コードギアス ~生まれ変わっても君と~   作:葵柊真

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第十一話 降壇と登壇①

 クロヴィス総督死す。

 

 

 その日、世界中に報道されたニュースのもたらした衝撃は大きかった。

 激しい抵抗が続いていると言うことで知られた極東の島国であったが、その中心にあった日本解放戦線は年々その戦力を削られ、先日もゲットーにてテロという形の同士討ちが起こったばかり。

 

 もはや、日本人――イレブンの命脈は尽きている。と言うのが、ブリタニアのみならず、中華やEUなどのブリタニアに抵抗を続ける国家共通の認識であった。

 だが、テロの実行犯達の救出騒動から状況は一変。

 テロと思われた悲劇は、総督の手による一方的な虐殺であり、それが表沙汰になった際の騒乱とそれに乗じたテロリストの逃亡。そして、総督の暗殺。

 あまりの状況の変化に世界中が驚愕し、一方では怒りに満ちあふれ、一方では賞賛が吹き荒れる。

 それと同時に、世界中が注目したのは政庁前に投げ捨てられたクロヴィスの遺体の入った棺桶と、そこに入れられていた犯行声明映像である。

 当初、ブリタニアはこれをひた隠しにしようとした。各地のレジスタンスが犯人を英雄へと祭り上げることを恐れたためである。

 

 だが、情報化が進み、ネット環境が整備されたこの時代。ちょうど、クロヴィス総督による虐殺命令が表に出たように、犯行声明映像も表舞台にでたのである。

 

 

『私は、ゼロ……。私は、力なき者の味方であり、力ある者への反逆者であるっ!!』

 

 

 画面の中で、黒を基調とした衣服に身を包み、独特の仮面を身につけた人物が大仰な仕草で腕を振り、胸に手を当てながら声を上げる。

 

 

『クロヴィス総督は、何の理由もなく、あるいは居もしないテロリストの殲滅という目的で、租界周辺ゲットーへ連日襲撃を行っては多数の民間人を虐殺した。シンジュクでの悲劇はほんの一部に過ぎないっ!!』

 

 

 事実として、ゲットーには多くのレジスタンスが居り、その殲滅のために軍が出動することは常にあった。

 そして、当然のように巻き込まれる民間人も多く、ある者はブリタニアを憎んでレジスタンスへと身を投じ、ある者は巻き込まれることを嫌って新天地を目指す。

 そして、両者は再びブリタニアの掃討作戦に巻き込まれる。これを幾度となく繰り返されることで、若者を中心に後者が減り、前者が増えていくようになる。

 終わりは見えない戦いであるが。仮に終わる時が来たとしても、その時にはトウキョウ租界周辺から日本人はいなくなっているだろう。

 

 

『よって、私が処刑した。……撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ……』

 

 

 静かに、それでいて周囲を凍り付かせるかのような冷たき声。それだけで、クロヴィスの死を現実の物とするだけの凄みを周囲に感じさせる。

 

 

『覚悟なき者は、覚悟せよ。そして、力ある者が力なき者を襲うとき、私は再び現れるだろう。たとえその力ある者が、どれだけ大きな力を持っているとしても……私が裁くっ!!』

 

 

 先ほどまでの大仰な仕草は影を潜め、マントに身を包んだ男、ゼロ。

 だが、次第に静かに、語りかけるようになっていく声。先ほどまでの冷たさも消えたその声に、映像を見据える人々は底知れぬ恐怖を覚えていく。

 

 そして、『裁く』と言い放ったゼロは、ゆっくりをハンドガンを構えると、躊躇うことなく引き金を引き、そのまま画像は途切れた。

 

 

 

 空港のロビーでそれを見ていた男は、ざわめく周囲に目もくれずに搭乗の手続きを続ける。

 手続きを終え、発着までの時間を過ごす男の周囲は、なおもざわついたままである。

 

 

「いやあ、怖いねえ。お兄さんももそう思わないか?」

 

「そうですね。もうじき、空港も混雑しそうですし、一足先に準備して良かったですよ」

 

「君もその口かい? あんなのが居るんじゃ、何が起こる分からないしね。本国に帰るのかい?」

 

「いえ。私はまだ若いですし、本国に帰って徴兵されては敵わないので。このまま、オーストラリアで静かに過ごそうかと」

 

 

