コードギアス ~生まれ変わっても君と~   作:葵柊真

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何度も投稿が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。


第36話 それぞれの反逆③

 アヴァロン内部に備え付けられた貴賓室。

 かつて宰相シュナイゼルの乗艦であった事もあり、就役から短い期間で数多くの外交が行われてきたこの一室にてゼロとともに、ユーフェミア、コーネリアの姉妹が対座していた。

 

 室外にはシャーリー、リヴァル、ミレイの三人とダールトン、ギルフォードが扉を挟んで中で行われるであろう会談へ耳を澄ませる。

 そして、室内を包み込んでいた沈黙は、咲世子が用意した紅茶や茶菓子を持って入室してきたことで破られる。

 無言のままカップを手に取ったのはコーネリアが最初であった。

 

 

「なんだ? 毒殺など恐れぬぞ。私はゼロ、貴様の毒を食らっていて耐性が出来ているからな」

 

「これは手厳しい。ですが、私の毒は当人を殺さず生かすための毒です」

 

 

 会談の場において毒殺などと言うのは最悪手でもあったが、今の場合は騎士団側が優勢な状況でもある。

 

 “コーネリアの死”等と言う事実が起これば、外に控えるコーネリア軍は鬼となって騎士団に襲い掛かってくるであろうが、トウキョウ租界は抵抗する意志すらも失うであろう。

 目先だけを見れば結果は着いてくるモノで有ったが、その先を見据えれば復讐の連鎖が続くだけであろう。

 クロヴィスのような虐殺の事実があれば別であるが、“今回は”コーネリアにそのような事実は無い。

 日本人や名誉ブリタニア人に対する失策があるだけであり、それだけで彼女を騙し討ちする大義名分は無かった。

 

 ルルーシュが言う毒と言うのは、彼なりの彼女に対する贖罪であろうか。

 

 サイタマゲットーでの虐殺を回避し、過去に比べれば順当な(ブリタニア側から見ればであるが)統治を行ってきた彼女とは手を結ぶ理由が無いわけではない。

 

 

「生かすための毒か……。ゼロ、私が貴様に膝を屈するとでも思うのか?」

 

「すべてを得るか、すべてを失うか。戦いとはそう言うモノ。……でしたか」

 

「私と一度でも手を結んだことを恥じる。……だったな」

 

 

 そう告げると互いに口元に不敵な笑みを浮かべる。

 

 コーネリアは改めてゼロの口元を見たのだが、思っていたよりもはるかに若い男である事に気づき、おかしな引っ掛かりを覚えても居たが、今は互いに口にした言葉の応酬となっており、すぐにその事を頭から追いやった。

 

 

「たしかに、私は失ったな。今、貴様等の口から本国の変事が暴露されれば、戦わずして我々は負けるだろう…………アッシュフォードと貴様はどのような関係なのだ?」

 

「私は彼を信用するだけの理由があり、彼には私と手を結ぶだけの理由があった。それだけですよ」

 

「ふん、きれい事を言ってイレブン……いや、日本人を扇動していたが、本音はアッシュフォードの復権と貴様のブリタニアにおける地位の向上では無いのか?」

 

「否定はしません。私もまた、ユーフェミア殿下と同じくシャルル・ジ・ブリタニア率いる神聖ブリタニア帝国を否定する。しかし、ブリタニアそのものを否定するつもりはありません」

 

 

 幾度も繰り返されてきたルルーシュなりの信念でもある。

 

 かつては自身の死によって責任を取ったが、新たな生を受けた以上、今度は責任を果たす番でもある。

 シャルル達の目的は世界支配以上のモノでもあったが、あんなモノを受け入れる理由は当然無いし、かといって弱肉強食を是とする国是もまた受け入れるつもりは無い。

 この一点の違いが、ユーフェミアには素顔を晒し、コーネリアにはそれが出来なったのである。

 

 

「それが、外に居る者達か。いや、ジェレミアもモニカもドロテアも……そして」

 

 

 言葉から、そして行動から、同志達からコーネリアはゼロの正体に近づきつつはある。

 

 ブリタニアの非主流派の貴族辺りであろうか?と言う当たりは付けており、彼等がブリタニアを主導するならば、外部勢力を利用して主流派を駆逐するしか無いであろう。

 名誉やナンバーズの数はブリタニアの一般階級をはるかに凌駕しており、KMFへの搭乗権は騎士階級以上の特権でもあったが、数で圧倒されればその優位も薄れる。

 加えて、ブリタニア人に対しても目的を同じくする者達が居るならば、侵略による恨みも薄れる事はたしかである。ナンバーズ達が流してきた血の量には及ばぬとしても、ブリタニア人がブリタニア人の血を流す事で恨みの類いは薄れ行くモノ。

