目の前で繰り広げられる光景に、ルルーシュは、いや、カレンもC.C.もミレイも、そしてジェレミアやアーニャも夢を見ているのか?と自分の目を疑うしか無かった。
ドロテアの駆るグロースターは、ビスマルクと並び称される豪傑としての評を裏付ける。
端から見れば致命傷になると思われる隙も彼女にとっては相手を呼び込む間でしか無く、目の前にマシンガンを突き付けられても、砲撃されるときにはそれを躱し、相手の隙を突く。
その辺りを見ても攻勢一方のドロテアに対し、シャーリーの駆る機体は防戦一方。だが、前述の通りドロテアが作る隙を見逃すこと無く突き、そこから繰り出される反撃を全ていなしているのだ。
『私は……死ねないっ!!』
その声とともに、機体を限界まで駆使してドロテアと渡りあう。
ともあれ、結果としてはドロテアがシャーリーの機体を潰すか、シャーリーの機体が自滅するかの二択であろう。
根本的な力量に絶望的な差があるのだから結果自体はそれしか無いと言うのは皆が理解している。
だが、KMFに乗り込んでいるカレンやルルーシュが動かない。いや、動けないと言うのが実際の所なのだ。
ドロテアは歴戦の雄であり、他のKMFが居ることも理解しているから奇襲にも対処できる。だが、シャーリーは仮に味方の支援であっても、状況の変化に即応できるほどの経験が無い。
玉城などの状況を読めない人間は扇等に抑えさせているが、それでもルルーシュですらこの状況を打開する手立てへの決定打が無いというのが現状だった。
そもそも、『ギアスの力で暴走』しているからこそ、彼女は今もなお息長らえていると言うのがルルーシュやジェレミアの認識だったのだ。
「ジェレミア、シャーリーに対しては間違いなくキャンセラーを使ったんだな?」
『はっ。ルルーシュ様もご覧になっていたはずです』
かつて、ギアスのことを生徒会メンバーに告げた時、シャーリーもギアスに掛かって自分に襲いかかってきたのだ。そして、ジェレミアのキャンセラーでそれが解除されたと言う事も。
『ルルーシュ。私が止めようか?』
「どうやってだ?」
『シャーリーを死なせたくないんでしょ? だったら、ドロテアを討てば良い』
そんな2人のやり取りを秘匿回線で聞いていたのか、アーニャが口を挟んでくる。
実際、彼女の言うとおりシャーリーをどうにかするのではなく、ドロテアを撃破してしまえばシャーリーの身の危険は回避される。
そして、アーニャならばそれは可能だろう。
しかし……。
「駄目だ。ここで死なせるわけにはいかない」
『でも、戦場で二兎は追えない』
ルルーシュ自身、ジェレミアがドロテアを伴ってこの場にやって来たことは理解している。だからこそ、彼女を止める手立ては何とか考えてある。
だが、それにはシャーリーが彼女の交戦圏から離れなければ成り立たないのだ。
そして、アーニャの言にならうならば、ドロテアを殺すしか無くなる。
如何にアーニャといえど、彼女を生きたまま潰すことは不可能なのだろう。同格の戦士同士の戦いは、互いが剣を引くかどちらかが死ぬか、双方ともに死ぬ以外には解決は無い。
少なくとも、アーニャは死ぬつもりは無く、死なせることぐらいは出来るという自信があるのだろう。
実際、ドロテアの防御は彼女の背後に待機するアーニャの機体にのみ隙が生じているのだ。
「それでも、駄目だ」
自分でも甘いとルルーシュは思う。過去の自分だったら、そもそも、ジェレミアが戦場に来た時点で二人にドロテアを殺すよう指示しただろう。
彼女とは特に接点も無ければ顔見知りでも無い。だが、シャルルのギアスの犠牲者であると言うその一点のみで、ルルーシュは彼女を殺すという決断を下せなかった。
これは彼が自覚していないが、彼は“身内”と言う認識を持った人間には必要な場面以外で切り捨てにはしないのである。