 男の傍らに座っていた初老の夫婦が男の持ち物に興味が沸いたのか、男にそう語りかける。

 サングラスを掛け、帽子を被っているため人相は分からないが、語り口から温厚な人柄を感じさせる男は、片道切符となるであろう旅券を夫婦に見せる。

 

 

「なるほど。絵描きさんみたいだけど、そういう人は静かなところがあっているな」

 

「ええ。日本の気候は悪くは無かったんですが」

 

「日本?」

 

「ああ、忘れてください」

 

「いやいや、私達も日本時代からこの国には来ていてねえ。その呼び方が懐かしく思えるよ」

 

「そうだったんですね……。おっと、そろそろ行きますね」

 

「良い旅を」

 

 

 そんな会話を交わし、男は老夫婦から離れ、画材と当面の生活用品の入ったバッグを手に搭乗口へと向かう。

 そして、ほどなく空の人となった男は、離陸しながら小さくなっていく島国を見据える。

 

 ふと、懐から取り出した一枚の写真。そこには、三人の男女が笑顔で映り込んでいる写真だった。

 

 

「……、……、幸せにな」

 

 

 静かに、そう告げた男が口にした名を聞き取れた者は誰もいない。ただ、幸せに。と言った男の声は、優しさと、真に当人達を思う気持ちに溢れていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

『人はぁ、平等ではない』

 

 

 一人の男が表舞台から去ってから数日後、ブリタニアの全支配地域にてクロヴィスの国葬が執り行われていた。

 画面越しに語られる皇帝の演説は、とても故人を偲ぶモノでは無く、むしろ、志半ばで倒れたクロヴィスを弱者と罵っているように思わせるそれ。

 

 それに対し、ルルーシュとカレンは怒りに顔を歪ませ、リヴァルは腕組みと苦笑いという不遜さを隠さない態度で、シャーリーははっきりと眉をひそめながら画面から目を逸らし、ミレイは無表情に画面を見据えている。

 

 彼等だけではない。

 

 主を失った政庁では、残された軍人・官僚達が、来賓官舎のサロンではジェレミアとアーニャが、扇グループのアジトでは、グループのメンバー達が、それぞれの思いを抱きながらそれを見つめている。

 それらは、わずかな違いはあれど、過去において繰り返された光景。だが、演説の締めくくりにおいて、皇帝の演説は異なるモノへと変わっていく。

 

 

『卑しくも、我が子クロヴィスを害し、力をある者を裁くと公言したゼロなる反逆者……!! ヤツもまた、戦いを我らに挑んだぁっ!! なれば、受け止めよっ!! 戦うのだ! 競い、奪い、獲得し、支配する。その果てに未来がある!! オール・ハイル・ブリタニア!!』

 

 

 進化を崇め、戦いや競争を肯定するシャルルの信条はそのままであったが、今回はそこに“ゼロ”と言う象徴としての敵手が存在している。

 だからこそ、戦いを挑んできた相手と戦い、競い、奪えとシャルルは言う。つまりは、力ある者を裁くと公言した彼を、力を持って叩き潰せと。

 

 

 

「ふんっ、進歩のないヤツだ。進化を嫌って昨日しか見ていないのは自分自身ではないかっ!!」

 

 

 国葬を終え、生徒会室へと戻ってきたルルーシュは、開口一番シャルルへの苛立ちを爆発させる。

 進化を謳い、侵略を正当化する男の目的は、世界を過去のまま一つにすることだというのだから、ひどい自己矛盾と言える。

 だが、目的のためなら自身の信条すらも利用するのがシャルルという男である。

 

 

「ルル、落ち着いて」

 

「おと……、皇帝陛下がああなのは、今に始まった事ではありませんよ」

 

「ルルーシュ、生徒会室で不敬発言とか、イレブンみたいだから止めて」

 

 

 とは言え、軽率と言えば軽率である。

 ニーナはルルーシュ達の真意を知らず、生徒会室に来ているのは仲の良いミレイが居るからであり、そのまま生徒会メンバーとも仲良くなっている。

 とは言え、はっきりとした不敬を見逃してくれるほど、皇帝に対する嫌悪も彼女にはない。彼女の中では、皇帝への不敬が日本人とイコールで繋がっているから余計である。

 

 

「すまない、軽率だった」

 

「なら良いけど」

 

「ちわーっすっ!! 清掃に来ましたっ!!」

 

