるし、なによりPA(プライマルアーマー)を展開出来ずQB(クイックブースト)も発動出来ないネクストなど、ハイエンドノーマルにも劣るデカブツに過ぎない。そしてPA(プライマルアーマー)は通常兵器の攻撃程度でも晒され続けられれば減衰していき、最終的には展開すら困難となる。

 

つまり視界不良というコンディションは戦場の絶対的強者であるネクストが、何の変哲も無い通常兵器に蹂躙されてしまう唯一にして最大の弱点なのだ。

 

しかし、それを知った上で悪戯っぽい凶暴な笑みを浮かべたセレンは言葉を繋げた。従順な猟犬の顔を両手で持ち上げ、良い子だと褒めるように。

 

 

《いや、作戦プランに変更は無い……お前なら出来るだろ?》

 

「――そこまで言われちゃ、やるしかないな! キドウ・イッシン! JOKER! ド派手に行くぜ!!」

 

 

威勢の良い掛け声と共にイッシンはフットペダルを蹴り抜いてJOKERのメインブースターから完全燃焼を示す青白い炎を噴射させながらAMSを接続、戦闘モードに移行させた。

 

何度経験しても馴れないAMS接続時の目眩に辟易しているイッシンは悪態をつきながらも、すぐさま思考を立て直して音声操作でコックピットのコンソールパネルに現在のJOKERの兵装を表示させる。

 

 

右腕部兵装【AR-O700】

左腕部兵装【04-MARVE】

右背部兵装【MP-O901】

左背部兵装【TRESOR】

肩部兵装【051ANAM】

右腕部格納兵装【LARE】

左腕部格納兵装【EB-O700】 

 

 

機体コンセプト通り、短期決戦を主眼においたアセンブリとなっているJOKERに対してFCSシステムの異常が無いことを確認したイッシンは再びコンソールパネルを(はじ)いて自由落下中に狙撃してくる敵がいないかレーダーに目をこらし、周囲2km圏内の反応がないことに若干安堵しながら雪原にランディング着陸する。

 

この時、まだイッシンは気付いていなかった。

雪原の狙撃手がどれほど狡猾で恐ろしい相手なのかを。




いかがでしたでしょうか。

サイレント・アバランチ(魔改造)の実力とは……。

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