そして、ドロテアとモニカに対しては、シャルルのギアスを介して“身内”と言う認識が残っているのだ。
――だが。
激しい轟音とともに、グロースターのランスがサザーランドを貫く。
それは、完全にコックピットに突き刺さり、一撃で勝敗が決したこともまた意味していた。
『荒削りだったが見事だ……。この私に、“負け無かった”のだからな』
静まりかえる戦場に息を荒げたドロテアの声だけが響き渡る。
最初の名乗りのように咆哮したわけでもなく、それが響き渡るように聞こえるのは、それだけ周囲が静まりかえっているからだろう。
「シャー……リー……」
戦いを終えた高揚感から笑みを浮かべて居るドロテア以外、特にルルーシュは正に時が止まったかのように、自身の心臓の音すら遠く鳴りかけるような錯覚に陥る。
しかし、そんな静寂を突き破るように、静かな亀裂音が周囲に響き始めると、ほどなく轟音とともにグロースターの片腕が手首分から破損し、突き立ったランス諸共地面へと落下する。
それを合図に、一斉にルルーシュ側のKMFが動き出し、アーニャもまたドロテアの背後を取ってルルーシュの命令を待つ。
だが、ルルーシュはそれよりも早くKMFを寄せ、外部ハッキングでシャーリーのサザーランドからコックピットを引き出す。
「シャーリーっ!!」
「ふえっ!? ルルっ!? どうしたの??」
「ほわっ!?」
思わず目を背けたくなるような光景が目の前に広がって──おらず、ルルーシュの声に居眠りを咎められたかのような声を上げるシャーリーに、ルルーシュもまたいつもの不意を打たれた声を上げる。
いや、ルルーシュだけでは無い。ドロテアを除く全員が思わずコケそうになるほどに、緊張感が一気に吹き飛んでしまったのだ。
「ぶ、無事だったのかっ!?」
『仕留めたと思いましたが、その者の粘り勝ちですね。腕の自由が効かなくなっておりました』
そして、唯一状況を理解していたドロテアがアーニャのグロースターの手に乗り、両手を挙げて降伏を申し出ながら口を開く。
状況から見れば、ドロテアの勝利だっただろう。グロースターの右手は破壊されたとしても、片腕は健在であり、スラッシュハーケン等の機構も健在である。
だが、プライドの高い彼女は戦いの最中でシャーリーの戦闘経験や技量を見切っており、それが自分に倒されなかった。と言う事実だけで自身の敗北としたのだ。
◇◆◇◆◇
ナイトオブラウンズの敗北を目の当たりにした扇グループでは、「ゼロに従うべき」と言う声が大きくなっていた。
ルルーシュがジェレミアを通じて“合法的”に入手した移動トレーラーであり、ルルーシュがキョウトより支援を受けた皇家謹製のゼロ用G1ベースにも付いていくことが可能である。
「まだ渋ってるのかよっ!! ゼロがブリキの皇子だからって、アイツはラウンズまで倒しちまったじゃねえかっ!!」
「それは分かっている。でも、それは利害が一致しているし目的があるからだろ? いままでブリタニア人が裏切らなかったことがあるか?」
玉城の怒声にどうしてもゼロを信じ切れない南が反論する。
南自身、過去のブリタニアの所業がどうしても忘れられないらしく、裏切られたときのことを考えてしまうのである。
元々、グループの仲間意識が強く、同じ日本人でもグループ以外のことには関心が薄かったりもするのだ。
扇と同様に教師を、それも小学校教師を目指していたらしく、子どもの純粋さに当てられて他者が信じられなくなっているところもある様子だった。
「そんなことを言ったら解放戦線だって私達を助けてくれなかったんだし、日本人だって誰が裏切るかは分からないんじゃない?」
「井上は俺達が裏切るかもって言いたいのか?」
「別にそんなことは言ってないわよ」