「ひっ!? イレブンっ!?」

 

 

 そんな時、清掃業者を装った玉城が元気よく生徒会室に入ってくると、日本人を嫌うニーナは見るからに身体を強ばらせる。

 

 

「あんだとっ!? 俺は名誉だぞっ!!」

 

「名誉だからって。いやっ!!」

 

「ニーナも玉城も落ち着け。シャーリー」

 

 

 事情が事情とは言え、日本人に対する恐怖と憎しみを持っているニーナの反応はさすがに過剰であり、いきなり悪意に晒された玉城が顔をしかめて声を荒げる。

 よりによってこのタイミングで。と額に手を当てたルルーシュは、すぐにシャーリーとナナリーに目配せをする。

 

 

「うん。ニーナ、食堂にでも行ってお茶でもしよ? ナナちゃんもどう?」

 

「ご一緒します。玉城さん、よろしくお願いしますね」

 

「おうよ。……そこの眼鏡ちゃんも、怒鳴って悪かったな」

 

 

 シャーリーとナナリーもルルーシュの意図を察し、怯えるニーナを連れて生徒会室から出て行く。どうせミレイもやってくるだろうから、最悪彼女にニーナは任せてしまえば良い。

 玉城も玉城で、邪気のないナナリーに笑顔を向けられれば怒りも収まる。もっとも、ナナリーの心の強さは先日の一件で思い知らされているのだが。

 

 

「悪かったな。彼女は過去に色々あってな」

 

「みてえだな。にしても、いくら何でもアレはねえぞ?」

 

「彼女にはゆっくり話しておくよ。それで、今日はどうした?」

 

 

 そして、一人になったルルーシュは玉城を椅子に座らせ、来訪の理由を問う。

 アッシュフォード学園に雇われた作業員という体であるため、比較的出入りは容易になっている。

 警備などで侮蔑や悪意に晒されるのは腹も立つそうだが、彼にしては我慢して居るようだ。

 

 

「いやな、扇達がどうにも煮え切らなくてよ。俺はブリキは嫌いだが、ゼロ達は味方だろ? 味方は味方で割り切りゃ良いじゃねえか」

 

 

 出がらし茶を飲み、顔をしかめさせながら玉城が扇達の態度に関して愚痴る。

 クロヴィスを処刑した後、ルルーシュは扇達に対し、協力を求めつつも、どこか突き放した態度を取っていた。

 自分は身内すらも平気で殺す人間。それを妹や友人達に見せ、共犯にすることも厭わない。つまりは、戦場にあっては勝利や目的を優先して、犠牲は厭わない。

 そう告げたルルーシュに対し、シャーリー達も目を見開いたが、扇達の反応はそれぞれだった。

 単純な玉城はブリタニアを倒せるならそれで良いと言い放ったし、メンバーに対して過剰な思い入れのある南は、駒扱いするつもりだったら手は組めないと言ったりと、言い分は様々であった。

 リーダーである扇はそう言ったメンバー達を宥めはしたが、肝心の彼が決断を下せないでいたのだ。

 

 

(この辺りは変わらないな。玉城のように捕まらず、俺のことを見ていれば違ったのかも知れんが)

 

 

 そう考えたルルーシュだったが、「結果を出せば人は付いて来る」と考えたのが過去の自分の結末である。

 

 玉城は単純にシュナイゼルの口車に乗せられただけだが、扇はヴィレッタを利用した事、藤堂や千葉は片瀬や草壁に対する仕打ち、南は扇達を駒扱いしたこと、杉山は目の前で井上が死んだことなど、特区の事件に上積みする要素があり、それらを解消しなかった自分のミスが大きかった。

 

 とは言え、戦争である以上、部下を駒として見ないというのは難しい。

 

 扇は人は駒ではなく生きていると富士決戦にて、全軍を鼓舞していたが、戦争というのは、「生きている駒」だからこそ、戦えるのである。

 情が入れば余計な犠牲を生むのが戦場である。

 だからこそ、自分はナナリーの為にブラックリベリオンにて失敗したし、扇や藤堂も自分への憎しみを優先した結果が、富士サクラダイトトラップでの壊滅だった。

 それに、今回ばかりは自分も日本解放だけを考えるわけにはいかない。過去において、役目を放棄したことが自分の中には悔いとして残っている。

 死によって責任を取る必要があった過去に対して、今はブリタニアという国を本当にぶち壊し、再生させると言う野心は正直ある。

 

