コードギアス ~生まれ変わっても君と~   作:葵柊真

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第五話 岐路

 教場では二機のKMFが激しくぶつかり合っていた。

 

 一機はブリタニア本国でも精鋭部隊に優先配備される主力KMFグロースターの教導機であり、片方は先日実戦投入された新世代KMFランスロットの姉妹機に当たる機体であったが、こちらはあくまでも試作機の域を出ていない。

 将来はヴィンセントと名付けられるこの機体は、グロースターに搭乗しているジェレミアにも見覚えのある機体でもある。

 とは言え、これが戦場に出てくるには今少し時間が必要であるはずだったのだが、ロイドのお遊びとも言えるこの二番機。

 スザクほどでは無いが、それに次ぐ適正値を持つパイロットがこの地に登場したことで日の目を見る事になったのだ。

 

 近接戦闘への対応を強化したグロースターが振るランスを軽々と交わし、隙を見つけて模擬刀やペイント弾をたたき込んでくるが、ジェレミアも慌てること無く回避と防御を繰り返す。

 周囲は互いのランドスピナーが巻き起こす轟音と砂塵に包まれていくが、不意にジェレミアの視界からヴィンセントが消え、気付いたときには背後を取られていた。

 

 

「やれやれ、この世界でも負けてしまったか」

 

 

 コックピット内で苦笑しつつそう呟いたジェレミアは、グロースターから降りると、同じようにヴィンセントから降りてきた人物へと歩み寄る。

 

 

「砂塵を上手く使うとはさすがですね。アールストレイム卿」

 

「ジェレミア。そういう言い方は止めて」

 

 

 ジェレミアの堅苦しい物言いにアーニャが眉をひそめるのは今に始まったことではない。

 

 とは言え、人目に着く場所で、辺境伯とは言え、一介の教導武官が皇帝直属のナイトオブラウンズ、それもあの閃光のマリアンヌを超える史上最年少騎士に対して敬語を使わぬわけにもいかない。

 年齢も一四歳という幼さであるが、この辺りは徹底した実力主義と貴族主義を元にした専制国家であるが故か、皇帝の鶴の一声で彼女はラウンズと言う地位を得た。

 もちろん、アールストレイム家は没落したアッシュフォード家とは対照的に、第一皇子オデュッセウスを支持する勢力へと鞍替えしているため、後ろ盾としても盤石である。

 アールストレイム卿の本心を知るのは、精々ジェレミアのゴットバルト家とルーベンのアッシュフォード家だけであるが。

 

 そして、とある事情でアーニャは本来の時間軸では居ないはずの日本へと赴任してきていた。

 混乱の続くエリア11の政情安定の為と彼女を推薦したある人物の存在がそこにはあった。

 

 

「やあ、ジェレミア。うちのアーニャはどうだい?」

 

 

 そう言って、不敵な笑みを浮かべながらジェレミアとアーニャの元へと歩み寄ってくる男。

 長身のジェレミアと並ぶと、身長は同じぐらいだが、線の細さが軍人としては悪い方に目立ち、同様に鮮やかな白金の髪と幼さを残した顔立ちが特徴の男。

 

 現在の地位はナイトオブサーティーンという本来は皇帝その人が位置するべき地位を与えられ、ともすればナイトオブワン以上の権力を有するとされる人物。

 

 名をヴィクトル・キングスレイ。八年前の皇妃マリアンヌ暗殺事件の前後に突然現れた謎の人物であるが、強力な私設軍を操り、時にはラウンズ以上の戦力として各地で殺戮を繰り広げてきた人物でもある。

 そして、ジェレミアはこの人物の正体にほぼ辿り着いている。だからこそ、ヴィクトルもジェレミアを警戒してアーニャを連れてきているのだ。

 もちろん、護衛としてでは無く、人質としての意味合いが強い。

 

 

「ヴィクトル。邪魔」

 

「つれないな~。一応、君は僕の護衛の意味合いもあるんだよ?」

 

「ラウンズがラウンズを護衛する必要なんて無い」

 

「まあまあ、アールストレイム卿」

 

 

 そして、当然ではあるがアーニャには嫌われている。

 

