コードギアス ~生まれ変わっても君と~   作:葵柊真

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第十四話 降壇と登壇④

 ブルドーザーが唸りを上げて瓦礫を押していく。

 

 その先では大型のパワーショベルが瓦礫をすくい、待機したダンプカーへ移し替える。定量を積み込んだダンプカーは砂埃を上げながら去って行き、空車になっているそれと入れ替わる。

 一定のルーチンを重機がこなす中、汗に塗れた男達が細かい箇所に入り、道具を用いて瓦礫をどかし、ガラスや鉄芯などを撤去していく。

 

 これまで、活気とは無縁であったトウキョウ租界外苑に広がるゲットー。

 つい先日まで虐殺や粛清が起こっていたが故に人々の表情からは生気が無くなり、その日暮らしを余儀なくされていた彼等。

 国を失い、家を失い、家族を失い、職を失った彼等には、それらを得るための手段も目的も限られてしまっていたのだ。

 そのため、多くは生気を失い無気力のまま、わずかに与えられる配給と、気まぐれにある奴隷の如き労働の際に与えられるわずかな食糧を頼りに、飢えと未来なき現実に苦しみながら生きてきていた。

 行動力のある者は、裏切り者の烙印と差別を受け入れながら“名誉”となって租界内部の歯車となり、それ以外の者は租界建設のための労働力として、そしてインフラ復興を妨害するためゲットーへと押し込まれるようになる。

 数少ない例外はジェレミアやルーベン等の穏健派貴族の領地に住む日本人で、彼等の多くは領地外に出ることは不可能でも、一次産業を中心に比較的自由に生きることが出来ている。

 また、名誉となったキョウト傘下の企業で働く人間達も同様で、結局の所はブリタニアの歯車として生きる人間は特別扱いされ、それすら選べなかった人間は奴隷同然の対応が続いていたのである。

 

 総督代行となったジェレミアはまずはそこから手を付けた。

 

 ブリタニアの国是がある以上、権利を認めるわけには行かなかったが、総督直属の命令としての強制労働――と言う名の復興作業に日本人を動員し始めたのである。

 敗戦から7年が経過し、若年世代を中心に学力や技能の取得が難しくなり始めている状況。だが、働き盛りの世代はまだ多く残っており、重機の運転などが可能な人間もまだまだ多い。

 となれば、その辺りから手を付けていくべきでもある。租界の建設が一段落した後には肉体労働の需要も減っているからこそ、ゲットーの復興にも手を付けるべきなのだが、残念ながらクロヴィスとその後援貴族達に旨味がなかったため、その辺りは放置されたままであるのだ。

 

 

 

「ゲットーの復興など……、惰弱なイレブンどもの生活を改善してやると言うのですか?」

 

「馬鹿な。労働力として生きながらえている以上、こき使うのが正道であろう?」

 

 

 復興という名にキューエルをはじめとする純血派や搾取を当たり前と思っている貴族達が難色を示す。

 彼等にとっては、イレブンなど廃墟に住まわせておけば良いと言う考えがあるのだから当然の反応でもある。

 だが、それはただの自己満足であり、配給なども無駄金にしかならなくなる。彼等からしてみたら配給そのものも不要であるという考えがありそうだが、それは今まで以上の暴発を生むだけである。

 

 

「何より、放置しておけばテロに走る。それならば、そんな気力が沸かぬぐらいにこき使ってやれば良い」

 

「重機の供与に意味があるとは思えませんが?」

 

「メーカーからの依頼でな。国費で購入するのも馬鹿馬鹿しいから、イレブンどもの給与から返済されるよう、手は打ってある」

 

「……ヤツらはその事は?」

 

「知るわけが無いだろう? 返済が終わる頃には減価償却も終わる。そうなったら、二束三文で奪い取ってやれば良い」

 

 

 そう告げたジェレミアの言に、キューエル達は顔を見合わせた後、どこか嘲笑するように労働を続ける日本人を見つめる。

 

 もちろん、これはジェレミアの方便で、重機メーカーには支払いを済ませてあるし、日本人には先払いを条件に監視や強制労働を納得させてある。

 キューエル達も経理などには通じているが、所詮は現場の軍人や貴族である。

 主計官などにしても軍事に絡むことぐらいであり、エリアの政治経済に立ち入るのは、専門の官僚達である。

 官僚というのは差別意識等をべつにしてプライドが高く、命じられた職務は私情を挟まずに淡々とこなしていく反面、外部の人間の横槍には徹底的に反抗するのである。

 この場合、軍人であるキューエル達は財務部門と縁のない現場の軍人であるから、彼等が経理に口を出そうとしても、それを突っぱねて内情を明かさないことぐらいは命じなくてもやるのである。

