「……マジでなんも見えねぇな」
《レーダーはまだ生きてるだろ。文句を言うな》
「目標の400km手前で投下した人間が言える言葉じゃないよね、それ。かれこれ30分はブースト噴かしっ放しなんだけど」
《だからこうやって危険を冒しながら真上に陣取ってオペレートしてるんだろうが》
「え~え~そうですとも。ミス・セレン様の多大な尽力のお陰でこのように安心してミッションに臨めることを心から有難く思いますよ」
死者の魂すら凍てつかせる冥府を彷彿とさせるブリザードの白い闇の中を、黒色で統一された先鋭的なフォルムの巨人――JOKER――が時速600kmの高速域でひたすら前へ前へと突き進んでいた。
投下後すぐに、いつ戦闘になっても即時応戦出来るようにコジマ粒子のバリア――プライマルアーマー――を展開しているお陰で猛吹雪が直接JOKERを襲うことはない。プライマルアーマーに触れた瞬間に蒸発してしまうからだ。しかしそれでもプライマルアーマーのコジマ粒子濃度のムラによって若干の撃ち漏らしが出てしまう。
プライマルアーマーの防衛ラインを突破した勇敢な大粒の雪達は最後の気力を振り絞って巨人の赤い複眼を塞ごうとトリモチのように張り付いてくるが、複眼の真下に設置された排熱孔から放出される熱風によって呆気なく溶解して只の水と化してしまった。
そんな様子を見ながらイッシンは『アサルトアーマーなら全部吹き飛ばせんじゃねえか?』という
「しっかしサイレント・アバランチの新型か。どうもノーマル型の固定砲台ってイメージしかないんだよなぁ」
《だがリンクス戦争当時、何機かのネクストを墜とした最精鋭ノーマル部隊であることは確かだ。気を引き締めろよ》
「どうだかねぇ……そういやセレン、新型のスペックデータ貰った? 俺見てないんだけど」
《いや、あの
「マジかよ、ホント最――ドシュン――低……ドゴンッッ……がぁ! クソッタレ!!」
刹那、鋭い衝撃がJOKERのコックピットを激しく襲った。突然の不意打ちに思わずつんのめるイッシンだったが即時応戦を頭の隅に入れていたことが功を奏したのか、その衝撃を利用して中腰姿勢でクイックターンを発動し、すぐに体勢を立て直すことに成功。
考える間もなく反射的にJOKERの両手に握られた【AR-O700】と【04-MARVE】を起動させると、前面120度角をカバーするように展開。警戒態勢を崩さぬよう足運びに注意しながら慎重に全方位を見渡し、衝撃を与えた当人を探索を開始した。
《なっ! どうしたイッシン!》
「狙撃された!そっちのレーダーに反応あるか!? こっちは何も映らねぇ!」
イッシンの言葉とほぼ同時にセレンはそれまで起動していた戦闘用オペレートシステムを早期警戒用オペレートシステムに立ち上げ直し、通常作動時は半径700kmをカバー出来る索敵網を半径50kmに絞り込むことで濃密な警戒態勢を形成する。
この猛吹雪の中でJOKERを狙撃出来るのならば間違いなく近辺に狙撃手が潜んでいると睨んだセレンは複数の検知機能を同時展開。ネズミ一匹通さない包囲網を作り上げたのだが、レーダーに掛かる機影はJOKERを除いて何一つ見つからない。
《熱源探知は……チッ! ならモーションセンサーで……これもダメか!》
「早めに頼…ドシュン…むぜ! こんな極寒で穴あきチーズになるのは…ドシュン…っ御免だ!」
そう言っている間にもJOKERへ無慈悲に放たれる弾丸の雨は一発一発が驚異的な精度を以て襲いかかってくる。しかしイッシンも黙ってやられるようなヤワな人間ではない。彼は、王小龍との戦いとキタサキでのイレギュラー戦で培った狙撃の対処法と持ち前の勘の良さを駆使してなんとか紙一重で躱し続けていた。
《ECM妨害でも無いとすれば………なるほど逆張りか! イッシン! 4時の方向900mに敵影3、コイツら追従型ECMを装備してるぞ!》
「おいおい、そりゃリリウム嬢の専売特許だろ? じゃあコイツらがサイレント・アバランチの新型ってことか!」
《まったく厄介な代物を作ってくれたものだな。――まあいい。教導料は貰っているんだ、キッチリ教えてやれ。ネクストとノーマルの格の違いを》
「イエス、マム!」
イッシンは威勢の良い掛け声と共にフットペダルを踏み込んでOBを発動し、JOKERのメインブースターに青色の炎を煌めかせながら目標座標に急行する。ブリザードの風向きに逆らって突き進んでいるため、雪の叩きつけがより一層強くなるがイッシンは気にする事無く踏み込み続けた。
赤い複眼に雪で出来た厚い瞼が重くのしかかり始めた頃に、JOKERのFCSが陣形を組んでいる三機の未確認敵影を捕捉する。その未確認機影はネクストより頭一つ分全高が低い人型兵器であり、ブースターを噴かしながら小気味良く動く姿から敵がハイエンドノーマルである事は明白だったが、問題はその形状だった。
