凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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久々に15kmのランニングをしたのですが全身が筋肉痛です。走って腹筋がいたくなるってなんぞ。


90.掌の舞踏会

《だ~か~ら~! あたしも転生者だって言ってるじゃないか! なに? 疑ってんの?》

 

「いやまだ何も――」

 

《あ分かった、女がアーマードコアなんてやる筈ないって思ってんでしょ! チッチッチ~♪ 甘いわね、メカ好き女なんて世の中に腐るほどいるのよ? 知らないの? それでもリンクスなの? なんなら童貞なの?》

 

《姐さん、メカ好き女子が意外と多いことは認めますがそれと彼がリンクスであることの相関性はないです。あとおそらく童貞でしょう》

 

《多分な》

 

《――イッシン。一応聞いておくが、このビッチがお前と同じ転生者ということでいいか》

 

「……多分ね」

 

 

吹雪が黒一色のJOKERを白く染め上げようと無駄な労力を挙げて躍起になっている中、彼と敵対関係である筈のネクスト達は警戒態勢をとるどころか兵装を持った両腕をダランと下げて、騒がしい井戸端会議のようにイッシンをまくし立てていた。本当にここは命のやり取りをする戦場なのかと額に指を当てるイッシンは(らち)が開かないと判断して会話の主役であるフランソワ・ネリスに対話を求める。

 

 

「とりあえず交戦意思は無いってことでいいな?」

 

《あったり前じゃない! 同じ転生者同士なんだから仲良くしましょう?》

 

《姐さんそれはマズいです。カラード経由でないとはいえBFFから依頼を受けた以上、任務放棄は今後の仕事に支障が出ます》

 

《確かにな》

 

《別にいいわよ。仕事が無くなるより、あんな汚いデブハゲ如きに顎で使われる方がよっぽど惨めだと思うけど》

 

 

両サイドで召使いのように立っていたスカーレットフォックスとエメラルドラクーンはフランソワ・ネリスの言葉を聞いて再考を促すが、彼女はハンッ!と鼻を鳴らして助言を一蹴する。

 

 

《それに私、任務放棄なんて一言も言ってないわよ? 私達が請け負ったのはあくまでJOKERの()退()。排除じゃない。だから彼が何もせずに帰ってくれても報酬は全額支払われる仕組みになってるの。つまり弾薬費と修理費の掛からない美味しい仕事ってこと。分かる?》

 

《流石姐さんです。伊達に【コルセール】の首領を務めてないですね》

 

《そうだな》

 

《ふふっ! もっと褒めなさい!》

 

 

もはや彼女の独演舞台が始まっているのかと錯覚するくらい饒舌な舌回しを披露するフランソワ・ネリスの振る舞いにイッシンとセレンは呆気にとられるが、聞こえてくる話を聞いている限りただの阿呆という訳ではなさそうだ。そう判断したイッシンは再び意を決して彼女自身との対話を再開させた。

 

 

「じゃあ次に転生者であることの証明が欲しい。原作設定とかまだ起こってない出来事とか、何でもいいから教えてくれ」

 

《そうね~……ORCA旅団の情報はもうカラード内に出回ってるし……アサルトセ――》

 

「もう十分です! てかチョイスしたのがそれかよ!! 傍受されてたら地雷どころの騒ぎじゃないぞ!?」

 

《いいじゃない別に。それで、信じてくれた? 私が転生者だってこと》

 

 

スピーカー越しでも分かる彼女のご機嫌な声色でイッシンは即座に判断した。こいつ絶対に性格悪い。どの辺りが性格悪いって、数ある原作知識の中からわざわさアサルトセルという単語をチョイスする辺りに性格の悪さが滲み出ている。

 

いわゆる『企業の罪』の核心部分を形成しているアサルトセルは本当の意味でごく一部の人間しか知らない最重要機密であり、知ったが最後、地元新聞の死亡者欄に名前が載ること必死な特大の厄ネタだ。それを暗号化していないオープン回線で言う豪胆さは大したものだが、もっと場を(わきま)えて発言して欲しい。

 

 

