「流石サイレント・アバランチ、と言ったところだな。新型のハイエンドノーマルをこうも易々と乗りこなすとは」
「これも理事官様のお陰です。我々ノーマル開発部門のような日陰者に予算を組んで頂いて、本当になんと言ったらいいか……」
大規模コジマ施設『スフィア』の中央管理棟に設置された司令室で白衣姿の研究員を挟むようにスーツ姿の男性が二人、目の前の大型モニターに映し出された新型ハイエンドノーマルの戦闘中継を見ていた。
一人はでっぷりと太っていて粘度の高い汗を常に拭いており、ネイビーのダブルスーツを嫌みったらしく着込んだ壮年の男性。もう一人は対照的に無駄な肉の無い痩躯で汗一滴かくことなく、グレーのスリーピースを洗練された所作で着熟している老齢の男性である。ちなみに老齢の男性の直ぐ後ろには、まだあどけなさの残る少女が陰のようにひっそりと佇んでいた。
研究員に理事官と呼ばれたダブルスーツの男性は喉仏が見えないほど肥え太った声帯をわざとらしく震わせ、自身の威厳を誇示するかの如く振る舞う。
「ハハハッ気にするな。それも
「話しかけるな、目障りだ。【槍の残党】風情が」
「その残党風情に今回ばかりは舌を巻いている事実をそろそろお認めになったらどうです?」
理事官がその自信満々な顔色を見せつけるように彼の顔を覗き込んできたので、王小龍はいままでイッシンやセレンにも見せたことが無い心底不愉快そうな表情を滲ませながら顔を背ける。
数ヶ月前、イッシンがBFFのフラッグシップ級アームズフォートだった
元々役員会で決まっていた筈の
例を挙げれば『ダメコンに致命的な欠陥があるにも関わらず長年放置した』から始まり、『最上位リンクスでもない若造二人にほぼ一方的な敗北を喫した』、『目玉兵器である超長距離砲はネクスト相手では全く使い物にならない』、『【一撃必中】が企業コンセプトであるBFF社のイメージに大変な傷がついた』。
トドメに『こんな杜撰な計画を主導した旧経営陣に存在価値はあるのか』と、聞いている此方が悲しくなるほど理路整然とした罵詈雑言を並べ立てて徹底的にコキ下ろし、旧経営陣に対する役員会の心証を圧倒的に悪くした上で主要開発部門への干渉禁止を提案。もちろん王小龍率いる女王派が目下開発中の新型AFについての売り込みも忘れることはなかった。
しかし腐っても鯛。
王小龍にとっての唯一の誤算は旧経営陣たる【槍の残党】が有していた自らの立ち位置を理解する能力、それが経済戦争の第一線を退いて尚衰えていなかったことである。
【槍の残党】は顔色一つ変えずに軽々と、いや正確には非常に精巧に作られた悲痛な表情の仮面を被り
【槍の残党】最大のカードであり最大の金食い虫であった
そんな理想的かつ実現可能な構想を雄弁に語る【槍の残党】に役員会が乗らない筈がなく、王小龍によって作り上げられた弾劾と追求の処刑場は一瞬にして繁栄と革新の演説会に様変わりし、彼と一部の女王派を除く全員が大団円を謳って役員会は終幕を迎えた。
その後予算が組まれてすぐに、
【槍の残党】曰く『いままでノーマル開発部門に資金を出し渋ってきたツケだ。これまでの戦績を否定する訳ではないが
個に依存しない戦力の確保は重要であるし、王小龍もそれを良く理解していた。だが彼は知っている。【槍の残党】の、手段こそ過激であったが真に人類の繁栄を願ってリンクス戦争時にレイレナード陣営へ付いたあの頃の高貴な精神はとうに消え失せており、いまは保身と堕落のぬるま湯に身を浸した老人共でしかないことを。
ハイエンドノーマル開発も上等な文句で誤魔化してはいるが、元を正せば『億に一でも裏切る可能性のある個人に強大な戦力を貸与し、あまつさえ命を預けるなど出来るか』という思想に行き着く。無論一度殺されかけている心情を加味すれば理解できないこともないが、それでも現状の戦場で主役の座を拝しているネクストをなにがなんでも排除しようとする行動は異常としか言えない。
故に王小龍は馴れ合う気などサラサラ無いのだ。だから一時の熱に浮かされた役員会の尻拭いを請け負ったために来たくもないスフィアまでわざわざ足を運び、イッシンの依頼主らしく事の顛末を見届けねばならない事実に心底うんざりしているし、ましてリリウムの姿をこの豚の醜い眼に映すなど虫唾が走る。
そんな王小龍の心を知ってから知らずか理事官は彼に向けていた目をヒョイとリリウムに向け、舐め回すような目つきで言葉を走らせる。
「しかしリリウム様も気丈な御方ですな。家の者が二人も屠られた忌み場に足を運ぼうとは。私が貴方ならワイキキビーチあたりでバカンスを楽しみながら衛生中継で済ませますのに」
「……お気遣い痛み入ります、理事官様。ですが私はウォルコット家のリリウムである前に、小龍様の付き人であるリリウムであると自認しています。付き人である以上、私情は挟みません」
「いやはや、そのお歳にも関わらず大変ご立派な考えをお持ちのようで安心しました。これも王小龍上級理事殿の鞭撻の賜物ですかな、才覚もあって見目麗しいリリウム嬢を手取り足取り指導出来るのは羨ましい限りです」
「黙れ、その汚い口と濁った両目を寸分違わず穿つぞ。貴様の悪臭のせいで目を瞑っていても狙い撃てる」
リリウムに卑猥な視線を這わせた理事官に向けて青筋を立てた王小龍の鋭すぎる眼光と殺気が光る。あまりの迫力に本当に撃ち抜かれたのではと錯覚した理事官は目を泳がせながら取り繕い、逃げ道を作ろうと粘度の高い濁った汗を垂らした。
「し、失礼。冗談が過ぎましたな。謹んでお詫び申し上げる。そ、それよりも! 我等が新型ハイエンドノーマルの雄姿を目に焼き付けようではありませんか! ほら見て下さい! ラインアークを生き残ったあのキドウ・イッシンを誘い込んで包囲していますぞ!」
傍目から見ても苦しい言い訳と話題の方向転換に終始する理事官を軽蔑の目で見下す王小龍だったが、そうする価値すらないと割り切って目の前の大型モニターへ視線を送る。
――なるほど。追従型ECMを敢えて起動することで
だが、と王小龍は口角を薄く上げた。直前に述べた事柄と反対もしくは対立の関係の内容を述べるのに用いる語が聞こえた理事官はキョトンとした顔で彼の方に顔を向けている。
「包囲したからと言って慢心するのは狩りに於いて愚の骨頂だ。手負いの獣は何をしでかすか分からんぞ」
いかがでしたでしょうか。
キャラ設定集を書く気力がないのは許して……。暇さえあれば寝たいんだ……。
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