そんな南の言に、最初からルルーシュ達と行動している井上が珍しく自分の意見で南に反論するが、彼女に好意を持っていた杉山はそれに驚き、彼女がゼロを信頼している様子にショックを受けつつそう口を開く。
意外な所からの指摘に、井上は困惑しつつもそれを否定するが、心の内では「否定できないでしょ」とも思っていた。
「永田はどうなんだよ?」
「俺か? 俺はゼロ……いや、ルルーシュに助けられた身だ。それに、彼の心情を考えれば、俺は信じて良いと思うけどな」
「母を殺され、父に捨てられたって話か?」
扇グループを救出した後、しばらくの間煮え切らない態度であった彼等に対し、ルルーシュは隠しても無駄だと自分の身の上とブリタニアを壊すと誓った理由を正直に話したのだ。
マリアンヌ暗殺の話は彼等も学生時代の話であったため聞き及んでいたが、あの時のブリタニアや日本軍人の衝撃とともに印象に残ってもいた。
そして、ルルーシュとナナリーがその子ども達である事には二重に驚きもした。
「ああ。俺だってブリタニアのクソ野郎どもは許せない。でも、母を、家族を殺された人間の怒りは理解できる」
永田自身、妻子を目の前でブリタニア兵に殺され、何も出来なかったという無念さがレジスタンスに身を投じた理由でもある。
ならば、復讐心というモノで共通するルルーシュに協力するのは当然とも言えたし、彼が裏切るなら裏切るで仕方ないとも思っていた。
そもそも、永田は元々扇グループではない外様で、紅月ナオトとキョウトとの縁で仲間に入った口であるため、彼等とは意見を別にしてもとやかく言われる理由も無い。
「そもそも、あのラウンズを倒しちゃったのもシャーリーさんだろ? ブリキの女の子に救われたようなもんだよな俺等って」
「だろっ!? アイツらは信頼できるって言ってるじゃねえか」
「そういう話じゃねえよ」
そして、永田と同様に協力派とも言える吉田が先ほどの戦闘を思い返しつつそう口を開く。
グループ内でもカレンに次いでKMF適性が高い彼はシャーリーがラウンズを倒したという事実に素直に感動していた。
パイロット同士で通じるモノがあったからとも言うべきだったため、玉城の言い分とは異なるのだが。
「扇さんはどう思うんですか?」
「俺?」
そして、主に玉城が原因で喧々囂々と言った様子になったサロンだったが、カレンの言で扇に視線が集中する。
元々、リーダーである彼が決断しないからここまで揉めているのである。妥協なども含めて全体の意見をとりまとめるのが彼の性分だったのだから当然と言えば当然だったのだが。
「なんとも言えないな。おそらく、ルルーシュは嘘を言っていない。だけど、何か隠していることはあるとも思う。そういう人物を信用して良いのかどうか」
「それはC.C.とかシャーリーも言っていたけど、俺にだって話してくれねえんだよなあ」
扇自身、信じるべきだという気持ちと慎重になるべきと言う気持ちで揺れ動いている。さらに、玉城が堂々と嘘を吐いてるため余計にそれを後押しする形になる。
玉城自身も珍しく“ギアス”がヤバいモノだという認識を持っていたため、話すなとキツく言われたことを守っているのだ。それは、カレンも井上も同様だった。
実際、彼女達にしてもギアスの事を信じ切れないでいるのだ。この辺りの生徒会組との違いは、ルルーシュとの付き合いの長さの差とも言えるだろう。
「失礼する」
そんな時、トレーラーの扉が開かれて、ブリタニア軍の正装に身を包んだ女性が入室してきたため、数人が身構える。
だが、女性軍人――ヴィレッタは、一瞬眉間に眉を寄せるも、すぐに表情を和らげて、手慣れた動作で紅茶を淹れ、それを見た井上とカレンが受け取って並べていく。
