コードギアス ~生まれ変わっても君と~   作:葵柊真

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新年明けましておめでとうございます。
年明け早々の第1話&第100話目が血の気の多い話になってしまっています。
不快に感じる事があるかも知れませんが、ご了承ください。


第33話 血に染まる帝都②

ユーフェミアが軟禁されていた居室から連れ出された頃には、すでに他人の死に対する感覚が麻痺しはじめていた。

 しかし、母親やコーネリアとは異なり、温厚で誰にでも好かれた彼女は対立しているはずの皇妃達にもかわいがられる面があった。

 当然だが、彼女がコーネリアのように皇位争いの障害になるとは思われなかった面もあったからだが、それでもユーフェミアに取っては親しい身内であった事に変わりは無い。

 そんな皇妃達。

 オデュッセウスやシュナイゼルの母親達は他の貴族達に連なるように斬首され、その首は王宮前の広場に晒されていた。

 彼女等が処刑される様は影像によって強制的に流されていたため、目を閉ざし、耳を塞ぐしかない状況だったが、ユーフェミアはそれらから逃げることなく受け止めていた。

 彼等の最後を忘れない事も自身の勤めであると無意識のうちに思っていたのであろうか?

 そして、血の匂いに包まれた謁見の間へと連れて来られ、玉座に座した男――ヴィクトルに対して跪かされるユーフェミア。

 玉座の座すヴィクトルは左右にマンフレディ、シン、ゴドフロア、サン・ジルを従え、周囲は武装した兵士達が整列している。

 そして、玉座を前に跪かされたユーフェミアの目に映るのは、どす黒く染まった床。

 それが何を意味するかを察して、瞑目したまま沈黙していたユーフェミアに対し、ヴィクトル等の返事は、彼女の傍らに運ばれてきた石棺であった。

 何事かと思い、視線を向けたユーフェミアの目に映るのは、小窓から覗く妙齢の女性の顔。

「――――っ!?」

「最後の温情とでも思ってもらおうかな? 死ぬ前に母親に会えないなんてツラすぎるよね? 僕等も母の死に顔は見れなかったからね」

 言葉を失うユーフェミアをせせら笑うように声を掛けてきたヴィクトル。

 眼前の遺体は、コーネリア、ユーフェミア姉妹の母であるアーライナ・リ・ブリタニアのモノで有った。

 父シャルルの苛烈さをコーネリアが受け継いでいたのならば、ユーフェミアの温厚ながらの芯の強さは母アーライナ譲りであったと言われている。

 門閥の出身であった事から、他の皇妃との馴れ合いやシャルルの弱肉強食を国是とする思想を野蛮として好まず、奔放なマリアンヌに対しても直言する等の芯の強さと誇りの高さを持っていた彼女。

 それだけに、反逆者の手に掛かることを良しとせず、軟禁されていた居室にて自決したという。

「プライドが高くて面倒な女だったけど、シャルルを拐かす事は無かったからねえ。それでも、死に臨んでまでしっかり着飾ったりするなんて、女というのは面倒くさいモノだねえ」

