凡人は気まぐれで山猫になる   作:seven4

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クリスマスはいかがでしたか? 筆者は飲んで喰って二日酔いでダウンしてました。性の6時間を楽しまれたリア充の方々は謹んで爆発して頂けると幸いです。


93.終わりの始まり

カラード本部 地下20階 特別収容施設

 

 

まだまだ……もっと強く……まだまだ……」と、うわごとが聞こえる防音型三層強化セラミックス製の清潔感あふれる白い扉の前をツカツカと過ぎ去った王小龍は、付き人のリリウムと先導役である常駐管理責任者の屈強な男性に前後を挟まれながら歩いていた。

 

数百メートルはある長い廊下に足音だけが響き渡り、そこはかとない気まずさが漂い初めてもおかしくない雰囲気だが彼等は無言の緊張感を崩すことなく、表情も変えないままひたすら歩を進める。

 

やがて先導役の男性が立ち止まり、彼の左側に設置されている扉へ向き直った。その扉は他のものと違って素地が剥き出しの鋼鉄製であり、小窓ほどの鉄格子と年季の入った赤錆だらけの見た目は皆がイメージする劣悪な独房用扉そのままであった。そして極め付けは扉の向こう側から断続的に聞こえる怒声と殴打の鈍い音だ。リリウムは中の様子が見えていないにも関わらず反射的に顔を背けてしまい、どことなく震えている。

 

 

「リリウム、(かわやなぎ)の園で休んでいなさい」

 

「問題ありません大人(ターレン)。休息は十分に取れています」

 

「もう一度言う、休んでいなさい。これは命令だ」

 

「……分かりました」

 

 

王小龍の強い語気に押され、彼女はその場で一礼すると踵を返してもと来た道を足早に戻っていく。その様子を王小龍と共に見届けた先導役の男性が彼の傍らに立ってボソリと呟いた。

 

 

「よろしいのですか?」

 

「いずれ彼女も知る事実だが、それを知る時期は今では無い。それだけだ」

 

 

そう言うと王小龍は彼に扉を開けるよう促す。先導役の男性はそれを了承してドアノブに手を掛けると、錆び付いたギギィッという音を立てながら徐々に部屋の中へ外の光が差し込まれていった。同時に、扉が解放されたことにより聞こえてくる怒声と殴打の鈍い音はより鮮明となり、加えて唾を吐く音や苦しげな呻き声まで聞こえてくる。

 

 

「どうした!! 殴られたくなけりゃ吐け! 吐きやがれ!! 貴様の仲間はどこにいる!?」

 

「精が出るな、リチャード尋問官」

 

「ん? あぁ施設長殿、どうされました? コイツからは()()以上の有益な情報はまだなにも――」

 

「構わん。それより、この囚人との面会は可能か」

 

「え、えぇ。何発殴っても弱音一つ言わずに黙っているので特に問題はないかと」

 

 

リチャードと呼ばれた尋問官は大声を出していたからか額に汗を滲ませて肩で呼吸をして、彼の着ている制服の襟は少し湿っていた。その奥ではアルミ製の椅子に結束バンドで括り付けられた男が座っているが頭を項垂れているため表情を窺い知ることは出来ない。唯一分かるのは金髪を短めのワンレングスでまとめて、黒縁眼鏡を掛けていることぐらいか。

 

 

「そうか。では王小龍BFF上級理事」

 

「……席を外してくれないか。彼と二人で話をしたい」

 

「……分かりました」

 

 

常駐管理責任者は王小龍の言葉を受け入れると、尋問官を引き連れて部屋の外へ出て行く。直前まで苛烈な詰問を繰り返していた尋問官は少々不満そうな、怪訝そうな顔を王小龍に気付かれないように向けるが、すぐに前に向き直って扉の向こうへ消えていった。

 

部屋に残された人間は王小龍と囚人だけとなり、経費削減のためであろう安物の蛍光灯が時折点滅しながら二人を無機質に照らしている。王小龍は扉の横で折り畳まれていたパイプ椅子を手に取ると、久しぶりに触れたせいか多少ドギマギしながらもなんとか展開してゆっくりと腰掛けた。彼の痩躯程度の体重でギシッと鳴るあたり、これも使い古された安物のパイプ椅子なのだろう。王小龍は瞳を閉じて自嘲的に嗤う。

 

 

「経済戦争における一応の頂点たるカラードもコストカットという下らん愚策に走っているのだ。無駄があるから人間だと言うのに、無駄を無くせば高みに登れると勘違いしている輩のなんと多いことか」

 

「………」

 

「お前とて例外ではない。企業の罪を知り、それを清算すればこの星が救われると本気で考えているならそれも良し。己が信念に殉ずるのも一つの幸せだからな」

 

「………」

 

「しかして一を確実に救うために九を殺すのは容認できん。人としてでは無く、一介の陰謀家としてだ。武力による革命で得られる効果など高が知れている。まして世界が変わったことなど一度もないだろう」

 

「私に権謀術数の手管を指南するために来たわけでないのは分かっています。話すなら手短に」

 

「……無駄を嫌う性質(たち)は昔から変わらんな。ユージン」

 

 

ユージンと呼ばれた男は顔を上げて王小龍を睨みつけた。引き締まった痩躯は色白で若干骨張った端整な顔立ちを際立たせているが至る所に痣や生傷がつけられており、掛けられたヒビの入っている黒縁眼鏡と相まってひ弱そうな印象を与える。しかしその目には卑屈さの一片も宿っておらず、むしろ腹の据わった憤激の炎が見え隠れしていた。