 もっとも、その責任者は差別意識に懲り固まった貴族であったから、ルルーシュのギアスで手懐けてあるのだが。

 

 いずれにしろ、ジェレミアの就任期間は短いだろうが、後任は内政よりも軍事を優先するコーネリアである事はほぼ決定的である。

 となれば、今のうちに長期計画で復興に手を付けてしまえば、彼女は特に内情を確認せず追認するだけだろう。

 彼女はブリタニアの国是に忠実な人間であるが、それならば日本人が大人しく労働に従事していればとやかく言う事は無い。

 

 当初は断固拒否すべきであろうかという総督代行職であったが、ルルーシュとも相談の上で人気取りはしておくべきだと言う結論に達した。

 人気取りとは言っても、特区のように平等に扱うわけでもなく、単に労働と賃金を用意しただけのこと。まだまだインフラなどには手を付けにくい状況でもあり、物資がゲットーなどに行き届くわけもない。

 ジェレミアは表向きには統治者として振る舞わねばならないのだから当然である。そして、表で動く者が居るならば、裏で動く者が居れば良い。

 その役割を担うのはルルーシュ達だ。

 今はまだそれが果たせてはいないが、キョウトの支援を取り付けることが出来ればさらに動きやすくなる。

 ジェレミアの政策は、キョウトに対する信用を得るためのモノでもあるのだ。

 

 

「あ、お疲れさまです。ジェレミア卿」

 

「遅くなって済まなかった。例のレジスタンス連中はどうだ?」

 

「相変わらずですよ。こちらの善意にも煮え切らない態度のままです」

 

 

 キューエル達と別れ、執務室に戻ると、報告のためかヴィレッタがすでにやって来ていた。当初は純血派と融和派の間を揺れ動いていた彼女だったが、今は融和派に属したことで軍内部での発言権も多く得ている。

 ジェレミア自身は派閥と言うつもりなく、今もキューエル等と行動をともにもするが、軍内部では融和派のジェレミアの就任によって、融和派が優勢となっている。

 とは言え、ジェレミア自身はコーネリアの就任までの短期間の栄華だと言い含めてもあったが。

 

 

「ううむ……、殿下に救出されておきながら相変わらずか」

 

 

 今回、ヴィレッタに接触させたのは扇グループである。

 

 単純に、ゲットーの復興事業への参加とその指導を託すつもりだったのだが、ルルーシュとの関係も含めて困惑するばかりの様子。

 過去にヴィレッタと扇は端から見ればめでたい関係になったことや捕縛されていた扇をヴィレッタが何かと気に掛けて事などから彼女に説得を託したのだが。

 

 

「ジェレミア卿、本気でイレブンとの融和をお望みなのですか?」

 

「うむ。それが我が主の望みでもある」

 

「……その事、今は聞かねば良かったと思うときもあります」

 

「コーネリア殿下が就任されれば、融和派など一掃されてしまう。と言う懸念かね? コーネリア殿下はそのような思想信条をとやかく言う御仁ではないぞ?」

 

 

 行動に移したりしなければな。

 とは、言わなくてもヴィレッタも分かっている様子だったが、ヴィレッタ本人は本国に残してきた家族のことがあり、ジェレミアが総督代行からただの隠居貴族に戻ってしまった後の事を恐れるのである。

 彼女自身、ジェレミアのような皇室の崇拝者でもなく、単純に国家のトップという認識だからこその反応でもある。

 

 

「それよりも、どこでボロを出してしまうかという事が。ルルーシュが皇子だったとも思いませんでしたし、知ってしまえばどこかに弱みが出るのではないかと言うことも」

 

「ふむ……。ヴィレッタ、そうであればいっそのこと逃げてしまうか?」

 

「は?」

 

「アッシュフォードと私の関係は知っているだろう? ちょうど良いところに特派も居るし、それを理由にアッシュフォードが再びKMFに色気を出したから、そのデヴァイザーとして出向する。こうしておけば、ブリタニア軍に籍を置いたままコーネリア殿下からは離れられるぞ?」