 老人そのものの外見には似つかわぬ子どものような口ぶりに、周囲の者達は顔をしかめる。

 特に、シンを除く3名はギアスの支配下にあっても良心が勝ったのか、露骨に顔を背けていた。

 そんなヴィクトルに対するユーフェミアの感情。

 激発か慟哭を期待していたのか、ヴィクトルはユーフェミアから向けられた憐れみの視線に顔をしかめる。

「何だい、その顔は?」

「…………かわいそうな人」

「…………ふふ。姉の思いを無視して勝手気ままに生きてきた君にも僕らの苦労がようやく分かったかな?」

 ユーフェミアの言葉を一瞬計りかねたのか、怪訝そうな表情をしつつも、勘違いした方向への解釈でそれに問い返すヴィクトル。

 当然だが、ユーフェミアの反応が普通であって、自身の思うがままの世界で生きてきたヴィクトルにはその真意を理解できない。

「お父様。いえ、シャルルに対してここまで憎しみを向けておきながら、いまだに縋られるのですね?」

「なに?」

「シャルルに切り捨てられたことは自業自得でございましょう。ゴッドバルト卿達に対する仕打ち。シャルルがあの2人をどれだけ信用していたのか」

 ユーフェミアはシャルルとヴィクトルが決別した直接の原因は知らない。

 マリアンヌに関することまでルルーシュは教える意味を持たなかったからであったが、自身の“騎士”と言うモノに対する思い入れは人一倍であるユーフェミアである。

 ドロテアとモニカに対するヴィクトルの所業を直接の原因と考えたのであった。

 そして、“僕ら”と言ったヴィクトル。

 今の姿を見れば、還暦を迎えても強健さを保っているシャルルに対して、やせ細った貧相な体躯であっても、顔つきや長身はほぼ瓜二つのそれである。

 どういった原因があるのかは分からなかったが、2人の関係は想像が出来た。

 そして、いまだにヴィクトルはシャルルに縋り、自身を切り捨てたことに対しても、自分に非は無くシャルルに非があると考えている。

 そして、シャルルの大切なモノと考えたペンドラゴンや皇族、貴族達を害すれば、シャルルが自身に対して許しを請うてくると本気で考えていた節があるのだ。

 だからこそ、ユーフェミアはその身勝手な考えに対して憐れみを向けたのであったが……。

「何も知らないクセに。姉を捨てた君に理解されようとは思わないよ」

「理解したくもありません」

 拗ねた子どもそのままな様子にユーフェミアも呆れ果てて顔を背けるが、それがヴィクトルを苛立たせたのであろうか、ここに来てようやく苛立ちに顔を歪ませる。

 精神の均衡はすでに取れておらず、憎しみと他者を支配しようという感情が肥大化した男にとって、自身に跪き、命乞いをする様を楽しむことは至上の喜びであった。

 だが、この親子は自身に対して屈服することを拒否し、今もなお憐れみを向けてくる。世界帝国の主たるシャルルが彼を立てていたことや、嚮団をはじめとする地下組織において“王”として君臨し続けてきた彼にとって、他者から憐憫や軽蔑を向けられることに屈辱を感じるのだった。

「親子共々首を刎ねろ。母親の方も埋葬は止めだ。棺桶から引き釣り出して斬れ」

 感情を抑えきれない子どもは時に残虐になる。

 死者を冒涜する行為にさすがに騎士団長達も動揺するが、ギアスの支配下にあってはそれに抗うことは出来ぬ。

 ユーフェミアはその様子の変化に戸惑いを覚えるも、1人ほくそ笑みながら歩み寄ってくるシンの姿に覚悟を決めざるを得なくなる。

 シンの姿に、戸惑いつつもアーライナの亡骸を棺桶から引き釣り出すべく集まって来た兵士達が棺桶に手を掛ける。

 その時、突然の轟音と震動が周囲を包み込む。

「きゃっ!?」

「うわっ!? な、なんだ??」

 突然の事態に困惑するユーフェミアであったが、突然棺桶の側に居た兵士が覆い被さるように駆け寄ってくると、爆風とともに外壁の破片が周囲に飛びすさる。

「ええいっ!! 何事かっ!?」

 無様に尻もちをついたヴィクトルは誰も手を差し伸べてこないことに苛立ちつつ声を上げている。

 そして、さらなる轟音とともに、方々が破壊された外壁がさらに音を立てて吹き飛ばされる。

『ユフィーーっっ!!!!』

 怒声とともに、護衛のKMFを一瞬にして粉砕した白き騎士の姿がユーフェミアの目に映る。

「スザクっ!!」

「殿下、こちらへっ!!」

 そして、スザクの登場にシン以下の4人が気を取られた一瞬の隙に、ユーフェミアに覆い被さっていた兵士が彼女の手を取って走り出す。

「な、何事ですかっ!?」

「お話は後で。今は枢木卿の元へ」

 兵士に連れられて外へと掛けるユーフェミアであったが、ほどなく外から駆け付けてくる兵士達の姿に身を強ばらせる。

 しかし、彼等はユーフェミアと兵士の脇をすり抜けると、彼女達を追ってきた敵兵を銃撃し、剣を持った者達は勇敢にもヴィクトルや騎士団長達へと切り込んでいく。

「な、なんなのですか?」

「彼等は味方です。粛清を逃れた騎士や兵が救出の機会を待っていたのです。枢木卿っ!!」

『ユフィ、こっちへ』

 そして、兵士に続いて駆け込んで来たKMFと入れ替わったスザクのランスロットが、片膝をつくようにしてコックピットを開き、手を差し出してくる。

「殿下、枢木卿。御武運をお祈りいたします」

「あっ!?」

 ユーフェミアがランスロットの手に乗りコックピットにいるスザクに抱きつく様子に顔を背けていた兵士は、形の良い敬礼をすると、武器を手にしてさらに駆け込んでくる兵士達とともに王宮内部へと駆け戻っていく。