 

 人間は誰もが思っているよりも単純であるのだ。

 

 日本側がブリタニア人達を受け入れるのならば、トウキョウをはじめとする格租界の民衆の抵抗も薄れるだろう。

 

 侵略を繰り返し、強者であり続けてきたブリタニア人達も、暴虐の事実を目にし続けていれば、心の奥底で復讐に怯えているものだ。

 

 エリアにおける暴虐はそれの裏返しであり、延々と積み重なり続ける。

 

 だからといって、暴虐をくり返してきたブリタニア側が手を差し伸べたところで相手は不信に思うだけ。ブリタニア側としてもその怯えが消えることは無い。

 だが、被害に遭ってきた日本側が手を差し伸べて来たらどうか?

 

 そして、それを払いのけてしまえばどうなるのか?

 

 本国の住民ならともかく、世界中のエリアで暮らす者達にとっては、自分達が行ってきた行為が身近にあるのだ。

 支配者層が手を払いのけようとも、民衆は怯えを解消するべくその手を取ろうとするだろう。

 これは、過去における行政特区日本に対する日本人達の反応もそうなのであるが、危機が目に見えるのならば、目の前にぶら下がった餌には食いついてしまうのが民衆というモノだ。

 

 

「ユフィ、父上に対する言葉……、アレは本音か?」

 

「はい。本音です、お姉様」

 

「…………ペンドラゴンで流れた血に対して、父は何も責任を取らなかったと言う事か。母上すらも見殺しにして」

 

 

 コーネリアは会談の前にアヴァロン内に安置されていたアーライナと対面していた。

 

 同胞であるヴィクトル等は彼女の亡骸を辱めようとしていたが、敵対者である日本側は敵皇族に対しても礼儀を尽くしていた。

 シャルルの登極以前以後も皇族同士、血で血を洗う抗争を続けてきたブリタニアである。姉弟の死に怒りを抱くコーネリアが特別で、他の兄姉達も仲は良いが、ドライな面もある事から、その辺りはお国柄と言うべきであろうか。

 

 少なくとも、事実を知った民衆の好意がどちらに、誰に向くかと言う事は、先ほどの手を差し伸べることも含めれば明確であろう。

 

 

「見殺しにした事は私も同様です。お母様は自らの手によって難を逃れましたが、他の皆様は……」

 

 

 ペンドラゴン陥落に際し、市内に居た皇族、貴族はユーフェミアを除いて悉く殺戮されていた。

 彼女がヴィクトルの前に引き釣り出されたときには皇宮は血に染まり、玉座へと続く絨毯に沿うように首だけが並べられていたのだ。

 それを聞いたルルーシュはヴィクトル―V.V.とシャルルの歪んだ関係に呆れと侮蔑の感情を抱くしか無かったが、それはコーネリアも同様であろうか。

 ヴィクトルの正体はともかく、シャルルとは特別な関係にある事は理解しているだろう。自分が着任する前に日本で好き勝手やっていた男に良い印象など抱けるはずが無いであろう。

 

 

「自身が権力を失った事がそれほど恨めしかったのか……。しかし、マンフレディ等がなぜ?」

 

「そればかりは。少なくとも、彼等は私に対しては憐憫を抱いているように見えましたが、どうしてもヴィクトルに対して反抗することが出来なかったように思えます」

 

「ビスマルクも同様か。ところで、ルルーシュ」

 

「……どうしました?」

 

 

 と、思わぬ不意打ちに一瞬、身じろぎしかけたルルーシュとユーフェミアであったが、なんとか表情や声色を代えずにとぼけることが出来た。

 

 

「気にするな。ゼロ、ユフィ。お前達は貴様はビスマルクの弱みでも握っていたのか?」

 

 

 ルルーシュの名を呼んだコーネリアの真意はさすがのルルーシュでも読むことは出来なかったが、ビスマルクに対する問い掛けの意図はある程度察することが出来た。

 

 

「弱み……と言えば、弱みになりますか」

 

「とは言え、寝返りに繋がるモノとも思えません」

 

 

 この反応はルルーシュとユーフェミアでは異なる。

 

 ルルーシュはビスマルクがシャルル達の同志であった事を知っているが、ユーフェミアにとってはリヴァルの存在を認識して居るのみ。

 ルルーシュとしても、ユーフェミアが被害に遭っていない状況ではコーネリアがギアスやコードのことを知る必要も現状ではないのだからその辺りを説明する必要は無いと判断している。