吹雪の白い闇に潜むことを前提とした、雪原用の白い光学迷彩マントを旅人のように全身に纏った機体のフード部分からはBFF伝統の仰々しい光学カメラが一つ、狩人を彷彿とさせる眼光を光らせており、肩に当たる部分からは雪の結晶とは違う光りかたをした粒子がマントの外へ漏れ出している。
明らかに量産型では無いハイエンドノーマル。それも吹雪という特殊環境での運用を前提とした特化機体となればネクストと言えど油断できる相手ではない。
「戦場の主役はネクストとAFだってのに、BFFもずいぶん粋なもん作るじゃねえか」
《
「なんだ、インテリオル・オーメルは違うのか?」
《早々に
「へぇ……ならモラリストに敬意を表して、正々堂々正面から叩き潰すか!」
刹那、イッシンはフットペダルを蹴り抜いてOBを発動したままQBを発動して更なる加速の上乗せを重ねる。瞬間的な超加速によって暴風と化したJOKERはハイエンドノーマル部隊が指一本動く隙すら与えずに肉薄した。
今回のミッションの表は『サイレント・アバランチ撃破』だが本命である裏が『サイレント・アバランチ無力化』となっている以上、新型を撃破せずに無力化することが第一であるため、敵機撃破=王小龍からのミッション失敗に直結する。射撃による攻撃では確実性に欠け、ネクストレベルの火力で誤射などしようものなら新型ハイエンドノーマルは一発で爆炎に包まれるだろう。
だから肉薄することによって距離を詰め、接近戦に持ち込むのだ。幸い、BFFは長距離兵器が売りの企業であるため懐に入れば難儀することはないだろう。
そう判断したイッシンはJOKERの右手に握られた【AR-O700】を片手剣のように持ち替えて裏拳を繰り出すが如く、後ろへググッと引き絞った。狙うはハイエンドノーマルの脚部。他は二の次だ。まずは機動性を奪い戦意を喪失させた上で武装解除を勧告。応じれば良し。断れば全武装を破壊して追撃させないだけだ。
生殺与奪の権を司る修羅が
張り詰めた弓の弦がいまかいまかと射出を待ち望みながら震えるように、絞られた右腕が解放されるまで残り距離150……100……50……
「今っ!!」
拘束を失ったJOKERの右腕は目にも止まらぬ全身全霊の速さで放たれ、その手に握られた【AR-O700】は狙い澄まされたハイエンドノーマルの脚部へ吸い込まれてく。そしてその尖った刃が脚部を両断しようとした瞬間、JOKERのプライマルアーマーによって雪が溶融し、露出した地面に設置されていた
JOKERは後方へ大きく吹っ飛んだ。
《なっ!? イッシン!!?》
――嘘だろ。いや、まぁ有り得るよな。仕組み自体は単純だし前世にもあったから難しくないだろうし。でもさ、ネクストでもノーマルでも、こんな機敏に動き回る兵器相手に待ち伏せ用の兵器作ろうなんて普通思わないじゃん? まして単純にサイズと威力を高めただけの兵器なんてさ。つまり何が言いたいかっていうと。
「ネクスト用の
飛び出してきた数百個の3cm鉄球もとい弾丸は前面への爆発によって生じた爆風と共にJOKERに直撃、プライマルアーマーで多少減衰されたとはいえ少なくないダメージを負わせる。
そのまま吹っ飛んだJOKERは空中でクルクルと回転しながら体勢を整えて着地。撃破されては元も子もないと判断したイッシンは右手の【AR-O700】を本来の持ち方に直し、左手の【04-MARVE】と共にダブルトリガーで構えた。
対するハイエンドノーマル部隊も
しかしそれは必要だったのだろう。何故かと言えば、腰部のレールベルトに走らせた折り畳み式大型スナイパーキャノンの重量と衝撃を受け止めるためだと推測出来たからだ。
三機とも訓練された隙の無い動きでスナイパーキャノンを展開、構えてJOKERをスコープに捉える。ネクスト用
まさに一瞬の隙が命取りとなる場面で双方とも動けずにいたが、不意にレーダーに反応が現れた。
《12時の方向200mに敵影3! 加えて8時の方向300mに敵影3! 機体照合――新型ハイエンドノーマルと同一!? イッシン、マズいぞ!!》
「囲まれた……いやおびき出されたか。さながら狩り場の狐だな、こりゃ」
吹雪の中、黒い狐を取り囲むように九つの単眼が不気味に光りながら揺らめいていた。
いかがでしたでしょうか。
ネクスト相手にクレイモアを開発するBFF……実は変態企業なのでは?(オリジナル兵器です。悪しからず)
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