 記憶はしっかり取り戻せているが、彼女はマリアンヌ暗殺事件に居合わせた人物であり、シャルルもヴィクトルもそれを理解している。

 だからこそ、下手に記憶が戻ってしまった場合を考えて彼女の側に置いているのだ。

 他でもない、暗殺の実行犯V.V.としては、アーニャから目を離すわけには行かないというのが本音であろう。

 そして、ジェレミアから正体を知らされているアーニャが事件の目撃者としてヴィクトルを嫌うのも当然なのだ。

 

 

「それに、こんな変な連中と一緒に居たくない」

 

 

 そして、V.V.ことヴィクトルの背後に控えるローブに身を包み、顔もベールで覆っている人間達を指さす。

 ヴィクトルの私兵であるが、どう見ても嚮団員であり、ギアスユーザーである事は予想が付く。アーニャに変なギアスを掛けられたりしたらすぐにキャンセラーを使わなければならないが、ヴィクトルの目の前で使うのは自殺行為であるため、基本的にこの男にジェレミアは関わりたくなかった。

 

 

「あのねえ、君の任務はね」

 

「……エリア11の政情安定でしょ? だから、この前怪我をしたイレブンを助けたりした」

 

「僕の許可無く動くのが駄目って事だよ」

 

「……私は貴方の部下ではなく、皇帝陛下の騎士。名目上の上下はあっても、何から何まで命令されるいわれは無い」

 

 

 ヴィクトルが額に手をやりながら頭を振るが、当のアーニャは珍しく饒舌にかつはっきりとヴィクトルの事を否定する。

 

 実際、ナイトオブラウンズに上下関係は無く、ナイトオブワンが主席という地位にあるだけであり、命令権は彼にすら無い。形の上では、主君の傍らに位置するワンとトゥエルブが最上位ではある。

 とは言え、ビスマルクもモニカも席次などにはこだわらない人間である。

 最年少のアーニャには年長者としての配慮をしても、立場は平等という考えがしっかりとある人間達である。

 

 そのため、ヴィクトルの言に対するアーニャの言は、単純に「偉そうに命令するな」と言うはっきりとした拒絶であった。

 

 

「やれやれ、分かったよ、僕は僕の任務があるから、ここのことは任せたからね?」

 

「ん」

 

「キングスレイ卿、私もアールストレイム卿のために尽力いたしましょう、任務の完遂をお祈りいたします」

 

「よろしく。――――君もただ働きなのに良くやるね」

 

「ただ働きとは。ブリタニアの禄は食んでおります故」

 

 

 そう言うと、ヴィクトルは嚮団員達を連れてその場を後にする。ジェレミアやアーニャのことはもう関心が無くなったのか、C.C.だの、読心のギアスだの、物騒な話題を平気で口にしているが、幸いなことにルルーシュとナナリーの名が出なかった事でジェレミアは安堵していた。

 V.V.の存在は、それを知ったルルーシュが激発しかけるほどであり、ジェレミアとしても主君の存在を嗅ぎつけていないか気が気でなかったのだ。

 とは言え、C.C.の足取りを掴まれれば、自ずとルルーシュに辿り着いてしまう。ナナリーの説得がどうなったか分からない以上、放置しておくのは危険でしか無い。

 

 

「それで、やるの?」

 

 

 そんなことを考えていたジェレミアに対し、傍らに立つアーニャが静かに呟く。

 

 

「陛下からは許されておらぬ。時が来るまで待機だ。それより、今日のこの後はよろしく頼む」

 

「ん。あいつがいないなら簡単」

 

 

 やる。と言うのはヴィクトルの排除であったが、向こうの出方が分からない以上、動くのは得策では無いというのがルルーシュの決定であり、ルーベンやジェレミアも賛同している。

 存在自体は厄介ではあるが、それは同時に情報の少なさも関係している。過去を考えれば、シャルルとの関係は冷え込み始めているはずだが、それでも“兄”の危機ともなればシャルルも動かざるを得ないだろう。

 だからこそ、やるべき事は先にやっておく必要があった。

 

 

「さて、まずは職務を果たすとしよう」

 

 