 

「そう簡単ではないだろ。俺は目的のためには身内すら殺す人間だぞ?」

 

「何言ってんだ。殺してねえクセに」

 

「…………気付いていたのか?」

 

「一緒に死体を捨てに行ったからな。吉田と井上も見ていたぞ? 俺としては何でだと思ったけどな」

 

 

 クロヴィスの遺体は、公開された犯行声明を添えて、ようやくデモが引いた政庁前に投棄してきた。

 監視カメラはハッキングしてあり、柩を載せたトラックは先に帰らせたため、その場に居たのはルルーシュとC.C.、ジェレミアだけのハズだったが。

 それで気を失わせておいたクロヴィスを起こし、改めでギアスで仮死状態にした後、運び込まれた病院にて関係者にギアスを掛け、クロヴィスのDNA鑑定結果と死亡記録を作らせた。

 そして、病院にあった身元不明の遺体の頭部を撃ち抜き、顔を潰しておいたのである。

 

 ――クロヴィスを殺さなかったことは自分の甘さだろう。

 

 そして、皇族としての過去を忘れさせ、自分達の兄弟である事と、罪を犯して隠棲するしかないと言うことをギアスとキャンセラーを用いて認識させ、オーストラリアへと逃がした。

 その後のことまでは責任は持てないし、生きている限りは自分の身元を知らせる爆弾になりかねない。

 だが、皇族としてのクロヴィスを殺した事で、一応のケジメは付けさせたと思っている。

 記憶は失っても、芸術家としての腕前は残る。顔を出さずとも成功している芸術家はいくらでもいるのだから、好きなように生きれば良いと思っていた。

 

 

「さあな。結局、俺は身内には非情になれないのかも知れん」

 

「んでもよお、それならそうだって言えば扇達は納得するんじゃねえか?」

 

「お前達のことだからもう話しているだろ? それだけで十分だ。それで、協力する気にならないなら、俺の人徳の無さでしかない」

 

 

 クロヴィスの場合は前回に比べ、ジェレミアという強力な味方が居たと言うのが大きい。彼がいれば万が一同じ事が起きた場合のユフィも救えるのだから。

 

 

「まあいいや。現状はそんなところで、俺達が協力できるかどうかはまだ分からねえ。だがよ、俺としてはゼロに付いていきたいと思ってるぜ?」

 

「ふ、頼もしいな」

 

 

 そして、玉城は私情がたっぷりと入った笑みをルルーシュに向けてそう口を開く。

 玉城自身はルルーシュを持ち上げることで恩恵を受けたいのが本音であり、ルルーシュ自身、この単純な男を気に入っても居たのだ。

 

 そういう俗物なところも含めて玉城らしいとも思っていた。

 

 

「失礼します。って、玉城じゃない!? 何してんのよっ!!」

 

「よう、カレン。大人しそうにしてるのは似合わねえな」

 

「悪かったわね。それより、何しに来たのよ?」

 

「近況報告だよ。扇達が煮え切らねえからよ」

 

「…………仕方ないわよ。そいつが信用できないんだし」

 

「そうは言うけどよ」

 

「みんな私達みたいに単純じゃないのよ。扇さん達には悪いけど、私は私なりにコイツに協力するつもりよ。みんなにはそう伝えておいて」

 

「なんだ、お前もそうなのか。なら、話は早いと思うけどな」

 

「何でよ?」

 

「カレンが居なかったら、まともにKMFで戦うことも出来ないだろ? 扇が如何にお前を心配しようと、結局は戦力がなければ戦えないからな」

 

 

 そんなカレンの言葉に、ルルーシュは扇達の本音をあっさりと答える。

 

 本気でカレンに平穏に生きて欲しいならKMFになんか乗せなければ良かったのだ。カレンは本気を出せばスザクすら圧倒する天才。

 

 一度それを頼みにしてしまえば、それが失われることを厭うのは必然。

 あの後、カレンもまたシュタットフェルト家に戻ってしまっていたから、扇達にはカレンの意図が見えなかったのだろう。

 そもそも、本気でカレンが大事だったら、ルルーシュを放逐する際に、彼女諸ともルルーシュを処分しようとはしないはずなのだ。

 

 

「玉城、どういうこと?」

 

「さあな」

 