「……ひとまずは。とりあえず、このミッション後に会うって事でいいな?」

 

《ちょっと待てイッシン。このビッチと会うつもりか》

 

《あら~妬いてるのセレン・ヘイズ? まぁ貴女みたいな年増より私の方が魅力的なのはわかるけど、別にイッシン君を取って食べるつもりなんてこれっぽっちも無いわよ》

 

《――あ゛? もう一度言ってみろ。その美的センスの欠片も無いネクストもろとも焼き払ってやる》

 

「二人とも待てって! てか初対面の数分で仲悪くなりすぎじゃね?!」

 

 

フランソワ・ネリスがアサルトセルという本来知り得ない筈の弩級厄ネタを知っていたにも関わらず、イッシンが彼女と直接会うことを提案したのには事情がある。それはラインアーク事変でカラードを裏切ったダン・モロが放った『貴方はどの転生者を受け継いだのですか?』という一言の真意を問うためにレイヴンとセロに質問したところから始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり転生者が何らかの障害によって行動出来なくなった場合、その転生者が選んだ人物に責務と記憶を移譲する事が出来るってことか」

 

「概ね合っている。と言っても僕の場合はレイヴンに倒されたとき彼へ一方的に押し付けただけ、だけどね。正直ジョシュアの乗ったプロトタイプネクストとやり合った満身創痍の彼と戦うなんて、只の弱いモノいじめだと思ってたから負けるのは想定外だったよ」

 

「突然頭の中に知らない記憶が流れ込んできたときは私も驚いたが、信じるしかないだろう。あの時のセロに嘘をついている様子はなかったからな」

 

「鬼神の形相で詰問したくせに良く言うね。……まぁそういう事だ。レイヴン以外にも継承者がいることは否定出来ないから、そのあたりはくれぐれも注意してくれよ?」

 

「なんでだ? 継承者ってことは味方みたいなもんだろ」

 

「まさか。転生者が移譲出来るのはあくまで責務と記憶だけ。継承者の行動を制限出来る訳じゃない」

 

「……つまり継承者の性格によっては、文字通りの原作クラッシャーが出来上がる可能性もあるってことか」

 

「話が早くて助かるよ。だからこそ一層注意して欲しいんだ。お互いが記憶を持っている以上、転生者と継承者の区別は殆どつかないからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セレンが嫌がるのもわかるけど、今はフランソワ・ネリスの身の上の方が優先だ。少しの間我慢してくれよ」

 

《………ふん》

 

 

イッシンの苦しい説得にセレンは心底嫌そうな鼻の鳴らし方で渋々了承したことを確認すると、彼は一息ついて次に聞くべき事柄を明確にするため頭の中を整理する。

 

――とりあえずフランソワ・ネリスが転生者か継承者であるのは確定だとして、両隣のスカーレットフォックスとエメラルドラクーンが気になるな。転生者のワードを聞いて一切訝しむ様子が無いってのは流石におかしい。それと、いままでカラードに所属してたってのにダンとの関わりを聞いたことが無いってのも不安材料だ。

 

 

「フランソワ・ネリス。一ついいか?」

 

《毎回毎回堅苦しくフルネームで呼ぶつもり? 呼ぶならネリスかフランキーって呼んで》

 

「ならネリス」

 

《フランキーじゃないんだ、残念》

 

「……なんでスカーレットフォックスとエメラルドラクーンは転生者と聞いても動じないんだ? いくら説明されたからって普通、はいそうですかって理解できるもんでもないだろ」

 

《それがね~理解されちゃったのよね~。なんなら感銘を受けたみたいで【コルセール】に入っちゃったし》

 

 

ネリスはイッシンの質問に対し、まるで木漏れ日が溢れるテラスで気の置けない友達とカフェを楽しんでるかのような気楽さで淡々と答えていく。彼女によればスカーレットフォックスとエメラルドラクーン……いや、そのリンクスであるウィスとイェーイは驚くほどあっさり受け入れたというではないか。これにはイッシンも興味を引かれ、彼等に質問の槍を向けた。

 

 

「本当なのか?」

 