 

 

「だが、何かがあるのだな?」

 

「ふむ……咲世子」

 

 

 さらにビスマルクに関することを問おうとしてくるコーネリアに対し、ルルーシュはリヴァルの名を直接告げることはせず、身を潜めていた咲世子に促されるままにリヴァルが入室してくる。

 

 

「……ええっと、両殿下におかれましてはご機嫌麗しく」

 

「慣れぬ事はせんで良い。それで、彼は?」

 

「彼はビスマルク・ヴァルトシュタイン卿の一人息子ですよ。総督」

 

「えっ!? いや、そのええと」

 

「ほう? なるほど、そう言う事か……」

 

 

 なぜ自分が呼ばれたのか分からぬままのリヴァルに対し、ルルーシュの返答に対するコーネリアの反応は予測が付く。

 ビスマルクがブリタニアを裏切る等と言う事はギアスを知らぬ者達が俄に信じることは出来ないであろう。

 

 ただ、そこに公になっていない家族の存在を知ればどうなるか?

 

 裏切りの事実は否定できず、ナイトオブワンという地位を考えれば、問答無用で極刑を選択されるしかない。

 だが、そこに酌量の余地が見つかれば、“ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタイン”が処刑されればそれで良くなる。

 コーネリアとしては、マリアンヌを失った後の至強の武人であったビスマルクを救う手立てを即時に構築したと言うことであろうか。

 そしてそれは、彼女もまた生きようとしていると言う事実の裏付けでもあったが。

 

 

「少年、名を何という?」

 

「えっ!? ええと、リヴァル・カルデモンドです」

 

「リヴァル? では、バートを討ったのは貴様か」

 

 

 ビスマルクとリヴァルの関係に辿り着いたコーネリアはその名をドロテアとの通信ログの中に残っていたモノと結びつける。

 

 殿を務めて散った男を討ったのはブリタニアを代表する武人の血を受け継いだ者。

 

 その事実が戦場に散った者に対する僅かな慰めにもなるであろうかと瞑目したコーネリアの心情はルルーシュやユーフェミアには計りがたくもあった。

 

 

「それで、ビスマルクの息子がなぜゼロに組みする?」

 

「それは……」

 

 

 そして、目を見開いたコーネリアは先ほどまでの達観したかのような姿から、一転して鋭い眼光をリヴァルへと向ける。

 その変わり身に目を見開いたリヴァルだったが、すぐ居住まいを正してルルーシュへと視線を向ける。

 

 

「友達だからです」

 

 

 そして、ルルーシュが頷いたことを確認したリヴァルは、自分が戦う理由を偽りなく告げる。

 

 

「友……、それにしてはいちいち確認を求める辺り、主従のように見えるが?」

 

「それは、変なことを言ったらマズいと思いますから確認ぐらいはしますよ」

 

「しかし、この男はクロヴィスを討ったのだぞ? ブリタニア人として、それはどう思うのだ?」

 

「うーん、殿下が怒るのは当然だと思いますし、殺されたクロヴィス殿下に対しても自業自得とまでは言い切れないですよ。ただ、俺としてはテレビ画面越しにしか見た事無い人より、一緒に遊んだり、悪さしたりする友達の方が大事です」

 

「その言い分は、ゼロがブリタニア人である事を肯定するが?」

 

「はじめから否定はしておりませんよ。総督」

 

「ほう? ますます貴様の仮面を剥いでみたくなったな」

 

「ふ、それは総督のお心次第ですね」

 

 

 先ほど、ゼロを“ルルーシュ”と呼んだ事を含め、コーネリアはすでに正解を導き出しているのであろう。ただ、それを肯定することも出来ないと言うジレンマを抱えて居ることは予測できる。

 

 

「…………ユフィ、お前が反逆を選んだのは、彼等の存在があってのことか?」

 

「私を待っている人達が居ります。彼等を救うには、味方が必要です」

 

 

 自分の理想を受け入れてくれた者達はブリタニア本国には残っている。

 ただ、彼等を救うには力が必要であり、味方が必要である。

 コーネリアが“反逆”と口にした事は事実としてユーフェミアは受け入れているし、それが必要であるならそれを成そうとも思う。

 何よりも、ユーフェミアにはブリタニア本国を目指して戦わねばならない理由があったのだ。

 

 

「枢木スザクもその一人となったか」

 

「っ!? ヴァルトシュタイン卿を止めるため、スザクは……」

 

 