「なによ、駒扱いに怒っていながら、自分達もそういうつもりなんじゃないっ!!」

 

「本気でそうは思っちゃいねえよ。カレンが居なきゃどうにもならないから、みんなカレン次第だと思っていたんだろ」

 

「だから、選択という責任を彼女に押し付けていたと言うことになるな玉城。まあ、お前は俺に協力を告げたからまだマシだが」

 

「弁護しておくなら、井上と吉田もな。扇はともかく、南と杉山がちょっと頑ななんだよ」

 

「無理強いは出来ないと言ってあるはずだ。彼等には彼等の気持ちを尊重してくれるように言っておいてくれ」

 

 

 実際のところ、南の艦長としての能力や杉山の後方支援の能力は貴重でもある。

 とは言え、やはり二人とも自分への不信が強かった以上は、無理に組み入れても同じ結果を待つだけだった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 一人の男が表舞台から退場した。

 

 本人は政治家としての能力は至って平凡であり、その統治もお世辞にも褒められたモノでは無い。

 だが、それでも彼の“総督”と言う地位は、内外に波紋を呼ぶには十分な地位でもある。

 

 

 神聖ブリタニア帝国帝都ペンドラゴンでは、クロヴィスの国葬が取り仕切られ、全住民が喪に服しているが、それでも職務から離れられない人間も存在する。

 葬儀を終え、サロンへと戻ってきた帝国最強の矛と盾達もその一つである。

 

 

「やれやれ、とんでもない事になっちまったねえ」

 

 

 どっかりと音を立ててソファに座り込んだのは、ナイトオブナイン、ノネット・エニアグラム。騎士としては気ままで豪放な性格が異色であるが、その奔放な性格に反しない豪傑として様々な戦場にて武勲を上げている。

 また、第二皇女コーネリアの士官学校の先輩に当たり、彼女とともに戦場を駆ける機会も多い。

 

 

「エリア11。面白いことが多そうな地でありましたが……。ふふ、私の狩りの対象となりそうな獲物が堂々と表舞台に出てくるとは」

 

「不謹慎だぞ、ルキアーノ。だが、あのゼロという者……、放置しておいては、帝国の威信に関わるな」

 

 

 ノネットの言に、窓際に背を預け、取り出したナイフをもてあそびながら、不敵な笑みを浮かべるのはナイトオブテン、ルキアーノ・ブラットリー。

「ブリタニアの吸血鬼」の異名を持つ好戦的な凶戦士だが、冷静な洞察力と戦場で発揮される嗅覚の鋭さは多くが知るところ。

 実際、彼の言動を窘めたドロテアも同意するところである。

 

 

「ヴァルトシュタイン卿はどうお考えなのだ?」

 

 

 そして、ドロテアは空席となっているこの場に置ける最上位者の意見を求めようとするも、その人物は現在皇帝に付いていて不在でもある。

 

 

「静観の構え。と言ったところでしょうか。皆さんのお考え通り、ただのテロリストではないとも感じているようですが」

 

 

 №2とも言える立場のモニカがそれに応じる。三人に比べて年少者だが、武勇に加えて、日本侵攻をはじめとする様々な作戦立案に携わり、それを成功させた政戦に通じる逸材である彼女の言には、不敵なルキアーノすらも肯くしかない。

 

 

「アールストレイム卿が赴任されているが、彼女は無事なのか?」

 

「今朝方、陛下に対する謝罪と進退伺いをしてきたそうです……」

 

 

 それまで、口を閉ざしていたこの場の最年少者であるナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグがほぼ同期と言える少女騎士の事を問い掛ける。

 ナイトオブシックスであるアーニャ・アールストレイムは、推薦者であるゴッドバルト辺境伯家の当主、ジェレミアの進言を受けて、エリア11に赴いていた。

 いまだ少女と呼べる年齢であり、政治面の経験が薄い彼女は、抵抗が続くエリアにて武勇面で総督を補佐するとともに、総督に付いて政治経験を積むことを目的とされていた。

 

 

「ゴットバルト卿も自刃しそうな勢いで謝罪してきたらしいな。マリアンヌ様やその御子息達についで、クロヴィス殿下もとなるとな」

 

「ふん、一つしか無い命を無駄にするようなヤツに皇族が守れるモノか」

 

「そう言ってやるな。あやつの皇族に対する思い入れは尋常なモノではないからな。……まったく、だからラウンズになれと言ったんだ」

 