 

 

 ヴィレッタの懸念事項に関しては、ルルーシュのシャーリー達への気持ちと同様に、ジェレミアにも彼女を巻き込んだという気持ちがあったため、可能な限りの配慮はしたいと思っている。

 実際の所、彼女は過去においては常にルルーシュとは敵対し続けた上に、騎士団と決別する原因にもなっている。

 

 それを考えると、味方に引き入れる必要性は高いとジェレミアは考えていたのだ。

 

 

「……ジェレミア卿、私が言っているのは、このままなし崩し的にルルーシュ殿下の幕下に入ってしまう事への懸念です」

 

「むっ?」

 

「私は、ジェレミア卿ほどルルーシュ殿下に懸想しておりません」

 

 

 つまりは、身の危険や家族の危機をを考えた時、ルルーシュに忠誠を誓い続ける事は出来ないと言う事であろう。

 ジェレミアとしては、過去において主君に殉じることが出来なかった負い目がある分、いつでもこの命をルルーシュに捧げる覚悟であったのだが。

 

 

「なるほど。軍人としての忠義が君を苦しめていると言うことか」

 

「忠義……になるのでしょうか?」

 

「ブリタニアへの忠誠があるからこその懊悩だろう。いっそのこと、全てを忘れて一軍人に戻るかね?」

 

「ルルーシュ殿下が知るという秘術ですか? それは……」

 

 

 いっそのこと、ギアスを用いてこれまでの事を忘れてしまうことも手であるだろう。ただ、そうなるとどうしても彼女の存在は爆弾になる。

 ルルーシュとジェレミアは彼女に対して負い目があるが、必要になれば手を下さなければいけなくなる。

 そして、ヴィレッタ自身もそうなった方が楽である反面、今度は自分自身の未来が不透明になるという懸念を抱かずには居られないのだ。

 

 ルルーシュとジェレミアのやろうとしていることは明白な反逆。

 

 だが、ヴィレッタはその本音を知るまでジェレミアに協力し、学園でルルーシュ達とも関わりがあったため、それを咎める事が出来ずに居る。

 

 だからといって、ルルーシュの反逆に手を貸せるかと言えば、それは別問題になる。

 反逆を黙っている時点で同じ穴の狢かも知れないが、直接手を貸すよりははるかにマシだとも。

 

 

「ヴィレッタ、私としては事情を知る部下が欲しいと言うのが本音だ。加えて、私は本来ならば退役した身。さらに、ルルーシュ様が立つとなれば軍には未練はない。だからこそ、内部には部下を置いておきたい。だが、それは君にとっては茨の道だ。コーネリア殿下は君の懸念通り甘い御方ではないからな」

 

「はい……」

 

 

 そんなヴィレッタの心情はジェレミアもある程度は理解している。

 

 過去の彼女は機密情報局に属しながらもルルーシュに従い、さらには扇を通じて黒の騎士団にも通じ、最終的にはブリタニアの男爵位と日本国首相夫人の地位まで手に入れてしまった。

 本人は自分の成すべき事を成した結果であったのだろうが、彼女はおそらく身の安全に対する嗅覚が鋭いのだとジェレミアは考えていた。

 

 だからと言うわけではないが、自分が従っていたジェレミアが総督代行にまでなってしまった事が逆に恐ろしく感じているのだ。

 

 

「だから……うん?」

 

 

 その先の話を続けようとしたジェレミアの耳に、緊急回線を告げるコールが届く。

 

「どうした? 敵襲か?」

 

 

 電話を取ったジェレミアは緊急を告げるサイレンも鳴っていないのにと思いつつ、それに応じる。

 

 

「……そうか。繋げ」

 

 

 そう言って受話器を置いたジェレミアの表情は、固く強ばっているようにヴィレッタには見えた。

 

 

「いかがなされました?」

 

「うむ……。ヴィレッタ、君にはやはりアッシュフォードに行ってもらう必要が出てくるかも知れんぞ?」

 

「は?」

 

 

 難問に頭を抱えるが如き表情を浮かべたジェレミアの言に、ヴィレッタは目を見開いて困惑するしかなかったが、彼女もまたジェレミアが切り替えた通信ディスプレイに映った人物に目を見開くしかなかった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 成田連山。

 