《――俺達は俺達のレベルを理解している。目指したところで、どう足搔いてもこれ以上〝上〟に行けないことも分かってる》

 

《だから姐さんの話に乗ったんだ。俺達でも世界を変えられるってことを証明したい。そのためなら転生者だろうが世界の危機だろうが何だって受け入れてやるさ》

 

 

ウィスとイェーイは先程までの腰巾着ぶりからは想像できない自我の強さと明確な動機をしっかりとした口調で話す。確かに彼等は原作で主人公に撃破された際、自らの限界を悟っていたような物言いで戦場に散っている。それが元々抱えていた感情なら、この二人がネリスの提案に乗ったのも頷けた。

 

 

「わかった。それとネリス、もう一つ聞きたいことがある。何故ダン・モロと接触しなかったんだ? アイツが転生者ってことは知らなかったってことはないだろ」

 

《え、なに言ってるの? 私、ダンとは結構長い付き合いよ。ラインアーク事変でORCAに合流したって聞いた時は流石に驚いたけど》

 

「……なんだって?」

 

 

ネリスの言葉にイッシンの思考が少しの間フリーズする。最初に会った時、間違いなくダンは言っていた。彼が把握している転生者は自身を含んだイッシン、ドン・カーネル、CUBEの四人であると。しかしネリスの言い方から見てダンとネリスは少なくともイッシンと出会う前に接触していたことは明らかだ。

 

つまりダンは()()()()イッシンへネリスの情報を渡していなかったことになる。……何故だ?

 

自身を取り巻く環境は想像していたよりも複雑な要素が絡み合って成り立っていることが確定したイッシンは脳内処理能力をフル稼働させようと努めるが、上手く考えがまとまらない。ダンがORCAに合流したことと、イッシンにネリスを紹介しなかったことの一貫した共通性が見つからないのだ。

 

もちろんネリスがORCA旅団メンバーなら存在を秘匿する意味もあるだろうが、ネリスは独立傭兵部隊【コルセール】を率いる表立った存在だ。その線は薄い。

 

イッシンがロジックを立て始めたその時、ネクスト越しで座っていたネリスのコンソールパネルに通信が入る。相手は(くだん)のデブハゲだ。はぁ……と溜息をついたネリスは喋りたくもない相手と仕方なく回線を繋いだ。

 

 

「こちらバッカニア、フランソワ・ネリス。どうしました理事官殿」

 

《どうしたもこうしたもあるか! 何故JOKERを排除しない! あれは私をコケにした大罪人だぞ!!》

 

「今回我々が請け負ったミッションはJOKERの撃退です。なのでこれ以上の被害を出さないよう彼と交渉してこのままお引き取り願う算段なのですが」

 

《なら追加任務としてJOKERの排除を依頼する! 報酬は倍出すからさっさと墜とせ!》

 

「生憎、書面上で確約されたミッション以外は請けない主義でして。では失礼」

 

《なっおい待――》

 

 

スピーカー越しでも自分の思い通りにならないことに腹を立てて、唾を撒き散らしながら喚いている滑稽な理事官の姿が目に浮かぶがネリスはそんな想像すら脳容量の無駄遣いだと断じて、抑揚のない冷淡な声色で受け答えしたのちにブツッと回線を切った。

 

 

《そろそろ時間みたいね。じゃあまた後日会いましょう。時間はそっちが指定して頂戴》

 

「ああわかった。追って連絡する」

 

 

そう言うとJOKERは踵を返してメインブースターに火を灯し、セレンから指示を受けていたポイントB4-sへ歩を進める。無論、フランソワ・ネリスとその一行のことはまだ完全に信用した訳ではないので後方を警戒しながらではあるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カラード記録ファイル(整理番号:OST-301)

 

 

依頼主:オーメル・サイエンス社

 

依頼内容:サイレント・アバランチ撃破

 

結果:成功

 

報酬:500000c

 

備考:なし




いかがでしたでしょうか。

ネリスちゃんのキャラ付けが難しい……。それにダン君、君は一体なにを考えているんだ……。

励みになるので評価・感想・誤字脱字報告よろしくお願いします。
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