 そう言ったジェレミアの目の前には、次なる教導を願い出た、キューエル率いる“純血派”の機体が並んでいた。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 約束の時刻を前に、カレンは玉城等とともにあの倉庫へとやって来ていた。

 

 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとか言う皇子様からのメッセージに、「一人で来い」と言う言葉は無かった以上、仲間を連れてきても文句を言われる筋合いは無い。

 

 

「んで、そのブリキの皇子とか言うヤツが俺等になんの用なんだ?」

 

「知らないわよ。ただ、仲間を助けたければ。とか総督を倒したければ。なんて言ってきたわけだし」

 

「背に腹は代えられないって事ね。キョウトもナオトに続いて扇もじゃ、ほとんど相手にされないし」

 

「馬鹿」

 

 

 周囲にも生き残りのメンバーを控えさせているが、この場にカレンの他には玉城と井上がいるだけである。

 お互いに旧知のメンバーであるため、口も軽くはなるが、井上の言はさすがに軽率であり、玉城ですら苦言を呈する。

 

 

「いいわ。お兄ちゃんの分も、扇さんの分も私達が頑張らないとだし」

 

「でもよお、助けてくれるとしてだ。ブリキなんかが信用できるのか?」

 

「それを見定めるために呼び出しに応じたんでしょ? っと、それじゃあ行ってくる」

 

 

 カレンからしたら、兄であるナオトが行方不明になり、兄代わりの扇達まで捕らえられてしまった状況はたしかに苦しい。

 そんな何も無い状況である以上、何かに縋ってみるしかない。

 自分を呼び出してきた男は、ブリタニアと名乗っていたのだ。皇子様のお遊びだと判断したら人質にでもして、扇達と交換すれば良い。

 皇帝は知らないが、総督ならその辺りの甘さはありそうだとカレンもまた思っている。

 

 もっとも、クロヴィスに対して、ルルーシュの名前を利用して取引を持ち掛けたら、変に逆上して、扇達を殺してしまうかも知れないが。

 残念ながら、カレンにはクロヴィスとルルーシュの関係性が分かるはずもない。

 

 そして、いつでも護身用のナイフを取り出せるよう、衣服の各所に忍ばせた物を確認したカレンは瓦礫の影から出て倉庫内へと向かう。

 玉城達もまた、カレンの様子を無言のまま伺い、いつでも飛び出せるよう準備している。マシンガンなどの携行武器は何とか手に入れたが、それでも一戦闘分が精々だった。

 

 

「ようこそおいでくださいました。カレン・シュタットフェルト様、もとい、紅月カレン様とお呼びした方がよろしいでしょうか?」

 

「あなた、日本人?」

 

 

 恐る恐る倉庫内に足を踏み入れたカレンの目の前には、メイド服に身を包んだ女性が立っており、無駄の無い仕草と流暢な日本語でカレンを出迎える。

 最初は、あの学生本人か、ミレイが待って居るモノだと思ったカレンは、彼女の外見も含めて目を丸くする。

 

 

「はい。篠崎咲世子と申します。残念ですが、書類上の身分は名誉ブリタニア人となります」

 

「日本人がなぜブリタニアの皇子に?」

 

「それは追々。それに、カレン様の用件は別のことではありませんか?」

 

「っ!? そうだったわね。それで、私を呼び出した、『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』とやらはどこに居るのよ?」

 

「上です」

 

「は?」

 

 

 突然のメイドかつ、日本人の登場に困惑したカレンだったが、どうにも調子が狂いつつも本来の目的を思い返し、鋭く咲世子に対して問い掛ける。

 だが、咲世子はまたもカレンの気勢を削ぐような振る舞いで、主の居場所を告げる。

 指し示す先に視線を向けると、なにやら黒い衣服に身を包んだ人間達が瓦礫の山に腰掛け、その山の頂上部分に、先日と同じ学生服に身を包んだ少年が立っている。

 たしかに、あの格好付けた姿はあの時と変わらないモノであるが、どうにも調子が狂う。

 

 

「ちょっと、呼びつけておいてなんつーところに居るのよ? 降りてきなさいよ」

 

「カレン様、さすがにブリタニアの哨戒が居りますので、大声はお控えください」

 

「っ!? それで、私にあそこまで上れって言うの?」

 