 日本本州中央部の山岳地帯に位置し、かつては避暑地として賑わいを見せた地域に存在するが、今この地はエリア11を解放すべく、旧日本軍人達を中心とした抵抗勢力、日本解放戦線の拠点が存在する。

 元々、高原地帯であり、農産物の生産も盛んであるため、ブリタニアの介入も薄く、富裕層の避暑地という背景から隠し資産も多かったこの地はトウキョウを睨む上では距離的にも適度な場所でもある。

 

 

「では、ゼロなる者との会談を?」

 

『うむ。貴様も知っていよう? トウキョウを騒乱に陥らせ、扇グループを奪取し、クロヴィスの首まであげた……。我々の成し得なかったことをたった数刻で成し遂げた男……』

 

『そのものが手を差し伸べてきている以上、それをはね除ける理由は無かろう?』

 

 

 画面越しに桐原と刑部の言を受けるのは、日本解放戦線総司令官の片瀬帯刀少将。

 そして、その背後に左右に分かれて座すのは長年彼の片腕を務めてきた草壁徐水中佐と『厳島の奇跡』として名高い藤堂鏡四郎少佐である。

 

 

「御意……。しかし、次代の総督はどう動くでしょうか?」

 

『ジェレミア・ゴットバルトか? ヤツならば御しやすい。貴様や藤堂がその地を離れようとも、心配には及ぶまい』

 

 

 そして、桐原は日程のみを片瀬達に告げると、それ以上の問答は不要とばかりに通信を切ってしまう。

 長く、実働戦力として消耗を余儀なくされてきたが、こう言った一方的な関係は7年の月日が流れた今でも変わることは無い。

 

 

「老公は、ずいぶん、早まっておられますな」

 

「うむ」

 

「しかし、“ゼロ”なるモノとは。顔も明かせぬテロリストと我ら日本軍人が手を結ぶというのは」

 

「しかし、キョウトのご意向です。中佐」

 

 

 元々、強硬派であり、『名誉』の地位に甘んじているキョウトに対して良い印象を抱いていない草壁は露骨に表情を歪めている。

 逆に、桐原と知己のある藤堂はその意向に沿うべきとの考えを崩さないが、彼自身もキョウトの一方的な命令には思うところがある。

 そもそも、自分が奇跡という重荷を背負うことになったのは、キョウトによる演出という背景が強い。

 今は頼れる部下であり、四聖剣の二剣に数えられる仙波と卜部の両者の助けがあって成功した作戦であり、奇跡でもなく情報と戦略の勝利であったのだが、それを日本人への希望として盛大に喧伝したのがキョウトであり、結果として藤堂が動く時は大規模な戦略目標を求められるようになってしまっている。

 藤堂自身は片瀬のような部下を引きつける人間味はなく、また、一本の剣としての働きならばともかく、将軍として全軍をも見渡す視野は持っていないという自覚があると言うのに。

 

 

「その通りだな。いずれにしろ、一度は会ってみなければ始まるまい。藤堂、君だけでなく仙波か卜部にも同行するように伝えておいてくれ」

 

「御意」

 

「草壁、留守は貴公に任せる」

 

「はっ」

 

 

 そして、片瀬自身にも桐原や刑部に逆らう意思はない。

 

 元々、教育畑を進んでおり、草壁や藤堂との縁はその頃に始まっているが、結果として前線からは遠のき、今まで生き長らえる結果となっている。

 温厚だが、武断派の一人でも有りかつ片瀬が属していた派閥の暴走に苦労させられた刑部や、経済屋としてシビリアンコントロールを是とする桐原からは信頼も信用もされていないというのが実情である。

 そして、草壁と藤堂を退出させた片瀬は、一人今後の解放戦線に対して懊悩するが、そんな彼の元に一つの秘匿回線が届く。

 すぐにそれには応じず、側近の士官を呼び寄せ、人払いを命じると、一つ二つ深呼吸をして片瀬はそれに応じた。

 

 

『随分、待たせますね。片瀬少将』

 

「誠に申し訳ない。しかし、今更何用ですかな?」

 

 

 画面に映る金髪の女性軍人が笑顔を浮かべながら片瀬を皮肉るも、片瀬はそれには何の反応も見せない。

 

 

『今更……ですか。誰のおかげで、今の地位にあるとお思いですか?』

 

「用件を言ってくだされ」

 

