凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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☆1評価を頂いたので☆0を除く全評価コンプリートでございます。『一年半以上連載してやっとか』って感じです。それでは、どうぞ。


91.惨めな幕引きと胎動

「バカな……バカなバカなバカなバカなバカな!!! どういうつもりだあの三流リンクス共!! わざわざ高い金を払って雇ってやったというのに『排除は契約外』だと!? ふざけるのも大概にしろ!! 」

 

「り、理事官様。どうか落ち着いて下さい」

 

「落ち着けだと!? ネクスト1機ごときに敗走するガラクタを作った分際で私に指図するんじゃない! 貴様等のような斜陽に予算を割いた私が馬鹿だった!!」

 

「……斜陽ですって?」

 

 

大規模コジマ施設『スフィア』の中央管理棟司令室は紛糾していた。その最たる原因は粘度の高い汗を撒き散らしているデップリと太った男――理事官――である。【槍の残党】の代表的存在である理事官は(スピリット)(オブ)(マザーウィル)をJOKER(と僚機のクラースナヤ)に撃破されて以降、BFF役員会では何の支障もないと言わんばかりの態度をとっていたが、それは新型ハイエンドノーマルを基軸としたこのプロジェクトの存在を知っていたからに他ならない。

 

だから彼は(スピリット)(オブ)(マザーウィル)に割かれていた予算を新型ハイエンドノーマル開発に回し、起死回生の一手を虎視眈々と狙っていたのだ。しかし現実は非情である。

 

満を持して投入した新型ハイエンドノーマル部隊は雀の涙程度の戦果しか挙げることが出来ず、万が一に備えて雇っていた独立傭兵であるバッカニア、スカーレットフォックス、エメラルドラクーンの3機は契約の抜け穴を盾に敵前逃亡する始末だ。理事官にとってこれ以上ない災難の連続だが、まだ終わりではない。

 

 

「ふっふっふっ………飼い犬に手を噛まれる辛さは分かっているつもりだが、まさか相手にすらされないとは。同情するよ理事官殿」

 

 

隣から聞こえた冷笑する声に理事官がバッと振り向くと、そこには研究員用のワーキングチェアに背中を預けながら優雅に珈琲を楽しんでいる王小龍の姿があった。グレーのスリーピースを嫌味なく着こなしつつ目が覚めるような真紅のタイを身に付けた彼の後ろには付き人であるリリウム・ウォルコットが沈黙したまま佇んでいるが、その視線は汚物を見るような軽蔑的な眼差しをしている。

 

 

「黙れ黙れ黙れ!! もとはといえば全て貴様のせいだ! (スピリット)(オブ)(マザーウィル)の一件、忘れたとは言わせないぞ!」

 

「はて? なんのことかな。私にはさっぱり」

 

「とぼけるな!! キドウ・イッシンの増援にクラースナヤを差し向けたのは貴様だろう! それに艦長のマーフィー・ゴドック准将をはじめとした(スピリット)(オブ)(マザーウィル)搭乗員の軍法会議は全て罷免!加えて配置転換先は全員が女王派の管轄だ! こんなふざけたシナリオ、貴様以外誰が出来る!!」

 

「さぁ? どうだろうな。それより自分の身を案じた方がいいんじゃないか」

 

 

理事官のまくし立てるような怒声を微風(そよかぜ)の如く聞き流していた王小龍は勿体振った仕草で胸ポケットに手を差し込むと、中から出て来たのは複数のボタンが付いた手のひらサイズの四角いデバイス。その内のボタンを一つ押すと、聞くに堪えない音声が再生される。

 

 

「『――ネクスト1機ごときに敗走するガラクタを作った分際で私に指図するんじゃない! 貴様等のような斜陽に予算を割いた私が馬鹿だった!!』……おおよそ決定権を有する理事官が吐いていい言葉ではないな」

 

「なっ……!」

 