「それではな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「何か?」
そして、役目は終わったとばかりに立ち去ろうとするヴィレッタを扇が慌てて呼び止める。
何事かとヴィレッタが珍しく驚いたが、扇自身もなぜ止めたのか少し分からなかった。
「いや、気づかい、ありがとうございます」
「……いや、こちらこそ。暇を持て余していたので。それでは」
そして、なんとも言えない空気のままヴィレッタが退出すると、他の者達は一斉に顔を合わせる。
「何がしたかったんだ、扇?」
「いや、なんでだろうな?」
なんとも締まらない扇の返答に、結局はみんな困惑するしかなかった。だが、先ほどまで揉めていた理由としてブリタニア人に対する敵意があったその場にあって、ヴィレッタの登場でそれが和らいだことも事実だった。
◇◆◇◆◇
「ヴィレッタ先生、ありがとうございました」
扇グループのトレーラーからG1ベースに戻ったヴィレッタを出迎えたのはシャーリーの元気の良い声だった。
元々、彼等への差し入れを用意し始めたのはシャーリーだったのだが、その手際の悪さにナナリーの守護を頼まれたヴィレッタが呆れ、手を差し伸べたのだ。
元々家事スキルに乏しかった彼女だが、先ほどの戦闘で身体が高揚しているのか、死への恐怖が染みついているのか、手の震えが中々収まらず失敗が続いていたのだ。
差し入れを届けたのもそんな状態で行ったら結果が見えていたためのヴィレッタの行動だった。
「それより、ルルーシュ達の所はお前達でやれ。さすがにエルンスト卿の居るところには顔を出したくない」
ドロテアとは政庁でも顔を合わせており、このような場に居ることが露見したらジェレミア達と連座する可能性がある。
ヴィレッタとしては家族のためにも危険な橋は渡りきれないのだ。すでに戻りようのないところまで来てしまったと本人も思ってはいるが。
「はい、色々とすいませんでした」
「シャーリーも無理しなくて良いのよ? 私達だけでも」
「いえ、私もルルの共犯者ですから」
そして、ヴィレッタが用意してくれたポットやカップを手にルルーシュの私的スペースへとシャーリーとミレイは急ぐ。
ミレイとしては、先ほどの激しい戦闘を見ており、シャーリーの疲弊も察しているのだが、当のシャーリーは無意識下での戦闘だったことからその実感は無い。
ひどい疲労感はあるが、それでもルルーシュからの願いであればそれを叶えたいとも思うのだ。そして、かつてC.C.が言っていた「共犯者」と言う言葉の意味をシャーリー自身も知りたいと思っていたのだ。
私的スペースへ行くと、そこは目に見えて重苦しい雰囲気に包まれていた。
仮面を被ったゼロ―─ルルーシュを中心に、バイザーを付けたナナリーが隣に、ジェレミア、C.C.、咲世子が周囲に立ち、テーブルを挟んで腕を拘束されたドロテアが瞑目したまま座し、その間にアーニャが座っている。
万一に備えた配置であるが、当のドロテアからは殺気は感じられない。
「ええと、お茶を用意してきたけど、ル、ゼロ、どうしますか?」
「いただこう。並べてくれ」
「私にはおかまいなく。お嬢さん」
そんな雰囲気を打破しようとするシャーリーの言に、ルルーシュは静かにそう告げ、シャーリーとミレイはそれに従う。そして、咲世子の隣へと並ぶ。
「さて、エリア11総督代行とナイトオブシックスが俺の側に居る。この理由は分かっているな?」
「ええ」
「私はまだ仕えるとは言ってない」
「それで、貴方は俺の正体。いや、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの消息を知ってどうするつもりなのだ?」
「正直なところ、答えは出ておりません。殿下」
「俺は殿下と呼ばれる覚えは無いが?」