「皆さん……、どうして」

「兵士達はほとんど戦う事無く敗北を押し付けられたから、みんな反撃の機会を探っていたんだ。それで、ロイドさん達が手引きしてくれて」

「アヴァロンの支援があれば、処刑を待つ人達もと?」

 兵士の姿が見えなくなり、さらに駆け込んでくる兵士やKMF。すでに、王宮の内外は激しい戦闘が行われている。

 実際、ミサイルの飽和攻撃で防御機構や町並みは破壊され、混乱の最中にKMFを中心とした部隊の奇襲を受けたのである。

 そして、勝敗を決定付けたのはビスマルク、ノネット、アーニャの3名が破れた事で、一部の兵士達からすれば、混乱している間にすべてが終わってしまったことになる。

 その後に行われたのはヴィクトル主導の血の粛清であり、時が来るまで息を潜めて待つ事を彼等は余儀なくされていたのだ。

 それに目を付けたのは、スザク達ほど厳重な監視下にあったわけではないロイドである。

 ロイドとセシルは軍属とは言え、あくまでも一介の科学者であり、爵位持ちの貴族とは言え、変人として知られるロイドのことをヴィクトルは遭えて無視していたためか、彼は独自のモバイルなどを用いて各指揮官クラスの兵士と連絡を取ったのだ。

 上級士官は処刑や拘束の対象になったり、保身に走る者が多かったが、下士官クラスになれば現場レベルの叩き上げが多い。

 そんな彼等に、アヴァロンの航空支援とスザク等を奪回できれば強力な戦力になる事を説き、何も出来ずに処刑を見続けるしかなかった彼等に行動を促したのであった。

『皇妃殿下の亡骸も奪還せよっ!!』

 そして、スザクの元に送られてくる映像。

 ユーフェミアを奪還した兵士達はさらに亡骸を辱められようとしていたアーライナの棺へと取り付こうと駆け付け、倒すことは適わぬとも、騎士団長達の動きを封じるべく彼等に組み付いていく。

『下郎がっ!!』

 しかし、不本意な形とは言え、主君を守ることが使命の四大騎士団長達である。

 個人の武勇で成るゴドフロアが飛び掛かってきた兵士達を斬り伏せ、それによって空いた穴に後から駆け付けてきた兵士達が飛び込むと言う事が繰り返され、広場はさらなる流血に染まっていく。

「皆様、どうしてあそこまで……」

「アイツらのやり方は間違っている。だからこそ、兵士達は」

「それは違うと思うわ……」

 送られてくる映像に思わず息を呑む2人。

 どちらかと言えば、ブリタニア兵からは好意的な目を向けられる機会は少ない2人だからこその違和感と言うべきか、ナンバーズを差別せず、行く行くは解放する事を志す2人は、一般的なブリタニア人からすれば忌避する存在とも言えるだろう。