「変なところで頑固者でしたからね」

 

 

 ジノのアーニャに対する言及は、ジェレミアに対する問答へと変わってしまっている。

 日本侵攻後にラウンズとなった点はみな同一だが、ルキアーノ以外の三人は戦場をともにした戦友である。

 特に、皇族への忠誠篤いモニカとドロテアはそんなジェレミアに対して好感を抱いていただけに、彼の心情を察してあまりあるのだ。

 

 

「皆様は、ゴットバルト卿と面識がお有りで?」

 

「私とドロテアは士官学校の同期で、日本……エリア11征服などで戦場をともにしてします」

 

「私は年長だが、入学が遅かったからな。あの馬鹿には色々と苦労させられよ」

 

「ずいぶん直球だな。まあ、間違いなく直情馬鹿だが」

 

 

 ジノの問いに、真面目に答えるモニカと、昔を思い出したのか、不敵に笑うドロテアとノネット。普段はドライな関係である分、他者を介して話に花が咲くというのは不謹慎な時であるからこそのモノであろうか。

 

 

「総督代行殿に対してずいぶんな物言いだな。諸君」

 

 

 そんな場に、鋭く響き渡る重厚な声。

 皆が視線を向けると、ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインその人が、ゆっくりと入室してくる。

 口を真一文字に結んでは居るが、その目の光はどこか不敵さを感じさせるモノであった。

 

 

「ヴァルトシュタイン卿、総督代行とは、ゴットバルト卿が?」

 

「うむ。今はまだ説得中であるが、後任の総督が決まるまでの間であるがな」

 

 

 そう口を開きつつ、飲み物をビスマルクに渡すノネット。

 その表情は面白いモノを見つけた好奇心が有り有りと見てとれるが、他の者達の感想も似たようなモノである。

 

 

「退役し、教導に従事していた人間を表舞台に?」

 

「エリア11に領地を賜っているのだ。爵位を考えても不思議ではあるまい」

 

「自分の領地があるエリアぐらい守って見せろって事ですかね。まあ、一理ある」

 

「それだけではないぞ?」

 

 

 ノネットの言に、ビスマルクは一端言葉を切り、飲み物を口にする。

 立場上、皇帝に着いている時間が長く、一服する暇もほとんど無いため、彼ほどの人間であっても乾きには耐えきれなくなる。

 

 

「まだ正式に決まったわけではないが、アールストレイム卿に続き、諸君等にもエリア11に赴いてもらうことになる。次期総督の就任までのわずかな間だが」

 

「なるほど、その間に、ゴットバルト卿とともにエリアの掃除を?」

 

 

 ビスマルクの言に、ルキアーノは喜色を浮かべながら応じる。

 エリアの掃除とは、即ちゼロなるテロリストの討伐と長年抵抗を続ける日本解放戦線の殲滅だろう。

 “奇跡”の渾名を頂いた英雄もまた健在であるのだ。新たな脅威と融合されては始末が悪いと言う判断であろうか。

 

 

「コーネリア殿下が黙っていないかと思いましたが」

 

「どうやら、砂漠のハイエナどもが出張ってきているらしい。そちらにも我らが出向く」

 

「ほう? 極東のテロリストに触発されましたかな?」

 

「かも知れぬ。いずれにしろ、抵抗する者は断固討伐せよというのが陛下の御意志だ。正式な発令を待ち、各々の健闘に期待する」

 

「イエス・マイ・ロード」

 

 

 

 砂漠のハイエナとビスマルクが称したのは、中東地域に存在する傭兵国家の蔑称である。

 その兵力は精鋭として知られ、中華連邦やEUの侵略を幾度となくはねのけ、ついにはブリタニアの侵攻にも屈さなかった戦士の国。

 その最大の産物は、巨力無比な傭兵達であり、山賊上がりの賊ですら、ブリタニアの騎士侯と同等の戦力とされる。

 北アフリカへの侵攻を順調にこなして居たコーネリアに対し、中東諸国はその潤沢な資源を背景とした財貨を惜しげもなく投じたのであろう。

 ルルーシュとジェレミアの登場、V.V.コードの変質等と言った小さな変化は、確実に世界に影響を与えているのだ。




更新が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。平日はどうにも時間が取りにくいですが、何とか更新を続けられたらと思っています。
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