そして、沈黙を破るようにC.C.とアーニャが紅茶に口をつけて飲み始めると、ゼロはやれやれとばかりに首を振り、話を切り出す。
化かし合いと言うよりも、白々しい話でもあるが、自分の正体を遠回しに告げ、真意を探る。
だが、ドロテア自身も八年前の出来事への印象が強く、その後のルルーシュの行く末を知ることを優先しており、それが理由の暴走であった。
総督代行と同僚のラウンズを巻き込んで敵に捕まりに行くなど、端から見たら下らない話を通り越してアホウのやることだとも思う。
「自ら首を突っ込んだ事とは言え、八年前のあの日、堂々と反逆を宣言した男児の行く末に興味があったとしか思えません」
「片割れはブリタニアのために生きて居るぞ? 同様に、国家の歯車になって居ると思わなかったのか?」
「はじめは思っておりました。むしろ、一ブリタニア人として平穏に暮らしているとも。ジェレミアやアッシュフォード公の力あらば、戸籍を生み出すことも容易でしょう」
「だが、ジェレミアの行動やゼロの出現で疑問が生まれたか」
そんなゼロの問い掛けにドロテアはゆっくりと肯く。生粋の武人である彼女は、はじめはゼロの登場にほくそ笑んでいた。
あそこまで堂々とブリタニアに反旗を翻してきた人間は他に知らず、精々レジスタンスか主義者ぐらいのモノであり、目下交戦中のユーロピアにしても、ユーロブリタニアだけで事が足りそうな有様。
騎士の時代が終わりを告げようとしていることも実感せざるを得なかったのだ。
だが、クロヴィス総督が暗殺された際にはジェレミアもアーニャも政庁にて交戦していたことや処刑を待つだけだったテロリストが犠牲を出さずに逃走に成功した事から、人具の疑念がわき始めた。
ジェレミアが居ながら、むざむざ敵の救出と逃亡を許し、総督の暗殺も成されてしまう。このような事態が有り得るとは思えず、そこに降ってわいたのが日本への派兵である。
当初はモニカのみがヴィクトルと交代するはずだったのだが、総督暗殺という変事にかこつけて彼女も日本派遣をねじ込ませた。
そもそも、皇帝への忠誠を尽くすならば、ジェレミア達に同調せずブリタニアへと連れて帰るべきだったのだ。
「そんなことは冗談じゃ無いがな」
「私も嫌です」
そして、仮面を取りながら声を上げるルルーシュとナナリー。
二人の表情を見たドロテアは一瞬安堵したようだが、それ以降はゆっくりと瞑目している。
実際、あのような言葉を言い放ったルルーシュが帰国を承諾するはずも無い。
「そもそも、あの男の歪んだ家族愛からして、お前が俺を連れ帰ったとしても、俺は別の国に送り込まれるだけだ。お前の忠誠心に欠片も感謝せずにな」
ヴィクトル――V.V.の存在を知らない人間からすればおかしな話であるし、シャルルの行動も常識から逸脱しているのだ。
「そうだとしても、私の忠義は果たされる。もっとも、もはやそれを成す資格も無いが」
「…………ラウンズの誇りか?」
「ナイトオブラウンズに敗北は無い。敗北は許されない。何より、私を楽しませたそこの少女は戦闘は二度目という。自裁で済まされる問題ですらない」
「えっ!? で、でも、私は完全に負けちゃっていましたよ? あとちょっとズレていたら私は死んでいたんですし」
「騎士として、腕を落とされれば戦いすら困難になる。そして、その「ちょっとのズレ」を呼び込んだ以上、貴公の勝ちだ」
端から見れば、新兵に負けた事実を恥として自裁するというだけのことだったが、それを否定したところで他人の行動原理を変えられるはずも無い。
実際、万全を期しての仕留めるための一撃であったのだ。
「下らぬな。ドロテア、あの男への忠誠にどんな価値がある? 何がお前をそこまで駆り立てる?」