 

 

「その名は捨てました。今はブッパ・ズ・ガンと」

 

「しかし安直な名前だ。センス性は皆無といって言い」

 

「どうとでも。PQがORCAの存在と目的を吐いた以上、隠したところでどうにかなる問題でも無いですから」

 

「戦闘で完璧に矜持(プライド)をへし折られた直後に自白剤で心身を壊された者に掛ける言葉では無いな。仲間なのだろう」

 

「あくまで目指す場所が同じだっただけです。ヤツの最終的な目的など知らないし知るつもりもない。私はただ、企業の罪を隠したいという下らない老人達のために死んだ姉の復讐を果たしたいだけですから」

 

 

そこまで言うとユージンもといブッパ・ズ・ガンは口を真一文字に結び、奥歯をギリリと鳴らした。彼の心情は推し量って余り有る。そしてそれを一番よく分かっているのは彼の目の前に座る王小龍そのひとなのだ。

 

リンクス戦争時、ユージンは姉であるフランシスカと共に戦場を駆けていたBFFの専属リンクスだった。姉弟関係を上手く活用した連携戦は他の追随を許さず、当時からオリジナルとして最前線で活動していた同所属の年若かった王小龍からも技術を盗もうとするなど知識に貪欲な姿勢は他勢力からも刮目に値する評価を得ている。

 

しかしそんな彼等でも当時最強と謳われたリンクス【アナトリアの傭兵】を打ち倒すことは出来ず、大規模コジマ施設【スフィア】にて交戦時にフランシスカは死亡。ユージンも生死を彷徨う重傷を負い、しばらくの間意識が戻らなかった。

 

そして彼が目覚めた時には既にリンクス戦争が終了しており、最後に残ったのは傷だらけの身体と姉を失った喪失感のみ。ユージンが目覚めたという報せを聞いて駆けつけた王小龍であったが、絶望に打ち拉がれて廃人のようになったユージンを慰める言葉を当時の王小龍は持ち合わせておらず、ただ絶句するしかなかった。

 

その後、ユージンは事後処理的にリンクスを引退。リンクス戦争後に樹立した新体制のBFF上層部は彼が積み重ねてきたいままでの功績を称え、彼をクレイドルの富裕層用居住区へ入居させ尚且つ莫大な退職金を出して手厚い保護を約束していたのだが数年が経ったある日、ユージンは忽然と姿を消したのである。

 

世界に絶望して人知れず自殺したのだとか、ゼロから人生を再スタートするために全てを偽って別人として生きているだとか、様々な憶測が流れたが本当の目的を知る者は王小龍を含めて誰一人いなかった。そして時が経つに連れてその話題を話す者も少なくなり完全に過去の人物として忘れ去られていたその時、彼は王小龍の目の前に現れたのだ。それもORCA旅団という最悪の反動勢力の構成員として。

 

 

「私が聞きたいことは二つだ。まず一つ、カラードに紛れ込んでいる鼠はオッツダルヴァ、ダン、ハリの三人だけか」

 

「……答えるとでも?」

 

「聞いただけだ。まともに取り合うつもりはない」

 

「なら答えはノーです。カラードほどの巨大な組織の情報を把握するために工作員を毛細血管の如く配置しています。まだまだ居ますよ」

 

「模範解答だな」

 

 

敵組織に内通者がいることを教えない馬鹿はいない。それが事実であれ嘘であれだ。自身が正確に把握できないほど数多く潜入していると言えれば尚良い。組織内に蔓延した内通者達を炙り出すためには多大なリソースを割かねばならず、それだけで十分な遅延攻撃となる。加えて内通者が居るという情報が流れれば組織は疑心暗鬼に陥り、情報伝達にも少なくない影響が出るのだ。

 

王小龍はフッと笑うと、すぐにもう一つの話題へ移る。真贋のはっきりしない事柄に時間をかけるほど彼も暇ではない。

 

 

「本題はこっちだ。ORCA旅団がサハラ砂漠に存在する謎の施設を嗅ぎ回っているのは調べがついている。あれはなんだ?」

 

「……さぁ。分からないから我々も調べているんですよ。あの施設の調査だけでずいぶん無茶をしていますが、何も分かったことはありません」

 

 

少々の時間を置いてユージンは答える。この話題を答えたところでORCAの全容を把握できる訳ではない。事実、ORCAも調査には手をこまねいているのだ。ならばある程度話を合わせてカラード側が把握している情報を引き出した方が得策だと判断した故の行動だった。

 

 

「あの施設だけだと? ツングースカ、ノーザンテリトリー、ナスカにも同様の施設があるだろう。しかもサハラを含めた全ての施設は()()()()()()()()()()()()()()()()()()。もう一度聞く、あの施設はなんだ」

 

「――私には分かりません。ただ彼に、オッツダルヴァにあの施設はなんだと聞いたことがあります」

 

「………して答えは」

 

「曰く、終焉の始まりだと」




いかがでしたでしょうか。やっと、やっと本来書きたかった話に突入出来そうで嬉しい……!! 裏話的ですが実はこの小説、ある一言を書きたいがために執筆している節があります。ですのでその一言を書いたら燃え尽きてしまう可能性がありますが、そうならないようおだてて頂けるとありがたいです。

早めの挨拶となりますが良いお年をお迎え下さい。今年一年、ありがとうございました。
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