 そんな彼等を突き動かすモノ。

 それは、ジェレミアではないが、単純に忠誠心であった。

 シャルルブリタニアは弱肉強食を国是とした侵略国家であったが、それは下位層にあった者達が出世する機会を得たことにもなる。

 今、この場において命を懸けている騎士や兵士達にとって、自分達に栄達の機会を与えてくれたブリタニア皇族は命に代えても守るべき存在であったのだ。

『枢木卿。公妃殿下の棺は奪回したっ!!』

「了解、すぐ戻るっ!!」

 そして、彼等の鬼気迫った行動に、さしもの騎士団長達も防戦一方となり、ついには先ほどの兵士達の手によって棺は王宮の外へと運び出されて来た。

 とはいえ、彼等がそこからアヴァロンへ運ぶのは不可能である。

 駆け付けてきたユーロ側の兵との戦闘が開始され、KMF同士の戦闘も始まっているのだ。

『ええいっ!! 何を手こずっているんだっ!!』

 癇癪を起こしたかのようなヴィクトルの声が耳に届く。

 ゴドフロアとシンによって飛び掛かってくる騎士や軍人達は次々に斬り伏せられているが、それでも数が違いすぎるし、彼等も雑兵の類いではなく歴戦の軍人であるのだ。

 それが5人を討ち果たすのではなく、この場においてはユーフェミアを救い、アーライナの亡骸を奪回する事だけを目的にしているのだ。

「ユフィ、お母さんの事は僕が。先に戻っていてくれ」

「……分かったわ。スザク」

「なに?」

「貴方は必ず生きて帰って来てください。約束です」

「――イエスっ、ユア、ハイネスっ!!」

 そして、スザクによってアヴァロンへと送り届けられたユーフェミアは、改めて戦場へと戻るランスロットを見送ると、乗組員達に守られて艦橋へと足を向ける。

 ユーフェミアの姿に、セシルが顔をほころばせ、ロイドも相変わらずの飄々とした態度で肩をすくめている。

 おおよそ、皇族に対する態度ではないがこれはこれで2人らしい。とは言え、2人もまた傷を負ったのか頭部に包帯を巻いたり、顔に痣が出来たりしていた。

「ユーフェミア様、良かった。これより、離脱しますっ!!」

「っ!? ですが、他の皆さんはっ!?」

「殿下、広場で戦っている者達は、殿下を救出するために命を懸けているんですよ。それを、ご理解してください」

 歩み寄ってきたロイドとセシルの表情は、明らかに疲労の色が濃い。ユーフェミアとしては、スザクのみならず自分のために命を懸けた兵士達の事を思ったのであったが、地上ではまだ戦闘が続いていることは、艦橋からも垣間見える。

 そもそも、アヴァロン自体が圧倒的な優勢下にあるとは言え、航空支援のために装備された火器が唸りを上げ続けているのだ。

 奇襲によって決着が付いたかに見えたペンドラゴンを包み込む炎は再び激しさを増しそうであったが、生き残った者には成すべき事がある。

 ロイドは飄々と自分を助けた者達を救いたいというユーフェミアの思いを留まらせたのであった。

「ランスロットの離脱を確認」

「よし、スザク君も来たみたいだし、殿下。この場では殿下が最高指揮官ですよ」

 そして、オペレーターからランスロットが戦闘地域から離脱したとの報告を受けると、ロイドはめずらしく態度を改めてユーフェミアへと向き直る。

 はじめから彼女1人を救い出し、他の皇族、貴族達は切り捨てる腹づもりであったのであろう。

 スザクの後ろ盾としてシュナイゼルの元を離れた彼等にとって、今の主君はユーフェミアである。

 危機局面にあってなお、皇位継承争いのことまで考えねばならないのがブリタニアという国家の宿痾というモノで有ろうか。

 いずれにしろ、今を生きる以上は最善を尽くす義務を産まれおいて背負った者には存在する。

「……分かりました。アヴァロンはこれより戦域より離脱。各部隊もペンドラゴンより撤退を開始。命令は、『生きろ』です」

「了解。アヴァロンは、これより太平洋方面へ」

 満足そうに頷いたロイドは、ユーフェミアに進言するように口を開く。予想外の進路に、ユーフェミアは目を丸くしつつ問い掛ける。

「領地へと戻るのではないのですが?」

「さすがにそちらは危険です。殿下に逃げられたとあっては、ヴィクトルの事ですからね。オクラホマをはじめとする周辺住民諸共根絶やしにしかねない」

「ユーフェミア様のお姿が無ければ、そこまででは無い。と言うのが私達の推測です。保障は出来ないですが……」

 着任から僅かな期間であったが、ユーフェミアの思想に賛同して手を貸してくれた官僚達や最初は反発していた地元住民やナンバーズ達。

 いまだにわだかまりはあっても、少しずつ融和の兆しが見えようかという状況でもある。

 そんな彼等の元に自分は戻るべきでは無いかとユーフェミアは思ったのであるが、ヴィクトルという男の執念深さを考えれば、彼に一泡吹かせた事を考えれば、自分の居場所こそがあの男にとっての復讐対象となる事は納得がいった。