 大義を語りつつも、その名が口にされるとユーフェミアの両の眼から抑え込んできたモノが流れ落ちる。

 絶望的な状況下からユーフェミアを救い出したスザクは、追撃していたKMFを撃破しながらアヴァロンを守っていたが、敵の切り札として投入されてきたビスマルクを止めるべく彼と相対した。

 そして、太平洋へと脱出したユーフェミア等の元にスザクが戻ってくることは無かったのだ。

 

 

「総督、泥を被って頂いたこと、感謝いたします」

 

「貴様にくれてやった覚えは無いぞ?」

 

 

 ブリタニア本国にてビスマルクが健在であり、スザクの姿が無い事をルルーシュ達もまた掴んでいた。

 しかし、その事実をユーフェミアに告げることはさすがに出来なかったのだ。

 今回、ビスマルクの話題を出すことでコーネリアは遠回しにユーフェミアに対してそれを告げたのだが、それは血を分けた姉としての役割を果たしたとも言えるだろう。

 

 

「総督、殿下は騎士をはじめとする多くの兵士の犠牲によってこの地にあります。そして、我々の差し伸べた手を彼女は取ってくれました」

 

 

 ルルーシュとしても、スザクが死んだとまでは思っていない。

 相手がビスマルクであったとしても、どこかで生きているはずだと信じているし、殺しても死なない男である事も。

 

 だからこそ、ユーフェミアもまた戦うための力が必要であるのだ。

 

 

「総督、貴女に我々の手を取れとはもうしません。私もまた、貴女を否定した身。ですが、ユーフェミア殿下の手を取ることは出来るのではありませんか?」

 

 

 流れた血を考えれば融和は簡単では無いだろう。

 

 世界中で戦い、エリアを広げてきたブリタニアにあって、コーネリアとその麾下の軍団は最も流血を強いてきたとも言える。

 日本国内においてはテロリストの討伐が主であり、最後の決戦に際しても彼女は敗れたことでゼロと神楽耶を否定した事実は過去のものとなる。

 

 だが、世界においてはまだまだ禊ぎが必要であるのだ。

 

 

「…………私は総督であり、皇族だ。反逆者どもに膝を屈することは出来ぬ」

 

 

 しかし、コーネリアの返答はルルーシュの望むモノでは無かった。

 

 コーネリアらしいと言えばそれまでである。

 

 彼女はシャルルの掲げる国是の体現者として戦い続けてきた。侵略された側からしてみれば憎しみの対象でしか無くとも、それを惰弱と切り捨て、勝利を重ねることを誇りとしてきたのであろう。

 過去においても、ユーフェミアの死が無ければ、そしてゼロレクイエムが無ければ彼女が世界に受け入れられることは無かったのかも知れない。

 

 

「だが、私の意地で兵や民を犠牲にすることは出来んな……」

 

 

 はじめの返答にて、仮面越しに瞑目していたルルーシュと項垂れていたユーフェミアは、その言に思わず目を見開き、顔を上げる。

 

 

「ゼロ、私の首を持って世界に対する詫びとする。ユフィとブリタニアの未来を貴様に託したい」

 

 

 しかし、二人に対して片膝を付き、再び口を開いたコーネリアの言は、ルルーシュとユーフェミアの表情を再び凍り付かせるに十分なモノでもあった。

 決戦における敗北と失われたと思われた妹との再会によって、自らの行き着く先をこの誇り高き女傑は決定付けてしまったのであった。

 

 

 

 その後、“コーネリア・リ・ブリタニア”の信念は二人の、そしてドアを蹴破るように入室してきたダールトンとギルフォードの説得を持ってしても揺らぐことは無かった。

 

 

 エリア11の消滅と“コーネリア・リ・ブリタニア総督”の自決が、全世界に向けて発せられたのはこの翌日のことであった。




ルルーシュはナナリーのみならず、ユフィにも大概に甘いですが、なんだかんだでコーネリアにも甘いんですよね。
仲良くしてくれた姉なんだから当たり前と言えば当たり前ですが、クロヴィスとコーネリアに対して当初敵意MAXだったのは仲が良かったからこその裏返しでしょうし。

で、甘さが必ずしも最良の結果画を生むわけでは無いと言うことは本編の通りですね。
現時点ではそれが最悪の結果を生んだわけですが。。。



続きの投稿も毎週日曜には出来るようにしたいとは思っているのですが、全然安定しなくて申し訳ありません。

長丁場になってきているので、過去の描写との整合性なども含めて練り直しが多かったりしてしまうので時間が掛かったりしています。
もし、矛盾点や気になる点がございましたら、遠慮無く御指摘ください。
もちろん、感想等もお待ちしておりますのでよろしくお願いします。
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