「悪いがこの音声は役員会に提出させて貰う。近いうちに君は新型ハイエンドノーマル開発研究の任を解かれ、代わりに私が引き継ぐだろう。この研究の意義は中々なものなのだが、君なら理解出来ると思ってただけに残念だ」

 

 

唖然とする理事官に対して皮肉たっぷりの嘲笑をプレゼントした王小龍は、口をパクパクさせて絶句している彼を尻目に早々と準備を整えるとリリウムを引き連れてその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日後

 

カラード本部 地上1階 リンクス専用ラウンジ

 

 

「――一応確認するが、君がネリスってことでいいんだよな?」

 

「今更なに? アンタから呼んでおいてそんな言い方ないでしょ。私は正真正銘フランソワ・ネリス様よ。まさか信用してないってわけ?」

 

「お前のようなビッチが異世界とやらの転生者で、かつ独立傭兵集団の【コルセール】を率いているとは思えないから聞いているんだ。身を弁えろビッチ」

 

「なにそれ挑発のつもり? なら言わせて貰うけど、いい年こいて色恋の一つもない年増女に説教されるほど私は落ちぶれてないわ。それになに? さっきから馬鹿の一つ覚えみたいにビッチビッチって。悪口のボキャブラリーが貧弱過ぎて逆に可哀想に見えるわよ」

 

「……高飛車なのは結構だが噛みつく相手を間違えるなよ? お前みたいな小娘、生身でもネクストでも一分以内に制圧出来るぞ」

 

「へぇ、ならやってみなさいよ。私とバッカニアに勝てると思ったら大間違いだってことを貴女に教えてあげるわ」

 

「ちょっとタイムタイム!! 話が脱線してる。いま話すべき議題はフランソワ・ネリスの出自確認だ。お互いに仲が悪いのは分かったからヒートアップするのは後にしてくれ。それとイェーイ、ウィス! お前ら彼女の側近なんだろ? もうちょっと手綱を引いてもいいんじゃないか」

 

「経験上、こうなった姐さんには何を言っても無駄だから黙っているだけだ。変に姐さんを刺激してとばっちりを食らうのは御免だからな」

 

「右に同じく」

 

 

ラウンジのオーナーであるレイさんに許可を取ってイッシン、セレン、ネリス、イェーイ、ウィスの五人はダンの時と同じく奥の部屋に集結していた。ウィスの外見はオランダ系特有の赤毛をアシンメトリーのツーブロックに切り揃えた痩身の青年なのだが、対照的にパートナーであるイェーイは短髪を見事な緑色に染め上げた筋肉質な体型をしている。双方ともリンクススーツの上からMA-1を羽織った服装をしており、あまり外見への執着は無いように見えた。

 

それにしてもリンクスの外見はネクストによく似るという都市伝説は眉唾だと言われて久しいが、ここまでイメージ通りだとあながち間違いでもないと思ってしまう。そしてフランソワ・ネリスもその例外では無かった。

 

彼女が所属する設定上の独立傭兵組織【コルセール】は北アフリカを拠点として活動しているためネリスもアフリカ系の出身だとおもっていたのだが、蓋を開けてみれば緩いカールのかかった艶やかな黒い長髪が黒曜石のように輝くスラブ系の美女で齢は21、身長はセレンとほぼ同程度だろうか。リンクスは白兵戦のリスクが他戦力と比べて低いと言われているが彼女は若いながらも既に複数のCQCを習得しているらしく、立ち振る舞いの節々からしなやかなで健康的な筋肉の曲線美が見え隠れしていた。率直に言ってかなり扇情的である。そんなイッシンの(よこしま)な視線をなぜか感じ取ったセレンは彼の耳を強めにつねって引っ張った様子を見て、ネリスは軽く笑う。

 

 

「で? 会ったはいいけど何を話すの? まさか顔合わせだけで呼んだ訳じゃないでしょ」

 

「いつつ………えっと、俺から聞きたいのは二つだ。一つはダンとの初対面はいつ頃だったか。もう一つは君がどういう意図で動いているか。この二つを聞きたい」

 