「はい」

 

「…………なんだか調子狂うわね」

 

「大丈夫よ~。すぐに慣れるわ」

 

「その声? あんたはっ!!」

 

「はいはい、それも後でね。早く上って上って」

 

 

 咲世子に振り回され、さらには昼間聞いた軽い声の主を睨みながら、カレンは瓦礫の山を上っていく。

 所々、血の跡がこびり付いており、先日の虐殺の痕は色濃く残っている。

 そんなことをした連中が自分達に手を差し伸べるとは思えなかったが、今目の前に立つ男は、そういう連中を容赦なく殺害した男だった。

 それもまた、わけの分からない手段を用いて。

 

 

「で、私に何の用よ?」

 

 

 そして、少年――ルルーシュの背後に立ったカレンは、その背中をにらみ付けながら口を開く。

 

 

「紅月カレン。お前は現状に満足か?」

 

「満足? そんなわけがないじゃない」

 

「日本人の血を引きながら、貴族の令嬢として生き、日本人が望むべくもない教育を受けるチャンスを与えられ、それで居ながらレジスタンス活動も行う。それでも不満か?」

 

「っ!? レジスタンスは私の意思だが、別に貴族として生きることなんて私の望みじゃ無いわ」

 

「その割に、母親を連れて飛び出そうという気概は無いようだが?」

 

「っ!? それは、扇さん達がそうしろって」

 

 

 自分に背を向けたまま、知ったような口を利くルルーシュに、カレンは声を荒げる。特に、母親のことを出されたのはカレンを苛立たせるには十分なモノだった。

 

 

「その扇とやらはお前の主か何かか? 逆に、レジスタンス活動なんか止めて平穏に生きて欲しいというのがその男の思いじゃないのか?」

 

「それは…………」

 

 

 たしかに、ナオトも扇もカレンがレジスタンスに加わることを良しとしていなかった。KMFの才能に恵まれ、誰よりも有益にそれを使役できるからこそ、ナオトも扇も無碍に出来なかったのだが、本音は二人はカレンに平穏に暮らして欲しかった。

 

 

「まあ、それはそれで良い。それより、このシンジュクゲットーをはじめとするトウキョウ租界周辺のレジスタンスは、激しくブリタニアに抵抗してきた。だが、先年、一人の英雄足るべき男が死した」

 

「っ!? お兄ちゃんは死んだわけじゃっ!!」

 

 

 カレンにとって、ナオトが死したという事実は決して受け入れられるモノでは無い。兄の存在があるからこそ、自分は今日まで戦って来れたとも言える。

 だが、それを受け入れてしまえば、戦う理由も失ってしまうような、そんな気がしていたのだ。

 

 

「表舞台から消えた英雄というのは死したも同然。だが、英雄を失ったからこそ、次なる人材を時代は求める」

 

「それが何か?」

 

 

 そんなカレンの思いを揶揄するかのように切って捨てたルルーシュに対し、カレンは苛立ちを覚えつつ、忍ばせたナイフを手にする。

 だが、次にルルーシュが口にしたのは思いがけない言葉だった。

 

 

「紅月カレン。日本とブリタニア、双方の血を引く君がその英雄になる覚悟はないか?」

 

 

 振り返り、静かに、かつ力強くそう告げたルルーシュの言に、カレンは目を見開き、何も答えられなくなる。

 

 

「英雄? わ、私が? で、でも私はブリタニアの血なんてっ!!」

 

「否定したところで、その身に流れる血は変えられん。俺だって、ブリタニア皇室の血がどれほど憎いか」

 

「っ!! そうね。ブリタニアの皇子様からしたら、私なんかちょうど良い駒よね。ブリタニアの血が入った女だったら無条件に従うとでも思った?」

 

 

 そういうか否や、カレンはナイフを手にルルーシュに飛び掛かる。自身の血のことを指摘された上に、ブリタニア皇族である事をはっきりと肯定したのだ。

 皇子様のお遊びの道具。そんな扱いをされたかと思ったカレンが激発するのはたやすかった。

 