「エルンスト家はナンバーズに等しい最下級の階級。そのような所に生まれた私をラウンズにまで育ててくれた。返しきれない恩があるのだ」
「それが、忠誠を誓う理由か?」
「くどい。それが……うっ!?」
そこまで問い続けたルルーシュだったが、ほどなく忠誠という言葉に反応するドロテアが目元を赤く縁取らせ、頭を抑えだす。
かつて、ルルーシュが“ジュリアス・キングスレイ”として使役された際に起こった反応。ドロテアの経歴を考えれば、忠誠というキーワードが自分と同様の爆弾になると言うことは予測済みであった。
「忠誠? 皇帝? 違う、私は、あの静かな畑が。いや、マリアンヌが、あの女が、違う、私は」
彼女自身、皇帝への忠誠を疑うことは無く、周囲も当然のようにそれを受け止めている。だからこそ、ドロテアがエリア11に現れた際には多くのレジスタンスが衝撃を受けたのだ。
「ならば、思い出させてやろう。ドロテア・エルンストよ。お前の真実を」
「止めて」
そして、決定打としてのギアスキャンセラーを発動させようとしたルルーシュだったが、そうなる寸前でジェレミアに対し、アーニャから鋭い声が掛けられる。
「どうしたんだアーニャ?」
「記憶を取り戻す事は、必ずしも幸せなことじゃない。真実を知ることも同様」
「……君は後悔しているのか?」
「貴方は、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアではあっても、私のルル様じゃないから」
「私のルル様っ!?」
「はいはい、どうどう」
はっきりとした拒絶と心の奥底から寂しさを静かに絞り出したアーニャ。シャーリーが変なところに反応したが、ミレイが面倒ごとはごめんとばかりにシャーリーを抑える。
そんなことはともかくとして、アーニャとしてはかつてのアリエス宮で過ごした日々、侍女見習いとしての記憶の奥底にあった兄妹との交流は忘れることの出来ない宝物だった。
だからこそ、中身の異なるルルーシュに対しては、忠誠心は抱けても、敬愛は出来ないのであった。
過去において、記憶の寸断から記録や記憶を何よりも大切にしてきたアーニャであったが、彼女がそれを大切に思うのは記憶を失う原因が取り除かれていても変わりないのであった。
「いや、止めるなアーニャ。私は、それを知る必要がある」
「でも、後悔すると思う」
「私はお前のように巻き込まれたのでは無く、自分から首を突っ込んだのだ。相応の責はある」
ルルーシュの言動から、偽りの記憶との齟齬を引き出され、困惑していたドロテア。だが、それが結果として彼女に先を促す。
人は疑問を感じたことが解決されなければ、その解決法を求める。それが安易であればあるほどに。
同時にルルーシュとしても新たな敵を生み出すだけと言う可能性も考えており、こちらは一種の博打でしかないのである。
だが、シャーリーに敗れたことで自身を見失い、自決を選ぼうとしているドロテアを止める手段も他には無かった。
そして、アーニャやナナリーを一瞥したルルーシュは、万一に備えてC.C.と咲世子をドロテアの傍らに寄り添わせる。
暴れ出した場合は、C.C.のショックイメージと咲世子の技で彼女を抑えるしか無い。ナイトオブラウンズは個人の武勇であっても十分危険な存在であるのだ。
そして準備を整えたルルーシュはジェレミアに顔を向け、ゆっくりと肯く。
ジェレミアの左の瞳に、逆さになった青き鳥の紋様が浮かび上がったのはそれからほどなくであった。
ルルーシュの周りって女ばっかりだなと書いていて思いました。
それと、ドロテアのキャラクターはどうでしょうか? どうしてもコーネリアやノネットとキャラが被ってしまうように思えるのですが、オリジナリティは出ていますでしょうか?
いずれにしろ、投稿が遅れてしまい申し訳ありません。