凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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身欠きニシンってあるじゃないですか。アレを夜風に当たりながら旨い辛口の冷酒でクイッとやるのが至福です。


92.帰還と不穏

白色で統一されている清潔に保たれた病室に一人の男が寝息を立てながら病人用ベッドに横たわっている。しばらく手入れをしている様子の無い伸び放題の無精髭が輪郭の視認を邪魔しているが、それを勘定しても色気のある顔立ちを隠すことは出来ないようだ。

 

傍には壮年の男性が二人、備え付けの丸椅子に座って本を読んでおり一方は『超越論的観念論の体系』を、もう一方は『国家解体戦争に於ける戦術指南』を熟読している。

 

しばらくすると、閉じられていた男の瞳がゆっくりと開いて部屋の灯りを眩しそうに見つめる。それに気付いた二人の男性は呆れたような、安心したような声で寝ていた男性に声を掛けた。

 

 

「ん、んん……………ここは?」

 

「ようやく目が覚めたか」

 

「あまり心配ばかりかけるなよ、ロイ」

 

「親父……レイヴンさん……ってことはラインアークか」

 

 

ベッドで寝ていた男――ロイ・ザーランド――はそう呟くと再び目を閉じてフゥっと一息ついた。覚えている最後の記憶はホワイト・グリントを助けようとしてクラースナヤに妨害され、そのまま蜂の巣にされた場面だ。コックピットのメインモニターがひび割れた後にショートして停電し、辺りが漆黒に包まれた瞬間から記憶がない。

 

 

「親父……どれくらい寝てた?」

 

「二週間と半日だ。生きてるのが不思議だとドクターが言っていたぞ。運が良かったな」

 

「おいおい、少し儀礼的過ぎるんじゃないか。ロイが目を覚ましたんだからもっと喜んでやってもいいだろ」

 

「お前が囚われたという義憤に駆られて機体のエネルギー管理を怠ったのにか。あれほど叩き込んだ技術が実戦で使われていない結果がこれなら甘んじて受け入れるべきだ」

 

「……説教はいい。あのあと、どうなったんだ」

 

 

自身への接し方でちょっとした口論に発展しかけたレイヴンと父親の会話を遮る形でロイは尋ねる。お互いに顔を見合わせた彼等はアイコンタクトしたのち、ラインアークでの一連において中心人物だったレイヴンがベットの縁に両手をおいて事の顛末を話し始めた――。

 

 

***

 

 

「――そうか……そんなことが」

 

「王小龍から聞いた話だとORCA旅団とかいう連中はまだ数人の凄腕を抱えているらしいが、企業連体制に牙を剥けるだけの戦力と人員を今までバレないように運用してきたのは素直に驚嘆だ」

 

「CUBEというリンクスがあのセロだったことにも驚いたがな。ましてラインアークに身を寄せるなど想像もしていなかった」

 

「なんにせよ戦力が増えたことに変わりないのだからいいじゃないか。企業連が攻勢に出た以上、私達だけでラインアークを守るのは無理がある。セロには頑張って貰わないとね」

 

「レイヴンさん、そのセロって人は今どこに……? ここにはいないみたいですけど」

 

 

少なくとも病室にはいない人間に対してのロイの尤もな問いに、レイヴンは「あ~~、そのことだけどね」といいながらバツが悪そうに頬をポリポリ掻きながら目を泳がせる。なんだ? そんなに逢わせづらい人なのか? とロイが訝しげな表情を浮かべた時、呆れたように溜息をついた父親が口を開いた。

 

 

「変に勘ぐらせるような態度をとるな。別にやましいことはないだろ」

 

「それはそうなんだけどさ。いやぁ、ニアミスというかなんというか。彼は丁度イッシン君達とミッションに出ていてね。今頃は干上がってる時間かな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な~~どこにあんだよ、施設ってのは。見渡す限り全部砂丘じゃねえか」

 

《ここから南西に4km地点よ。もう少し我慢して》

 

《……キドウ・イッシン、本当に僕が来る意味があったのか?》

 

《全くだ。ホワイト・グリントが改修中の今、セロをわざわざラインアークから引っ張り出すほど重要なのか》

 

「その施設をORCAの連中が嗅ぎ回ってるってネリスの情報が本当ならな」

 

 

スピーカー越しにぼやくイッシンをネリスは軽くいなしながら宥め、セロとセレンは半信半疑が拭えないままイッシンへ話しかける。

 