 ――しかし、カレンの刃はルルーシュには届かなかった。

 先ほどまで瓦礫の下に居たはずの咲世子が表情を変えずにそれを受け止め、そして、自分の首筋には、長い黒髪の女が鋭い剣を突き付けている。

 自分自身の格闘能力に自信があっただけに、同じ女にあっさり生存権を奪われたことに驚愕するしか無かった。

 

 

「背中ががら空きよ。カレンさん」

 

「っ!? その声?」

 

「そう。クラスメイトのソフィ・ウッドよ。私もルルーシュ様の部下なの。よろしくね」

 

 

 カレンに剣を突き付けたのは、クラスメイトでそこそこ話をする関係のソフィであった。

 シャーリーのルームメイトでもある彼女だったが、実は生徒会入りしたミレイが万一の事を考えて配置した部下の一人である。

 もちろん、年齢は同じであるので勉学を学ぶ必要はあったが。加えて、彼女自体はルルーシュから学園に関する資料を託されていたジェレミアが選抜し、アッシュフォード家と関わりが深い家の子ども達をスカウトしていた結果であったのだが。

 

 

「話を続けても良いか? 咲世子さん、ソフィ、すまなかったな」

 

 

 そんなやり取りを制し、話を続けるルルーシュ。カレンもまた、冷静さを取り戻して話に応じる。

 

 

「……こっちも悪かったわね。それで、皇子様は私に人形遊びの人形になる事をお望み?」

 

「まさか。決めるのは君自身だ。ただ、その身に流れる血を有効活用しない手は無いだろう?」

 

「そういう貴方はどうなのよ? ブリタニアの皇子様が反ブリタニアレジスタンスと仲良く話をするなんてとんでもない矛盾だわ」

 

「皇子と言っても、俺はすでに死んだ身だ。死人が生き返ると言うのもふざけた話だろう?」

 

「どういうこと?」

 

「君はまだ子どもだっただろうから知らないだろう」

 

 

 そして、ルルーシュは自らの生い立ちを話す。母の死。目と足の自由を失った妹。人質として日本に送られた後の生活。そして、戦争とその後の人生を。

 カレンもまた、自然と自身の生い立ちを語る。両親と兄との短い平穏な生活、ブリタニアの侵略、紅月からシュタットフェルトになった後の日々、そして、兄の死。それらを隠すこと無く話し合う。

 

 

「君もずいぶん苦労してきたんだな」

 

「あんたこそ」

 

 

 そう言い合ってお互い苦笑するが、それを聞いていた数人。特に普通の学生であった二人などは、鼻を啜ったり、目元を拭ったりしている。

 改めて聞いても、咲世子やミレイのような特別な生まれの人間であっても、双方の生い立ちは特殊であったのだ。

 

 

「だが、先ほども言ったように、お互い身に流れる血は換えられない。だからこそ、君には英雄になる覚悟はあるのかと問うた」

 

「そう言う事……。生憎だけど、私はそんな柄じゃ無いわ」

 

 

 実際のところ、兄だけじゃ無く、扇達まで居なくなってしまっては、自分は何をすれば良いのか分からなかったのだ。

 

 英雄として、人々を率いることなんて出来そうも無い。

 

 

「だったら、俺にその命を預けてみないか?」

 

 

 そう答えたカレンに対し、ルルーシュはあっさりととんでもない事を言い放つ。

 

 

「あんたに? 変なことを言うわね? さっきは死人だって言っていたのに」

 

「そうだな……。だけどな、死者というのは生者がうらやましくて仕方が無いんだ」

 

「どういうこと?」

 

「曲がりなりにも皇子に生まれた俺には、ブリタニアを支配する資格がある。だが、俺には生きているのにその資格を奪われた。生きているのにだ。まあ、本音としては別に皇帝になんかならなくても良いんだが、俺には普通に生きることも難しいからな。結局のところはブリタニアを倒すしか無いし、倒したままで放置するのは無責任だ。結局は目指すところは皇帝なり何なりにならなきゃならない」

 

 

 実際、過去においてルルーシュはゼロレクイエムの為に皇帝になったのだが、それ以外の面でも、ブリタニアを導く立場にならなければ残されたブリタニア人が困る。

 シャーリーやリヴァルは民間人でもあり、ブリタニアの崩壊は彼等の生活の崩壊でもある。

 シャルルの帝国を否定したとしても、ブリタニアに生きる人間全てを否定するわけには行かないのだ。

 

