凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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ジャーマンポテトならぬジャーマンパンプキンを作ったのですが、中々美味でした。というかチーズとベーコンが優秀過ぎるのかな……。


88.アキレスと亀

「さて、と。これからどうするかな」

 

《……どうせ無傷で帰るつもりなんだろ?》

 

「ご名答。まぁメンテナンス費の足が出るだろうけど勘弁してくれ」

 

想定外(イレギュラー)の戦場で想定外(イレギュラー)の敵から無傷で生き残るだけで十分お釣りが来る。多くは望まん》

 

 

猛吹雪により数メートル先の視界すら白い闇で包まれてしまっている中、イッシンとセレンは驚くほど冷静に事態を把握していた。……なにもこの事態が引き起こされるのを想定していた訳ではない。むしろセレンの言葉通り想定外中の想定外だ。だが想定外に動揺してその後の行動を振り回されてしまえば、無用な厄介事が新たに発生する可能性は飛躍的に上昇する。そうなってしまえば事態が複雑化するのは免れないだろう。だから彼女達は打ちつける吹雪のような冷静さと若干のユーモアを交えて状況を読む。

 

緊張と緩和。

 

この相反する二つの性質を両立させた時、人間は類い希なる力を発揮して事柄に臨むことが出来るのだ。現代医学風に言えば『フロー状態』と言ったところか。不意にサイレント・アバランチの隊長格らしい男性の声がコックピットに響く。

 

 

《こちらサイレント・アバランチ。貴殿は包囲されている。速やかに投降すればカラード規定に則り、然るべき手続きを行ったのちの解放を約束しよう》

 

「お~お~なにを言うかと思えば。ノーマルが? ネクストに? 投降勧告? 笑えない冗談だな」

 

 

戦争に於ける主役の座を新兵器(ネクスト)に明け渡した時代遅れ(ノーマル)から投降を勧告されるのは、新兵器(ネクスト)を駆るリンクスにとって恥辱以外の何物でも無いだろう。経験が浅いカラードランク下位のリンクスなら、いや上位のリンクスであっても激昂してなりふり構わず全兵装を振り回しているところだ。

 

だがイッシンは減らず口を動かせど、乗機であるJOKERの指一本すら動かさない。分かっているからだ。勧告を口にしている隊長格の男はBFF最精鋭部隊であるサイレント・アバランチを率いることが出来るだけの技量と経験を有した熟練(ベテラン)であり、それでいて新型ハイエンドノーマルの試験パイロットを務めることも出来る柔軟性を併せ持った正真正銘の(つわもの)であることを。

 

そしてそんな彼が戦場の絶対的強者に刃を向けるという意味を知らない筈がなく、時間稼ぎのためにハッタリの投降勧告をしたところで意味など成さないことは良く分かっているだろう。だから動かない。投降勧告の意味は、裏を返せば此方(こちら)を狩れるだけの状況が整っている事の証左であるからだ。

 

 

《合計九門のスナイパーキャノンが貴殿を捉えている。加えて吹雪は我らの独壇場(フィールド)だ。逃げ場は無い》

 

「あっそう。他に何か言うことは?」

 

 

しかしイッシンは動じない。まるで母親に早くシャワーを浴びるよう急かされた子供のように軽くあしらいつつ、更に視野を広げた。

 

4時、8時、12時の方向に三機ずつ。三方向攻撃は包囲射撃による同士討ちのリスクが最も少ない理想的な布陣だ。距離は120~200程度。ネクストにとっては十分近距離と呼べる距離だが視界が吹雪によって開けない以上、遠距離と言って差し支えないだろう。

 

判明している兵装は追従型ECMと腰部に担がれた折り畳み式スナイパーキャノン、それ以外に考えられるのは敵に接近された時用のレーザーブレードと先ほど手痛いダメージを受けたネクスト用指向性対人地雷(クレイモア)がせいぜい1~2基。機体自体は狙撃タイプらしくないマッシブな仕上がりだが、装甲の造りは簡素で中距離での撃ち合いは想定してないのだろう。あくまで衝撃吸収に絞った設計というのが良く分かる。

 

BFF最精鋭である自身らを軽くあしらったことにサイレント・アバランチの数名が憤りを感じているが隊長格の男は睫毛一本動かさず、こちらから伝えるべき情報をイッシンへ淡々と伝えた。

 

 

《――我らは【女王派】だ。王小龍上級理事から今回の話は聞いている》

 

「……へぇ。それで?」

 

《悪いようにはしない。投降しろ》

 

 

再度の投降勧告。これは隊長格の男の中では最大限の譲歩をしたつもりだった。我々はこのミッションが『サイレント・アバランチ撃破』ではなく『新型ハイエンドノーマルの性能評価試験』であることを知っている。故にそちらの手の内は把握済みだ。だから投降しろ。隊長格の男は言外にそう言葉を込め、スピーカーに投げ掛けた。

 

さぁどう出る?