サハラ砂漠。アフリカ大陸北部に位置するこの砂漠は世界最大の砂漠であり、南北1700キロにわたり広がった総面積は約1000万平方キロメートルに及ぶ。この数値はアフリカ大陸の3分の1近くを占め、旧アメリカ合衆国とほぼ同じ面積であると言えば、その広大さが分かるだろう。そんな一片の雑草すら生えない不毛の大地を3機のネクストが砂埃を巻き上げながら疾走していた。

 

それぞれ群青・漆黒・ビビッドイエローにカラーリングされたネクスト達はビビッドイエローのネクスト――バッカニア――を先頭にして隊列を組んでおり、その後ろを漆黒のネクスト――JOKER――と群青色のネクスト――マグヌス――が追いかける格好となっている。

 

 

《あら、信用してないの? ヨーロッパならともかくアフリカでの情報精度は【コルセール】が一番よ。ガセネタの心配は無いわ》

 

「どうもキナ臭いんだよ。原作でも資料集でもそんな施設の記述なんて一切無かったんだぜ? 警戒しない方がおかしいだろ」

 

《その意見には私も賛成だ。原作やら資料集やらは分からんが、ORCA旅団が関わっているとなれば相応の何かがあると見ていい》

 

《まぁ、僕はどちらでもいいさ。ORCAが関わっていようといまいと、謎の施設を調査出来るっていうのは浪漫があるからね》

 

「アーマードコアならフラグビン立ちの畜生ミッション確定だけどな」

 

 

イッシンの言う通り、アーマードコアシリーズにおいて謎の施設や謎の兵器などのワードはある意味お約束となっている節がある。何故ならそのミッションのほぼ全てが開発陣の威信を掛けた変態……凶悪な兵器を相手取って撃破するという内容となっており、いわゆる初見殺しに通じる部分が多々あるからだ。

 

にもかかわらず彼等は情報精度に自信を持って軽口を叩くように説明する者と何者かの罠ではないかと警戒する者、更には来た意味がどうであれ探検気分でワクワクしている者と三者三様の振る舞いであり、おそらく正常な反応をしているのはイッシンとセレンだけだ。

 

ならば他二人は頭のネジが外れた戦闘狂や救いようのない阿呆なのかと言われればそうではない。片やリンクス戦争を生き抜いた最初の転生者であり、片や法の外側を生きるゴロツキをまとめあげて独立傭兵組織の首領を務める転生者だ。それこそイッシンよりも死の概念を理解しているはずの彼等が何故こういった立ち振る舞いをしているかと言えば、それは単純な場数の経験数だろう。

 

必要以上の緊張は動きに小さな無駄を生み、その小さな無駄が積み重なって一瞬の誤差を生み、その一瞬の誤差が致命的なミスを招く。日常生活内で繰り広げられるスポーツ競技でも、紛争地帯で繰り広げられる銃撃戦でも根本は変わらない。余計な力みはこれから挑む事柄が重要であると再認識させるカンフル剤でもあるが、自身のパフォーマンスを著しく低下させる劇薬でもあることを彼等はイッシンよりも理解しているからこそ未知の領域に対してもマイペースを貫くのだ。

 

そうやってしばらく砂丘を疾走していると、やがて陽炎の中で揺らめいている人工的な建造物が遠くに見え始めた。

 

砂漠という過酷な環境によってところどころ風化した20m級の中世ゴシック様式の建物が四棟、世紀末を彷彿とさせるあまりにも異様な違和感を以て東西南北に築造されており、その中心には一切の錆びつきが見られない真新しいシェルターの搬入口が防護壁を展開するわけでもなく、ただ吹きさらしのまま設置されている。

 

 

《あれが言っていた施設よ。一応【コルセール】の技術班に付近の建造物を調査させたけど成果は無し。やっぱり本命はあの中ってことになるわね》

 

「その内部調査が俺達の役目ってわけか。こりゃますますキナ臭いな」

 

《なんにせよ、中に入らないと始まらないんだ。先頭は僕が行くよ》

 

 

そう言うとセロはマグヌスのメインブースター出力を上げ、バッカニアとJOKERを置き去りにして臆すること無くシェルターの中へ進入していった。対するイッシンとネリスはセロの行動に少しだけフリーズするもお互いに『まぁいいか』という雰囲気を察し、セロと同様にメインブースター出力を上げてシェルターに進入する。

 

 

 

そしてその様子を、建造物の頂上に設置された壊れかけの旧式監視カメラがジッと見ていた。




という訳でロイくん生存でございます。色男にはもう少し頑張って頂かないと(笑)。ちなみに色男の父親ですが分かる人には分かります。もちろんオリジナル設定なので本気にしないで下さいね。

謎の施設、旧式の監視カメラ……うっ、あたまが……!

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