 

まだ少しヒリヒリする耳をさすって(いたわ)るイッシンだったが、ネリスと話す表情は真剣そのものだ。何故ならこれから起こりうる未来(ルート)を知っている事実だけで転生者であること自体に価値があるのは勿論だが、それに付随する一騎当千の超戦力を有してことも忘れてはならないからである。ダンやドン・カーネルの活躍を見れば、転生者の一人一人が最強の異端分子(イレギュラー)であると考えておかしくない。だから彼は慎重に事を進めるのだ。

 

 

「ダンと初めて会ったのは4年前。私がこっち側に転生してきてすぐの頃よ。あの頃は『私がフランソワ・ネリス!?』なんて動揺しまくってた時期だから彼の存在は有難かったわ」

 

「ならいくつか協同ミッションを?」

 

「独立傭兵同士だからね。でも仲良くなるのにずいぶん時間が掛かった」

 

「嘘だろ。俺と会ったときは社交性の塊だったぞ」

 

「そうなったのはここ1,2年よ。それまでは仲介人以外の誰とも話さない鉄の男だったから」

 

 

そういうネリスはふと視線を逸らして虚空を見つめ、すこしばかりの物思いに耽る。それまで積み重ねてきたダンとの共闘の日々を思い返しているのか、トパーズのように輝く瞳が潤んでいるように見えた。

 

 

「……それじゃ二つ目。この世界ではどんな意図で動いてる? 俺とダンは世界を救うため、ドン・カーネルは異端分子(イレギュラー)の討伐、セロは……分からないけど多分そっち関連のはずだ」

 

「ああ、そう。そんな大層な使命を背負ってる人達に言っても信じないだろうけど、私の行動理由は一つ。技術よ」

 

「――技術?」

 

「これでも私、前世ではメカトロニクスを専門とした機械工学の博士なの。私からすればアクチュエータ複雑系が兵器レベルに実用化されているこの世界の技術は宝の山ってわけ。私はその技術、とりわけネクストに関する技術が行き着く先を見たいのよ。だから私はネクストに乗って戦場に出る。今でも【コルセール】を率いているのは、その方が動きが取りやすいからね」

 

 

今度は物思いに耽る事無く、まっすぐに見つめて語るネリスにイッシンは思わずドキッとしてしまう。これまでセレンを初めとしてマーリー・エバンやヴァイオレット、スティレットにウィン・D・ファンション、リリウムとメイ・グリンフィールドと言った古今東西の美女を見てきたつもりだったがそれらとは違う、なんとも言えない魅力が漂っていた。

 

 

「これが私の行動理由。分かって貰えた?」

 

「そ、そうか。ならこれで――」

 

「待って」

 

 

相手のペースに乗せられている。そう判断したイッシンは早々にこの場を切り上げようと席を立とうとするが、不意に発せられたネリスからの呼び止めに思わず硬直してしまった。

 

 

「女に一方的に要求しておいて見返りの一つも無いって男としてどうなの?」

 

「何が言いたいんだ」

 

「つまりね。相応の対価を払って貰いたいって話よ」

 

 

蠱惑的に微笑む彼女の笑みがイッシンを捉える。

 

 

「ある施設の調査を手伝って欲しいの」

 

 

時は六月、狩りの最盛期を目前として猛者共が腹を空かせているときの事である。

 




いかがでしたでしょうか。

フランソワ・ネリスは高飛車秀才美女か0083のシーマ的なお姉様か悩んだ結果、峰不二子な感じになりました。解せぬ、何故だ。

あ、あと前書きのフォローなんですけど私自身は低評価をあまり気にしていません。だって理由も書かずに当て逃げ的な低評価つけて悦に浸ってる少数よりも、お気に入り登録して更新されたら見てくれる皆様の方が私にとって何倍も有益ですから。

皆様には本当に感謝しております。稚拙な文才しか持たぬ凡人の二次創作ですが、今後とも気長にお付き合い頂ければ幸いです。
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