 

隊長格の男の首に冷たい汗が滴る。緊張の瞬間だ。

 

 

「しかし、特務遊撃大隊と比べてずいぶん甘いんだな」

 

《なに?》

 

「俺みたいな手合いはな――

 

――即時殲滅がセオリーだぜ?」

 

 

《っ!!! 全機、撃て!!》

 

 

刹那、隊長格の男の掛け声を()()()()()九機の新型ハイエンドノーマルが各々操る九門のスナイパーキャノンのトリガーが引かれ、亜音速で飛来する砲弾の群れが包囲の中心で佇んでいるJOKERを蜂の巣にせんと驚異的な精度で突き進んでいった。

 

(つわもの)である彼が何故突然『撃て』と命令したか、その理由は同じ場所に居たサイレント・アバランチ隊員にしか分からないだろう。

 

スピーカー越しからでも全身に纏わり付いてくる悍ましいほどの殺気。憎悪や執念と言った負の感情ではなく、狂おしいほど澄んでいる純粋な殺意。あまりの純度の高さに己の終焉を感じ取った彼等は、戦士らしく、その終焉を自らの手で摘み取ろうとしたのだ。

 

しかし哀しきかな。その一瞬、その一瞬だけ、彼等の脳内から相手が絶対的強者であるという情報が抜け落ちていたのである。次の瞬間、全てを塗り潰す白い闇を翡翠色の閃光が侵食して、爆ぜた。

 

アサルトアーマー。

 

ネクスト内に蓄積された機関部を除く全てのコジマ粒子を圧縮・解放し、機体周辺を殲滅可能な唯一のネクスト内蔵型兵装である。その絶大な威力故に機体周辺のみの極めて狭い効果範囲と一定時間プライマルアーマーの再展開が不能になるデメリットが存在するが、イッシンはそれを加味した上で発動したのだ。

 

コジマ粒子の解放によってJOKERの半径100mは悉く消し飛び、飛来していた亜音速の砲弾群も瞬く間に蒸発してしまった。

 

そう、()()1()0()0()m()

 

つまりJOKERの繰り出した『奥の手』とも言えるアサルトアーマーの起死回生はサイレント・アバランチが駆る新型ハイエンドノーマル部隊へ到達することなく減衰を始め、猛吹雪の中にポッカリと何も無い空間を作り上げただけに過ぎなかったのだ。

 

そして隊長格の男は突然目の前で爆ぜた翡翠色の閃光がなんであるか即座に理解していたし、作戦前のブリーフィングでその有効範囲も知っていた。だからニヤリと笑う。

 

アサルトアーマーがぎりぎり到達しない場所に部隊を配置してスナイパーキャノンの着弾時間を出来るだけ短くした上で、プライマルアーマーの加護が無いJOKERを安全に仕留める。敵のスペックを把握し、それを踏まえた単純かつ効果的な作戦を練り上げた彼は部下を担う指揮官としてほぼ理想型に近い答えを示した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが考えてみて欲しい。九匹の鼠が力を合わせて立ち向かったところで、一匹の山猫に勝てる確率などゼロに等しいことを。

 

彼らの敗因はアサルトアーマーの発動によって消し飛んだ吹雪の壁の中から、ほんの数秒間、ほんの数秒間だけ姿を晒してしまったことである。

 

死神(JOKER)の名を冠するネクストの血のように赫い複眼はその数秒間を決して逃すことは無く、消し飛んでいた白い吹雪が再びJOKERを包み込もうとした瞬間、JOKERはその場から間違いなく消え去った。

 

刹那――

 

 

《は? なんで……》ザンッ!

 

《おいどうし……嘘だろ!?》ザンッ!

 

《全機散開しろ! 位置がバレてる!》ザンッ!ドシュゥン!!

 

《ふざけんなコイツ! 指向性対人地雷(クレイモア)を喰らいやが……!?》ザンッ!

 

《いや待っちょっとタンマ!》ザンッ!

 

《このバケモノめ!!》ザンッ!ドシュゥン!!

 

《隊長、撤退を!足止めは俺が……!》ザンッ!

 

《この距離なら――いやブレードを躱すのはチートだろ!?》ザンッ!

 

 

 

チャキッ………コンッ

 

 

 

隊長格の男が乗る新型ハイエンドノーマルの後頭部に何か鋭いモノが当たり、軽いノックのような音がコックピットに響く。

 

――振り向けない。振り向けるものか。こんな、こんな馬鹿なことがあって……!!

 

 

(ノーマル)未来(ネクスト)に勝てない。ご明察かな? ミスター」




いかがでしたでしょうか。

休日はアマプラで映画三昧してるのですが『ショーシャンクの空に』は名作ですよ。見たら人生が豊かになります。ぜひ。

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