 

「で、あんたを皇帝にする手助けをしろって言うの? 馬鹿馬鹿しい。それで私達に何の得があるのよ?」

 

「得? ありすぎるぐらいあるぞ? 俺に恩を着せまくれば、俺が皇帝になった暁にはブリタニアは思いのままだ」

 

「簡単に言うわね。それだって落とし穴があるでしょうに」

 

「それはそうだ。俺だって、ブリタニア国民全て憎いわけじゃ無いからな。だが、少なくとも戦争をする前の関係には戻れる」

 

 

 そう言われて、カレンの心はわずかだが揺れ動く。

 戦争が始まる前の記憶。先ほど話した家族の幸せがわずかにでも帰ってくるのだろうか?

 

 

「夢物語も良いところね」

 

「そうかも知れんな」

 

「あんた説得する気あるの?」

 

「そんなモノは無い。はじめから、結果で納得させるつもりだったしな」

 

「……じゃあ何で私の過去をほじくり返したのよ?」

 

「後戻りできなくさせるためさ」

 

「は?」

 

「シュタットフェルトとしてのカレンだけを知っているなら、俺を無視しても良かっただろうが、紅月としてのカレンまで知り、扇グループのことまで話してしまったんだ。これでお前は俺を放っておけなくなる」

 

「っ!? あんた最初からっ!?」

 

「フッ。俺は目的のためなら手段は選ばない。悪という誹りは聞き慣れているしな」

 

「――――っ!! あんたはさっきからっ!!」

 

「怒るな。それと、先ほどの結果だがな。こう言うのはどうだ? 扇要をはじめとするレジスタンスの救出とクロヴィス総督の首。両方をお前達の前に出したら、協力するというのは?」

 

「え?」

 

「はじめに出した条件だ。そのどちらも俺は果たす自信がある。だから、成功の暁には、俺に協力して欲しい」

 

「そ、そんなこと私の一存では」

 

「仲間と話し合ってくれれば良いさ。協力できないなら他の手を考えるし、必要なら君の記憶を消す術ぐらいはある」

 

「さらりととんでもない事を言ってくれるわね」

 

「これでも皇族だからな」

 

 

 そこまで言うと、ルルーシュは返事は後日聞くと言い、仲間を連れて地下道への道を降りていく。

 

 交渉以前に、過去について腹を割って話をした。そんな印象だけがカレンの心に残る。

 だが、ルルーシュははっきりと、扇達の救出を約束していた。正直、総督の首なんてどうでも良かったのだ。

 そして、ルルーシュ達が立ち去るのを待っていたかのように、ランドスピナーの音が周囲にとどろき、数機のKMFが倉庫の周囲から去って行く。

 

 

「すでにKMFまで。それに……」

 

 

 そこまで口にして、カレンはそれ以上言うのを止めた。

 自分と同じ年にもかかわらず、これほどまでの状況を整えているルルーシュという男に底知れぬ恐ろしさを感じており、口に出してしまえば完全に屈服してしまいそうな気がしていたのだ。

 そして、カレンの中では、すでにルルーシュに協力するべきだという思いが強くなっている。だが、ブリタニア嫌いの玉城や事なかれ主義の井上をどう説得するか。目先の課題はその辺りであった。

 

 

「私の血か……」

 

 

 そして、再びルルーシュの言が脳裏に蘇る。日本人とブリタニア人双方の血を引く存在。

 父も母も自分にとっては憎しみの対象ではあったが、それを有効に活用する手段があるのならば……。

 

 

 そう思いながら、カレンは仲間達の待つ場所へと足を向けたのだった。




休日にもかかわらず遅くなってしまって申し訳ありません。また、書いてくれた感想に見逃しがあり大変失礼いたしました。

昨日のリヴァルの父親は誰だ? と言うのも物語の中で語っていきたいと思います。匂わせばかりで申し訳ありません。

3連休ですが、一日二話更新などは控えて、書き溜めと一話更新で行きたいと思います。

これからもよろしくお願いいたします。
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