「ゴッドバルト卿もアームストレイム卿からの伝言も預かっていますよ~」

「お二人が?」

「ええ。領地は必ず守りきってみせると。ゴッドバルト卿はお若いのに、兄に似て血気盛んでしたよ」

 そう言って口元に笑みを浮かべるロイドの言に、ユーフェミアはルルーシュに良く似た美しい容姿とジェレミアに良く似た生真面目な性格の少女を思い返す。

 彼女の身を案じると同時に、彼女ならばアールストレイム卿とともにヴィクトルに対しては抗い続けると言うことも信じられた。

「分かりました。進路は西へ、全力で向かいなさい」

「了解」

『よくぞ、ご決断成されたっ!! 殿軍は承ったっ!!』

「エニアグラム卿!? ご無事だったのですか?」

 そして、重い決断をしたユーフェミアに対し、威勢良く応じたのはノネットであった。

 その声に合わせるように、スザクのランスロットを中心に、見た事の無いKMFが二機、艦橋の前に並ぶ。

『ロイド達のおかげですよ。少しは恩返しもしないとですからね。そういうわけでロイド、この新型はもらっておくよっ』

「……この際だから文句は言いませんよ。データ取りたかったのに」

「ロイドさんっ!!」

『はっはっはっは、気が向いたら残しておいてやる。では、殿下。ここを片付けたら、殿下のお帰りまで、領地はしっかりとお守りいたします』

「…………っ!? よろしくお願いいたします」

『イエス、ユア、ハイネスっ!! アーニャっ!! 枢木っ!! 殿下を頼むぞっ!!』

 そして、どこか妹を優しく抱擁する姉のような優しい笑みを浮かべてそう告げたノネットに、一瞬コーネリアの姿を重ねたユーフェミアは、表情を引き締めて頷き、ノネットもその姿に笑みを浮かべると、普段の彼女へと戻って威勢良く声を上げる。

『はっ!!』

『そんなに大きな声で言わなくても分かってる』

 二人の反応もまた二人らしいモノで、もう一機の新型?にはアーニャが乗り込んでいるようである。

 しかし、このペンドラゴンの地に残ったナイトオブラウンズは3名……。本来、この場にあるべきもう1人の人物の姿はそこには無かった。

 その事に言及すること無く、ユーフェミアはアヴァロンへと帰還してくるスザクとアーニャ、ペンドラゴンへと舞い降りていくノネットの姿を見つめるしか無かった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 王宮内部の戦闘は互いに血に染まり、すでに泥沼の様相を見せ始めていた。

「閣下、ここはお引きを。この場は3人にお任せなされ」

「僕に命令する気か?」

 そして、状況の無意味さを悟ったマンフレディ、ゴドフロア、サン・ジルは互いに目配せをすると、年長者のサン・ジルがヴィクトルにこの場から退くことを進言する。

 兵士達の決死行を相手にする無意味さからの進言であったが、この手の発言が意味を成さないこともまた、彼等はすでに悟っている。

 ギアスによって有無を言わさず命令を遂行させられていることを3人はとうに気付いていたのだ。

「むう……っ!? この場においてお聞き届け頂きますぞっ!! そもそも、警備を緩めたのは誰の失態とお思いかっ!!」

「なんだとっ!? ぐぼっ!?」

 やはりと言うべきか、強烈な支配がサン・ジルの脳裏を覆い尽くそうとしているが、そこはナイトオブラウンズに匹敵すると言われると四大騎士団の団長である。

 意識支配に抗い、抗弁をしつつ、次なる命令を告げる前にヴィクトルの意識を奪い取ったのである。

 この結果として、意識を取り戻したヴィクトルによって理不尽に命を奪われる事も覚悟した上での最年長者としての行動であった。

「皇弟殿下の御身をお守りしろっ!! ここは退けいっ!!」

「シン、聞いての通りだ。無益な殺生はするな」

「…………はっ」

 それを見たゴドフロアが駆け付けてきた兵士達へと告げ、マンフレディも殺戮に酔っているシンを止める。

 それは、ユーフェミアによって撤退命令が出されたのとほぼ同時刻であり、なし崩しにはじめられたユーフェミアとヴィクトルの戦争に一定の区切りが付いたことになる。

 とは言え、我慢を知らぬ子どものまま生きてきた男がそれに納得するはずも無い。

 

「お前達っ!! 僕に命令をするなと何度も言っていたはずだぞっ!!」

「はっ!!」

「ええい、分かりづらいっ!! それで、この失態の責任をどう取るつもりだっ!?」

 彼等はヴィクトルの命令に従うことを義務づけられている。そのため、命令するなと言われれば大人しく居住まいと正すのみであり、実際に命令した覚えがないのだから思考を支配されることも無い。