『今すぐというわけではありませんよ。このたび、私は日本赴任が決定いたしました。その事を報告させて頂こうと思いまして』

 

「なんと? しかし、事実上のラウンズ№2が如何なる理由で?」

 

『クロヴィス殿下を殺害しておいてよくもまあ、そのようなことをほざかれる』

 

 

 口調はともかく、それでも画面の女性、モニカ・クルシェフスキーは表情を崩さない。親子ほども年の違うこの若輩者に、片瀬はこの7年間首に匕首を突き付けられてきたのだ。

 

 

『いずれにしろ、私が日本に赴く事になったのです。今の地位を得た恩を返して頂こうと思っておりますので、そのおつもりで』

 

 

 そこまで告げると、モニカは一方的に通信を切る。

 

 無音のまま静寂する画面を見つめたまま、片瀬は全身が脂汗に濡れていることを自覚したのはそれからしばらくたってからのことである。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 通信を終えたモニカは、やれやれと言った様子で息を吐き出す。

 

 片瀬が彼女との会話に神経を使っていたのと同様に、彼女もまた外に漏れぬかどうか気が気でなかったのである。

 

 

「そんな顔をするなら止めておけば良かっただろ」

 

 

 それを傍らで見ていたドロテアはあきれ顔でそれを見つめる。

 

 元々、参謀上がりの謀略家と剣一本で成り上がった武闘派の違いがあり、こうして移動の最中であっても工作活動に余念のないモニカの熱心さはドロテアには理解できないところがあった。

 

 

「一度利用したからにはとことん利用する事も礼儀ですよ」

 

「怖いことを言うヤツだな」

 

 

 元々、ラウンズ専用機であり、プライベート空間でもあるサロンは盗聴とは無縁の環境である。

 

 だが、敵を騙すにはまず味方からとも言うように、モニカはそれが他に漏れることをはっきりと嫌っている。

 

 それは、同じラウンズのノネット、ルキアーノ、ジノ、アーニャに対しても同様で、長い付き合いのドロテアと事実上の上官であるビスマルクに対してのみ、こうして堂々と工作場面を見せるのである。

 

 

「同胞の死を利用して成り上がった輩ですからね。せいぜい、利用し尽くされる覚悟は持ってもらわないと」

 

「あそこまでのことをやる必要があったとは思えんがな」

 

「…………それは私が背負い続けることですから」

 

「別に責めているわけでは無い。お前は立案しただけで、それを命じたのも実行したのも別人だ。お前だけが背負う必要はあるまい?」

 

 

 そして、過去に自分が立てた作戦で起きた悲劇を思い返したモニカに対し、ドロテアは余計なことを言ったと自身を責めるも、モニカのトラウマを刺激してしまったことに変わりはない。

 いずれにしろ、日本侵攻の当事者である二人にとって、七年ぶりの日本の地というモノには色々と思うところがあったのだ。

 

 

「しかし、ゼロ……か」

 

「私達を派遣すると言う事は、それだけの危機を感じているのでしょうけど」

 

 

 そう言った二人が思い返した、先頃表舞台に出てきたテロリストの姿。

 

 怪しげな仮面を身につけた男であったが、彼ははっきりとクロヴィス総督を殺害したと喧伝し、実際、クロヴィス総督は遺体となって戻ってきた。

 それ以前に、シンジュク事変にて捕縛されたテログループを租界の混乱を煽った上で奪回してしまった。

 怪しい外見と鮮やかな戦術の乖離が激しいものの、わざわざラウンズを派遣するほどの脅威であるのかは疑問であった。

 

 

「まあ、あの忠義馬鹿のケツを叩く意味でも私達が行くのはちょうど良かろう。……あの方の事も気になるしな」

 

 

 そう口を開いたドロテアの脳裏に浮かんだのは、ジェレミアやルーベンとともに捜索に手を貸し、今では死んだことになっている兄妹の姿。

 そして、あの憎悪に満ちた目をした少年の今の姿というのは、日本行きと言う事も相まって気になる事柄であったのだ。

 

 

 

 

 すでに過去の出来事は遠くなり、まったく姿を変えようとしている世界。そしてそれは、人の在り方も同様であるのだった。




成田連山は千葉県ではなく、裏設定?にあったように群馬と長野の県境にある浅間山をイメージしています。
浅間山にあんなことをしたら流れどころか噴火しそうですが、その辺りも上手く考えて見たいと思います。

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