 とはいえ、今この場でこの男を討ち果たしたところで深い意味も無い。彼等はすでに大逆人以外の未来は存在しないことを理解している。

 父祖の地、欧州を奪還することを悲願としていながら、帝都ペンドラゴンを焼け野原にした。

 この事実を彼等は認識しつつも、ヴィクトルを討ち果たし、その後に自害して責任を取ると言った行動はどうあがいても出来なかったのだ。

 となれば、主君であるヴィランス大公の御身と盟友であるファルネーゼの安否と消息だけでも探るべく彼等は動いてきた。

「閣下の御心のままに」

 不敵に笑いつつ、そう告げたシンに他の3人も倣う。

 殺すなら殺せと言った心境の3人と、自身のギアスがヴィクトルに使用できるはずも無い事を自嘲するシンでは同じ反応でも心境は異なる。

 だが、“好きにしろ”と言った心境だけは共通していた。

「ならば、ユーフェミアの首とあの女に関わった人間すべての首を僕の前に並べて見せろっ!!」

「イエス、ユア、ハイネス」

 抑揚無く、ヴィクトルの癇癪に応じた四名はその場を辞すると、ようやくと言うべきかギアスの呪縛から逃れる。

 現状では、怒りにまかせてサン・ジルを処断しないかという事が懸念事項であったが、それだけは回避されたのである。

「ええいっ!!忌々しいわっ!!」

「落ち着かんか。だが、難儀なことよの」

 とは言え、ヴィクトルのような小人の意のままに操られる現状が面白いはずも無い。

 ゴドフロアが怒りにまかせて壁を殴りつけ、周囲が揺さぶられると、サン・ジルがいつもの如く宥める。

「もはやどうにもならん。大公の消息を吐かせるまでは、耐えるしか無いのだ」

「ヤツの得体の知れぬ手管はなんなのだ?」

「分からん。いずれにしろ、我々はヤツの命に抗うこと無く同胞を殺戮したのだ……。もはや、後戻りは出来ぬ」

 怒りを覚え、命令に抵抗をしようとしても意識を奪われ、抗うことは出来ない。

 そんな現実を理解しつつも、こうして理性が残り、罪の意識を感じることが出来るだけでも幸せであったのだが、1人を除き、“ギアス”なるモノの存在を知らない彼等。

 反発しつつも、ブリタニア本国掌握のために動く算段を立てているのは、やはり意識下でヴィクトルの命令に従っているからであろう。

 ユーフェミアを殺し、その領地を蹂躙することと合わせ、ブリタニアを支配しろという命令も受けている。

 彼等としては、主要皇族が居らずペンドラゴン制圧によって混乱するブリタニア本国を制圧することに時間は掛けたくなかった。

「現状、皇帝陛下の消息は不明。シュナイゼル殿下はフロリダへと逃れ、オデュッセウス、ギネヴィアの両殿下もカナダ、ポリネシアを動いておらん」

 三剣士をはじめとする四大騎士団首脳達が控える作戦室へと戻った四人は、ヴィクトルへの怒りと軽蔑をとりあえずは胸に納め、次なる戦いへと備える。

 サン・ジルが投影された作戦図を指し示しながら口を開く。

 シャルルの不在は今や国民の知るところにありその権威低下は著しい。

 そのシャルルと水面下で対立する形になったオデュッセウスとギネヴィアは領地に引き込んだまま情報収集に努めている状況であろう。

 そして、現状最も戦力を持っているのはフロリダにあるシュナイゼルであろう。

 欧州遠征に備え、主力を集結させている状況にあり、彼がとって返してきた際の迎撃も考えねばならず、おそらく領地へ逃げ込んだと思われるユーフェミアの勢力を吸収した際には大きな脅威となる。

 ノネット・エニアグラムとアーニャ・アールストレイムの両名がユーフェミアの元に付き、騎士である枢木スザクの次世代型KMFもまた大きな脅威となる。

 何より、ユーフェミアはペンドラゴンにて今回の反乱に遭い、奇跡的に生き残っている。混乱の状況下では民を救う事無く逃げ出したという事実は覆い隠され、その“奇跡”を人々が縋る。

 “慈愛の皇女”として民には人気があった事もそれを後押しするだろう。任地にて掲げた方針で疑問符を持つ人間も多いが、好意的に見る人間もまた多いのだ。

 奇跡的に生き残った事でそれを支持する人間はさらに増えるはずであり、彼女が勢力を糾合すれば、それをシュナイゼルが見逃すはずも無い。

「討つべきはユーフェミアか」

「大逆を後押しする形になるが、もはやどうにもならぬ」

「あの小物を宥めるのは時間の無駄だ。ユーフェミアの消息を計る前に、彼の者の領地だけでも叩き潰すべきだろう」

 三名の意見は一致し、ゴドフロアがなればこそ自分がとばかりに立ち上がるが、それをマンフレディが手を上げて制す。

 年齢は若いが、元々はナイトオブラウンズである実力者。武勇を至上とし、扱いづらい人物として有名なゴドフロアも彼にだけは一目を置く。

「ヴィヨン殿には、各地域の平定をお任せしたい。私はシュナイゼル殿下に備える。サン・ジル殿はあの小物をいなしつつ、防衛網の再構築を」

「うむ、まったく見た目通りの落ち着きを持てば良いものを」

「まったくよ。それで、ユーフェミア領はシャイングに任せるのか?」

「先頃、完成した新型機はフロート・ユニット搭載機を除けば最高速度が実現可能だ。加えて、聖ラファエル騎士団は快速で成る」

 そう言ったマンフレディの言にゴドフロアも頷き、シンもまた無言のまま口元に笑みを浮かべ、頭を下げる。

 実際のところ、マンフレディの口を借りてこの場を支配したのは彼であり、ヴィクトルを暴走させているのも、ギアスの支配下にありながらやってのけている。

 ギアスの支配下に入ったとは言え、それすらも自身の野望を成し遂げる一手段として用いていたのである。

 実際のところ、ペンドラゴンは炎に包まれ、世界中が混乱の渦の中にある。

 皇帝殺害までは行かなかったが、こうなった以上はシャルルの命運は決まったようなモノ。どこかで、自分と似たような何かを感じるシュナイゼルとの戦いとも成れば、世界は破滅へと向かうであろう。

 シュナイゼルとは異なる形の虚無へと1人の男の野心が向かおうとしている中、一つの情報が彼の下へともたらされる。

「何? 閣下、ユーフェミア皇女の消息が判明したとのこと」

 それまで無言で傍らに控えていたジャン・ロウがシンへと耳打ちすると、冷静な彼も予想外の状況にやや目を見開く。

「ヒュウガよ? 如何致した?」

「シン?」

「はっ、ユーフェミアは皇女は騎士枢木スザク等とともに東へ。どうやら太平洋方面へ向かったとのことです」

「東? コーネリアの元へと逃げ帰るつもりか?」

 そう言われてみれば当然とも言えるかも知れなかった。

 コーネリアと彼女の麾下にある軍はブリタニア屈指の精鋭。数だけを見ればナイトオブラウンズをも越える戦力と言える。

 シュナイゼルとの合流を考えても、コーネリアとともに本国へ大返ししてくれば、発言力は大きくなるであろう。

「ふふふ、どうやら皇弟殿下のお望みは思いのほか早く叶うことになりそうですな」

「忌々しいことであるがな。だが、アヴァロンを攻略するとなれば、フロート・ユニットがいるな」

 シンの不敵な笑みに、めずらしくゴドフロアが同意するが、今、ユーフェミアが居るのは太平洋の海上。

 それも、下手な航空戦力など鎧袖一触にしてしまうであろう航空戦艦の中にある。

 フロート・ユニット装備のKMFが限られる以上、難しい戦いになることは全員が納得していた。

「使えば良いじゃ無いか。“コレ”を」

「これは、皇弟殿下」

「せっかく、こちらに降ったんだ。最新鋭機も一緒にね」

 一瞬、静寂に包まれた作戦室に響く子どものような声。

 ヴィクトルが狂気を孕んだ笑みを浮かべつつ視線を向けた先には、双眸を閉ざし、静かに佇む1人の人物の姿があった。




投稿が大分遅れてしまったことで、少々内容が荒くなってしまっています。
多少の訂正などは入るかと思いますが、混乱の中で何が起こっていたのか、ユーフェミアは敵に回すとスゴく厄介な相手という面を描写してみました。


御意見、御指摘、お叱り、感想などは遠慮無くいただけたら有りがたいです。
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